人物の描き方、戦闘の描写に感服
2020/10/08 10:59
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投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
古代の東北、蝦夷の活躍する小説である。アテルイでもう終わりかと思っていたが、もう一作あった。アテルイの後、安部氏、清原氏などの豪族が活躍する前九年の戦い、後三年の戦いという大乱があった。歴史上、この2つの大乱の間に元慶の乱があった。忘れてはいけないのが、アテルイの前に伊治鮮麻呂の乱があった。これは所謂大河ドラマのように超長編であったが、『風の陣』というタイトルで出版されている。
いずれも少しずつ異なっているが、この元慶の乱は、陸奥ではなく出羽である。米代川から秋田城、八郎潟周辺が舞台となっている。伊治鮮麻呂も今回も史料が乏しいせいか、鮮麻呂がどうなったのか、乱の結果蝦夷の暮らしがどうなったのか、元慶の乱の結果もそれほど明確ではない。歴史的な出来事と無関係に物語を創作することも興味深いのだが、まず事実を知りたいものである。
都にいた策士の腕が優れており、計画を練る能力も抜群である軍師を仲間に引き入れる。そして、統領にはアテルイの子孫である天日子(そらひこ)を据える。役者は揃い、あとは計画を実行するだけである。その他の参謀は戦闘能力もあり、統帥力もある人材を集め、陸奥守を説得し、出羽守を追い出す。その後に着任した出羽権守、藤原保則がうまく後を収めた。保則は後に都に戻り、参議となる。
この時代の蝦夷についてはあまり知られていない。乱の詳細も首謀者もよく分かっていないと思われる。しかし、ストーリーとしては十分楽しめたし、戦闘シーンも高橋克彦の描写は秀逸であったと思う。
故郷を守る阿弖流為の心の継承者
2023/02/22 15:35
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投稿者:トマト - この投稿者のレビュー一覧を見る
高橋克彦氏の東北・蝦夷(えみし)についての最新の歴史小説です。
中央政権の圧政に苦しむ東北の民を見かねて、阿弖流為の子孫である若者が立ち上がる。相変わらず、中央は東北の民を蔑み従順に従っていた者たちまで見殺しにする。
阿弖流為、いや、蝦夷の血がそれに立ち向かう姿はその地に住むものをどれだけ勇気づけたことか。切なくも奮い立つ思いがする小説でした。
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投稿者:kotep - この投稿者のレビュー一覧を見る
アテルイと母礼の活躍により蝦夷の存在は朝廷に認められることになったが、中央政権からの苛性は変わることなく蝦夷の民は生きていくことすら難しい状況であった。
蝦夷は俘囚と呼び名は変わったが、差別され続けていた。
東北地方に飢饉が続き食べるものは満足にない状態であったが、朝廷側の城には山積みになるくらいの食糧があった。しかし朝廷からの食糧の支援がない俘囚は村を捨てて山賊になるもの、村で飢え死にするもの等で田畑は荒れ翌年の生活も危うい状況にまで陥った。そこでアテルイの血を引く天日子が立ち上がる。
天日子は物部一族の日明の助けを借り、都から幻水という軍師と、元検非違使の逆鉾丸、山賊の玉姫の協力を得て朝廷に立ち向かう。
風の陣シリーズ、火怨シリーズそして水壁と蝦夷シリーズは興味を持って読むことができました。また、いろいろな場面で新たな発見や事実の確認ができ自分なりにも知識となりました。
蝦夷の意気、誇り
2020/10/24 18:11
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投稿者:とりこま - この投稿者のレビュー一覧を見る
飢饉の中、蝦夷に対する朝廷の圧政を正そうと立ち上がった者たちを描く作品。
蝦夷たちの意気や誇りが強く感じられ、さらに冤罪で朝廷を追われた幻水という軍師役の人物造形が良く、自分の居場所を蝦夷の中で見付けていく過程で、読み手としてもより蝦夷の魅力にハマっていくのが心地よかった。
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投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る
