連合赤軍事件とは何だったのか
2022/07/08 16:09
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
「総括」と称する凄惨なリンチで、12人の仲間をリンチでなぶり殺しにした連合赤軍事件。それから半世紀。これまでほとんど光が当たらなかった(興味本位でしか語られなかった)「女性兵士」と呼ばれた人たちに迫った本作を、あらためて文庫版で読んだ。
あくまでフィクションで、主人公の元「女性兵士」西田啓子は架空の人物だが、題材の連合赤軍事件の流れや、永田洋子ら事件に関する人物は、実在の通りだ。
リンチ殺人の山岳ベースから脱走し、逮捕され、服役した西田啓子は、事件後、家族ともほぼ絶縁状態になり、ひっそりと一人で暮らしている。
そんな静かな日常が、永田洋子の死や東日本大震災で、少しずつ揺らいでいく…
革命の名の下に、世の中を良くしようとしたはずの女たち。何がどうなって、リンチ殺人に至ったのか。どんな力や意思が働いたのか。一審の判決文で「女性特有の執拗さ、底意地の悪さ」と書かれたリンチ事件を、社会はちゃんと総括(検証)したのか。
桐野夏生さんが圧巻の筆で、陽の当たらない(無視されてきた)女性たちの真実に迫り、核心をあぶり出していく。
あまりの凄惨さに、自分とはまったく関係ない過激な人たちの話だと線引きをしてタブーにしたり蓋をしたりしてしまいがちな事件を、ぐっと現代の読者のそばに引き寄せるのはフィクションならではの力だろう。世間の興味本位や、社会のジェンダー観によって、不可視化されたものは何か。関係者の沈黙の背後に何があるのか。考えさせられた。
さらに、桐野夏生作品の素晴らしさは、それがエンタメ作品として昇華されているところ。
主人公とジャーナリストが対峙する最終場面の展開には震えた。一回目よりも二回目読んだときの方が、予備知識も多いせいか、感動した。
小説とはこんなにすごいものなのか
2023/02/08 15:53
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
東日本大震災が起こった2011年、
その大きな災害のおよそ一か月前の2月5日に、
ひとりの女性が獄中で亡くなった。
彼女の名は永田洋子(ひろこ)。
連合赤軍のリーダーの一人で、1971年から72年にわたっての仲間へのリンチ殺人の罪で
死刑判決が出ていたが、刑の執行ではなく、病気で亡くなっている。
65歳だった。
それから、3年後の2014年11月から2016年3月まで、
雑誌「文藝春秋」に連載されたのが、
桐野夏生の『夜の谷を行く』だった。
この長編小説の主人公は
永田たちが引き起こしたリンチ殺人の現場から逃げ出した
元活動家の女性西田啓子。
当時警察に逮捕され、彼女は5年間の服役を終え、
その後は人目を避けるように暮らしている。
そんな彼女が永田の死のニュースから
まるで暗い裂け目をのぞくように当時のことと向き合うことになる。
服役後、唯一交流していた妹とその娘だが、
啓子の過去の事件を知ることで激しくののしられる。
それは、そのあとに起こった東日本大震災の大きな揺れと
まるで共鳴するかのように
彼女の平凡だった暮らしを揺さぶっていく。
永田やリンチ殺人で亡くなった女性たちの実名が書かれているが
これはあくまでも小説である。
おそらく桐野の綿密な取材もあるだろうが、
むしろ2011年に起こった永田の死や東日本大震災が
創作の発露となったように感じる。
そして、何よりもこの長編小説の最後の瞬間に
まるで一閃の衝撃をうけるはずだ。
小説のすごさを体感できる問題作だ。
一種の叙述トリック
2022/11/14 12:46
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投稿者:いほ - この投稿者のレビュー一覧を見る
三人称の語りなんですが、主人公(視点人物)にほぼ固定された、擬似一人称の語りになっています。この計算された語り口のなかで、三回、他の人から決定的な過去の挿話が、主人公に向けて語りかけられます。そして、主人公は「思い出す」。「忘れているはずはないこと」を「思い出す」。この構造が「思いだしたくない過去」の「語り直し/生き直し」に繋がっていくかのようです。それを思わせるラストは余韻を残し、大変感動的です。
文庫版解説は「事実は小説より云々」というか「事実と小説の平仄があっている」的な挿話が紹介されていて、貴重です。
TVドラマか映画にならないかな?向いてると思うんだけど、この語り口。
若い時の罪は一生ものなのか
2020/04/26 11:56
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投稿者:のりちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
