三冠作家が描く！「家族」の価値観を揺さぶる実力派純文学

母娘を描いた連作3編を収録した一冊です。「あ」から「ん」のまでの五十音に則った「新しいおかあさん観」を生み出しながら、「母」という言葉が担わされ続けてきた幻想を壊していくというストーリーは難解ですが、次々出てくる「おかあさん」が奇想天外で思わず笑ってしまうかもしれません。母娘の関係の変化にも要注目です。

実家の母・弟との関係とともに、車椅子の夫との家庭という二つ家族関係を描いています。主人公はかつて訪れた海沿いのホテルで、昔の栄光を忘れられない家族たちの過去の記憶を編み直します。旅行を扱う話なのに、閉鎖的で息苦しい家族関係を描いているのが印象的。ですが、その閉塞の先を生きるヒントが見つかるお話です。

飼っているペットと顔が似てきた、そんな経験がある方もいるでしょう。本書は子どものいない夫婦を描いたお話ですが、主人公はある日、夫と自分の顔が似ているどころかそっくりになってきたことに気づいてしまいます。他人同士だった夫婦が同化し、家族になってゆく恐ろしさを、少し不思議なタッチでみせる物語です。

母娘という関係を切り口にしつつ、家族という共同体そのものへの疑問を投げかける作品。「家族欲」を満たす「カゾクヨナニー」に没頭する主人公の視点や怒涛のラストなど、常にぶっとんだ物語を展開し続ける村田沙耶香の妙技が光ります。帰りたい家を探しあぐねているすべての人に読んでほしい、ヒリつくような一冊です。

病弱だった主人公を助けるために両親が宗教にのめりこんでいくという不穏な展開を見せつつも、文章は重くなく、不思議な読みやすさのある小説です。「家族」が家庭の中だけでなく外の人間関係にまで及ぶ様子ははらはらしますが、「信じる」を切り口に描き出される家族像は、普通の幸せとは何か、ということを考えさせてくれるでしょう。