日本近代文学の魅力を知る！昭和前期から厳選した珠玉の小説

昭和12年に刊行された永井荷風の代表作です。旧東京市向島区の「玉の井」という私娼街を舞台に、小説家の大江匡と娼婦のお雪の交流を叙情的に描き出しています。退職金を持って失踪する英語教師を主人公とする小説「失踪」の構想とともに、昭和初期の東京下町の風情を軽妙洒脱な筆致で表現した著者の筆さばきは見事です。

日本探偵小説の祖・江戸川乱歩の長編小説で、昭和5年に刊行されました。物語は30歳未満で白髪となった蓑浦と、左腿に大きな傷跡がある彼の妻の関係から始まり、その原因となった体験を回想録形式で綴ります。求婚相手の死。同性愛者の先輩。謎の系譜図。幾多もの要素が絡み合い、怪奇色を帯びたテイストにも惹かれます。

完結まで26年を費やした、志賀直哉文学の集大成といえる長編小説です。両親の愛情を知らぬまま小説家となった時任謙作の精神的放浪を語る前篇、平穏無事に思われた夫婦生活に衝撃が走る後篇に分かれていて、人間が体験する苦悩とそこからの解放を鮮やかに描き出し、日本近代文学の最高峰とも評された不朽の名作です。

昭和6年に刊行された谷崎潤一郎の倒錯的な恋愛小説です。夫のすすめで女子手芸学校に通い始めた園子は、他教室の光子に惹かれ、同性愛関係を結んでしまいます。ところが光子に婚約者がいたために彼女たちの運命は悲劇の道を突き進んでいくことに。複雑な性愛事情を背景とする愛憎劇は、著者らしい官能性に満ちています。

太宰治が入水自殺する直前に発表した、昭和初期を代表する名著です。東北地方の裕福な家に生まれるも、生来の気の弱さを、道化を演じることで隠してきた主人公。彼は上京したあと、人間関係のもつれを契機に精神状態を悪化させていき、絶望感と衰弱による自殺衝動と薬物依存に苦しむなか、人間としての失格を自覚するのでした。