オルタナティヴって言葉の意味を考える。
2022/10/07 17:56
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投稿者:L療法 - この投稿者のレビュー一覧を見る
原題は”OTHER MINDS”
そのほかの精神(たち)とか、そのほかの心(たち)と訳される。
この本では、タコと、コウイカとツツイカの「知性」のようなものを考えながら、人類あるいは脊椎動物の精神についても考えていく。
ダイバーでもある作者のエッセイ風の文章から始まるけれど、本書は軽い読み物ではないし、作者の体験が全体から浮き上がるようなこともない、きちんと主要な論点に触れる事柄である。
とにかく面白い。
共通の祖先は遥か昔、おそらく、全く別個に知性を育んできた、頭足類と脊椎動物。
ひとまとめに頭足類としているが、コウイカとタコも、まあまあ昔に分岐しており、見た目以上にかけ離れた存在である。
最も古いオウム貝を別にして、何のために彼らは高度な情報処理能力を蓄えたのか、見た目に反して、機械的なまでに短命な種が多いのはなぜか?
本書は魅力的な謎を繰り出してくる。
魅力的な謎とは、解明されざる謎だ。
注を読んでいくと、現在進行形で研究が進んでいることも伝わってくる。
人の体は、ネットワークの一部だ。
タコもまたそのネットワークに繋がってる。
オルタナティヴって言葉の意味を考える。
文章は平明で鮮やか。
これは未来の古典になるような本だと思う。
もしもタコになれたら
2022/08/31 21:41
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投稿者:モリンガ - この投稿者のレビュー一覧を見る
タコはSFに登場するなど、変わった見かけからか、昔からその存在は注目されてきた。しかし、研究によって明らかにされていくタコの実態は想像を遙かに超える。一本一本の独立した脚、特異な能力、複雑さ、繊細さ…。なんという素晴らしい生き物であろう。
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
哲学が専門、と最初の章で述べる著者は本書を「知性や心の進化」を考察する本だと紹介している。ダイビングが趣味でもある著者は自ら観察したタコの行動を中心に「心とは」を考えていく。タコに名前をつけて観察していく手法は動物行動学を広めたコンラッド・ローレンツやサルの社会学を研究した日本の研究者を思い起こさせる。行動を記録した写真も豊富で楽しめた。
ヒトなどの哺乳類とはかなり異なる機構をもつタコも「心」があるように人間には思える行動を示す。そのような「心」を考察することは「地球外生命」を考えることにも役立つだろう、という著者の言葉はなるほど、と思える。
タコとヒトを比較しての部分が多いが、途中にはかなりコウイカの類の話も入っている。頭足類としては同じ扱いにしても良いのだろうが、それならば「ヒト」と「他の類人猿」も並べて比較した方がよいのでは?などと思ったりもした。そのあたりの「考察種類の選び方」に混乱させられることろがある。
それでも「全く異なる機構の知性」から考えていく面白さはあった。
タコに魅せられて
2020/12/18 08:16
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投稿者:Adele - この投稿者のレビュー一覧を見る
タコは動物として人間とは遠い存在でありながら、大きな脳を発達させ、好奇心を持つなど高い知力をもつ生物だ。
この本を読んだからと言ってスッキリ明瞭な事実が分かるわけではない。タイトルにある「意識の起源」の答えは出ていないし、謎めいたタコの生態の多くは推測に過ぎない。
だからこそ未知の領域に想いを馳せるワクワクがあるし、タコにはヒトを魅了してやまない何かがある気がしてならない。
それはタコとヒトが進化の過程で遠い遠い昔に分岐した「カタワレ」だからかも知れない。パラレルワールドのように、人間としての感覚世界と一方で人間が想像すらできないタコの感覚世界が存在している。
タコを通して進化史と哲学の旅へ。
頭足類と心について
2024/01/15 21:47
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投稿者:DB - この投稿者のレビュー一覧を見る
「タコになったらどんな気分か?」という問いを真剣に考えたことがある人はどれだけいるんだろう。
スーパーでお目にかかる機会は多いが、頭足類は奥深い。
タコをはじめとする頭足類について哲学者が研究し考察した知見をまとめたものが本書です。
以前頭足類の研究をしている博士の著書で、イカは群れを作るがタコは単体行動をするベントスという記述があった。
それだけにタコが集まる「オクトポリス」は興味深いスペースだ。
オーストラリアの東海岸にあるこのオクトポリスでは、タコの巣穴があちこちにあり数十匹ものタコがそれぞれの巣穴から顔をのぞかせている。
