時代に先んじた数多くの独創的業績ゆえに「予言者」と呼ばれた南部の生誕100年を記念した本格的評伝
2022/08/18 17:06
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投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
南部陽一郎は、素粒子物理学における対称性の自発的破れの研究に対して、2008年にノーベル物理学賞を受賞した。これだけでは何のことやらわからないが、単純に言えば、物質になぜ質量があるのかという根源的な難問に答えを出したのが彼である。ノーベル賞委員会に早すぎたと言わせた天才、南部の一生を物理や社会、周りの人々と色々な角度から調べまとめた本だった。弦理論、量子色力学、自発的対称性の破れの破れ等、現代の素粒子だけでなく理論物理学全体に大きな影響を及ぼしたアイデアはいかにどんな背景で生まれたのかがよくわかった。後半では晩年に熱心に取り組んだ流体力学の問題の話にも触れられていた。細谷さんや江口さんなど、南部の影響を大きく受けた人々のインタビューもあり、読み応えバツグンだった。文体も読みやすいのでスイスイと読むことができた。日本生まれで物理学の歴史をかえた天才がいたんだな、とより多くの人に読んでほしい。
24時間考えつづけた物理学者の一代記
2021/11/21 22:09
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投稿者:つばめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は日本経済新聞社で科学技術担当編集委員、ナノテクノロジー専門誌『日経先端技術』編集長などを経て、現在はサイエンス作家として活躍している。素粒子物理で史上最高レベルの理論を打ち立てた南部洋一郎の伝記がほぼ皆無であったことが、本書を執筆するきっかけとなったらしい。しかしながら、南部洋一郎という人物が、伝記の主人公になりにくいことを著者は痛感する。その理由は、◆南部の理論は非常に難しい。プロの研究者でも理解に苦しむ基礎的で抽象的な理論であった。◆南部は米国在住で、取材を受けることを好まなかった。◆研究を離れれば、優しすぎるほどの好人物であるから、強烈な個性が感じられない。ということで、このタイプの人物は、そうそう簡単に物語の主人公になりにくいと著者は記している。「対称性が自発的に破れたときには、その乱れを回復させるために南部ゴールドストーン粒子という質量ゼロのユニークな粒子が発生する。この粒子は南部理論の核心に当たるもの。」というのが、南部が打ち立てた新理論の一つである。本書を読めば、「対称性の破れ」については、理解できるが、それ以降の理論については、著者の座右の銘「難解な科学をやさしく解きほぐす」をもってしても凡人にとっては、やはり難解である。南部とほぼ同時代の米国の理論物理学者が、「南部の研究はつねに我々より10年先んじている。そこであるとき、南部を理解すれば他人より10年先んじられる、と思いついた。しかし南部をやっと理解したと思ったらもう10年の時がたっていた。」と述べているのだから一般人が理解できなくとも気に病むこともあるまい。本書はこうした難解な物理学の解説とともに、南部の幼少時代から晩年まで家庭でのほほえましいエピソードなどを交えた一代記である。かくも抽象的・難解な理論を世界に先駆けて考え出した日本人がいたことを知らしめたいとする著者の心意気が伝わってくる一冊である。
日本にこんなすごい科学者がいた!と改めて実感できる評伝
2024/10/07 17:39
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投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
2008年ノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎さんの評伝です。受賞テーマは「自発的対称性の破れ」だったのですが、当時いくらニュースでかみ砕いて説明を聞いても良く分かりませんでした。そのテーマを正面から扱った本を読破する自信がなく、南部先生の評伝なら何とかなるかなと思って読んでみました。
「自発的対称性の破れ」に関しては結論としては理解できなかったのですが、南部先生という人が物理学界でいかに突出した存在であって、本来ならもっと早くノーベル賞を受賞すべき存在であったことが良く分かりました。また、実績を上げるまでに大変苦労をされた経緯や、自らの功績を論文で発表する前に公表してしまい、その功績が他の研究者の功績とされてしまった失敗談など、南部先生の人間臭い一面も描かれています。
南部先生は1960年代~80年代にかけて主に業績を上げられていますが、その間に南部先生が関わりをもたれた研究者として湯川秀樹、朝永振一郎、アインシュタイン、オッペンハイマー、小柴昌俊、益川俊英、小林誠、などなど錚々たる顔ぶれです。
南部先生が取り組まれた素粒子物理学の研究内容を理解するにはいくらブルーバックスでも1冊では無理だと改めて実感。そこの理解は諦めて、日本にこんなにすごい研究者がいたのだ、ということが感じられれば良しとするならば一読の価値はあると思います。
科学ジャーナリスト賞2022 優秀賞 受賞作品です。
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
これまで本格的な伝記はなかったのには二つの理由があるという。一つはその理論が難解であり消化しづらいこと。もう一つがノーベル賞受賞者といえば奇人変人も多いが、とりたててエキセントリックなエピソードなどがないせいもあったようだ。とはいえアメリカに移住し独創的な理論を生み出しながら危うく埋もれかけてしまったことなど、やはりその人生には山あり谷あり。その理論が理解できなくとも評伝として興味深いところも多い。
