警察小説以外にも秀作がずらり。横山秀夫の隠れた名作

太平洋戦争末期に海軍が開発した人間魚雷「回天」。その回天に志願する主人公・並木の、愛する人たちへの真摯な思いに切なくなる小説です。死を覚悟しながらも野球を諦め切れず、魔球を完成させようとする彼の姿は、死ぬことでしか生きた証が残せない戦争の悲惨さを際立たせています。最後の手紙は涙なしには読めません。

著者自身が新聞記者時代に遭遇した、御巣鷹山での日航機墜落事故を題材にした小説。大手新聞社にスクープを取られまいとする地方新聞社、事故を利用しようとする経営層、さらには社内の内部抗争などが、緊迫感あふれる筆致で描かれています。組織に振りまわされる人間の葛藤を描かせたら横山秀夫の右に出る作家はいない、と思えてきます。

時効まで24時間を切ったタイミングで、「15年前の事件は自殺ではなく他殺」というタレコミが届きます。高校生3人組の悪だくみ、女教師の殺人事件、さらには3億円事件など、一見すると無関係に思える伏線が一気に回収されるストーリーは爽快です。デビュー作ながら、すでにストーリー構成は完璧だといえるでしょう。

依頼主は建築家の青瀬に、「建築家として建てたい理想の家」を注文します。そうして完成したのが、北向きの窓から差す陽の光が部屋をやさしく包み込む家でしたが、なぜか依頼主はその家に住もうとせず・・・。青瀬は「タウトの椅子」を手掛かりに理由を探り始めるのですが、その結末には驚かされること間違いなしです。

税理士の篠田は、15歳になる息子を殺されていました。10年後、逮捕された犯人の供述に、篠田はうろたえます。息子の事件の本当の姿がわかるにつれ、次第に篠田は追い詰められていき・・・。最後の結末の迎え方は、さすが横山秀夫！と言えるでしょう。「事件後」をテーマにしたそんな表題作など、全5編が収録された短編集です。