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究極の私怨小説
2010/07/17 00:23
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yjisan - この投稿者のレビュー一覧を見る
第143回芥川賞・直木賞受賞作品が発表された。両賞はかつてほどの権威はないにせよ、依然として日本で最も重みのある文学賞であり、小説家にとっては垂涎の的であろう。知名度が飛躍的に上がり、受賞作はもちろん他の本の売り上げも伸び、作家仲間からも尊敬される。逆に、候補まで行ったのに落選すれば、意気消沈することだろう。
さて本作は、自分の作品がたびたび直木賞候補に挙がりながらも(1967年『ベトナム観光公社』、1968年『アフリカの爆弾』、1972年『家族八景』)、選考委員にボロクソに罵倒され落とされ続けた筒井康隆が、その怨みを笑いへと昇華させ、もって選考委員たちへの復讐を図った、文壇諷刺小説である。
文学に憧れるエリート会社員の市谷京二は、『燒畑文芸』という同人誌に参加する。「一流企業に勤めているという個性を活かさぬ手はない」と主催者の保叉にアドバイスを受けた市谷は、自分が勤める県下随一の大企業、大徳産業の不正を告発する企業小説「大企業の群狼」を寄稿。そのリアリティ溢れる内容が注目を集め、『燒畑文芸』から中央の文芸雑誌『文学海』(『文學界』がモデル)に転載され、ついには直廾賞候補作にまでなってしまう。
だが市谷は会社の悪事を暴露したため馘首され、会社の顧問を務めていた父親からは勘当される。同人仲間からも嫉妬され、爪弾きにされる。自分の中にある面白いネタを全て出し切ってしまった市谷に、処女作を超える作品を今後創り出せる可能性はない。残された道はただ1つ。直廾賞を受賞して、文壇に仲間入りすることだ。
かくして市谷は、あらゆる裏工作を駆使して直廾賞獲得を目指すのだが・・・・・・
本書に登場する選考委員たちは、当時の直木賞選考委員(海音寺潮五郎、川口松太郎、源氏鶏太、松本清張など)を筒井康隆が徹底的に戯画化したものである。「文章が生硬」「人物が描けていない」といった、主人公・市谷の作品「大企業の群狼」に対する選考委員たちの辛辣な選評も、実際に筒井康隆が蒙った酷評が元になっている。
新しい作品に無理解な選考委員(長老作家)。売れてはいるが文学的評価は低く、そのことにコンプレックスを持っている流行作家(筒井の自嘲を含む)。大物作家に媚びる一方で同人誌を見下す編集者。職業作家の商業主義を揶揄することで、誰も読まない作品を書き続ける惨めな自分を正当化する同人作家。
筒井一流のドダバタナンセンスが爽快なまでに炸裂、文壇世界を容赦なく笑い飛ばし、その権威を叩き落とす、抱腹絶倒の快作である。
現在の文壇には昔ほどの権威はない。「文学者」と呼ばれるような人もいなくなり、現代の「文学作品」の大半はただただ消費されるだけだ。「文学」に権威があるからこそ諷刺の対象になり得るわけで、権威のなくなったものを笑っても仕方がない。それでは単なる“弱い者いじめ”である。そういう意味では、本作のような小説が現れることは2度とないだろう。
直木賞も新人賞的な性格を失っており、本作が発表された頃とは様々な意味で状況が異なる。
しかし強烈な反骨精神を宿すこの小説は、今読んでも十分面白い。
何かに使いたいタイトルです
2024/01/25 10:39
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投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
文学賞に落選した候補者が、選考委員を殺しまくるというあらすじだけで面白い作品です。作者があらゆるモノを馬鹿にしているのが伝わる戯画化された文学者、マスコミ、同人などの人々の様子がおかしいですね。
筒井氏は何度も直木賞に落選している
2019/01/31 17:00
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
筒井氏は直木賞に何度か墜ちている人なので、文壇バー、文壇クラブといった仲間内の仲良しクラブには憤懣があったのだろう。そのことが、この傑作を生むことになったのだろう。
筒井の私怨
2019/03/30 22:51
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投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る
作家志望の青年が目の当たりにする文壇という世界。SF作家というレッテルのために何度も賞をもらい損ねた作者の私怨で書かれたという批判に対して、大岡昇平が「そもそも私怨でない文学などあるか」と喝破する。登場する出版社や審査員たちがいい加減で勝手な理由をつけて落選させ、小説家崩れの教師が文学少女を弄んだり、アンモラルな世界。筒井なりのやり方で彼らはその報いを受けることになるが、これはおもしろい小説だった。
文壇を滅多打ち
2018/05/01 05:02
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
同人誌から文学賞を狙う人たちの熱狂ぶりが、ブラックユーモアたっぷりとしていました。文壇の権威主義への、鋭い批判も感じました。