紙の本
ノモンハン事件の背景を分かりやすくまとめた1冊
2020/11/04 18:27
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
太平洋戦争開戦の直前、満州とソ連との国境で発生したのがノモンハン事件です。”事件”という名称になっていますが、わずか4か月で日本側約2万人、ソ連側約2万5千人の戦死者を出すほどの”戦争”だったのです。
太平洋戦争では日本軍が情報軽視、補給軽視、精神主義などの悪弊によって特攻や玉砕などの悲惨な戦いを繰り広げましたが、ノモンハン事件にもそのすべての要素がすでに見受けられています。
ソ連軍の物量に関する情報を軽視して安易に攻勢に出ようとする関東軍、それを明確に止めようとしなかった参謀本部、兵力の逐次投入(兵力を小出しに投入すること)などの行動原理で大きな被害を被る結果となりました。さらにこの”戦闘”を主導した軍幹部は軽い処罰で再び軍の要職に復帰しているにもかかわらず、現場指揮官の多くにその責任が転嫁去れると言う歪んだ人事も横行していました。
しかもノモンハン事件終息後の軍内部の研究会では、兵力の近代化の遅れや情報軽視などの要因を指摘する幹部が存在したにも関わらず、必勝を期する信念の不足が敗因であると結論付けられました。もしもこの時にきちんとした敗因分析が行われていれば、太平洋戦争の展開も違ったものになっていたかもしれません。
本書はノモンハン事件をテーマにしたNHKスペシャルの取材班が番組取材の過程についてまとめたものです。上述したようなノモンハン事件に関する詳細なデータや、関係者へのインタビューなどを交えて非常に読みやすく、昭和の転機となった歴史上の出来事について押さえるべき点を理解することができます。
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投稿者:6EQUJ5 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2018年に放送されたNHKスペシャルをベースとした本。日本とソ連の実質的な戦争でありながら不自然に隠匿されたノモンハン事件について分かりやすくまとめた一冊です。貴重な当事者の肉声も集めており、優れた資料と思いました。日本が戦後うやむやの内に書類を一気に処分したのに対し、ソ連の記録はあのスターリンが鉛筆でチェックした跡まで見て取れるというのが生々しくて凄い。
電子書籍
トップが責任をとらず現場に重責を荷わせる日本社会
2020/03/30 10:31
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投稿者:y0a - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者はNHKディレクターで、NHKスペシャルを何本か担当している人。今回、新たな取材で資料を発掘し、さらにこれまでインタビューの機会を持ちにくかった関係者からも話を聞き、本書を編んでいる。
ノモンハン事件はいろんな意味で太平洋戦争の「ひな型」になっている、という意味が、読んでいくと良~く分かってくる。ざっと挙げると、情報の軽視、兵力の逐次投入(“お家芸”の歩兵による突撃)、軍中央と現地部隊の方針のずれ、兵站の無視などなど…。
トップが責任をとらず現場に重責を荷わせる日本社会。最近、森友問題で書類改ざんを命ぜられ自殺した財務局職員の件が話題になっているが、根本的に何も変わっていないと、暗澹たる気持ちになる。けれども、直視しなければならない歴史であり、また、日本の現実でもある。
紙の本
旧日本軍隊の無責任さを象徴
2019/12/18 09:57
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投稿者:たあまる - この投稿者のレビュー一覧を見る
ノモンハン事件。
だいたい、これを「事件」と呼んで、
「戦争」と言わないところからして、
まやかしであり、歴史の改ざんである。
この本では「ノモンハン事件」とは言わない。
歴史はより良い未来を創るための教訓を得るためにあるのに、
何も教訓を得られない。
辻、服部といった、旧日本軍隊の無責任さを象徴する人物を、
できるだけ冷静に描いているようだ。
このふたりだけのせいにすることも、また、ほんとうの責任を隠すことになる。
ノモンハンで犠牲になった人たちの詳細を読むと、まことに腹立たしくなる。
そして、辻が戦後に選挙で当選したり、
いまなお辻の著作を出版して利益を得ようとする会社があるのを見ると、
その腹立たしさは増幅される。
「日本をどうこうしよう」とか「この国の未来は」とか言いたい人は
すべからくこの本を読むべし。
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序章 陸の孤島
第1章 関東軍VS.スターリン
第2章 参謀・辻政信
第3章 悲劇の戦場
第4章 責任なき戦い
第5章 失敗の本質
第6章 遺された者たち
著者:田中雄一(1979-、大阪府、テレビディレクター)
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NHKスペシャルで放映したチームの一人田中さんによる新書化である。ノモンハンについてはある程度知っているつもりだったが、この番組ではロシアへ行き、一時資料を発掘しながら真相に迫っている。本書を読むと日本はロシアの動きをちゃんとつかんでいなかったことがわかる。あるいは、ロシア大使館から情報がきていたのにそれを軽視した。また、日本の参謀本部ともちゃんと連携がとれず、こんなことでいちいち日本に許可を得ていては戦争などできないという思い上がった気持ちが,多くの将兵を殺すことになった。しかも、捕虜になった将兵のうち隊長級の人々には自決を命じ、この戦争を指揮した服部卓四郎、辻政信らは左遷されただけだった。その後の日本の責任なき戦いを象徴する戦争であった。また、その反省も一応はなされたが、それがきちんと上の共通の認識にならなかった。この番組では辻の家族にも取材していて、家族思いの姿、責任感のある辻の姿が紹介されているが、田中さんはそれでも、辻の責任をなかったことにはできないという。ぼくもそう思う。
