貧困の実態がわかる一冊
2017/09/06 03:02
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投稿者:ひー - この投稿者のレビュー一覧を見る
これまで国連を中心とした開発政策、MDGs においてサブサハランアフリカでは、他の地域よりも後れを取っていた。その原因は何か。そして、貧困は人間の経済活動をどのように変えるのかがわかる一冊です。
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投稿者:怪人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2019年、ノーベル経済学賞を受賞した3人のうちの2人の経済学者、開発経済学を専門とする著者達の本である。現場に入って地元目線で調査を行い、RCT等によってできるだけ科学的な検証を行い、行動経済学の知見も駆使しながら、個別具体的に詳細に検討していく。その上で発展途上国の人々が経済的になかなか浮揚していかない原因を探求し、その教訓と解決策を提案している。
欧米諸国、いわゆる先進文明国の人間の目線では容易に理解できない教訓が5つ示されている。その一つとして、政治経済制度の問題があるといい、3つのIが普遍的に支障になっているという。3つとは、無知(ignorance)、イデオロギー(ideology)、惰性(inertia)である。3つの中でもイデオロギーは開発支援や援助に関する左右両翼からの主張であり、見解が大きく異なる。それらを批評するとともに、外部からの支援や援助を行っても功を奏しなかった理由について言及している。途上国の人々が決して何も考えてはいないのではなく、彼らなりの判断と決断で行動しているということである。詳細に分析することによって深い理解が進み、合点がいくことに繋がる。
今日の所得と将来の所得の関係は、多くの人の考え方の基礎となっているような逆L字曲線ではなく、S字曲線で表されるとする。支援や援助が行われれば貧乏な状態から所得が必ずしも一様に上昇していくというわけでもなく、現地の人々を理解していない、不十分な援助や支援活動が却って、現在の所得をさらに減じてしまうことにもなる。この領域のことを貧困の罠ゾーンと定義し、ますます貧乏になってしまうというものだ。現在行われている支援や援助の大半が結果的にうまくいっていないことをよく説明してくれる。
これからの支援方策は難しい課題だが、現地の人に寄り添う努力、様々な発想などが不可欠なのだろう。即効的なものではなく、根気のいる仕事だ。
専門性を抜きに読んでみても面白い
2017/06/06 23:44
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投稿者:サラーさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
開発経済学に属する内容ですが、直感的に読んでも色々と考えさせられる本です。一概に貧しい地域といってもさまざま、発展を後押しするためにはなにが必要か考える内容です。
経済学嫌いの人も
2024/02/24 23:04
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルは挑発的だが(内容と比べると邦題としてこれでいいのかという疑問はある)、経済学の専門的な知識がなくとも読めるきちんとした経済学本である。経済学嫌いの人も読んでみる価値のある視点となっている。
貧乏人の経済学 もういちど貧困問題を根っこから考える
2019/04/14 13:08
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投稿者:lakini - この投稿者のレビュー一覧を見る
なんかやたら有名で人気な本だから。
一度は読んでみるか、と思って読んだ。何もよく知らずに(笑)。
はじめ、イースタリーとサックスの論調を比べる章から始まって、てっきり開発哲学的な話が展開されるのかと思ったら。違った(笑)。
援助懐疑論も、ビッグプッシュ論も、どちらもあり得るのだ、と。また、制度論(民主主義がどう、とか)云々も、大事だけれども、その中でもやっぱりうまくいくこといないことはあって、いい制度・政治の中でもワークしない政策はいくらでもある、と。
だからこそ、何がワークするかを細部まできちんと見つめて、よく検証のうえで、現実的な開発の仕組みを考えることが重要だ、と。
作者たちも、なんだ、この人たちだったか、と、本の途中で知って苦笑したが、そこで、RCTの話が出てくる。
でも、この本のよいところは、そういう実験論たけで終わらないところ。定量的な検証と定性的な検証は両面から攻めることが非常に重要とされるが、それをまさにやりこんで、その両者わ集めたら全体的にどんなことが言えるか?という一つのストーリーを、まさに定量的調査の旗振り役たちがやってのけたところに、意味があると思う。
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投稿者:biee - この投稿者のレビュー一覧を見る
ハッキリ言います。訳がひどいです。