そしてタコ同士の間でも交流があるようで、ハイタッチのように触手を合わせることもあれば新参者のタコが追い払われることもあり、独自のルールが存在するようだ。
そんな不思議な空間であるオクトポリスを中心に話は展開します。
頭足類の高い知能の不思議についてまず進化の過程から見ていきます。
三十六億年前に始まったとされる進化の歴史の中から単細胞生物から多細胞生物への発展、目の発生、エディアカラの園とカンブリア爆発について順にみていきます。
頭足類の仲間である軟体動物は身を守るために殻を持ち、それが浮力を得て泳ぐことのできる姿へと進化していった。
浮力をもって高速移動できるようになった頭足類は再び殻を捨てて自由に泳ぐようになり、タコを含む足が八本のグループとイカを含む足が十本のグループになって現在に至る。
タコは約五億のニューロンを持っているが、脳だけでなく八本の足にも多くのニューロンが存在する。
触るだけでその味までも感じ取ることができ、腕だけで思考が完結できると言われれば人間の想像力を超えた世界が海の中に存在していると言うしかない。
真ん中にカラーページがあって、オクトポリスに住むタコの姿やジャイアントカトルフィッシュの体色の変化が載せられていた。
水族館でコウイカが体の模様や色を一瞬で変化させる姿を十分以上眺めていたことがあるのですが、一瞬で身体の濃淡を変化させたり突起を変化させていてとても面白かった。
頭足類の体色変化についても感情とリンクしていて、脳の活動の副産物として表現されているのではないかと考察しています。
寿命が短いにもかかわらず高い知能を持ち記憶を保持することができる頭足類の不思議は、人間の知能と記憶にも通じるものがあるに違いない。
哲学者らしい着眼点のもとに頭足類について書かれた本でした。
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サルに心があるとか、カラスに高度な知能があるとかいう話を聞くと、それなりに感心はするけれど、ものすごく驚くというほどではない。彼らはヒトと近縁で、脳の構造もヒトと似ている。サルに心があるとしたら、おそらく私たちヒトの心と似たようなもので、同じ起源をもっているものだろうと想像できる。
だが、タコに心(らしきもの)があり、ヒトと心を通わせることができるとなると話は別だ。ヒトとタコは進化の歴史上、約6億年前に袂を分かったとされる。その頃の動物はやっと原始的な目を持ち始めたという程度で、単純な体をしており、神経細胞は一応持っていたらしいが脳はなかった。ヒトとタコの共通祖先に心はまだ無かったのだ。だから、タコに心があるとすれば、それはヒトの心とは異なる起源を持ち、別個に生じたということになる。「進化はまったく違う経路で心を少なくとも二度、つくった」のだ。
ヒトの心は進化の副産物に過ぎないという考え方があるという。大きな脳と複雑な神経系、それによって可能となる洗練された行動や高度な知能こそが主産物であって、心はそれに付随して生じた偶然の産物だというのだ。
だが、もしタコに心があるならどうだろう?歴史も環境も身体の構造も共有していない2つの生き物が、心と呼ぶべき類似した精神活動を共におこなっているとしたら?それは、心というものが偶然の産物などではなく、進化の歴史の中で必然的に生まれたものだということの傍証になるのではないか。そんな想像を掻き立てられる。
本書ではまず、タコが心を持っていると思わせるような行動をとることが紹介される。また、ヒトとタコが進化上かけ離れた存在であることを示し、全く異なる生き物である両者が「心を通わせる」ことができる不思議さについて触れている。そして、その後の数章では、生物の進化の歴史を数億年の単位で遡り、心の起源について探っていく。
ヒトとタコは何もかも違うと言って良いほど違っている。たとえばタコは原口動物で、ヒトは新口動物だ、というレベルで違う。神経系について言えば、タコにも脳と呼べる構造はあるが、脳とそれ以外の神経系にヒトほど明確な境界線はない。また、驚くべきことに、消化管が脳の中を突き抜けるような体の構造をしているという。しかも、「中央集権的」なヒトの脳と異なり、タコは脳よりもむしろ8本の腕に神経が多く分布しているらしい。
進化について述べられている章では、この分野における著者の造詣の深さに驚嘆させられる。著者の専門は哲学というからびっくりだ。進化生物学者だと言われても違和感がない。最近の論文も引用されており、その分野が現在進行形で研究されていることが良く分かる。ただ、この進化に関する数章は、ヒトとタコの心の違いを考えるという本書の主題からはやや脱線する部分もある。もし退屈に感じたら、最後の2章を先に読んでもいいかもしれない。この2章に、タコの持つ心の不思議さが凝縮されていると思うからだ。
