決して甘美なだけではないはず。少年の日のダークな記憶がよみがえる小説

東京から地方の農村に転校してきた中学3年生の歩は、閉鎖的なコミュニティで連鎖されるいじめや、通過儀礼としての暴力の洗礼を受けます。滅びゆく美しい農村風景のなか、エスカレートする少年たちの猟奇性。全編に漂う虚無感と不吉さが見事。日本版ダークサイド『スタンド・バイ・ミー』とでもいうべき傑作です。

町の連続猫殺しを解決すべく結成された少年探偵団。ところが、地味な転校生で自らを「神様」と名乗る少年は、不吉な予言めいたことばかりを「僕」に告げるのでした。児童向けミステリーとして書かれた本作は、トリックも物語も圧巻です。少年時代の終わりを突きつける、トラウマになるほど後味の悪い結末は一読に値します。

ヘッセは少年時代のトラウマをえぐる作品を多く残していますが、中でも「少年の日の思い出」は教科書にも掲載される印象深い短編小説です。友人の蝶の標本に魅了され、出来心で盗んでしまう主人公。許しを請う少年に友人が放ったひと言は、読者の心にも鋭く突き刺さります。短いながら人生観を変える強烈な物語です。

少年時代をともにした優秀な親友から、初めての恋人を寝取られた主人公。数十年後、初老になった男のもとに、絶縁した親友の日記が託されたと連絡が入ります。それを機に親友と自身の歩んだ道を振り返るも、衝撃的な真実が隠されていたことに気がつきます。少年の美化された思い出を打ちのめす、ダークで切ない小説です。

収録作「七番目の男」は、初老の男の独白体による短編小説です。少年時代、津波により大切なものを失ってしまった男は、その記憶に苦しめられた人生を送ってきました。数十年後、故郷の海を訪れた男の蓋をしていた記憶が解放され・・・。過去の苦しい出来事や傷と向き合うことの意味を教えてくれる珠玉の1編です。