本を閉じた後も波音が聞こえる!?海のシーンが心に深く刻まれる傑作小説

7つの物語を収めた短編集です。表題作の「海」という小説には、世界に一つしかない架空の楽器が登場します。この楽器は海の力を借りることで、はじめて音色を奏でられるという風変わりなもの。美しい響きをもった楽器の名を目にすれば、読者の内に鮮やかな音色と海の気配が呼び起こされることでしょう。

第147回芥川賞受賞作である「冥土めぐり」は、車イス生活を送る夫と介護する妻との関係が描かれた中編小説です。ラスト近くで、過去の記憶を振り払い、妻が新たな出発を決意する浜辺での場面は、圧倒的な迫力をもって読者に迫ってきます。難病を抱える夫をもつ、著者にしか描けない小説だといえるでしょう。

タイ系アメリカ人作家による短編集です。本書に所収された「ガイジン」は、観光地の島でモーテルを営む母の一人息子が、観光客としてやって来た外国人の女性に恋をする物語。少年は恋のもつれからトラブルに巻き込まれますが、恋敵に一矢を報いる浜辺でのラストシーンは清々しい読後感をもたらしてくれます。

デビュー30周年を機に精選された8つの物語を収録した短編集です。九州の小島を舞台にした「望潮」は、地元の老婆たちの暮らしぶりに焦点を当てていて、異界から世を見つめるような著者の妖しい眼差しが物語全体に横たわっています。人が老いることのすごみを感じさせる、村田ワールド全開の名短編です。

熊本県水俣市で起こった公害病をテーマにした長編小説です。作中では水俣の海や地元民の海での暮らしが頻繁に描かれることで、工場排水によって公害が引き起こされた事態の大きさに改めて気づかされます。水俣の方言が小説の世界観に深い陰影をもたらしている名著です。