人間とは、救いようもなく愚かで愛おしい。胸が熱くなる山田詠美の傑作小説

世の既成概念に縛られない魅力的な母と自由な祖父の元で育った秀美は、勉強はできないが女にモテる高校生。年上の女性との恋や学友の死、偏見や偽善への抵抗を通して、彼が「誰にも語り得ない自分」へと成長していく姿が描かれます。かつて高校生だった大人たちに、「あなたの生き方、大丈夫？」と問いかけてくる名著です。

年下の郵便局員と恋に落ちた夏美だけれど、夫にも恋人がいました。恋する自分に呆れつつも懸命に生きる大人たちが愛おしい、ワイドショー的陳腐さとは無縁の軽妙洒脱な不倫小説。夫から不倫を告白されてヤケになる夏美に夫自身が放つセリフ『大丈夫だよ、おれが付いてる。そういう時のためのだんなじゃん』は、憎らしいほど秀逸です。

大阪二児置き去り死事件をもとにしたフィクション。世間に「鬼母」と断罪された若い母親の生い立ちや周囲の人々との関係性を執拗にあぶり出し、誰もが彼女のような状況に陥る可能性があるのではないか、真に罪深いのは誰なのかと問いかけます。本書の英題『SINNERS』が複数形で記された意味が、心に重く迫ります。

NYに生きる奔放な女性ヤスミンの体内に棲む、不思議な生命体「ブラッド」が語り部の物語。ヤスミンが関わる人種も背景も異なる多様な人々を通し、偏見や貧困、生と死が、冷たく熱くリアルに描かれます。本当の多様性とは、人種差別とはなんなのか、他人事だと思っていないか・・・そう読者一人ひとりの胸に問いかけてくる大作です。

親同士の再婚により家族になった2組の親子。絵に描いたような幸せは、長男の突然の死によって崩壊します。本書には、『愛する人を亡くすこと、愛する人を残して死ぬことは何より辛い。それでも、生きること、愛することは素晴らしい』というエイミーイズムが凝縮されています。あっと驚くラストには、爽やかな感動の涙が待っています。