純文学は難しくない！ダメな大人が愛される姿に共感する太宰治の小説

戦後に生きる人間のしたたかな生きざまと時代に翻弄され滅んでいく美しさを描いた太宰治の代表作の一つであり、戦後にベストセラーとなった小説です。さらに「斜陽族」という、没落階級のことを指す流行語まで生み出しました。人は落ちぶれた時にどう生きるべきか、そう語り掛けられている気がするでしょう。

行きつけの小料理屋から金を盗み、姿を消した無頼派の作家。そして、そんな夫の尻ぬぐいをする妻の「さっちゃん」。本書は彼女の視点で描かれる、新しい女性像の萌芽を感じることができる一冊です。太宰は登場人物に自己を投影することが多いのですが、本書の「夫」にも著者自身の影を感じることができます。

ユダを主人公に、彼がキリストを裏切るまでを描いた短編です。キリストへの愛と憎しみを語るユダは、尽くしてきた相手に嫌われることを極端に恐れていました。ユダは何を思いキリストを裏切ったのか、これまでにないユダの視点が描かれています。口述筆記で書かれた、読みやすさが際立った一冊です。

社会に馴染むことができず人生に挫折した男が十数年の時を経て出会ったのは、昔いじめていた女中でした。久しぶりに再会して話しているうちに、結婚するという彼女からとある頼みごとをされます。男の屈折した思いが変化していくさまと、まるで恋愛小説のような展開がユーモアたっぷりに描かれた太宰のレトリックが光る一冊です。

生まれつき世間も他人も理解できず、つねに人を恐れ、自分を偽ってきた男の生涯を通して人として人と生きる意味を綴った一冊です。もっとも読まれている太宰の小説で、本作を世に送り出した後、太宰は38歳で心中死しています。彼は何を思ってこの作品を書いたのか、手に取って感じてみてください。