ブックキュレーター哲学読書室
アンタゴニズム(敵対性)と政治について考えるブックリスト
近年、活発な批判や対立はあまり歓迎されない雰囲気がある。このかんの感染症対策をめぐる政府の無責任かつお粗末な対応についても、「いまは批判してる場合じゃない」と言って、これを諌めようとする人たちがいる。しかし対立や批判、すなわち敵対性とは、政治にとって本質的なものではなかっただろうか?アンタゴニズム(敵対性)と政治について考えるためのブックリストをお届けする。【選者:山本圭(やまもと・けい:1981-:立命館大学准教授)】
※本ブックツリーの内容は、執筆時点(2020年3月1日)の情報に基づいております。
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敵をつくる 〈良心にしたがって殺す〉ことを可能にするもの
ピエール・コネサ(著) , 嶋崎 正樹(訳)
本書の出発点にある問題意識は、戦略を扱う書物が敵についてほとんど関心をよせていない、というものだ。そこでコネサは「敵とはあくまで選択されるものなのであって、与件ではない」ことを示そうとする。本書のテーゼのひとつは「敵とは社会的需要への対応物である」というものだ。かりに敵が私たちを脅かすだけでなく、私たちのアイデンティティの似姿でもあるとすればどうだろうか?
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友愛と敵対 絶対的なものの政治学
アレクサンダー・ガルシア・デュットマン(著) , 大竹 弘二(訳) , 清水 一浩(訳)
友愛と敵対をめぐる基本書のひとつ。本書においてデュットマンは、敵概念の分裂を看取し、そこから内敵と外敵の、此岸と彼岸の決定不可能性を指摘し、そして敵とは私自身の分身でもあるという反転可能性が示される。デュットマンの高度に抽象的な考察は、敵対の〈秘密〉まで私たちの思考を導くものだろう。
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スタシス 政治的パラダイムとしての内戦
ジョルジョ・アガンベン(著) , 高桑 和巳(訳)
アリストテレスが証言する「ソロンの法」とは、市民が内戦に参加しないことを禁じるものであり、どちらの側にもつかなかった者は市民権を剥奪されたという。これを踏まえ、アガンベンは共同体にとってのスタシスの両義性を指摘する。すなわち、スタシスは分断をしるし付けると同時に、分断を忘却するのであり、これが極端な敵対性からポリスを保護しつつ、調和の不可能性をも刻印している。スタシスをめぐるアガンベンの洞察は、アンタゴニズムと民主政治の関係を考えるうえで、きわめて示唆深いものだ。
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左派ポピュリズムのために
シャンタル・ムフ(著) , 山本 圭(訳) , 塩田 潤(訳)
ポピュリズムは、こうしたアンタゴニズムの具体的な形象のひとつだろう。とりわけ本書は、少数者支配と右派ポピュリズムに対抗するため、左派もポピュリズム戦略に訴えることが不可欠であると説く。英国ではコービンが大敗し、アメリカではサンダースの躍進が注目を集めているが、はたして左派ポピュリズムは昨今の政治的苦境への福音となるだろうか?
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アンタゴニズムス ポピュリズム〈以後〉の民主主義
山本 圭(著)
本書のテーゼのひとつは、現代民主主義の差し迫った問題は熟議でも闘技でもなく、それよりはるかに手前のアンタゴニズムであるというものだ。いまや闘技のための空間は閉じてしまい、アゴニズムはむき出しのアンタゴニズムへとほどけてしまった。私たちが目撃しているのは、これまで自明視されていた基礎付けに異議を申し立てる「アンタゴニスティック・モーメント」にほかならない。
ブックキュレーター
哲学読書室知の更新へと向かう終わりなき対話のための、人文書編集者と若手研究者の連携による開放アカウント。コーディネーターは小林浩(月曜社取締役)が務めます。アイコンはエティエンヌ・ルイ・ブレ(1728-1799)による有名な「ニュートン記念堂」より。
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