LGBT、不登校・・・現代社会で生き抜く方法を、大島弓子の漫画に学ぶ

表題作では、結婚3年目に訪れた夫婦の危機が描かれています。夫の不倫や突然の流産から立ち直れない妻は精神障害を発症し、奇妙な行動を取り始めますが、孤独な妻の悲しみに寄り添う美しいラストが印象的です。ステップファミリーの新しい姿を描いた「夢虫・未草」など、素晴らしい短編ばかりが収録されています。

収録作「8月に生まれる子供」は、急激に年老いていく病を発症した18歳のびわ子の姿を通し、生きることの意味と再生を描いた短編です。日ごとに老いるびわ子は絶望し自暴自棄になるのですが、ボーイフレンドや家族は彼女を待ち続けます。誰しも持ち得る「老い」への不安に、やさしく手を差し伸べてくれるような作品です。

表題作では、女性の心を持つ少年の苦難と希望に満ちた一生が描かれています。同性を好きになる苦しみの末に彼がめぐり合う幸福は、まるで現代のおとぎ話のようです。不登校の女子高生と無職になった義父が一緒に会社を設立する「毎日が夏休み」では、スペック至上主義に疑問を投げかけ、仕事をする喜びを鮮やかに描いた名作です。

収録作「七月七日に」は、戦時中の母の記憶にまつわる美しくも衝撃的な短編です。父母を亡くしたつづみを育てる後妻の母は、惜しみない愛情を彼女に注いでいますが、ある一夜を最後に忽然と姿を消します。戦時中における同性愛を扱っていて、最後まで隠されていた母の秘密と娘への愛情が深い余韻を残します。

収録作「秋日子かく語りき」は、交通事故で亡くなった主婦が一緒に事故にあった女子高生の体を借りて、1週間だけ現世に戻るお話です。女子高生の姿で心は中年女性の彼女が、やり残したことを叶えようと奮闘する姿にほろりとさせられます。すべての人が迎える「死」への救済ともいえる、やさしいラストは必見です。