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みんなのレビュー659件

みんなの評価4.3

評価内訳

659 件中 16 件~ 30 件を表示

電子書籍

コインには表と裏がある

2018/02/03 21:48

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ねずみごっこ - この投稿者のレビュー一覧を見る

大英帝国の中枢部で活躍した伯爵に、忠誠を誓い勤め上げた執事が、新しい主人・新しい時代の風に吹かれながら、一瞬だけ過去を振り返る、そんなお話である。
それだけで十分面白く感動的なのだが、何か若干物足りなさが残る。
ネットで他の方々の感想を探ってみた。やはり一筋縄ではすまされない話のようだ。
「星の王子さま」は万人に愛される物語だが、大人こそ味わえる含蓄があるように、この作品にもいろいろとありそうだ。
「ー日の名残りーを識者が読み解く」ような特集本が出たら、拝読し咀嚼したいものである。
出口治朗・佐藤優・ヘンリー・スコット・ストークスあたりで…是非!

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電子書籍

仕事へのプライドと品格

2018/01/03 17:37

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ピーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

丁寧な描写で淡々と語られる。
仕事へのプライド、その根底には品格を重要視して。

その二つの存在をもっている人の存在に立ち止まり考えたくなるような気がした。

重厚な作品。

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電子書籍

すごい

2017/12/09 17:57

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:さつき - この投稿者のレビュー一覧を見る

あのかずおいしぐろさんの作品です
ノーベル賞をとっただけあってさすがと思うような作品でした

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紙の本

真面目な夕暮れ

2017/11/26 01:37

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:海の方が好き - この投稿者のレビュー一覧を見る

いつ頃からであるか確かでないのだが、カズオ・イシグロの『日の名残り』は書評で取り上げられはじめた頃から記憶の片隅で気になる存在であり、読むべきと考える事が何度も有った。
なぜ気になる作品だったかといえば、やはり日本にルーツを持つ英国の文学者の高い評価を受けている著名な作品というところに魅力を感じたからだと思う。
それにもかかわらずノーベル文学賞受賞という先頃の報道に接するまで、いつかはと気長に構えて食指も決定的に起こらず未読であった。
それを受賞の大報道に推されてようやく読み始めて十日余りかかって昨夜読み終わったのである。
イギリス上流社会の伝統ある日常が執事である主人公を中心として重厚に、多面的かつ客観的に古典的な語り口で展開される物語だろうという私の予想は読み始めてすぐに裏切られた。
主人公である執事のスティーブンスの一人語りの回想によって物語が延々と進んでいくのである。
予想を裏切られたわりには一日わずかの読書時間ですらすらと驚くばかりにつかえるところが全くなく読み終えられた事には正直言って驚いた。
カズオ・イシグロの他の作品を全く未読なので見当違いかもしれないが、作者は意識して難解な用語表現や文章の書き方を排除している様に感じた。
その為に読み進めている途中で青少年向けの小説、ジュブナイルを読んでいる様な感覚さえ覚えた。本作の解説で丸谷才一がカズオ・イシグロはディケンズに師事していると書いているのがその様な事かと考えた。
不快感なく読み終える事が出来たもう一つの理由はこの物語が主人公の執事スティーブンスがロンドン近郊からイギリス南西部をある目的をもって旅するという映画で言えばロードムービー的な構造の物語であった事だろう。
主人公の回想によって物語られるこの作品では全ての登場人物は強烈な個性を読者に与えずに
その役割を明確に読者に伝えるべく主人公のスティーブンスによって整理されていると言える。
登場人物以外の物語の重要な舞台である『お屋敷』でさえ壮大な印象とは程遠い家庭的な印象にまとめられている。
なだらかに起伏するイギリスの田園風景の様に物語もおだやかに、なだらかに起伏しながら主人公スティーブンスはこの物語における唯一の目的といえるかつての同僚ミス・ケントンとの再会をどの様に果たす事が出来るのか。
そのクライマックスはあっけなく、しかし満足感を読者に感じさせながら自らの人生を振り返る事の意味を優しくおだやかに読者に語りかける。

