市場経済に回収されないもの
2020/04/20 17:01
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MK - この投稿者のレビュー一覧を見る
与えられるには自分から与えなければならない。そのようにして社会が回っていることは、経験的に自明なものであるが、市場経済がそれを覆い隠して見えなくしている。そこにスポットライトを当てた本書は、魅力的な具体例を提示しながら粘り強く論じ、読む者を飽きさせない。
また、文体といい内容といい、この若き筆者は内田樹の影響を受けているとみた。
「想像力」がもたらす「気づき」。
2021/01/29 14:23
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投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
「お金で買えないもの」の正体は何なのか。
誰しもそういったものが存在していることに薄々気づいてはいるものの、明確にそれの正体を言いきることが出来ない。
本書では「お金で買えないもの」を「贈与」と呼び、「贈与」の正体を炙り出していく。
本書の魅力の一つとして、多種多様なジャンルから「贈与」へと結びつける展開が挙げられる。
哲学や経済学はもちろんのこと、科学史やSF小説から漫画、はたまたJ-POPまで登場する。
著者の博識ぶりと、それらの知識を組み合わせる聡明さには驚くばかり。
本書に登場する「ヴィトゲンシュタイン哲学」や「求心的思考、「逸脱的思考」等の専門的な知識も、
著者が我々に馴染み深いもので例えてくれるため非常に理解しやすい。
ありとあらゆるものを商品にする資本主義。
本書ではそれを糾弾するのではなく、そういったシステムが土台にあるからこそ「贈与」というアノマリー(変則性)が見えると述べる。
しかしそれに気づくためには、受け手の「想像力」が必須で、それを養うために我々は勉強する必要があるのだ。
我々が日々の暮らしの中で、気づかぬうちに受け取っていた「贈与」。
本書は我々が見落としていた「贈与」に光を照らしてくれる。
本書読了後は世界の見え方が変わっていることだろう。
KANSHAして
2020/10/24 23:10
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投稿者:せきた - この投稿者のレビュー一覧を見る
なぜパートナーは欲しいものでないリスクがあるのにプレゼントを欲しがるのか。自分の好きなものを買える余裕もあるのに。
「お金で買えない価値がある。買えるものは某カードで」って、贈り物を買えってことだろうか。
資本制、万物の商品化が進んでも信頼とか責任を生むのは人と人との負い目の意識、しがらみなのかもしれない。
結構、本社が問うてる内容は難しいと思う。日常の暮らしを営むのは実はとても困難で偉大な仕事である、贈った人は実は与えられた人であるとか。
資本制を否定するというわけではないが、贈与の力学がそのスキマを埋めていること、ヒトが支えあっていることに自覚的であれ、ということも言っているのではないだろうか。
中途半端なファッション誌
2020/08/31 22:21
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投稿者:けいちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書の冒頭ではマイケル・サンデルから始まり、「サピエンス全史」が引用され、内田樹や東浩紀の言葉が語られ、ウィトゲンシュタインに至るまで思考が様々に広がっていくものの、全編を通した率直な感想として、オリジナリティがないように感じられる。
また、資本主義の「すきま」を埋めるために、社会には「贈与」が必要というのが本書の訴えだが、「贈与」と「交換」の違いが、読み進めるほどに分からなくなってしまった。
総じて定義付けがあいまいなまま論が進められ、しかも現実から乖離した抽象的な論が多く、内容が頭に残らない。
本書の後半に出てくる「テルマエロマエ」には、唐突感も感じられる。流行ったものや有名なものを、「贈与」に無理やりこじつけているようにしか感じられない。
確かに、本書で語られているように、小松左京のSFなど、「贈与」に絡めた説明はできるが、別に絡めなくても説明はできる。「贈与」を持ち出す必要性がないのである。
論理的に何かが説明されて、それは分かるけど、で、なに?というような、悪い哲学書の見本市である。
途中には「セカイ系」についての言及もあるが、こうなってくると、とっ散らかってる印象しか残らない。
小松左京の引用が多く出てくるが、結末までは書かずに、本編に投げている。もう初めから小松左京を読めばいいという感想しか出てこない。
