2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:親譲りの無鉄砲 - この投稿者のレビュー一覧を見る
子供だった頃読んだ「名作」。少年向けの単行本の体裁だったと思う。
よくいえば頑張り屋、否定的なニュアンスを込めれば依怙地、という主人公・吾一少年の性格は母親譲りだった、という点を初読の時には読み落としていたことを、今回思い知った。しかし、当時もなぜか吾一少年の母おれんさん若かりし頃の「赤い糸」のエピソードがずっと心に引っかかっていた。このもやもやした読後感は、母の性格が子に伝染している事実を、子供だった当時の自分が結像させることができなかったことに起因しているのかもしれない。子供が大人の心情に感情移入できないのはある意味当たり前のことかもしれないが。おれんさんは自分の性格にそっくりな息子の将来に暗い悲観的な見通しをもっていたのだ。子供の読者からすれば、非常につらいシチュエーションである。
「次野先生」の章で完結したと勝手に思い込んでいたが、実は著者がその次の展開で悪戦苦闘していたことを今回新潮文庫版で初めて知るに至った。しかし50年近く後に読み継いでわかったのは、やはり、子供向けの質の高いビルドゥングスロマンとしてのまとまりは、「次野先生」をもって掉尾とするのが良いということだ。世間の冷たい風に当たって苦労が身に染みた吾一少年は、彼のためにと篤志家・稲葉屋の主人から預かった金を私的に流用してしまった恩師・次野を何の屈託もなく許す。その大人の分別を見せた主人公の精神的成長ぶりをひとつの到達点とみることもできるからだ。
一方著者には往時の「個人主義」と「社会主義」の相克という重要なテーマをその後の主人公に背負わせる意図を持っていたことが、今回初めて読んだ「お月さまはなぜ落ちないのか」の章からも窺い知れることは明らかである。それ故に、官憲の検閲が入り著者は断筆を選択せざるを得なくなる。現代に生きる我々にはこの小説への官憲の干渉の理由・根拠を理解するのが少々難しかろう。しかし、一方で戦前回帰的なきな臭さもあたりに漂い始めている昨今である。78年の時を超えてその轍を踏まぬよう警鐘を鳴らしているように評者には感じられるのである。
蛇足だが、子供同士で武勇伝的はったりをかまして引っ込みがつかなくなるシチュエーションから鉄橋ぶら下がり事件が起こるわけだが、この部分ヘッセの「デミアン」からの影響があるように評者には感じられる。また往時の少国民の思想形成という観点からは、吉野源三郎「君たちはどう生きるべきか」を併読し、資質の異なる二人の当時の大人が、子供に何を言いまた問いかけたかを比較してみるのも一興かと思われる。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
子どもの頃に読んだときも、吾一の姿が印象的だったが、当時は単なる少年の立志伝のような感じで読んでいた。
しかし大人になって読み直すと、山本有三がこの小説を書いた時代がどんな時代だったか、山本有三がどのような人物だったかなど、当時は考えてもいなかったバックグラウンドも見え、より深い小説だと思えた。
少年が主人公で児童文庫にもなっているような話だが、大人にも再読をお勧めしたい。
「たったひとりしかない自分を、たった一度しかない一生を、ほんとうに生かさなかったら、人間、生まれてきたかいがないじゃないか」
この言葉を、当時山本有三がどんな思いで、つづったのだろうかと、思いを巡らせている。
昔話として読むのもいいが
2023/11/01 09:43
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
素直に読めば「ひたむきに努力すればいつかは報われる というサクセスストーリー 立志伝として読める。中途パンパな終わり方になってしまっているのは、軍からの圧力とのこと。軍にとって都合悪い話がどこにあるのだろうか?吾一少年がそのまま成人したら出征したのだろうか.などど色々考えさせられる作品である。
投稿元:
レビューを見る
このころの年齢は、自分が周囲とどうやって調和していけばいいのか、、なんてことを一番考えてしまう年齢なのかも。
投稿元:
レビューを見る
祖父に勧められて読んだ本。
小学校、中学校の頃に読んだのであまり覚えていないが、主人公の吾一と言う名前には、「この世に吾一人」という意味が込められている。子供心に、自分という人間はこの世に唯一人であり、アイデンティティーを大事にしていこうと考えさせられた作品。
もう一度読み返したいと思う数少ない作品の内の一つ。
投稿元:
レビューを見る
小説の中身もさることながら、軍国主義の中で、作品自体も、途中からねじ曲げられ未完のまま終わっていたりと、その時代背景すら作品の一部となっている。
プライドとコンプレックス。
才能のある少年吾一は、不条理な時代をどう生き抜くのか?