元慶の乱について知らなかったので、興味深く読みました。阿弖流為の曾孫ということでどうしても「火怨」と比べてしまい、期待が大きすぎましたが、登場人物がちょっとファンタジーぽく感じてしまいました。それでもやっぱり胸が熱くなります。良かったです。
蝦夷の苦労は続く
2021/06/16 09:58
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投稿者:のりちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「火怨」の続編というかミニ版という感じ。それでも作者の蝦夷に対する思い入れと同族意識はよく表現されていた。
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尊敬する高橋先生の新作。陸奥四部作に次ぐ5つ目の物語。
物語は「火怨」と「炎立つ」の間の時代。阿弖流為の反乱後、朝廷の支配下に入るものの、他国と同程度の扱いを受けられず、ただ租税を払うだけの立場に苦しむ時代。立ち上がったのは阿弖流為の子孫である天日子。元から部下や家族を背負い、先頭に立っていた過去3作とは異なり、徐々にリーダーとしての資質を現していく姿は青春小説としての魅力もたっぷりとあった。また、右腕の阿部幻水の存在も良い。二人の関係は、阿弖流為と母礼、貞任と経清の関係を思い出させられる。
何より元慶の乱という事件を知らなかったため、敗北という事実が分かりきっている過去作と異なり、どういう結末になるのかというワクワク感が強いのも良かった。1巻完結のため、人物造形が若干薄く、また憎たらしいほど強い敵という存在もなかったのが残念ではあったが、最後には天日子たちに感情移入してしまうほど心を熱くしてくれるのはさすが高橋先生と言わざるを得ない。
炎立つの安倍氏はルーツが諸説あるそうだが、阿部幻水が東北に根づいて100年強であの強大な安倍帝国を築いたと考えると非常に面白い(幻水は架空の人物みたいだが)。
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平安時代、東北の英雄・アテルイの血を引く若者、天日子を中心に蝦夷たちの誇り高い闘いを描いた歴史小説。
アテルイの戦いを描いた作品「火怨」の興奮が忘れられず、その後の蝦夷たちの歴史を描いた作品ということだけあって、期待して読みました。
その期待は裏切られることなく、蝦夷たちの熱い思いが強く伝わってきました。
主人公・天日子を中心に魅力ある人物たちが集まり、知恵と勇気をもって戦い抜くさまは、読んでいて心が揺さぶられました。
歴史の狭間に生きる人たちの思いを想像することこそ、本当の歴史を知ることだと改めて思いました。
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阿弖流為の死から75年後。陸奥を舞台とした元慶の乱を題材としている。阿弖流為の曾孫天日子を主人公に、軍師として阿部比羅夫の末裔である阿部幻水、物部の一族の纏め日明など、蝦夷らの誇り高い闘いを描く。
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火焔の続編的な位置づけ。それから比べるとスケールは小さいものの、読了感はまだスッキリ。
史料等もそんなにない地域なので、つじつまさえ合っていれば話は膨らむ。そんな小さく、あまり知られていない史実から、こんなに大きな物語を作ってしまうとは…
物部氏ってまだそんなに権威があったっけ?とか、この人このまま奥州安倍氏につながるんだっけ?とか、色々と突っ込みたいところもあったが、物語として読むには十分に楽しめた。
朝廷と蝦夷(そもそも自分たちをそう呼んでいたとも思えないが)の戦いはまだまだ続きそう…書いてくれないかな。
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火怨の後に読んだからか、比較してしまった。
アテルイを継ぐ天日子に、期待しすぎていたと思う。今にまで名が残っているアテルイの存在が大きすぎる。
それでもやっぱり感動する、蝦夷の心。
いいなあ。私もそういう風にありたい。