本当に残念です。この本の著者であるお2人は経済学界でも有名な方で、いずれはノーベルと言われていました。実証的な研究で分かりやすいため、だからこそ本として沢山の方に読まれることはとてもいいことだと思います。しかしながら、直訳気味の訳が全てを壊しているように見えました。英語のニュアンスを再現するためにあえて直訳気味で訳したりするのはわかりますが、日本語でもそのニュアンスが出せるものだってあります。それをうまく組み合わせながら訳してほしいです。SがOと比較されました。などという日本語は、SとOを比較した。でも十分意味は通るし、ニュアンスをそこまで気にする必要のない文章だとも思います。まずPoor Economicsは日本語に訳す必要は無かったと思います。なぜ貧乏人と訳したのかも理由を聞きたいです。見出しにも''これらの''などの代名詞が使われていて、日本語ですごく違和感を感じます。
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S字曲線をひとつ。
横軸は今日の所得。縦軸に将来の所得。
「S字曲線と貧困の罠」で、グラフや式は、以上。終了。
経済学出身のひとは経済学してないということになるのでしょうが、
ありがたいです。読んでよかったと思える本だと思う。
そして駒場の佐藤仁(だっけ?)の授業を思い出した。(結局単位とれたんだったかな・・・忘れた。)
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結局そこに貧困の罠はあるのか?そしてあるとすれば(もしくは本当には「罠」でなくても、そう見える原因があるとすれば)、そのボトルネックはなんなのか?について、延々今日わかっている範囲のこと、具体的な事例を検証し紹介していくつくり。
読んでいて、段々陥ってきたのは、貧困ってなんだっけ?と。
いや、うん。
「貧乏人」について書かれているのは確かで、そこからの線引きは、だから単純に所得の、金額という数字で。
いや、「貧乏人」の選択の合理性とか行動の「仕方のなさ」の詳細を見せられると、そう考えてるつもりはなかったのだけど確かに数字での線引き以上の線引きを自分も想定していたのだ、ということが良くわかってくる。
あまりにも「ふつうの」人間行動の積み重ねでしかなくて。
(「無知」なんじゃなくて、ちょっとそこのとこについて情弱で、しかも情弱でも何とかなるようなインフラのある環境にいないってだけじゃん、と。
だって私も水道の消毒の仕方とか、子供に是非受けさせるべき予防接種の種類とか効用とか、区から通知がきたから行かなきゃ、もしくは親が私に受けさせたらしいやつだから、この子にも受けさせなきゃ、ていうだけだもの。)
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訳者あとがきでもとりあげられているけれども、
「貧困は何千年も人類とともにありました。貧困の終りまであと五十年か百年待たねばならないのであれば、それはそれで仕方ないことです。
少なくとも、何か簡単な解決策があるようなふりはやめられますし、世界中の善意の人々・・・とも手を結べるようになります。」てのはかっこいいなぁ。。
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貧乏な人はどうしてみんなタバコを吸うのか?
自分自身の、無知、偏見そして自信過剰を思い知らされた。
汚職と賄賂にまみれた役人たち、べらぼうな金利の金貸し、酒、タバコ、SEXに溺れるだらしない人々。。。
テレビなどからの断片的な情報だけで、貧乏な国の人たちを無意識のうちに見下していたのかもしれない。
でも、貧乏な人たちも僕らと同じように分別も理性も愛情もあるし、僕らと同じように短絡的で目先の利益にとらわれやすい。
僕らと何も変わることのない同じ人間だということだ。
では、なんでこんなにも境遇が違うのか?
あたりまえだけど、そんなことを1つの理論で説明し、一発で解決する方法論なんてない。
経済学というと、どこか紋切型で机上の空論、リーマンショックを引き起こすような邪悪な学問というイメージだけど、この本で出てくる経済学は、個々の問題に対して貧乏な人達がなぜそんな選択をするのかを徹底的に解き明かし、どのように介入すれば効果が得られるのかということを考えて、ひとつひとつ実践していくことだった。
この本を読んで、あらためて経済学というものへの憧れを感じた。
NHKスペジャル「human」でも言っていたように、我々は信頼する力を持つことで人間となり、高度に分業化を進めていくことで今の繁栄を築くことができたそうだ。
貧困から脱出するカギは、どれだけ周りを信用できるようになるか、それによって余計な心配ごとをなくして自分の得意なことに専念できるか、ということなんじゃないだろうか。
それと、少し飛躍しすぎかもしれないけど、会社がどうしてもっと効率的に仕事ができないのか、ということも本質的には同じことなのかもしれない。もっと周りの部門や人達を信用することができたら、もっと効率的に仕事ができるだろうに。
そのときには、相手の悪意や狭量さを責めるのではなく、なぜそんな仕事のやり方をするのか、その意思決定の背景をよく考える必要がありそうだ。
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ファンダメンタルな理論の意見対立から現場の試行錯誤まで幅広く取り上げられて、貧困支援とか開発経済の問題意識を知るにはいい一冊。でもちょっと記述がだらだらしてかったるいかなー。アマルティア・センのほうがまだ読みやすかったか。
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貧乏人も、与えられた環境化で合理的な判断をして生活している。だから援助をする場合には、現場での人々の判断基準や、ささいな障害を正確に捉えることで効果的な援助が期待できる。
