クマとかヘビとかシイタケとか、ちょっと不思議な小説世界

サーカスの花形だったシロクマは、引退後管理職になって会議に出たりしているうちに文章を書くことに目覚め、自伝を書いてベストセラー作家になってしまう。あまりのキュートさに胸をわしづかみされたシロクマの三代記。

蛇を踏んだ。家に帰ったらその蛇が女の姿になってごはんを作って待っている。しかもあなたのお母さんだと名乗る。食事が済むと女は蛇に戻って柱に巻き付いて眠る。えっ！と思っているうちにすっかりハートを射貫かれた第115回芥川賞受賞作。

雨漏りの修理に来た無骨な屋根屋の職人と、主婦である私は夢の中で待ち合わせ、寺の屋根を見てまわる。法隆寺からフランスの大聖堂まで、究極のランデブー。夢の中だとわかっていてもワクワクする気持ちが止まらない。ラストのせつなさに身もだえしてしまう。

タイトルに象徴されるちょっとだけ謎めいた五つの短篇。奇をてらった設定などないのに、日常こそが驚きと浮遊感に充ち満ちていることを発見する。冒頭のアメリカのお婆さんに度肝を抜かれてから、すっかり物語の虜になってしまう。

「姥捨山」「天の川」「地獄めぐり」など、原型を知っているストーリーが大きく変奏され、まったく新しい展開になる。人間の愚かさや可笑しさをえぐりだすような、ブラックな怖さと面白さがやみつきになる十の物語。