大阪文学。それは、いつの世も生命力みなぎる街で生きる愛すべき人々の物語

戦後の大阪、焼け野原の闇市。裸一貫となった松坂熊吾の再起をかけた奮闘が始まります。わがままで理不尽、好色で暴力的なくせに純真なやさしさを持つ魅力的な熊吾のモデルは、著者の実父。執筆開始から実に40年を経て完結した大長編の第一章です。戦後日本を力強く生き抜いた人々の生きざまに、拍手喝采せずにはいられません。

通天閣の町で生きる人々の、代わり映えしない毎日から始まる物語。野望も希望もなく、つらい過去を茶化して笑いに変えるしかない人々の不格好な生きざまが、おかしみとともに切なく胸に沁みてきます。情けなくて悪いか、無様で悪いか、だからこそ人間は愛おしいんや。そう言って、大阪という街が彼らを抱きしめているかのような名著です。

文政年間の大坂で、武士を捨て貸本屋を営む色男・町之介。彼と浪花美女たちとの恋模様を通して、現代よりも遥かに自由で粋な色恋の駆け引きが生き生きと描かれています。現在の心斎橋付近が舞台のため、読みながら当時の大坂に思いを馳せるのもよし。軽妙洒脱なセリフが光る、極上のエンターテインメント小説です。

大阪に実在する「天王寺七坂」が舞台の短編集。坂ごとに一つの物語が色彩豊かな情景描写で紡がれます。少しの怪談風味が良いスパイスとなり、誰の心にもある子ども時代への郷愁や過去の恋への未練、誰かを失う切なさを呼び起こさせます。大阪に行った際には、ぜひ本書に登場する坂を訪れ、小説世界にどっぷりと浸ってみてください。

400年前、大坂夏の陣で滅亡したはずの豊臣秀吉の末裔が生き延びていて、その血が現代まで脈々と受け継がれていたとしたら？今も昔も秀吉びいきの大阪人ならロマンを感じずにはいられない、奇想天外な一大スペクタクル巨編。読み始めたが最後、一気に物語に引きずり込まれる感覚を味わえる、大阪愛あふれる快作です。