絲山秋子の小説でパワー充電。愛すべきダメ人間たちの姿が胸に染みる！

高額宝くじに当選したことで、早期リタイアを決意する河野。まるで、あの世とこの世の境のように静かな海辺に家を買い、余生を送っていた彼のもとに、ある日、2人の女性が訪れて来ます。不器用で孤独な大人の恋愛は切なく、胸にしみじみと余韻を残します。胸打つ傑作映画を観ているのような、美しく不穏なラストシーンが見事です。

同期で入社した太っちゃんと私。一緒に仕事を覚え、苦楽をともにしてきた太っちゃんですが、ある日突然、事故で亡くなってしまいます。私は生前のある約束を守るべく、彼の家に忍び込むことになり・・・。恋愛感情はないけれど、そいつのためならなんでもできる。そんな男女の友情を描いた、胸が熱くなる芥川賞受賞作です。

「妻の超然」「下戸の超然」「作家の超然」という3編を収録した短編集です。表題作では、年下の夫の浮気に精一杯強がり、無関心を貫く妻の心理を描きます。夫に冷めたと言いつつも、超然とできない妻の心中を吐き出した語り口は、毒とユーモアたっぷりで大笑い間違いなし。夫婦関係の深さを見出すラストにはホロリとさせられます。

群馬を舞台に、東京から帰郷した青年が家業を継ぐまでのモラトリアムな1年半を描きます。地元の人間とよそ者、それぞれが踏み込みすぎないゆるやかな人間関係が、ある事件をきっかけにバランスを失い、薄情な一面があぶり出されてくる描写がリアルです。低温な地方都市の空気感を見事に描き出した谷崎賞受賞作です。

かっこいいけれどだらしない先輩・小田切孝に、十数年も片思いし続ける大谷日向子。指1本触れることもないまま、袋小路にはまったような出口のない片思いを続けるさまは、切なくもロマンチックです。ダメ男なのに色気のある切孝がとても魅力的で、読者もドキドキさせられる表題作を含め、全3編を収録。