幻想的な小説に、書評や俳句まで。川上弘美の世界観にどっぷり浸れる本

川上弘美のデビュー作も収録された短編集。表題作の主人公は人間ですが、近所に越してきたクマや叔父の幽霊、河童、人魚との関わりが描かれています。異世界の者たちが当たり前のように存在する不思議な世界観、切ないストーリーに惹きつけられます。読後は、夢から醒めたばかりのような浮遊感と温かい気持ちに包まれます。

国家がなくなり、人類も滅びつつある未来を描いた物語です。登場する人類は、工場で馬やイルカの細胞から作られていたり、クローンであったり、人工知能と融合していたり。人類の存続という目的のためのシステムと、個々の暮らしや幸せの対比が印象的です。自分の存在とは、生きるとは何かを考えさせられることでしょう。

新聞や雑誌に掲載された、144冊分の書評をまとめた一冊。村上春樹や小川洋子をはじめ、さまざまな本が紹介されています。小説家ならではの着眼点、作品世界の独特な読み解き方から新しい視点を得られます。なにより印象的なのは、『読書はいい』としみじみ語る本への愛情。どの本も読んでみたくなること間違いなしです。

「妙な言葉コレクション」が趣味で大学時代から『歳時記』を愛読してきたという川上弘美が、96の季語を紹介するエッセイ集です。「絵踏」「おでん」といった季語にまつわるエピソードから、細やかな観察眼と言葉へのこだわりが伝わってきます。季語を使った名句も紹介されていて、俳句のおもしろさと奥深さを感じられます。

とにかくモテる主人公・西野幸彦と、10人の女性との関係を描いた連作集です。モテるけれど誰かを真剣に愛せず、最後は振られてしまう西野の姿が、女性たちの視点で語られています。どこか空虚で捉えどころがなく、女性を孤独にさせてしまう西野。華やかな恋愛遍歴と随所ににじむ寂しさのギャップが、印象に残ります。