第7章「圧縮された経験」では、なんとタコの寿命がわずか2年ほどだということが説明される。それだけの期間で心を発達させることができるのも興味深いが、それ以前の問題として、そもそもそのような短い寿命の生物で心や知能が進化しうるのか、という問題がある。複雑な神経系は、経験や学習を蓄積させるほど能力を発揮できるので、基本的に寿命が長いほど価値を持つ。一方で、脳が大食いの器官と評されるように、神経は「維持費」が多くかかる。2年という短い期間では、複雑な神経系は、メリットよりもコストの方が大きくなってしまうように思われる。それにもかかわらず、なぜこれほどの高度な神経が進化したのか。
最後の章「オクトポリス」では、頭足類の心について、より詳細に触れられている。タコとイカは頭足類に分類される近縁の動物だが、それぞれの高い知能が独立に進化した可能性があるという。また、頭足類にもエピソード様記憶という、ヒトと同様の記憶の能力があるという。心は、進化の歴史の中で、二度どころかもっと多くの回数生まれた可能性があるのだ。全く異なる起源をもち、異なる構造をしているにも関わらず、似た心や知能を持つに至ったのであれば、それは心にも収斂進化が起こっていると言ってもよいのではないか。
最後の訳者あとがきも素晴らしい。本書の原題はOther Mindsだが、これがMind"s"と複数形になっていることの意味について書かれている。
タコという不思議な動物についてよく知ることができるだけでなく、タコを通して私たちヒトの心について考えることができる本。面白かった。進化や、私たちの心がどこから来るのか、ということについて興味のある人は楽しめるのではないかなと思います。
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現時点における進化の最終形態は人間だと思いますか?
立派な神経系をもっているのは人間だけだと思っていますか?
いえいえ、人間でなく哺乳類でもなく、脊椎動物でもない、頭足類「タコ」の神経系のなんと密なこと!
タコが好奇心旺盛であること。いたずら好きで好き嫌いもあって、自分を研究する気に入らない研究者には容赦なく水をぶっかけたりすること。闖入者である自分の手を引いて海底散歩をしたことなど。
微笑ましいエピソードと進化ツリーの話が交互に語られています。
タコとの触れ合いに関してはとても興味深くて、カンブリア紀以前からすでに進化を着々と進めていたことなど、「へーーーー!」とワクワクしながら読みました。
まー、半分くらいは退屈なところがあったのですが、タコやらイカやらの話が面白くて読み切りました!
生物として驕っていたなと反省、考えを修正しました。
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タコは動物の中でも高い知能を持つにもかかわらず、長くて3年程度の寿命である。高い知能を持つのは長生きするためでは?と思ってしまうが実は種として長生きするために短命にし、一度の交尾で大量に卵を産むという戦略という、一見逆説的な考えが面白かった。
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イカも結構出てきます。
タコもイカも好奇心旺盛で意外に友好的、そして賢い!
自然界の動物って、食糧確保に殆どの時間を費やしていると思っていたけど、食べられないと分かったモノでもオモチャにして遊ぶタコ…見てみたい。
気になるのが神経系の在り方で、脳に集約されず全身(吸盤とかにも!)分散されていると。ココから「身体化された認知」理論に繋がりそうなのに、タコの非形状性(グニャグニャ)が障壁となるらしい。何じゃそりゃ。著者は「形状はないがトポロジーだけはある」で済ませてますが。
短い寿命に不相応な知性を持つ生物の存在理由を思う時、進化の摩訶不思議さと自然の奥深さに感動しちゃうんだな、これが。
「主観的経験」と「意識」を別物とする著者のスタンスが語られる「4.ホワイトノイズから意識へ」は一見タコとは無縁な話のようだが、その主張に至るまでの著者の洞察過程にちゃんと関わってる。
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タイトルと表紙は秀逸だが、原題はother mindsであり、訳者というか、日本側の仕掛けである。タコの生活を見たときにそこに心を感じるというエッセイが結構長く続くが心身問題が中心に書かれているということはない。つまらなくはないけどね。
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生物哲学・科学哲学界の雄にしてインテリジェント・デザイン批判の急先鋒の手による、タコを題材とした「意識の起源」論。意外にも著者の邦訳は本書が初と見える。著者はダーウィン的進化の過程そのものが複数の経路の競争により選別されたものであること、即ちダーウィン的な自然淘汰の産物であることを示す「ダーウィン的空間」の提唱で知られる。本書も直線的でなく複線的に、単発的でなく多発的に進化を捉えるアプローチのもと考察が進められる。曰く「進化が心を二度作った」と。
