紙の本
文句なしの今年ベストワンの海外文学でした
2018/11/18 23:28
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
師弟関係の刑事コンビが香港の街を駆け巡る連作中篇集。
まず、各章で取り扱われる事件・トリック・登場人物がかなり精緻に作り込まれていて、ほとんど長編と言って良いレベル。しっかり味わうためにかなり時間をかけて読まされる。それだけの魅力が十分ある。
次に、章が進行するごとに時代が数年ずつ逆行するプロットが秀逸。読み進めていく内に、登場人物は若くなり、英国の香港警察への影響度が高くなっていくところが良い。自動的に人物史と香港史を懐かしむような不思議な感覚すら覚える。
そして故・天野健太郎さんの中文訳が見事。天野さんと言えば「歩道橋の魔術師」の印象が強くて、知らない世界なのになぜか郷愁と哀愁を思い起こさせる魅力があるんだけど、「13・67」でも事件の合間に見える香港の風俗文化の香りがたまらなく「歩道橋の魔術師」を思い起こさせる。改めて良い訳者さんだったなと思い返す。
紙の本
おすすめのミステリー
2018/05/06 15:56
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:qima - この投稿者のレビュー一覧を見る
香港映画で警察やヤクザものは、かなりハードなのでハードルが高いのですが、これは小説でしかも程よくイギリスっぽい要素がはいっているので、香港の中華的泥臭さが中和されて、いい感じに読めます。
もちろん、最初はいろいろ「詰め込み過ぎ?」と思わないのですが、慣れてくるとそれが気にならなくなります。
このあたりは、作者の力量だけでなく、翻訳の天野さんの力量に依るところも大きいのでは(?)と思ったりしています。
電子書籍
はじめての香港ミステリー
2018/12/24 21:44
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:qima - この投稿者のレビュー一覧を見る
翻訳家の天野さんのファンなので、彼の翻訳した作品ならばと思って手に取りました。そして、納得の読後感。おもしろかった!名探偵クワンと彼をとりまくイギリスの植民地香港、そしてその後中国に変換された後の社会の雰囲気が、時間を遡る形で提示されていくおもしろさ。オススメです。
紙の本
返還後の香港を考える
2019/02/23 08:02
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
2013年から1967年に、順に遡るように、物語が始まる。香港警察の名探偵クワンとローの物語であり、そしてイギリス植民地から中国への返還を経る香港の物語である。香港に住む人々の政治的アイデンティティがどこにあるのか見極めるのが難しいからこそ、犯罪捜査を絡めて時代をさかのぼる意義があるのだろう。香港社会の内実を示す描写の中に、その社会の未来がどうすすむか、予見させるものがある。最初の物語と最後の物語がつながることで、読む者に最後の愉しみをもたらす。
紙の本
カーマ・ポリス
2023/06/27 13:43
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ダタ - この投稿者のレビュー一覧を見る
香港という都市の特殊性と同様に、
香港警察もまた時代により、
市民との関係が様々であることが
各話を通して良く分かります。
続編があるならどんな内容になるのか、
今の香港の状況と登場人物たちのその後を
作者はどう物語るのかとても気になります。
ウォン・カーウェイの映画化は期待大。
無事、完成することを祈るばかり。
傑作の予感しかしない。
投稿元:
レビューを見る
ミステリとしても、香港史の叙述としても面白かったし、これを王家衛が撮るの!?どんな風に!?と読みながらわくわくした。とりあえず、前半三話の關sir役は梁家輝に一票。
投稿元:
レビューを見る
香港社会と香港警察の時代を追いながら、主人公ローとクワンの歩みを綴る社会派ミステリーで連作短編集。
オールタイムベスト級だらけ。横山秀夫+連城三紀彦のよう。完成された警察小説、超絶トリックスターである。
「黒と白のあいだの真実」
あらすじだけでもうワクワクが止まらない。設定を生かしたロジック。どこに向かうか見守っていると…前代未聞の超絶ギミック。「戻り川心中」クラスである。はじめから勿体ぶらず、いきなり感情が揺さぶられる衝撃。放心状態で次の短編へ。
「任侠のジレンマ」
正義感の塊ロー。彼のまっすぐな若い血は、正しい道へ進んでいるのか?悩む彼に告げるクワン。構図の逆転。もはや芸術か。
「クワンのいちばん長い日」