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紙の本

一番好きな本の一つ

2017/11/18 16:29

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:やもり - この投稿者のレビュー一覧を見る

この何とも哀惜/愛惜に満ちた語りが良い。引き込まれて離れない。

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電子書籍

祝!ノーベル文学賞受賞。とても品のある話のように思えました。

2017/10/28 18:15

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みなとかずあき - この投稿者のレビュー一覧を見る

世間の騒ぎにはあまり乗りたくない性格をしているのですが、カズオ・イシグロのノーベル賞受賞というのだけはなぜか引っかかるものがあり、これを機会に読んでみることにしました。
1989年にブッカー賞を受賞したという本作が、カズオ・イシグロを知る上で適当な作品かどうかはよくわかりませんが、とりあえず手にした作品としては良かったのではないかと思います。
第二次世界大戦後のイギリスにある邸宅で働く執事スティーブンスが小旅行をする合間合間でのエピソードと過去の思い出の1人語りで綴られている本作は、始めから終わりまで「静かな」印象が漂っている話でした。
旅行中のエピソードはどれも良きイギリス人たちをあらわしているようで、今からわずか60年ほど前の時代であってももう感じることができない人と人との交流が描かれていたように思えます。
その間に語られるスティーブンスの元主人である伯爵が第一次世界大戦後のイギリスでとっていたヨーロッパ政治を舞台とした行動の数々や、スティーブンスの父親とのある種の葛藤、女中頭ミス・ケントンとの職務とプライベートの狭間で揺れるコミュニケーションの数々といった思い出話。こちらの方がこの小説のむしろメインであるのだろうとは思いますし、実際読んでいるとそこには一執事でありながら政治の世界を垣間見ていたり、少し足を突っ込んでいるという緊張感が伝わってきたり、ミス・ケントンとの一見他愛のないようなビジネスライクな会話の中に漂う情緒的な交流が伝わってきて、ついつい読み進めてしまいました。
こうした語り口も含めて、この作品全体に感じられるのは「品格」のように思えます。
この作品中にも何度かこの言葉は出てきますし、スティーブンスや他の人の口を借りて「品格」というのがいかなるものなのかということも語られていますが、そうしたことも含めて「品格」と呼ばれるものが人のありようとして大切なものだと思われていた時代の話なのではないかと思えました。
そして、21世紀の今、この「品格」がどこかへ行ってしまっているのではないかと思えたりもするのです。
ノーベル文学書は作家に与えられるものであり、ある特定の著作に与えられるものではないので、今回カズオ・イシグロがどのように評価されたのかはわかりませんが、少なくともこの作品を読むと何となくどこを評価されたのかわかったような気もしました。
もう少し他の作品も読んでみようと思います。

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紙の本

ジーン

2017/10/26 09:09

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:HIRO - この投稿者のレビュー一覧を見る

イングランドの美しい光景が目に浮かんでくる。
表現が非常に美しい。

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電子書籍

印象的な作品

2017/10/21 21:46

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ポッター - この投稿者のレビュー一覧を見る

味わいのある作品。イギリスの執事の目線からの小説でありますが、仕事に対する考え方、又それに連なる生き方は、非常に参考となった。
伝統の重みを感じると共に、だからこその率直な苦悩が見られた。最後も映画のラストのような印象的な場面であった。

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紙の本

品格のある執事の物語

2017/10/19 17:39

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ME - この投稿者のレビュー一覧を見る

著者がノーベル賞を受賞したと聞き、書店では売り切れが続出したが、電子書籍はこのような時非常に便利と思った。早速読んだが、主人公の語りによって進まれる物語は、品格があり、戦前のイギリスの古きよき時代や思い出が語られていると感じた。日本では明治時代?であろうか。古い郷愁にばかり浸っているのはよくないが、それが似合うのがイギリスであろうか、と感じた。最後になるが訳書で読んでいるので、素晴らしく格調高い訳文だったことも付記しておきたい。

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電子書籍

たられば

2016/01/30 20:49

2人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:満点 - この投稿者のレビュー一覧を見る

人生は一度きり。「たられば」はいかんですね。

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紙の本

英国らしい洗練

2001/07/29 14:38

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:OK - この投稿者のレビュー一覧を見る

 初老の執事が過ぎた日々を振り返りながら短い旅をする。という、どう考えても盛り上がりそうもない地味な筋書きの話なのだけれど、洗練された書法で出来の良い小説だった。ただ良くも悪くも、身を削って本気で書いた小説ではなさそうだなとは思うけれど。

 結局のところ小説というのは、1.登場人物の視点に感情移入して読む、2.登場人物を突き放して作者の意図や構成を読む、というふたつの段階をある程度並行しながら読んでいくものだろうけれども、本書はこれら両者のバランスがとてもよくとれている。「執事」の一人称語りは、自己を客観視しきれていないいささかうさんくさい叙述になっており、いわゆる「信頼できない語り手」の領域に足を踏み込んでいる。すばらしい執事とは何かについて彼が熱心に語ったり、冗談をうまく返せなくてまじめに思い悩む箇所なんかは、ほとんどパロディ小説のようなおかしさがある。かといって作者の態度は、執事がみずからの職業に抱く誇りをいたずらに嘲笑しているわけでもない。題名を反映した終盤の展開はしみじみと感動的でさえある。このカズオ・イシグロ自身はもちろん日系人なのだけれど、英国の作家というのは伝統的にこのあたりの案配が特に巧いような気がする。それはたとえば一般的には「現代的」「ポップ」などと評されるだろうニック・ホーンビイやアーヴィン・ウェルシュなんかの小説にも感じるところだ。