ダイビングを趣味とする著者はタコを観察するうち、彼らに「心がある」との抜き難い印象を抱く。そしてその「心」を「主観的経験(自分の存在を自分で感じること)」と一旦定義した上で、いかにそれが生じたかを生物史学的な観点から考察して行く。
この「主観的経験」の本書での語用は、通常「意識」という言葉でカバーされるよりはやや広義の概念を指しているようだ。高度な記憶機構をもつ人間のような高等生物が現れる前から動物に備わっており、「意識」では捕捉されない無意識の領域も含む、ある種の「気分」のようなものと説明されている。この「主観的経験」は、エディアカラ・カンブリア紀の生物群の相互影響に関する考察から、身体外部に起因するなんらかの変調(e.g. 痛み、快楽)に対する反応の結果生じたものと著者はみる。だとすればその経路を単路に限定する必然性は見出し難く、少なくとも脊椎、節足そして軟体動物それぞれに一度以上ずつ生じたのが現在の生物界の姿であるはず、と主張するのだ。
この「主観的経験」の発生メカニズムを考察する第6章が面白い。カンブリア紀以降、自分の内部における情報コミュニケーションと、自分と外部とのそれを区別する必要が生じた。そこで「自分用のメモ」として機能する「遠心性コピー(意図した行動を脳内に保持しておき実際の行動と照合する)」が用意され、これを利用することで自分の知覚と行動を媒介する受容と生成のフィードバックシステム「再求心性ループ」が形成される。これが無数に集まって複雑な意識の主体が形成されているというのが著者の主張だ。この点、タコは大規模な神経系や複雑な身体構造を持っており、豊かな主観的経験を蓄積する主体としての資格を十分有する、ということなのだろう。
本題と関連性の薄いエセー的な記述も多く、必ずしも意識論にのみフォーカスした本とは言い難いかもしれないが、逆に例えばタコの死を描写する箇所など、時折顔を出す叙情的な記述が良いアクセントとなっていると思う。また巻末の訳者あとがきも一読を。「タコ様生物」と「通常単数で用いられる単語の複数形」から、H.G.ウェルズの「宇宙戦争」を連想する訳者の発想力に驚かされる。
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ヒトとは違う道筋で進化し、高度な神経系を保有するタコ(頭足類)から学ぶ意識・知性の発達論・進化論。ヒトとは全く異なるメカニズムの神経系ですが、タコは人間の顔を見分ける・道具を使うことができるのだそうです。進化の初期で分化した頭足類がヒトと異なる高度な神経系を持てたのであれば、同じ理屈で地球の生物とは違う道筋で進化した知的な宇宙人が存在するのかもしれません。
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宇宙人のモデルとして、悪魔の使いとして、愛らしいキャラクターとして、様々な方面で活躍するタコ。人間からだいぶ遠い進化の系譜にある事が、人間にとって神秘的な感情を抱かせるのか。
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タコ(頭足類)と人類がどれだけ遠い存在なのか、逆にどれだけ近い存在なのかがわかる。これまでタコについて知性があるとか、心があるかとか、考えたことも無かったので、知識を広げるという意味で非常に興味深い本だった。
特に興味深かったのは以下の記述。
・タコのニューロン数は犬に近い。無脊椎動物の中でも頭足類の神経系の規模は大きい
・タコのニューロンは脳に集まっているわけではなく、腕に集まっている
・タコは人を識別出来る
・頭足類のほとんどは色の識別ができない。皮膚で光を感じ取っている可能性がある
・タコと人間は同じような能力が、まったく別のところで無関係に生まれて進化した
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動物のなかで「知性」が発達しているのは、人間を含む哺乳類、鳥類などいわゆる脊椎動物だと思っていたら、軟体動物のタコやイカが実はかなり高い「知性」をもっているらしいという本。
たとえば、タコを研究で飼育していると、人間の個別の違いを区分しているみたいで、「嫌い」な研究者には、水槽から水をかけたりするらしい。あと「好奇心」があるみたいで、直接、食べたり、生存にはかかわらないことでも、なにか新しいものがあると、それがなんなのか知りたくなっちゃうらしい。
なぜ、そんなことになっているのだろうか、進化論とか、観察と実験、他の動物との比較などを通じて、探求していく。
ちなみに著者は科学者ではなくて、哲学者。
人間とは全く異なる「心」が存在することをしることで、人間の心をより理解しようというところにゴールはある。
といっても、そんなに哲学的にはならなくて、基本、一般むけの科学書として書かれていて、読みやすい。