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平安初期、藤原北家が権力を独占し出した頃、圧政に苦しむ蝦夷と蝦夷に心を寄せるものが立ち上がる。
民の将来のために礎になろうとする阿弖流為たちの壮絶な決意、単なる英雄譚とは異なる熱さとだからこその哀しさに心揺さぶられた身には、とても暖かい後日譚になりました。
長さは半分ぐらい。そして、このラストはやっぱり心が安らぎます。阿弖流為たちもこのラストを暖かく見守っているかも。
主人公は阿弖流為の地を引く天日子だけども、都で不遇をかこっていた才人・安倍幻水が加わり、やがて己の才を活かすためではなく蝦夷のために戦い、最後には蝦夷となる物語でもあります。
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火怨の75年後、阿弖流為の曾孫 天日子が主人公。火怨と同じように、強く将の器である天日子と、知略に富んだ安倍幻水を中心に、物部が重要な導き手となってストーリーが進む。
天日子と幻水は火怨の阿弖流為と母礼を思い起こさせるが、ひとつ決定的に違うのは、幻水が蝦夷ではなく都の人間だということ。都で冷遇されてきた幻水が、蝦夷と共に戦って初めて一人きりではなくなったと泣くシーンが熱い。風の陣や火怨で悲願を果たせずに散っていった多くが、全くの無駄ではなかったのだと感じられる。
風の陣や火怨に比べてだいぶあっさりしているので、欲を言えばもっと読みたかった。
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アテルイ(802年)の死から71年。元慶の乱をモチーフにしたフィクション。「炎立つ」の時代はこれより170年ほど後なので、「火怨」と「炎立つ」の間を継ぐという感じではないかな。
登場人物は創作なので、ご都合主義な面も否めない。
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◼️ 高橋克彦「水壁 アテルイを継ぐ男」
蝦夷(えみし)ものの作品は興味が湧く。東北の広さと深さ。
高橋克彦「火怨 北の耀星アテルイ」は790年ごろ、坂上田村麻呂らが率いる朝廷軍と戦った蝦夷の英雄・阿弖流為(アテルイ)の物語。地勢を活かした戦略と小気味良い戦いぶりで数的不利を覆し抵抗を続けた蝦夷軍と悲しい幕切れのストーリーだ。今回はそれからしばらく後、アテルイの曾孫日天子(そらひこ)が大将となった蝦夷の戦いの話。
蝦夷の支援者の一族、物部氏に育てられた日天子は飢饉にあえぐ俘囚、朝廷に従う蝦夷の民を救おうとしない朝廷に怒り、挙兵を決意する。一族で商才に秀でた真鹿、山賊の長・玉姫、都では元検非違使で盗賊の頭目・逆鉾丸、応天門の変の影響で学問と出世の道を断たれた天才軍師・安倍幻水らを仲間に迎え、策を練り入念な準備を施して「勝ち逃げ」の戦に挑むー。
この「元慶の乱」は唯一蝦夷が朝廷に勝利した戦だという。朝廷は懐柔政策を取り、蝦夷をねじ伏せるほどの力はなくなっていったようだ。
天日子のもとに次々集まるクセのある仲間たちが頼もしい。とりわけ幻水の策略のキレはストーリー進行の中心とも言える。アテルイの時のように朝廷を本気にさせないため、最初から勝ち逃げ、を念頭に置き、いかに和議の条件を呑ませるように効果的に敵を叩くか、に焦点が絞られる。戦い自体は後半で、あまり長くはなく、負けはない。
そういう意味では軍略を練る部分にスポットが当てられている。長引かせることなく、兵を失わないように、抵抗の意思がない者の命を奪わないように戦って負けはなし。ところどころ挟まれる蝦夷としての矜持が示されて熱い。
東北の地図が掲載してあり、一円に、例えばいまの岩手県の胆沢蝦夷、とか津軽の蝦夷などが散っている。戦いとその準備の中で、松尾芭蕉の歌枕にも出てくる朝廷の拠点の城、宮城県の多賀城から秋田県の北西の端能代、また青森県の北西、海に面した十三湊などが描かれる。東北は、広く深い。みちのくとはよく言ったものだ。西日本の人間には読んでて、地図を見ていて本当にワクワクする広さ深みだ。
戦いそのものがあまり拡大しなかったからか、魅力的な人物をたくさん描いたわりには短くやや物足りないな、という感が残った。
仙台市出身の熊谷達也による蝦夷作品、岩手・釜石市出身という高橋克彦の一連の蝦夷関連の物語は読み応えが十分だ。
奥州藤原氏の興亡を描いたという「炎立つ」も読もうかな。