 「公/私」を対比させる構図も巧い。執事が体現するのは英国の喪われた栄光と「品格」であり(彼の新たな主人は米国人だ)、彼個人はかつて女中頭とのロマンスの機会を逸してしまったのを心残りに思っている。そして彼の敬愛した主人の英国貴族は、ナチス・ドイツに対する英国政府の「宥和政策」に加担したとして糾弾されたらしいことが示唆される。私的な問題から国家の大事に至るまで、誰にでもそんな失敗や喪失の体験はあるだろうと思う。本書はゆったりとそんな追憶に浸ってみせるけれど、しかし結局過去は決して取り戻せず、前を向いて生きるしかない。

 土屋政雄の訳文はすばらしい。「執事の語り」なんて日本語に存在しないものを、たしかにこんな調子だろうなと思わされてしまう見事な翻訳で、おそらく「ですます調翻訳」や「特殊職業の語り手翻訳」のひとつのお手本といえるのではないか。

http://members.jcom.home.ne.jp/kogiso/

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紙の本

主人公

2001/12/26 18:44

5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:読ん太 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 ダーリントン・ホールに長年執事として仕えてきたスティーブンスが、休暇をもらって自動車旅行に出る。執事らしい控えめで上品な旅である。旅先では…、これと言って取り立てるほどのことは何も起こらない。「何も起こらないはずはないだろう?」と思って急げ急げと読み進めると…、読み終わってしまった。一人、部屋の中で、天井を見上げ後ろを振り向き、「フ〜ム」と首をかしげて唸ってしまった。「それで、何なのよぅ??」と何度も呟いた。

 どうも私の読む姿勢が間違っていたようだ。本書はストーリーの展開を楽しむたぐいのものではないらしい。これは、ある男、執事という仕事に命を燃やした男の人生を読む小説だ。自動車旅行に出かけ、車の中や宿などあちこちで執事は回想に耽る。ダーリントン・ホールがかつて活気に溢れていた頃のこと、女中頭との出来事、同じ執事として尊敬すべき父のことなど。

 人はだれでも生きている内に「人生」という大長編を綴っている。主人公は著者本人と決まっている。どんなに平々凡々とした人だろうと主人公を他人に譲ることなど出来はしない。この大長編は一般の書物と違うところが一点ある。それは句読点である。「。(マル)」がない。正確には、「。」はページの最後の最後に一つだけである。これは人生の終わりを意味する。「、(テン)」は文中のそこかしこに存在する。人はそれを「人生の節目」と表現する。
 「、」を打つ時に、人はしばしば綴ってきた「人生」を読み直すという行為に至る。本書に出てくる執事は、ダーリントン・ホールが、彼が長年仕えてきたダーリントン卿の手を離れてアメリカ人の富豪の手に渡ってしまうという「、」を迎えた。そこで、執事は「人生」を読み直す。読者も執事と並行して執事の「人生」を読む。

 「人生」は元々人に読ませようという意図は皆無のものである。それをたまたま読んだ時、「人」というものに対していとおしい気持ちでいっぱいになった。だれもが主人公。ある人にとっては常に脇役のあの人も必ず主人公。みんな、みんな。

 本書を読みながら、「退屈や」を連発した私。カズオ・イシグロ氏に申し訳ない。読む姿勢ができていなかったということで勘弁してもらおう。「人生とは退屈なり」である。だから本書が退屈なのは当然のこと。イシグロ氏がこれを小説にしたということが素晴らしい。読者に、他人の「人生」をたまたま読ませられたと感じさせる手法はすごい。

 私の「人生」には、「。」を打つにはしばらく間がありそうである。耳元では常にカリカリと「人生」を綴る音がしている。今は「、」を打って回想する時期でもないようだ。突っ走るよりほかなさそうである。燃料は足りているだろうか? 走れ、読ん太!!