はたして、路傍の石の運命は?
現代の日本人がなくしてしまった、武士の魂がここにある気がした。
投稿元:
レビューを見る
極貧の家に生れた愛川吾一は、貧しさゆえに幼くして奉公に出される。やがて母親の死を期に、ただ一人上京した彼は、苦労の末、見習いを経て文選工となってゆく。厳しい境遇におかれながらも純真さを失わず、経済的にも精神的にも自立した人間になろうと努力する吾一少年のひたむきな姿
投稿元:
レビューを見る
子供の頃、恐らく読んだことのある名作ですが、
大人になった今、改めて読みました。
一気に読み切りました。
この作品って未完だったのですね。
勉学に励みたくても貧乏のため、奉公にでなくてはならなくてはならなかった主人公の吾一。
彼のひたむきで正直な姿に時代は昔のものですが、作品としては今でも素晴らしいと思いました。
今の時代の子供にも、大人にも読んでもらいたい一冊です。
投稿元:
レビューを見る
戦争の時代に書かれた本です。
治安維持法などの法律により、山本有三は物語の続きを書けませんでした。
政府に対する思想を持っていたためですが、
途中で打ち切りとなってしまったので、続きがとても気になる終わり方になってしまっていました。
主人公が関わる人たちが著者の思いを代弁しており、
その中でもいちばん印象的だったのが学校の先生でした。
学校で教えることは何なのか、
このままでいいのか、など、今でも同じことが言えると
思うようなことがたくさん書かれていました。
日本政府はこのような大事なことを伝えていた作家を邪魔して、
とても大きな失敗をしてしまったと思いました。
投稿元:
レビューを見る
たった一人の自分を
たった一度の人生を
人間、本当に活かさなかったら
生きてる意味なんてないじゃないか。
投稿元:
レビューを見る
明治時代中期を生きた少年の成長記(但し未完)です。
遅刻するから、と待ち合わせに現れない友達を諦め学校へ急ぐ優等生吾一。学校のできた彼であったが貧乏という致命的な重荷を背負っていた。優位逆転に屈辱を味わい親父にも度々足を引っ張られながらも、か細いツテと運をテコに持ち前の闘争心で人生を切り拓いていく。
誰よりも早く始め誰よりも遅くまでやる、辛抱、ド根性の時代。成長してなお多少の嫌味が抜けない主人公の姿にかえって著者の誠意を感じました。美しすぎる人物は信用できない。ただただ彼の生命力が眩しく、皆生きることに逞しい。続きが読みたかったです。切に。
投稿元:
レビューを見る
人間としていかに生きるか、といかにして生きるのか。世界共通の課題であろう。本書は、様々な人間模様が見えて大変面白い。正直にまっすぐ生きることが、果たして良いことなのか。いや、そもそも生きることとは何かを考える良い刺激になった。
投稿元:
レビューを見る
昔、小学校の時分に読んだ覚えがある。呉服屋に奉公に行くこと、鉄橋で度胸試しをすることなど、部分部分覚えている箇所もあったが、今読み返してみると、主人公の苦労は、単なる苦労どころの話ではなく、まさに生きるか死ぬかという崖っぷちの苦労であることに驚いた。こんな過酷な話だったのかと驚いた。
なんとなく、人間は優しいのが当たり前だと思い込んでしまっているようなことがあるかもしれないが、それは違うと教えてくれる。
人が社会で生きることは、生やさしいことではないのだと、教えてくれる良書だ。
投稿元:
レビューを見る
中途半端なところで一時中断、そして再開するも微妙なところで終わっているのが勿体無い。
明治時代に生まれた少年の成長記です。時代的には日露戦争後?父親に振り回され奉公に出され、都会に出て身を立てる家主の娘といい雰囲気になるかな?と思ったらまた父親、またお前か!
困難だらけの人生ですが、それでも上を目指していこうと頑張る吾一を見てると応援したくなります。
そしてあんな父親いたら嫌だ...
投稿元:
レビューを見る
うーん。どうなんでしょう。無知なので途中で終わるって事知らないで読んでしまった。日本版、ビルドゥングロマンス。しかし、作者は結局どっちに転びたかったのだろう。社会主義とか労働者の団結について書かれている部分があるのだけれど、主人公はそれに対して否定的でしかし、これから転向していくようにも読める。しかし、一方で主人公の通う学校の教師は日本の侵略戦争を大いに評価しているし、そのほかの部分でも、全体主義礼賛、日本人はすごいんだ的な部分も見られ、幼い主人公は素直にそれに感心している。中断しているからこそいろいろ考えられて面白いのかもしれない。