作者の全部収束させたわというドヤ顏がみえる。詰め込みすぎな事件を見事な構成力でまとめあげた。脱帽。行き着く先が全く想像外だった…
「テミスの天秤」
読者が予想するのは、案外簡単なものである。ただ、どこまで先見できるか?全てを知った先には、胸の痛みが収まらない。
「借りた場所に」
短編が進むごとに社会派の一面。特に香港警察の汚職濃度が増していく。誘拐犯対警察。コンゲームものとして、傑作に値する。さらにそれ以外の価値も…
「借りた時間」
冒険ミステリ。ほかの作品とはまた違った感覚で、堪能。こんな作風もできるのかぁと感嘆したのも束の間、ラストにおける破壊力。全体をとおした上での、この終わりに満点以外考えられない。
完成度でいえば古今東西の名作と肩を並べる。今後、語り継がれる海外ミステリ。発売年に読めた事はツイッターに大感謝である。
投稿元:
レビューを見る
イメージしたのは、ジャッキーチェンの「ポリスストーリー」の雰囲気。日本とも根底でつながる刑事ドラマの雰囲気と本格推理小説が合わさったような。急などんでん返しで驚く。最後の章は「そうくるか」と思って読み直した。映画化するよりむしろ、ドラマ化したらおもしろいんじゃないか。
投稿元:
レビューを見る
今年2017年ベストテン確実な1冊。刑事と本格ミステリーの見事な融合。香港歴史を背景にした社会派ドラマでもある。
投稿元:
レビューを見る
警察ミステリの雰囲気をまといながらも、中身は本格ミステリというやや変わり種。このスタイルは作者の試みで、6つの独立した中編の「本格」を描くことでその謎解きを強調し、同時に6つの物語をつなげばそこに完全な社会の縮図が見えてくるというのが狙いらしい。
作中で人間ドラマを描きながらも、後半は論理的な展開になるので、そこが新鮮でもあり違和感でもあり。横山秀夫の作品に近いものがあるが、それよりもっと冗舌な感じ。
本格ミステリの技巧によって明らかにされていくのは、返還の前後において変貌を遂げていく香港の姿そのもの。香港の警察官はどうあるべきかというテーマがドラマの背後に響いており、香港警察の内幕が事件の真相に大きく絡んでくる。これはまさに香港出身の作者でしか書けない話だと思う。
最終話を読み終えた後の余韻はなかなか。年代順に再読したい気分にさせられるところが作者の術中にハマったってことかな。
投稿元:
レビューを見る
書店のPOPに心奪われ購入。
期待に違わぬ面白さだった。
あとがきでも言及されているが、本著は綿密なロジックで構成された推理小説の「本格派」としての一面を持ちながら、およそ半世紀にわたる香港の社会情勢の移り変わりの歴史を描ききった「社会派」としての一面も併せ持つ。
話の本筋ではないが、イギリスと中国という大国の教義に翻弄される香港市民が私は特に印象に残った。
個人的には、著者の最新刊「網内人」もぜひ翻訳してほしい。最後にもし、これから本著を読む人は、あとがきで香港の歴史を予習しておくことをおすすめする。
投稿元:
レビューを見る
返還から20年経ち、中国との今後の関係が気になる香港を舞台に、1967年から2013年を逆に辿りながら、市民の側に寄り添い正義を貫いた刑事クワンの生き様が様々な視点から語られる。悪は許さず、捜査に情熱を傾けるクワンからは、香港市民が頼りにした理想的な香港警察の姿が浮かび上がるが、それと共に街の裏で蠢く黒いものも見え、この街が清濁併せ呑むかのようにして発展していったことに思いが飛ぶ。
香港警察を舞台にした数々の映画を彷彿とさせるような展開も実に良く、天安門事件以前の時代を舞台にした最後の二編も、経験のない時代ではあっても、ムードは感じやすい。そして、最後の一編を読み終えて、再び最初から読みたくなったのは言うまでもない。今年を代表する海外ミステリーとして評価されることは非常に嬉しい。
投稿元:
レビューを見る
読みごたえのある香港警察ミステリ。掌で転がされるどんでん返しの作風はジェフリー・ディーヴァーのリンカーンライムシリーズを思わせる。初読の海外ミステリとしては近年一番の出来。
時折出て来る中国の諺に精神性が感じられて興味深い。8.5
投稿元:
レビューを見る
初華文ミステリ。
いやぁ、読みこなせるかなぁと不安だったけど全く杞憂。
面白かった。充分堪能。1967年からの香港の情勢や地理についてちゃんと知ってたらもっと楽しめたかも。
投稿元:
レビューを見る
これは凄い! 香港の裏社会を描いた社会派ミステリでありながら、緻密な本格ミステリにもなっている。文句なしの傑作!
末期癌で体を動かせないだけでなく声も出せない「名探偵」が第一話から出て来るのに、まず面食らった。そして二話三話と進む毎に時代が遡って行く。最終話まで読んだら再び第一話を読まずにいられなくなった。これはヤラれたな。
謎解きミステリとしても実に良く出来ている。意外性が充分であり、尚且つ納得させられた。こういう読書体験は滅多に出来ない。台湾ミステリ、畏るべし。