現在進行形である優生学
2023/12/27 15:01
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ベリー・ショート・イントロダクション」の一冊なので、14歳には少々難しいかもしれないが、過去のものになったのではなく、現在進行形である優生学についてのコンパクトな入門書なので中高生もぜひ手にとられたい。
eugenics
2021/10/28 20:43
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投稿者:6EQUJ5 - この投稿者のレビュー一覧を見る
シリーズものの一冊のようですが、どうにも読みにくい。翻訳の問題もあるのか?「こなれていない」印象が残りました。
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YA向けの翻訳本ですが中身はかなりしっかりしています。優生学とその周縁の歴史を網羅しており現代の論点にも広く言及。優生学は形を変えて現代に残り続けていること、そしていつでも危うさをはらんでいるという事実を改めて認識させられました。
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【読みはじめた理由】
「優生思想は危険」という思想が今の社会の道理的に合っている、と思ってなんとなく反対していたが、その根拠をうまく説明できなかったため。
また、社会的に弱い立場にある人は行政や周りの手助けによって守られるべきという道徳的観点は持ち合わせているものの、「産まれてきた子どもが苦労しないように、できるだけ良い遺伝子を持つパートナーとの子どもが欲しい」という漠然とした願望があり、これはある種の優生思想であり、思想の矛盾ではないか?と悩んでいたため。
【読んでみて思ったこと】
優生学というのは正しく使えば人々の苦しみを取り除ける学問だと感じた。ただし、あくまでそれは学問としてであって、優生「思想」を持つことは社会に複雑なヒエラルキーをもたらし、人々の不幸につながるのではないかとも感じた。また、課題であった「できるだけ良い遺伝子を持つパートナーとの子どもが欲しい」という考えも、「子どもには健やかであってほしい」という健全な願いであって、誰かに生まれながらの優劣をつけ蔑むようなことをしなければ問題ないのではないか、という結論に至った。
優生思想とは、「良い血統の科学」とも呼ばれ、人間の血統の遺伝的な質を改良するために「健全な生殖を促し、不健全生殖を防ぐ」思想のことである。これは、国全体の生産性の向上にも繋がると信じられ、優生思想とその学問は社会政策と根深く結びつき、多くの国で取り入れられた。現に日本でも、旧優生保護法という法律が1996年まで施行されており、障がい者に不妊手術を強いることができた。このように、時に強制力を持ってして断種や安楽死を執り行い数え切れない人々を苦しめてきた。その暗い歴史から、現代では優生思想を危険視する風潮がある。
優生思想の中では「生産的で社会的地位のある人間」こそが最も価値が高い存在であるとされ、身体や精神に障がいを抱えている人だけでなく、人種や性別にまでそのヒエラルキーが及んだ。そこには、社会構造の転覆をおびやかす原因が、障がい者や貧困層、不適格者とされていた人々の繁栄にあるとし、ヒエラルキーを守り続けるための考えもあったのではないかと思う。
特に心に残ったことは、優生思想は女性の自由と権利を奪う思想でもあったということだ。歴史の中で、中流階級以上の女性の社会的進出が進むと、優秀な家庭に生まれる健全な子どもが減ることを国家は恐れた。そこで、より多くの子を産み家庭を守る良妻賢母な母親像を求め、みずからを犠牲にして捧げ、家庭に尽くすことが称えられた。特に人口が目減りしていく戦時中はこの流れが顕著だった。逆に、望ましくない生殖を避けるための強制的な断種も同時に行われた。まとめると優生思想の強い社会では、健全な女性には生殖を促し、不健全な女性には生殖をさせなかった。優生思想は、女性の社会的進出を妨げ、その価値を生殖能力に置くことになる。
それでも私が優生思想を部分的に支持する理由は、人権を尊重することができれば素晴らしい学問だと思うからだ。学問としての優生思想は、人々の生活から苦しみを取り除くことに現代の中で大きく役立っている。���えば、出産前に子どもの障がいを調べることで産むか産まないか判断できるし、産むとしても心の準備ができる。遠い将来、選ばれた遺伝子によって産まれてきた子どもたちが、そうでない子どもたちを差別するようなことが社会問題として取り上げられることがあるかもしれないが、資本主義が支配する社会で、消費者たちが望む「より健全な子どもを!」と求める声を止めさせることはほぼ不可能だと思う。それならば、この流れを受け入れた上で、お互いの人権を認め合い、全人類が思いやりと尊重の気持ちを持って接していくにはどうすればいいのか、その考えを広めていくことが最善のような気がした。
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優生学は、英語ではeugenicsで、ギリシャ語の「eu」=「よい」、「genos」=「誕生」から来ている。
端的に言えば、優れた血統を残し、劣った血統をなくすことで、人類全体の質を向上させようとする思想である。
ナチスドイツに強く結びつけられる思想ではあるが、ナチスが最初に考え出したものでもないし、実のところ、今でもなくなっているわけではない。
「優生学」というと危ない思想のように思われるかもしれないが、過去には立派な科学と考えられており、現在でも「優生学的」なものは根強く残っている。