また、援助が無い状態では貧困の罠にはまってしまう場合には、最低限の援助を行うことは効果的であり、何も援助せずに住民の自由に任せるだけでは何も生まれないことが想定される。
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貧困にあえぐ人たちが、貧困から抜け出せない理由を分析した本。今日の食料に困るほどの貧困であれば別であるが、一般に稼ぎの一部を翌日に繰り越せれば貧困から脱出できるはず。しかし、実際には一定以上の収入がなければ、貧困のスパイラルから抜け出せないことをデータから示している。なかなか興味深い。
定期的に貯まった貯蓄で投資出来れば段階的にステップアップ出来るはず。しかし、収入の多少にかかわらずテレビのようなものの購入意欲は変わらないので、本来向けられるべきものにお金が使われないことあげられている。
多くのデータを提示して、説得力のある説明である。
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「貧困国の人も、先進国となんら変わらない人間なんだ」と思ったし、今までそういう偏見を持っていたんだなぁと気づいた。そして、富裕国の人はラッキーなだけなんだ、と。
10章は先進国の官僚にも示唆に富むと思う。
また、今までに「傲慢な援助」(W.Easterly)と「世界一大きな問題の解き方」を読んで「自由市場派VSビッグプッシュ派」(や「政府・研究者VS民間」)という二極でしかみれなくなってたということを痛感。
そんなふうに、「考えてみたら当たり前のこと」に色々と気づかせてもらえる本。
人間の心理とか、日本の問題とか、色々なものも見えてくるので、他の分野・問題への示唆にも富んでいると思う。
良書。開発経済学・貧困問題に少しでも興味のある人に是非勧めたい一冊。
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供給ワラーと需要ワラーという視点を比較しながら、マクロな社会調査データと、ミクロな実地調査を組み合わせることで、貧困の真実に迫る貴重な書籍。
私自身、知らず知らずに国連のミレニアム目標を盲目的に信じていたが、先進国の援助モデルは「貧困の罠」と言われる「貧困であるのは、特別な地理的/歴史的条件があるからであり、その罠から抜け出すためのビッグプッシュを行うべき」という(供給サイドの)論理に偏りがちである。
しかし、本書では、貧困であるがゆえに、多少の収入の増加があっても、それを将来の健康、教育などに投資することよりも、嗜好品によった食品、娯楽に投資しがちであることや、QoLを高めるといっても、情報の不足、(なにがQoL向上につながるかの)信念の稀弱さ、問題の先送り(デブスモーカー問題:分かっちゃいるがやめられない)が起きやすいと指摘している。
つまり、貧困の現場の行動原理と、私たちの身近な行動原理は、同じ人間だもん、変わらないよという見え方も生まれてくる。
だからこそ、大事なのはよい行動を「あと押し」するデザインであるという切り口には大変共感した。
本書では、供給/需要いずれかに偏ることなく、供給ワラーのアプローチではそれを受け取る側のマインドセットによってうまく機能しない場合を考慮すべき、需要ワラーのアプローチでは自由意思と市場原理が機能しない要因があることを想定すべき、と両者の弱みをみきわめつつ、強みを組み合わせるアプローチを提唱しているように思う。
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本書は最新の開発経済学の潮流をわかりやすく説明したものである。本書では、近年開発経済学の研究で見られるランダム対照試行の研究結果概要を、従来の開発経済学での議論と比較した上で解説している。結果として、従来の開発経済学での議論に整合的なものもあれば、そうでないものもあり、開発経済学での議論のリアリティを付与しているという意味で意義のある一冊である。もちろん、ランダム対照試行のいう分野が発展的であり、国や人種が違えば異なる結果が出ることだってありうるわけだから、本書で示されてるランダム対照試行の結果やその解説を鵜呑みすることは危険である。
ランダム対照試行は、大雑把に言えば開発経済学に行動経済学の手法を取り込んだものであるが、それのみならず(本書ではあまり解説されていなかったが)ミクロ計量経済学の分野とも非常に密接な関係にある分野なのだろうと感じた。具体的には、ミクロ計量経済学には、例えば教育政策といった政策に対する政策評価分析を行う分野があるが、そこで扱われるサンプルの仮定などは、まさにランダム対照試行におけるサンプルの仮定の議論と同質である。
もちろん、このようなランダム対照試行に対する批判もある。具体的には、その試行によってどこまで説明できるか、といった批判である。この批判は先述したミクロ計量に関わるものでもあり、ミクロ計量や行動経済学の発展にともないこれらの社会科学としての在り方が問われてくるのだと思う。
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貧困の経済学ではない点に注目する。
マクロ経済における「貧困」問題が、個別の事象においてし実態を表していないことについて細かく述べている。合理主義的な個人の経済活動ででゃまく、バイアスや購買心理、保険や貯蓄に対する姿勢について、個別の事象に詳しく、その対比の中で我々の購買活動の心理への洞察が深まる点が面白かった。