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紙の本

静か

2016/08/19 19:02

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:mugi - この投稿者のレビュー一覧を見る

「執事」のイメージが自分の中に出来上がり、物語が静かに進んで行きました。心の中の微妙な動きと恋愛には不器用な「彼」の姿に「このような世界があったのね」と映画を見ているようでした。

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紙の本

テレビ東京塩田真弓アナのお気に入りの小説

2002/07/26 13:59

3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:白井道也 - この投稿者のレビュー一覧を見る

(中公文庫、表4より)短い旅に出た老執事が、美しい田園風景の道すがら回想する、古き良き時代の英国。長年つかえた先代の主人への敬慕、執事の規範のような亡父、女中頭に寄せた淡い想い、両次大戦間に邸内で催された重要な外交会議の数々——。

というような話が老執事の語りで語られるわけだけど、“旅に出る”ってくだりは何というか物語を進めるための装置で、メインになるのは回想。で、この物語の持つ意味ってのは何なのだろうか。

ひとつ、いやがおうでも目に付くのは、主人公の老執事が「執事の品格とはなにか」ということをしきりに語っているところ。品格はプロ意識というコトバに置き換えても良いかもしれないけど、いずれこの物語は、語り部である老執事が「自分はなんだかんだ言ってもプロなのですよ、いろんな事件があったけど私は仕事をまっとうしましたよ」ということを、ささやかに上品に語っているってことだ。

で、プロの執事たるや、主人の洒落にも洒落で返さねばならぬということで、

 主人が執事に望む任務としても、ジョークは決して不合理なものではないように思えてまいりました。もちろん、私はジョークの技術を開発するために、これまでにも相当な時間を費やしてきておりますが、心のどこかで、もうひとつ熱意が欠けていたのかもしれません。

ってな具合でクソ真面目に洒落の練習もするわけだ。
もうひとつ印象的な場面を抜書きするとですね、

 人生が思いどおりにいかなからと言って、後ろばかり向き、自分を責めてみても、それは詮無いことです。私どものような卑小な人間にとりましても、最終的には運命をご主人様——この世界の中心におられる偉大な紳士淑女の——手に委ねる以外、あまり選択の余地があるとは思われません。それが冷厳なる現実というものではありますまいか。

確かにこの小説は限られた世界のお話なのだけど、これを拡大解釈するならば、その世界がいっけん不合理なりに思われたとしても、その中でベストを尽くすことが幸福なのだよ、ということを謳っているようにも思える。

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紙の本

意識されたこの作品行為は思いのほかしたたかな方法論に支えられていると思われる

2002/06/11 08:09

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:宇羅道彦 - この投稿者のレビュー一覧を見る

下記の言葉は、巨大な不良債権に苦しむ大銀行の、末端に勤務する定年間近か
の誠実な一行員の感慨を思わせる。

「大問題を理解できない私どもが、それでもこの世に自分の足跡を残そう
としたらすればよいか… 自分の領分に属する事柄に全力を集中すること
です。文明の将来をその双肩に担っておられる偉大な紳士淑女に、全力
でご奉仕することこそ、その答えかと存じます。」

カズオ・イシグロの「日の名残り」をこんな風に読むのは皮肉に過ぎるだろう
か。職業が身分を保証する階級社会の残照を巧みに捉えたイシグロの作品はも
ちろん意図してであろうが、極めて辛らつな英国への文明批評とも読める。

身分制度が価値として信じられた時代の不幸と幸せ、そしてそれらへのノスタ
ルジー。充実した断念の人生を書くイシグロの言葉は決して冷たいものではな
い。現代日本の定年間近かの一行員には、おそらく下記のような感慨は到底訪
れることはないだろう。

 「卿の一生とそのお仕事が、今日、壮大な愚考としかみなされなくなった
としても、それを私の落ち度と呼ぶことは誰にもできますまい。」
 「私どものような人間は、なにか価値あるもののために微力を尽くそうと
願い、それを試みるだけで十分であるような気がいたします。そのよう
な試みに人生の多くを犠牲にする覚悟があり、その覚悟を実践したとす
れば、結果はどうあれ、そのこと自体が自らに誇りと満足を覚えてよい
十分な理由となりましょう。」

失われたのは自制と節度をもたらしていた社会の制度である。
制度の崩壊がもたらした自由が、一方では誇りと満足を奪い去ることになる。
自らの卑小さに安住する幸せは、おそらく今日では誰にも許されていない。
むしろそのような幸せを嘲笑することが、気の利いたことであると思われてい
るだろう。

イシグロのこの作品は英国を斬ってみせる返す刀で、現代の先進社会の進歩と
みなされるありようを密かにより鋭く斬っている。執事の人生のという些細な
現実の細部を描いて見せることが、結果的に世界の真実を表現する。
優れた作品の常とはいえ、イシグロの意識されたこの作品行為は思いのほかし
たたかな方法論に支えられていると思われる。

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