ブックキュレーター中島岳志
中島岳志の推薦する名著5冊
中島岳志の「推薦図書」はこの5冊! ※こちらの推薦文は、クーリエ・ジャポン読者のために寄稿いただいたものを転載したものです。
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北一輝に関する著作は数多くあるが、本書はその中でも突出して、北の思想を的確に捉えている。私が “元祖セカイ系“と呼んでいる北や石原莞爾らは、自分と他者の隔たりがなくなり、宇宙がひとつに融けこんだような世界を理想とする。北にとっての理想的な国家は天皇と国民が一体となったものであり、そこでは個人は「個であること」を放棄することになる。一見すると、政治改革・政治思想として捉えられがちだが、探求していくと北はナイーブで、個の救済を追い求めていることがわかる。北のそういった側面を鋭く捉えた名著である。
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私が研究者になる上で大きな影響を受けた一冊であり、この本がなければ、いまの研究はしていなかったかもしれない。著者の大塚は、大川周明の立場を「復古革新主義」と位置づける。大川は他の左翼理論家たちとは違って、過去の君民一体社会への回帰によって理想社会が現れると考え、左派でありながら右派であった。そんな大川の思想プロセス、昭和維新の構造を明らかにしている。
私が若い頃には、戦前の思想を研究対象とするのは避けられる空気があったが、この本と出会ったことで導かれるように、日本思想史の分野に足を踏み入れることになった。 -
満州事変の首謀者の一人とされる石原莞爾研究で最も良い書籍の一つ。この本が面白いのは、若き日に中国の漢口に駐在した石原が、妻に宛てて書いた手紙を徹底的に研究していることだ。石原は妻との一体化を求めており、妻との絶対的な関係が、世界に普遍していくというモデルを描いていた。そうした思想が妻への手紙から浮かび上がり、満州事変の背景や、当時がどういった時代だったのかが鮮やかに見えてくる。上記の『北一輝』と共に「再発見 日本の哲学」というシリーズだが、名著揃いであり、改めて注目されるべきシリーズだと思う。
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現代を代表する日本の哲学者である鷲田は、早い時期から「弱さ」に注目してきた。いまの私たちは強いリーダー、周囲を牽引していくリーダー論を掲げがちだが、リーダーが弱さを認め、助けてほしいと言えることで、周囲にも関わる余地が生まれる。私たちはガチガチに鎧を固めて、強く見せようとするけれど、鷲田は周りのポテンシャルを引き出す力である「弱さ」こそがいろんなことを生み出していくと説いている。いまの時代に必要とされているメッセージだと思う。
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著者の原は天皇研究をずっとやってきた一方で、非常に熱心な鉄道ファンでもある。そして、この2つの分野がクロスした本書で、原はものすごいエネルギーを発揮している。阪急梅田駅問題が取り上げられているが、阪急梅田駅とJR大阪駅の乗り換えの悪さの背後にあった「お召し列車の上をまたぐ形で線路をつくるとは何事だ」という国家の論理が「民都」大阪に介入し、それに屈していくという時代を描いていて、ただただ面白い。こういう視点から天皇制の本質を明らかにできるのかと唸らされた一冊。
ブックキュレーター
中島岳志東京工業大学リベラルアーツ研究教育院/環境社会理工学院・社会人間科学コース教授。現代日本政治や日本思想史、インド政治などを研究。
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