日本にこんなすごい科学者がいた!と改めて実感できる評伝
2024/02/21 17:30
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投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
2008年ノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎さんの評伝です。受賞テーマは「自発的対称性の破れ」だったのですが、当時いくらニュースでかみ砕いて説明を聞いても良く分かりませんでした。そのテーマを正面から扱った本を読破する自信がなく、南部先生の評伝なら何とかなるかなと思って読んでみました。
「自発的対称性の破れ」に関しては結論としては理解できなかったのですが、南部先生という人が物理学界でいかに突出した存在であって、本来ならもっと早くノーベル賞を受賞すべき存在であったことが良く分かりました。また、実績を上げるまでに大変苦労をされた経緯や、自らの功績を論文で発表する前に公表してしまい、その功績が他の研究者の功績とされてしまった失敗談など、南部先生の人間臭い一面も描かれています。
南部先生は1960年代~80年代にかけて主に業績を上げられていますが、その間に南部先生が関わりをもたれた研究者として湯川秀樹、朝永振一郎、アインシュタイン、オッペンハイマー、小柴昌俊、益川俊英、小林誠、などなど錚々たる顔ぶれです。
南部先生が取り組まれた素粒子物理学の研究内容を理解するにはいくらブルーバックスでも1冊では無理だと改めて実感。そこの理解は諦めて、日本にこんなにすごい研究者がいたのだ、ということが感じられれば良しとするならば一読の価値はあると思います。
科学ジャーナリスト賞2022 優秀賞 受賞作品です。
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ノーベル賞まで最短の距離にいると思われながら、どれほど長く待たされたことだろう。
そんな思いを確信させられるドラマのような人生。
自発的対称性の破れ、量子色力学、ひも理論、どれも時代の先を行き過ぎた思考、その難解さに理解が追随されず、孤高の研究を重ねたことだろう。
最先端の素粒子物理学をたどるとともに、南部さんの人間性を感じられる伝記の進め方に、全編をとおして暖かさが感じられた。奥さんとの出会い、家庭の雰囲気、長男との葛藤や次男の不幸が重なりながらも、充実した人生を全うされたことが伺える。
南部チルドレンと呼ばれる弟子たちが、その功績を纏め上げた注力の先に、ノーベル賞受賞の重き扉がようやく開いた。最も印象に残った言葉は、子供たちが横になって休んでいる南部さんに、遊びをねだるが、「いま、お父さんはお休みで忙しい」と断った。南部さんの頭の中では、何もしてないときが全開である。こうした思考モードが偉業につながる、天才の証左だろう。
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読みやすくとても良い本だった。
南部先生というと、天才というイメージだが、怠け癖があって朝家を出て出勤せず映画館で映画を見ていたり、プリンストン研究所時代は成果が出ずうつうつとしていたり、人間味ある一面がわかってよかった。
南部先生というと、私は素粒子論の方というイメージだったが、実は東大の学生時代は東大では当時素粒子の研究室がなく物性物理を学んでおり、当初はイジングモデルの研究などをしており、これが後の成果にも繋がったというのが意外だった。そして物性理論を素粒子論に持ち込み成果をあげたとのこと。そして90を過ぎた晩年は流体力学を研究しているという幅広い分野に興味を持っている方というのが素晴らしい。
また、世界で活躍する日本人物理学者が多数出てきて、改めて物理学における日本人の活躍がわかって誇らしい。
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一流の物理学者の伝記を読むのが三度の飯より好きです(笑)。南部陽一郎は最近まで存命だった理論物理学者ですが、彼の人生については初めて知ることばかりでした。シカゴ大学に赴任したときは有名な研究者ではなかったのですね。論文の数も少なかったけど、彼のボスが彼の才能を見抜いてすぐに准教授にしました。世界に知られた大きな仕事をしたのはそのあとです。スタンフォードやMITから声がかかったけど、シカゴ大学に奉職し続けます。シカゴという場所が住みやすかったようです。
奥さんとの馴れ初め、初めての米国留学(プリンストン高等研究所)での挫折、次男の早世などとても興味深く読みました。シカゴ時代の彼の周りに集う綺羅星のような物理学者たち。眩しいです。晩年は阪大(私の母校)に研究室を持っていたとは。
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主人公である南部陽一郎がノーベル賞を受賞したとき、日本人でありながら米国国籍ということが気になったことを覚えている。本書はそんな南部陽一郎の伝記で、彼が米国国籍を取得した理由についても解き明かしている。そして、彼の卓抜した思考力・洞察力を称賛するだけでなく、その穏やかな人柄、苦労したエピソードなども盛り込み、研究者としてだけでなく、人間としての南部陽一郎を描き出している。
素粒子物理は、目に見えないこともあり、理解が難しいが、物理学ことばはじめと称するコラムでの解説を含め、何となく分かったような気にさせてくれる。難しい本かと思ったが、読みやすい伝記であり、面白かった。
