ブックキュレーター東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授・批評家 若松英輔
悲しみの詩学
悲しみは、悲痛の経験であるだけでなく、深い哀れみの始まりであり、情愛の母胎となり、また、その心情は美しくさえあるということを「かなし」という一語は、私たちに教えてくれる。人生には、「かなしみ」のちからをもってしか開けることのできない扉があるのではないだろうか。
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晩禱 リルケを読む
志村 ふくみ(著)
リルケの思想を研究した良書は少なくない。しかし、この詩人の肉声に迫ろうとした著作はまれだ。わたしは、この本のほかにそうした例を知らない。本書は、ひそやかに行われた「生きている死者」リルケとの対話の記録である。著者はその冒頭を詩を書くことから始めている。それは姿を変えた詩人への手紙だった。
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現代日本文学上、屈指の作品である。水俣病に苦しむ人々の姿を描き出したこの作品を、どんなおもいで書き続けたのか、と石牟礼さんに聞いたことがある。詩のつもりで書いたと語ったあと、彼女はこう言った。「闘いのつもり。一人で闘うつもりでした。」人は、独りでも大きな何かを戦い得ることを示した人生の書。
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二十世紀の日本で書かれた、もっとも優れた思想書の一つではないだろうか。「生きがい」とは生きる意味だといってもよいが、それをもっともたしかに照らし出すのは、かなしみである、と著者は言う。優れた知性の持ち主が、頭だけでなく、全身全霊を注いで書かれた、文字通りの名著。
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これから詩を書いていきたいという若者にリルケが送った書簡である。何を書こうかと考える前に、自分は本当に書かねばならないのかを問え、と詩人はいう。また、詩とは言葉になろうとしない内心のうごめきを見つめることであり、思考で書かれるのではなく、祈念にも似た何かによって生まれてくるともいう。最高の詩学入門。
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見えない涙 詩集
若松 英輔(著)
この一冊を書くまでに、これまでの作品はあったと思うことがあります。詩を書くとは、考えていることの表現であるよりも、考え得ないものの片鱗であり、また、語り得ないが、たしかに存在するものの証しであるように思います。私には「かなしみ」、あるいは「涙」は、そうした捉えがたいものの一つでした。
ブックキュレーター
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授・批評家 若松英輔1968年生まれ、慶應義塾大学文学部仏文科卒業。2007年『越知保夫とその時代 求道の文学』にて三田文学新人賞、2016年『叡知の詩学 小林秀雄と井筒俊彦』にて西脇順三郎学術賞、2018年『詩集 見えない涙』にて詩歌文学館賞、『小林秀雄 美しい花』(文藝春秋)にて角川財団学芸賞を受賞。著書に『イエス伝』(中央公論新社)、『生きる哲学』(文春新書)、『悲しみの秘義』(ナナロク社)、『小林秀雄 美しい花』(文藝春秋)、『内村鑑三 悲しみの使徒』(岩波新書)、『種まく人』『言葉の羅針盤』『常世の花 石牟礼道子』(以上、亜紀書房)など多数。詩集に『詩集 見えない涙』『詩集 幸福論』(亜紀書房)がある。
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