「よい」ものを選び取って「悪い」ものを捨てていくと言ったら、一瞬、問題がないように聞こえてしまう。だがこれを振りかざして「選別」を始めてしまうととんでもないことにつながりうるわけである。
そんな「優生学」の入門書。
原著はオックスフォード大学出版から出ている"A Very Short Introduction"のシリーズの1冊。現在までに700冊ほど出ているシリーズで、歴史、政治、宗教、哲学、科学、時事問題、ビジネス、経済、芸術、文化のトピックスを、難解なものも含めて、コンパクトに解説している。
邦訳も複数の出版社から出ている。分野が多岐に渡ることもあるのだろうが、各社それぞれのシリーズに入れられている。岩波書店は「1冊でわかる」「岩波科学ライブラリー」、丸善出版は「サイエンス・パレット」など。
すばる舎では「14歳から考えたい」を冠してこれまでに4冊出ている。本書の内容からすると、「14歳」には若干ハードルが高いようにも思うが、意欲的な中高生にも読んでほしいという願いも込めてのタイトルだろう。他の本は未読だが、本書に関しては注釈も丁寧で参考文献も豊富である。
閑話休題。
優生学の起源をたどると、20世紀の初頭、科学と社会政策の組み合わせにたどり着く。「優生学」という言葉の生みの親は、チャールズ・ダーウィンのいとこにあたる統計学者、フランシス・ゴールトンである。19世紀末、人間の遺伝の操作を動物の育種になぞらえ、それによって人類を改良しようと夢見たのだ。
それまでに、遺伝の仕組みが解明されてきており、知能や気質、犯罪傾向、遺伝病などを、生殖を操ることでコントロールできると考えたわけである。
このいわば人間の「健全な育種」には、「積極的な」ものと「消極的な」ものがあり、積極的優生学は健康で社会に「有益な」ものの間の生殖を促す一方、消極的優生学は望ましくない生殖を阻むことを目的としていた。前者は妊婦検診、税制上の優遇措置、家族手当や教育の向上などで、遺伝疾患を持たないもの同士の生殖の増進を目指した。後者は、施設への閉じ込めや断種、極端な例では安楽死までを含んだ。
右派・左派を問わず、優生学は広く世界の多くの国々に受け入れられ、積極的優生学と消極的優生学が共存することも多かった。
国や民間からの資金援助で研究も盛んに行われた。ロックフェラーや鉄道王ハリマンの未亡人、ケロッグ(シリアル食品)、カーネギー財団などが巨額の資金を投じた。
成績不振の子供を助ける目的で生まれた知能テストは、優生学の枠組みの中で、いつ��か知能の低いものを選別する仕組みとなってしまった。
もてはやされる一方で、遺伝を単純に考え過ぎるなど、優生学への批判もあった。
「生まれ」か「育ち」かという問題もある。
何より優生学への逆風となったのは、やはりナチスドイツのユダヤ人や障害者に対する極端な政策ではあったろう。
時を経て、優生学は「黒歴史」となりつつあるが、考え方そのものがなくなったわけではない。これは根深い問題なのだ。
「よい」ものを選ぶこと自体には大きな問題はなさそうにも思えるが、では「よい」とは何か、と考えると実は意外に難しい。
価値基準は「文化」に左右される。人種や宗教、慣習、生育環境、さまざまなものがヒトの価値判断基準を形成する。
好ましいか好ましくないかの軸は普遍的ではなく、必ず分断を生む。そしてその皺寄せはたいてい立場の弱いものに向かう。
津久井やまゆり園の事件のように、優生学的な考え方を元にした極端な事件には、さすがに大方の人は賛同はしないだろう。
だが、出生前診断は消極的優生学につながらないのか、デザイナーベビーは積極的優生学そのものといえるのではないか。周囲を見回すと火種はあちこちにあるようにも見える。
国家があからさまに旗振りをするわけではなくても、きな臭い事柄はそこここに転がっているのではないか。
生きていく以上、選別や選択とまるで無関係ではありえない。
だがそれが、未来へつながるもの、あるいは世界につながるものであるのなら、少なくとも「無自覚に」「無邪気に」、よい存在、悪い存在の選別をすることの危険性を心に留めて置くべきではないか。
そんなことを考えさせる1冊。
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歴史的な話に終止していて、優生学自体の話にはあまり触れていないというか、14歳の子に優生学について伝えるならもっと伝えることがあるだろう!と思った
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タイトルに笑った。
さすがに無理だろう。参考文献だけで10ページある。原書では大人向けなのに文化も歴史も違う翻訳版でなぜ「14歳」としたのか。
終盤まで延々と100年前の欧米の事例を列挙していて、価値判断は読者に委ねられている。時系列も前後して注意深く追わないと誤解してしまう。
世界的な地理歴史、政治経済の教養がある程度あればとても有益な内容ではあるが、これはいわば歴史の裏の側面であって、「表」の歴史をまだ習っていない(日本の)中学生にはさすがに早い。
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「自分たちと異なる存在」を、「劣ったもの」として捉え排除しようとする、という意思がまず原初にあり、それを「宗教的にではなく」「科学的に」正しいこととして訴える、ということのために、遺伝の仕組みを捻じ曲げて使ったのが、近現代社会における優生学、ということなのだなと改めて思った。
そもそも、遺伝の仕組みを誤って理解していること、社会ダーウィニズム・進歩主義の誤りの部分を目的としていることなど、優生学の考えの誤り、というのはときどき反芻しておきたい。
なお、読書感としては、「教科書だなー」という感じで、ところどころ原著の書き方のせいか翻訳のせいか、すっと入ってこない表現のところもある。ときどきリファレンスすると良いのかなと思う。