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去年のノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郞の研究は「気象シミュレーション」。こういうことも物理学の領域なのか、と新鮮に感じました。本書の南部陽一郎の受賞テーマは「自発的対称性の破れ」。これぞ、物理学って感じの研究ってイメージです。実際、その南部理論からクオークの発見に繋がり、ヒッグス粒子を生み、統一理論の端緒を開け、まさに物理学のど真ん中、素粒子物理学の巨人の物語です。出てくるスーパーヒーローたちもアインシュタインに始まり、オッペンハイマー、フェルミ、ワインバーグ、サラム、ランダウ…書き切れない巨人たち…もちろん湯川、朝長、坂田、日本人研究者たちも。その素粒子物理大河にいる南部陽一郎のことを単なる天才としてだけでなく普通の人としての側面も、欠点も含めてたっぷり書いてます。奥さんがカッコいいと好きになった容姿も、名前の決まっている感じもいいですが、意外にズッコケおとぼけ感も、素敵です。著者が南部陽一郎のことに親しみを持っていることが伝わってきます。それだけに、2008年のノーベル賞受賞が際どいタイミングであったこともハラハラし、ホッとします。物理の研究は個人の脳の中で行われるのですが、多くの人の繋がりで起こる創発であるのですね。ニュートンの巨人の肩の上発言思い出しました。なんだろ…物理学のこういった読み物を時々読みたくなるのは、人間の好奇心の純粋なリレーに、人類の希望を感じるからかな?世界戦争の入り口に立ってしまった春、ISSのことを心配しながら読了。
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遊びをせがむ子供に言った言葉、「お父さんはお休みで忙しい」が傑作!寝転がっていても頭の中は高速で数式が展開されているらしい!そんな南部のノーベル賞受賞は本当にギリギリのタイミングだった。現在の物理学の主流になっている数々の概念を創始した南部に、ノーベル賞を与えなければあまりにバランスに欠くとノーベル賞委員会も焦っていたのではないかとの事情も透けて見える。また米国籍を取らざるを得なかった事情も心を打たれた。
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南部陽一郎の半生を彼の研究成果と共に追っていく。
素粒子物理学についての入門書を見ると、いかに南部が凄いかが書いてあることが多く、元々興味があったので、ワクワクしながら読んだのだが、なんせ難しい。彼の研究内容に関してはちゃんと理解しきれなかった。
彼が、素粒子物理学の世界の発展に多大な影響を与えたことが、様々なエピソードでわかる。中身わからなくても面白い。
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尊敬してやまない南部先生の一生について深く知ることが出来た。今までは南部先生の研究成果ばかりを見ていて、南部先生ご自身のことについては深く知らなかったし、研究成果か凄すぎて本当に同じ人間なのかと疑いたくなっていたが、この本を読むことでごく普通の人としての側面が見えてとても良かった。
研究内容については一般向けに簡単に書かれていたので、これから専門書でより詳しく調べていこうと思う。特に場の量子論を勉強していく上でとてもやる気が湧いてくる内容だった。
この本に出会えてよかった。
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2008年ノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎さんの評伝です。受賞テーマは「自発的対称性の破れ」だったのですが、当時いくらニュースでかみ砕いて説明を聞いても良く分かりませんでした。そのテーマを正面から扱った本を読破する自信がなく、南部先生の評伝なら何とかなるかなと思って読んでみました。
「自発的対称性の破れ」に関しては結論としては理解できなかったのですが、南部先生という人が物理学界でいかに突出した存在であって、本来ならもっと早くノーベル賞を受賞すべき存在であったことが良く分かりました。また、実績を上げるまでに大変苦労をされた経緯や、自らの功績を論文で発表する前に公表してしまい、その功績が他の研究者の功績とされてしまった失敗談など、南部先生の人間臭い一面も描かれています。
南部先生は1960年代~80年代にかけて主に業績を上げられていますが、その間に南部先生が関わりをもたれた研究者として湯川秀樹、朝永振一郎、アインシュタイン、オッペンハイマー、小柴昌俊、益川俊英、小林誠、などなど錚々たる顔ぶれです。
南部先生が取り組まれた素粒子物理学の研究内容を理解するにはいくらブルーバックスでも1冊では無理だと改めて実感。そこの理解は諦めて、日本にこんなにすごい研究者がいたのだ、ということが感じられれば良しとするならば一読の価値はあると思います。
科学ジャーナリスト賞2022 優秀賞 受賞作品です。
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早すぎた男 南部陽一郎物語 時代は彼に追いついたか。中嶋 彰先生の著書。才能あふれた天才研究者は時代の先の先をいくから周囲から理解されにくい。才能あふれた天才研究者は時代の先の先をいくから周囲から変人扱いされてしまうこともある。でも才能あふれた天才研究者は本当に優れた研究成果を出すためには周囲の理解も周囲の偏見も気にしない。凡人にできることは才能あふれた天才研究者の邪魔をせずに見守ること。