若い時の罪を一生背負って行かなくてはならない主人公の人生に驚愕をせざるを得ない。そしてどうして非人間的な過激派リンチ殺人へと発展していったのか。この辺の動きは人間心理の連鎖反応と生存本能が真実を叫ばせなかったということか。
ヒロインの孤独感と今に至る家族との齟齬に慄然とした作品。
「夜の谷を行く」を読んで
2023/04/29 21:31
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投稿者:kenken - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み始めてからは、ほぼ三日で読み終わった。連合赤軍事件の関与者の物語。桐野夏生氏の小説。親戚縁者とも縁を切り、一人で四十年間生きてきた老境に入った西田啓子が主人公。目立たなく生きていこうと決心してきたものの、他人を批判するのが習い性となって唯一の家族の妹、姪とも批判の応酬の末絶縁することになる。永田洋子の死と東日本大震災をきっかけに過去の仲間との繋がりが復活していく。それを取り持ってくれたのが、熊谷千代治と赤軍事件を追っているというジャーナリストの古市であった。古市のナビゲーションで二三人の元仲間と逢い当時の話をしていく中で自分たちの幼さを自覚していく。また、他人を批判していた自分を嘗ての仲間も批判的に見ていたことを知らされる。
後半、永田洋子の遠大な夢を描く。それは、なぜ妊娠した女性を多く同士として受け入れてきたかという疑問につながる。永田は子どもをたくさん産ませて子供に赤軍兵士としての教育訓練をすることを計画していたという。そこには、映画や巷間言われる女性に対する嫉妬と執拗な嫌がらせをする永田とは違う母性を思わせる永田がいた。どちらが本当の永田かは分からない。フィクションとしての仮定かもしれない。だが、女性の視点から事件を考えるとまた違った面が顕れてくるのかもしれない。
山岳ベースやリンチに立ち会った啓子は被指導者という立場で比較的監視の目の緩い立場で雪の中を逃亡して逮捕された。そして五年の服役の後、社会復帰し、小学生の学習塾を開いて生活し、今はリタイアして年金と貯蓄で暮らしている。古市と山岳ベース跡を見に行った時、古市に告白された。「自分はあなたの産んだ子供だ」と。その経緯は詳しくは述べられていないが、啓子はずっと嘘を言い続け妊娠していたが掻把したと言ってきた。だが古市は獄中で出産したのはあなただけだ、と言う。そして産んでくれて感謝している、と言う。糞尿にまみれて寒さのなか凍えて死んでいった同志とは異なり、永田に対して立てつかずうまく生きのびて逃げ出した。そして無事出産した啓子に古市は感謝を述べたのだ。そこで、初めて啓子の心に温かいものが溢れてくる。
因みに題名の「夜の谷を行く」は、山岳ベースで死んだ同志を埋めるために男たちが夜に谷を渡って行ったことから来る。この小説の下地になっているエピソードは事実であろうが、彼らのイデオロギーに触れないのは物足りないが、作者はそれを蘇らせたくないと考えていたのかもしれない。
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投稿者:ねむこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
過去と言うには、まだそれほどの時間は経っていないのに、既に映画や本でしか知らない時代。
当事者やその家族にとっては、とても過去の話とは言い切れない思いを背負っている・・のかな。
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【「連合赤軍」の女たちが夢見た「革命」とは】連合赤軍の「あさま山荘」事件から四十年余。仲間内でのリンチ殺人から脱走し、人目を忍んで暮らす啓子に突然、過去が立ちはだかる。
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何かしらの小説を読みたいなあと思い、連合赤軍というテーマに惹かれて購入した。事件当時、というよりは、その後の当事者や家族などにスポットが当てられている。主人公の心理描写にとてもリアリティがあり面白くて、スイスイ読み進めることができた。
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81年生まれの私はこの事件を当然リアルタイムでは知らないし、付け焼き刃の知識で本書の持つ重みを体感出来たとは到底思わない。しかしながら、今作に登場する連合赤軍側の主要人物たちの罪の意識がやたらと希薄に映ってしまうのは、彼らにとってあの動乱はいくら時が経とうと【犯罪】ではなく【聖戦】のままだからなのだろうか。熱病の様な狂乱の渦中、起きてしまった出来事に誰もが納得する答えなど存在しない様に、私たちは他者の心の奥底を知り得る術を持ち合わせてはいない。作中の東日本震災はあくまで味付け程度の扱いで少しモヤモヤする。