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丁寧な取材に基づいた内容と思う。現場に丸投げし、現場も暴走したのがノモンハン事件。何故当時の軍人は極端に視野が狭いのか。戦術レベルの思考しか出来ず、戦略レベル、政略レベルでものを考えられないのは教育や社会レベルに起因するのか。現代でもそれは当てはまるように感じる。
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「数千の英霊を犠牲にした場所を放棄することはできない」
本来、これまでの犠牲と今後の作戦とは関係無い話である。にも関わらず、撤退とはつまりこれまでの犠牲を無駄にするということか、とまるで「撤退=犠牲は無駄」と言わんばかりに否定し得ないものと関連付けさせて訴える。これに類することは現代でもみられる習性と感じる。
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ノモンハン事件というものをきちんと調べたことがなかったので勉強になった。日本が第二次世界大戦に至るまでの過ちの根源あるいはきっかけがここにあったのではと司馬遼太郎が書こうとして書くのをやめた事件。
自決を強いられた井置隊長の話とか組織として考えられない。そして昭和天皇の命と思って兵たちは戦い死んでいったのに、実は一参謀の功名のためだったのではって柳楽さんの疑義もよく伝わってくる。そしてそれは陸軍だけではなかったのかもなとも思うし、もしかしたら今も?とも思う。それは日本型の巨大組織の病理なのか、それとも人間のつくる巨大組織には一般に当てはまるものなのだろうか。
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太平洋戦争開戦の直前、満州とソ連との国境で発生したのがノモンハン事件です。”事件”という名称になっていますが、わずか4か月で日本側約2万人、ソ連側約2万5千人の戦死者を出すほどの”戦争”だったのです。
太平洋戦争では日本軍が情報軽視、補給軽視、精神主義などの悪弊によって特攻や玉砕などの悲惨な戦いを繰り広げましたが、ノモンハン事件にもそのすべての要素がすでに見受けられています。
ソ連軍の物量に関する情報を軽視して安易に攻勢に出ようとする関東軍、それを明確に止めようとしなかった参謀本部、兵力の逐次投入(兵力を小出しに投入すること)などの行動原理で大きな被害を被る結果となりました。さらにこの”戦闘”を主導した軍幹部は軽い処罰で再び軍の要職に復帰しているにもかかわらず、現場指揮官の多くにその責任が転嫁去れると言う歪んだ人事も横行していました。
しかもノモンハン事件終息後の軍内部の研究会では、兵力の近代化の遅れや情報軽視などの要因を指摘する幹部が存在したにも関わらず、必勝を期する信念の不足が敗因であると結論付けられました。もしもこの時にきちんとした敗因分析が行われていれば、太平洋戦争の展開も違ったものになっていたかもしれません。
本書はノモンハン事件をテーマにしたNHKスペシャルの取材班が番組取材の過程についてまとめたものです。上述したようなノモンハン事件に関する詳細なデータや、関係者へのインタビューなどを交えて非常に読みやすく、昭和の転機となった歴史上の出来事について押さえるべき点を理解することができます。
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父はノモンハンの生き残りだった。一気に読んだ。特に始めの現地取材やロシアのアーカイブの部分は興味深く読んだ。未だに言い訳がましい主張や本が出る。父も含め兵士は一銭五厘で集められた。替えはいくらでもいると頻繁に鉄拳制裁を受けるなど酷い軍隊生活を語っていた。辻政信など家族に取材したのはいいが、敗戦後逃げまわり、国会議員にまでなったのはどうにも納得できない。
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読み進めていくと、呆れちゃうし絶望的な気持ちしか起こらない。誰も責任を取ろうとせず、必死に戦った現場の人間だけが詰め腹を切らされていく。上は我関せずだし、逃げ出す人間までいる。これが巨大組織ってものなんだろうか。現在の政治状況もまるで同じだ。教育改革の頓挫も「誰のせいでもない」ときたもんだ。
軍事的には、近代戦というものが理解できていなかったわけで、これは第一次大戦に参加しなかったのが原因なんだろうね。近代戦は装備の質と物量がモノを言う。信念では大砲は防げないんだ。
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ノモンハン事件の実相をえぐる、とまでは行かないが、日本軍の様々なレベルの人がどう関与して紛争がどう推移していったのかが分かる。元々がNHKの番組のための取材ということで、当事者の音声記録に重きを置いているところが目新しい。こうしてみると、軍幹部には太平洋戦争で戦死することなく戦後も結構生きた人が多いなと思う。
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ノモンハン関連の本は結構読んでるつもりなので、内容はほぼ理解していたが、テレビの力かNHKの力か、新たな一次証言を拾えているのは素晴らしい。
辻正信の言動やまわりの証言を読んでいるといつも思うのは、頭の良いこと・自分を律する力があること・滅私奉公の精神が横溢していること、イコール、リーダーの資質とは全く違う、ということ。人間性は素晴らしい方だったのかもしれないが、絶対にリーダーにすべき人物ではない。
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ノモンハン事件という、まるで1日2日に起きたことのような響きに惑わされていたけれども、これはそんな軽い物じゃない。
司馬遼太郎が坂の上の雲で描いた戦争が、ほとんどそのまま展開されている。日露戦争から30年以上が過ぎているというのに、圧倒的に足りない火力で、昼は塹壕にこもり、日が暮れてから白兵で夜襲をかけるという戦法も、日露戦争そのものである。この戦争のことを調べていたから、あのような描き方になったんだろうか。
辻政信という人物を、どう評価したものか、この一冊では判断がつかない。