読むと心がじんわり温かくなる。ほっこり人情に触れる時代小説

江戸時代とは価値観が大きく変わった明治初期。ある者は侍から商人になり、ある者は藩主の仇討ちのために敵を探す。本書は、そんな時代の変化に翻弄された人々を描いた短編集です。死にたくなるほどつらいとき、救ってくれたのはお金や名誉ではなく人のやさしさでした。温かい涙がホロリとこぼれるお話が満載です。

時は江戸、九州のとある藩で起きた藩主側室との密通事件。その罪により10年後の切腹を言い渡された男のもとに、監視のため若者が派遣されます。10年後の死という重い足枷がありながら、残りの日々を懸命に生きて、成すべきことを成さんとする男の真摯な姿と、それを静かに見守る家族の交流が美しく温かい物語です。

江戸・深川の鉄瓶長屋で起こる殺人や捨て子などの騒動。つながりのなさそうな出来事に、実は大きな秘密が隠されていて・・・。武家なのに長屋の住人たちから軽くあしらわれる、面倒くさがりの同心・平四郎。そんな彼が人々の悩みを見抜き、さりげないやさしさで見守る姿が胸を打つ、これぞ下町人情な謎解き物語です。

江戸は神田、名主の跡取り息子である麻之助は、あるときを境に近所でも評判のお気楽者に変わってしまいます。そんな彼が周囲の不安をよそに、さまざまな騒動の解決に乗り出すのですが・・・。情に厚く、思いやりのある麻之助の決断が冴える1話完結の物語。麻之助のお気楽さの理由には、ちょっぴり切なくなるはずです。

明治初年の暮、伝馬町牢屋敷。火事で牢屋敷も危険にさらされたため、つながれていた牢人たちは鎮火後の帰参を命じられたうえで町に解き放たれます。「戻って来れば罪は軽くなる」とのことでしたが、そのなかには復讐を胸に秘めた3人の重罪人がいて・・・。復讐の結末や、3人を見守る牢役人との関係性にも心打たれます。