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前々から興味のあった連合赤軍を桐野夏生さんが題材にしていると聞いて、これは読まない選択肢はない!と本屋で目にしてすぐに購入。
西田啓子という架空の人物を主人公に据えて流れる物語。
彼女の生き方と同様、途中あまりに暗く希望が持てず、総括の悲しい実態もあいまってなんとなく読み進めるのが辛かった。
けれどもそこは桐野さんのさすがの筆致で、人間のいやらしさや醜さ、保身、悪意などを上手に描かれるので最後まで読めました。
連合赤軍のノンフィクションをまた読みたくなりました。
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それほど分厚くもない上に桐野夏生作品の中でも読みやすく、何の感慨もなく読んでいましたがラスト二ページで掴まれました。
それまで主人公の西田啓子という女は、どこか一貫性のない自分勝手な女だと思ってました。自分が正しいと思っているような、偏見かもしれませんが正に教師という職業にふさわしい主人公。人間としては大したことない女です。それなのに他の登場人物は啓子を下から見上げているように見えました。誰も啓子を見下してない、それどころか妬んですらいる。
啓子は“持ってる”人間だったんですね。きっと他の登場人物たちはそれを無意識のうちに感じていたのかもしれません。最後になってようやく彼女の一貫性のなさに納得しました。
ラスト二ページ、モノクロに見えていた西田啓子に色がついて見えました。そしてラスト二行で、啓子自身も自分がリスタートをきれたことを感じたんじゃないかなと思います。刑期を終えて尚、ひとりきりで罪を抱えて己を戒めていた啓子のこれからにエールを送りたい気持ちになりました。
なので最初は★3つのつもりだったけどひとつプラスしてみました。
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過去、連合赤軍の一員だった女性兵士の話。
事件をよく知らなかったので、ネットで情報を仕入れてから読み始めました。
主要メンバーは実名で書かれています。主人公の西田啓子は架空の人物ですが、ノンフィクションを読んでいるような感覚になりました。
西田啓子はリンチ殺人の舞台となった山岳ベースから脱走し、5年余の服役を経て、今は還暦も過ぎ、一人で目立たぬように暮らしていました。
そこへ、昔の仲間からの連絡がきます。2011年2月に元連合赤軍最高幹部の永田洋子が死に、3月に東日本大震災が起こります。こうした出来事をきっかけに、奥深く追いやった記憶と向き合います。
リアルタイムにこの時代を生きてきた人には、より響く話なんだろうなと思います。
ちなみに、自分は生まれてないです。それでも、あさま山荘事件の鉄球ガンガンの場面はテレビで見たことがあったし、こうした経緯で実際に起きた事件なんだと思うと衝撃を受けました。もちろん、総括は許せない行為だし、やってることも間違いだらけですが、若者たちが純粋に夢見たはずの未来、掲げたはずの思想がどんどん歪んでしまい、追い込まれいていく姿は、痛々しく、重苦しい気持ちになりました。
ラストは唐突に鮮やかでした。そこだけが救いです。
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連合赤軍がらみの事件のことはネットで調べた程度の知識しか無かったけれど、ずっと興味はあった。
とくに山岳ベース事件の方は、「総括」と呼んだリンチで仲間が仲間を殺してそれが12人にも及んだいう残忍なもので、その時そこで何が起こっていたのか怖いけれど知りたいような思いがあった。
この本はあくまでも小説なので、事実を基にした物語だという前提を分かっているから、ドキュメンタリー本よりもまずは読みやすいかもしれないと思って手に取ってみた。
主人公は60代の西田啓子。山岳ベース事件の頃20代だった彼女は、「総括」と彼らが呼んだ凄惨なリンチ殺人を目にした後、アジトから逃げ出し逮捕されて、5年の刑期を終えていた。
そういう過去を持つせいで、家族や親戚のほとんどから距離を置かれ、60代になった現在は、実の妹と姪以外の人物とはほぼ付き合わずにつましい生活を送っている。
しかしそんなある日、過去の「仲間」から突然電話があり、啓子を取材をしたいという若い記者の存在を知ったことから静かな暮らしに変化が訪れる。