ここにあるのは果たして、贈与なのだろうか、交換なのだろうか。
ただの縮小再生産ではないのだろうか。
本書では「贈与論」について語られていないが、「贈与」を語る上で欠かせないアメリカ先住民族の「ポトラッチ」という文化がある。有名なところでは、トーテムポールを儀式のために作り、そして燃やすということがある。
ポトラッチは、相手よりも大きな贈与を行う文化である。
ポトラッチの文化に照らせば、縮小再生産は、贈与ではない。
これは贈与ではない。
ここには付加価値がない。
本書は「ニューズピックス(News Picks)」から発行されている。
それを踏まえると、オジサン世代のビジネスマンが、仕事の本だけじゃなくて、思考の幅を広げるために哲学チックな本も読んでるんだぜと、頭良いように見せたいために読む、ファッションの読書のための本に感じられた。
読後感は悪い、というか、すっきりしない。
もやもやが残る一冊である。
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かなり面白かった。想像と論理をパッチワーク的に繋いでいく記述スタイルが参考になったというか、自分好みで。リベラルアーツを学ぶことの真髄がこの本には詰まっていて、自分の不確かさや、歴史・社会・倫理との接合点を考えるきっかけを与えてくれる。読む人によって、受け取るメッセージが無限にある良書だと思った。
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知っている本やワードをマッシュアップしながら文章が展開されることで、難しい内容も分かりやすく読者に伝わるものとなっている。
普段は読書をするばっかりで、ほとんどできていなかったレビュー・感想だが、これもまた本書で言うところの一つの『贈与』ということになるのだろう。幾つかの本ではどちらかというとレビュー・感想は自分に視点が置かれており、なかなか私自身の中でも消化できていなかったのだが、本書を読んでストンと落ちてきたように思えた。
自分の為でも、特定の人の為でもなく、どこの誰とも知れぬ人がこれを読んで何かを考え、また違う誰かへとつながることでこの世界はなりたっているように思う。
普段なかなかできていなかったまとまった時間を作り、手を休めて考えないことを考えるいいきっかけにもなった。
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資本主義の社会において「お金では買えないもの」、すなわち贈与の正体を解き明かす本書。
哲学書であるため難解な個所も多いが、贈与について多様な切り口で語っており、議論が展開していくというよりは”贈与”の周りをぐるぐる回り続けている印象。
そのため、多少ついていけないところがあっても読み進めていけば、贈与について理解することができるようになっている。
「贈与」という言葉が強力な新しい思考の武器となると確信できた一冊。
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著者が何のためにこの本を発行したのか。
読者に何を期待しているのか。
という指針がよくわからないまま読んでしまったため、のめり込むことが出来なかった。
内容は決して浅いわけではなく、考えさせられる点へ多かった。
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交換と贈与という、2つのコミュニケーションの型を補助線に、世界を視る新しい眼をくれる本。読み進める程、なんてポジティブで優しい眼差しなんだろう、優しすぎだろうとすら思うけれど、ただそれこそ、贈与の仕組みを理解したからだ、という展開になっているところが秀逸。
筆運びの根底に流れている知性や勉強への愛が心地よい。
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親はなぜ孫の顔が見たいのか?
そんなどこにでも
ある問いから
本書はスタートします.
そして、贈与とは
お金で買うことの出来ないもの
およびその移動と
定義されています.
最初の問いに戻ると
親は子供が生まれた時から
世話をしたり、食費や教育などの
経済的な負担もしたりします.
また、その負担に対して
普通の親は見返りを求めません.
そして、その子供は
ある時を境に
親から与えたれていたものに
気付き
返礼しなければならない
と普通は思うはずです.
それが贈与という
お金では買えないものです.
ただ、親は常に
ここに不安があります.
自分の育て方(贈与)は
正しかったのだろうか?
という不安です.
そして、その正しさを
証明してくれるのが
孫の存在なのです.
自分の子供が孫に
また愛を与える.
そうすることで
自分が行ってきたことは
正しかったという認識が出来る.
だから、親は孫を求めるようです.
