ブックキュレーター広島大学大学院人間社会科学研究科教授 桑島秀樹
「感性の旅人」たちの本
歴史や異文化を深く知るには、なにより「感性」が重要だ。現場に立ち、五感すべてを開いて風景と対峙するような。あるいは、犬のように路地をうろつきくんくんと嗅ぎまわるような。自己を再認識し、さらに相対化する視座も、そんな旅の態度があってこそ身につくのだろう。ここに挙げた5冊は、その好材料を提供してくれるはず。
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旅する力 深夜特急ノート
沢木 耕太郎(著)
かつてのバックパッカーの聖典『深夜特急』秘話。いかにして作家・沢木耕太郎ができあがったかを自身で語ったエッセイ。『深夜特急』の旅とは、《バスのみで、デリーからロンドンへ》との鉄則を自己に課したもの。作家のライター修行時代、旅支度の様子などが綴られる。26歳こそ旅立ちにふさわしい、との至言も。
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マラケシュの声 ある旅のあとの断想 新装版
エリアス・カネッティ(著) , 岩田 行一(訳)
モロッコの古都を、英国に住むユダヤ人作家が数週間にわたり彷徨った旅の追憶録。街に満ちる意味不明な言語、叫び、祈りに身をひたすことで、土地固有の記憶を呼び起こす原初的語りが、崇高な聴覚的アラベスクとして現出する。そこにはエロスとタナトスが匂い立つ。沢木が『深夜特急』の旅の途中でひも解いた書でもある。
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辺境を歩いた人々
宮本常一(著)
江戸時代から第二次大戦前までの「辺境」探訪譚の紹介。近藤富蔵(八丈島)、菅江真澄(陸奥)、松浦武四郎(蝦夷地)、笹森儀助(奄美・沖縄・台湾)の4名の凄まじい生き様と旅の実相を、「あるく みる きく」の民俗学者が情愛を込めて語る。ときに宮本の眼は、艱難辛苦を乗り越え、漂泊する先人のまなざしと交差する。
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アイルランドモノ語り
栩木 伸明(著)
アイルランド文学の翻訳家にして名エッセイストによる、「路地裏」で出合ったモノたちの「身の上」探究譚。図書館調査や現地取材を通じ、いわば犬の眼と鼻で――著者は戌年!――アイルランド各地を遊歩する。モノから始まる知的探索という点では、池澤夏樹『パレオマニア』の大英博物館収蔵品のふるさと巡りにも似る。
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小説家・司馬遼太郎が晩年の四半世紀を費やした歴史紀行『街道をゆく』シリーズを、「感性哲学」という視点から読み解く。厖大な書物知を背景に、現場に立ち、強靭な想像力を駆使して過去の事物を鮮やかに受肉させる「語り」に注目する。補章として、「司馬の見残した火山の風土」と題した、オリジナルの北関東篇も収録。
ブックキュレーター
広島大学大学院人間社会科学研究科教授 桑島秀樹1970年3月群馬県渋川市生まれ。現在、広島大学大学院人間社会科学研究科(2020年4月総合科学研究科より改組)教授。博士(文学)。専門は美学芸術学・感性哲学・文化創造論。大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。主著に、『崇高の美学』(講談社選書メチエ、2008年)、『生と死のケルト美学――アイルランド映画に読むヨーロッパ文化の古層』(法政大学出版局、2016年、第14回木村重信民族藝術学会賞)、『バーク読本――〈保守主義の父〉再考のために』(共編著、昭和堂、2017年)などがある。
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