この西田啓子という人物に実際のモデルがいるのかどうかは分からないけれど、過去を振り返った事件の描写の際に出てくる人物名はほとんど実際のものだった。数人とても有名な人がいるから、ピンと来る人も多いと思う。
だからこの啓子に近い人物も恐らく実際にいるのだと思う。リンチをする側でもされる側でもなく、傍観者としてそこにいた女性。自分がターゲットにならないよう腐心しながら、ターゲットになってしまった人たちを助けられなかった人物。
今まで思っていたこととこの事件の真実は結構違っているのかもしれない、というのが個人的に思ったこと。
あくまで「女たちの目指した革命」という意味でなら、こんな真実があったのか、と驚かされた。作者の桐野夏生さんは実話系小説を多く書かれている方なので尚のこと。
若い頃のこととは言え、一度起こしてしまったことが人生にずっと付きまとうというのもきっと真実なのだと思う。
1人の人間が見たもの、聞いたこと、感じたこと、目指したもの、が正しく他人に伝わることは恐らくほとんど無い。結局真実は、本人にしか分からない。
啓子は孤独な人生だけど、それでも過去を分かち合えたり理解してくれようとする人がいてよかった。終始辛い物語だけど、それだけは救いだった。
そして小説としてはとても面白かった。物語を読んだので、今度はこの事件のドキュメンタリー本も読んでみたくなった。
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学生運動で赤軍派として活動した女性のその後を描いた物語。山岳ベースでのリンチで何人もの犠牲者を出し、殺人に加担した罪に問われて服役した。本人は罪を償ったつもりだが、何年経っても興味本位でそのときの状況を聞いてくる人もいる。あれはなんだったのか、自分でも説明できない。言語化できない。だから何も語らず、静かに、過去に触れずに孤独に生きている。
過去をいくら封印しようとしても、例えば親戚が結婚するときなどに、相手に「実は親族にこういう人がいる」と明かして理解してもらう必要があるだろうか?それとも隠し続けるべきか。あとで知られたらどうなるか?破談?など、いろいろな事案がおこり、完全に封印はできない。そのうち、自分でもなにか「風穴があいた」感じがしてくる。
取材に応えるつもりはないが、ライターと名乗る人も接触してくる。ライターは取材するわけでもないのに時々有用な情報を持ってきたりして、読み進めると物語におけるライターの存在意義が急に大きくなってくる。そして最後の2ページで衝撃的な展開が!
鳥肌がたって泣きました。あと、最近震災文学というのか、東日本大震災を題材にした小説が発表されているが、この物語でも、学生運動が原因で親兄弟と絶縁していた人が、震災で亡くなった人の名簿の中に親がいないか探したり(それしか安否を知る手段がない)、そういう切ない場面が出てきて、人は「一人で生きていこう」と決めても決して実行はできないのだと思いました。絶対にどこかで誰かとつながっているし、親子のつながりは切ろうとしても切れない。
そして、若い頃の過ちが、その後ずっと自分だけでなく自分の大切な人を苦しめ続ける、という現実を思い知らされました。
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この小説の題材は、一九七二年連合赤軍事件。
昆虫や蜘蛛がそう嫌いではなくなったのは、この歳になってからだ。若いころは虫も蜘蛛も蛇も大嫌いで、血が逆流するほどの嫌悪と恐怖を覚えた。しかし山の生活で血相を変えて逃げ回り、仲間から「失格者」と烙印を押されたに違いない。だから虫嫌いを誰にも悟られずにいつも虚勢を張ることが出来たのだ。
長く生きるということは、あらゆる恐怖や禁忌から解放されることかもしれない。西田啓子(主人公)は古いアパートに住み着いた小さな蜘蛛の方を向いて苦笑いをする。
ある日、妹の和子からの知らせで日曜の朝刊を見た。途端に、悲鳴が洩れそうになった。
「永田洋子死刑囚が死亡 連合赤軍事件 大量リンチ殺人」「東京小菅の東京拘置所で多臓器不全のため死亡した六五歳」とある。
とうとう、永田が死んでしまった。
三十九年前の昨日、啓子は君塚佐紀子と共に脱走した。啓子は妊娠三か月。これ以上山にいたら全員が総括で死んでしまうかもしれない、という恐怖、いや諦観があった。
山を降りたところで二人は警察に逮捕された。懲役五年、父は肝硬変で死んだ。母も…。親戚からも縁を切られてしまった。
啓子と和子は、初老を迎えているというのに、口が達者である。口喧嘩というより論争に近い、延々と続く論争は、姉妹だけに終(しま)いが無い!
本書の中で山の生活の真の目的が語られたが、多くの生命を奪った事実は相殺されない。事件から四十年、誰も語らなかった真実が明らかにされる。
ふと気配を感じて、台所の壁を見ると冬の蜘蛛が姿を現していた。
実におもしろい!