そういう論理からすると
親が孫を溺愛するのも
説明がつきます.
例えば
怖いお父さんが
柔和なおじいちゃんになるのも
その贈与の義務から
開放された結果なのかも.
一見、贈与なんて
難しい言葉だなぁ
と思うかもしれませんが
自分の気付かないところに
贈与が溢れていました.
コロナの影響で
当たり前な日常ではないからこそ
当たり前を維持するための
贈与に気付く.
1つの物事に対して
色々な見方をするために
かなり役に立つ本です.
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すごい本に出会ったと思わされたのだが、上手く説明できそうになくてもどかしい。
必要だがお金で買えないもの及びその移動である「贈与」というものの正体を理解するために、資本主義や言葉を介したゲームルール。疑うことがそもそもできない世界像という常識の総体。世界像があることで浮き彫りになるアノマリー
。アノマリーに気づくための装置としてのSF。散々一見関係の無さそうな知識体系を一通り巡ってきた後に再び戻ってくる贈与とはなにか?という論理展開が、ある種のドラマチックさを持っていて終盤は読みながらconecting dots感をひしひし感じた。
贈与を受け取る人の存在自体が、差出人に生命力を与えるというところに、日常に潜む喜びや、親と子を始め家族や愛する人との間にある無形の価値、社会性によって進歩してきた人類の根源的な動力源を見いだせる。
ところどころ著者の思考スピードに追いつけないところもあって咀嚼するのにもう何度か読み返したり考えを深めないと真の意味でメッセージを受け取れないし、受け取り誰かに伝えることでメッセンジャーたらんとしている自分に気づき、そこでまた理解が深まる。
本の装丁も、主旨を上手く表現していて良い。
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自分は生きている意味があるのか、迷子になっている人に是非読んで欲しい。
存在しているだけで意味があることを、心の底から理解できる。これは、単なるギブ&テイク本ではない。
そして、読んでる途中から、世界の見え方が一変する。大袈裟ではない。
なるほど、で終わらない、その瞬間から生き方に効いてくる哲学書は初めてだ。
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贈与は供儀(sacrifice)ではない。
この世のありとあらゆる「届いていた手紙」に気づき、受け取ってしまった贈与を次の人に繋ぐメッセンジャーになること。
きれいな景色を見て写真を撮り、SNSでシェアすることすら贈与のメッセンジャーになり得る、というのは目から鱗でした。最後にこの本の存在すら贈与であると締めくくっていますが、同じように誰かの絵や曲なども贈与なのですね。
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倫理学とか哲学の本は堅苦しくてとっつきにくいイメージがありましたが、この本は全然そのように感じることなくスラスラと読むことができました。
映画「ペイ・フォーワード」や小松左京のSF小説など、この本を通して興味を持った作品も沢山ありました。
メモ
・人間は哺乳類の中で最も難産な種
・贈与は必ずプレヒストリーを持つ
・天職は英語ではcalling
・若者からすると献血はコスパが悪い
・贈与は時として、呪いとして機能する
・贈与はそれが贈与だと知られてはいけない
・愛は不合理からしか生まれない
・不合理は合理性の後にやってくる
・現在のサンタクロースのイメージは
1931年にコカコーラ社がつくったもの
・贈与は差出人に倫理を要求して、
受取人に知性を要求する
・辞書の中のメリーゴーランド
・贈与は未来にあると同時に過去にある
・見ることと観察することは違う
・逸脱的思考とは、世界と出会い直すための
想像力のこと
・アンサングヒーローとは、功績が顕彰され
ない陰の功労者のこと
・贈与は市場経済の「すきま」にある
・「仕事のやりがい」と「生きる意味」の
獲得は目的ではなく結果
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贈与と交換について、身近なサンプルをピックアップして分かりやすく解説されているが、とても深い内容であり何度か噛み締めて読むべき一冊。
アノマリー、アンサング・ヒーローなど、キーワードから資本主義の先行きへのヒントを感じ取り、未来について考えるきっかけにしていきたい。
そうだ、また「ペイ・フォワード」を観ようかな。