ハンニバル(上)(新潮文庫)
あの血みどろの逃亡劇から7年――。FBI特別捜査官となったクラリスは、麻薬組織との銃撃戦をめぐって司法省やマスコミから糾弾され、窮地に立たされる。そこに届いた藤色の封筒。...
ハンニバル(上)(新潮文庫)
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商品説明
あの血みどろの逃亡劇から7年――。FBI特別捜査官となったクラリスは、麻薬組織との銃撃戦をめぐって司法省やマスコミから糾弾され、窮地に立たされる。そこに届いた藤色の封筒。しなやかな手書きの文字は、追伸にこう記していた。「いまも羊たちの悲鳴が聞こえるかどうか、それを教えたまえ」……。だが、欧州で安穏な生活を送るこの差出人には、仮借なき復讐の策謀が迫っていた。
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出版からほぼ三年、やっぱり面白い本は古くならないんだなあと、改めて思わせる
2003/01/20 20:46
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』三部作完結編だが、だいぶ前に出た『レッド・ドラゴン』を読んでいる人は少ないのではないだろうか。出版社は版を変えて、決定版として売り込んでいるが、なかなか形勢が逆転する気配はない。だから、若い人には映画で一躍有名となった『羊たちの沈黙』の続編といったほうが分りやすい。今回の小説も、既に語り尽くされた感があるけれど、面白い作品は何時読んでもいい。ワシントンDCと、フィレンツェを舞台に男たちの陰謀と狂気が渦巻く。今はFBI特別捜査官となったクラリスの孤独が印象的な作品だ。
麻薬取引の逮捕情報を何者かの手でマスコミにリークされ、クラリスが銃撃戦で立ち回る様子がTVで放映されてしまう。彼女の能力に嫉妬し足を引っ張る男たちは、クラリスの切捨てを画策し始める。前回の事件から7年、彼女のもとに届いたハンニバル・レクターからの手紙。博士の手で醜い姿に変えられた富豪のメイスンの憎悪、そして彼の金に群がる人間の欲望。天才犯罪者レクター博士は、そして彼の理解者であるクラリスは男たちの魔手から逃れる事が出来るか。
この作品に関しては、これ以上内容について触れることができない。ヴィスコンティの映画『ルートヴィヒ』を思わせる官能と狂気は、出版された2000年という年だけでなく、20世紀の棹尾を飾るといって間違いは無い。『羊たちの沈黙』に続きこれも映画化されたが、映像はあまりに衝撃的。レクターの心に迫るラストはまさに黄昏。この作品に関しては、小説に限る。
そう言っておきながら最後が映画の話というので恐縮だけれど、ジョディ・フォスターがクラリス役を辞退したのは残念としか言いようが無い。年齢といい、美しさといい彼女こそピッタリなのに。他の映画が入っていたとか、いろいろ言われているが、出演していて怖かったのではないだろうか。むろん、レクターがではなく、フォスター自身がだけれど。
絢爛豪華な地獄絵図
2002/03/18 00:33
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:さとか - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作の「羊たちの沈黙」が「暗闇の中に浮かぶ一羽の蝶」というイメージだとすると,今回の作品は「絢爛豪華な地獄絵図」とでもいうのだろうか。冒頭から派手である。とくにフィレンツェの章は圧巻。中世の時代から呪われている血族の話が伏線として登場してくるが,それらが最後の殺戮の場面と絶妙に絡み合い,残酷な構図の中にも美しさを感じさせられるのはさすがハリス。
正義の人食いヒーロー
2001/06/24 18:35
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投稿者:花梨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
悪役転じて正義の味方となる。少年ジャンプ的なパターンをハリス先生、どうどうと用いています。まあ、ベストセラーに映画化も書く前から決まっている作品ですから、無難なところでまとめたのでしょう。レクター博士をヒーローにするために、もっと悪いキャラクターを作って、悪人同士の対決になるあたり、完全にマンガです。前作の主人公だったクラリスの、影が薄くなるのも仕方がないでしょう。ルパンや007のようにシリーズ化すればよいのに、この結末では無理のようです。残念。
サイコ・スリラーではないけど
2001/03/06 10:42
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投稿者:青木みや - この投稿者のレビュー一覧を見る
言わずと知れたあの『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』に続く3作目。が、サイコ・スリラーの大傑作だった前作とは趣が全く異なる。くれぐれもこれから読み始めるなどということは慎みましょう。せめて『羊たちの沈黙』は必読。
『ハンニバル』は待望の作品だった。怜悧で獰猛な殺戮者、ハンニバル・レクターとしなやかなFBI捜査官クラリス・スターリングである。さぞや異様な興奮と冷や汗をかくような怖さを味合わせてくれるのだろうと。しかし、その期待は奇妙な方向に裏切られた。サイコ・スリラーでは全くない。それを期待すると大外れに終わってしまう可能性がある。
物語はエピソードに富んでいるが、筋は単純である。あのバッファロウ・ビル事件から7年。クラリスはベテラン捜査官になってはいたが、華やかな活躍を妬まれ出世の道は閉ざされていた。そして麻薬組織の銃撃戦の失敗でマスコミの非難の的となったクラリスの元に届いた1通の手紙。「親愛なるクラリス」。逃亡を続けるレクター博士からだった。クラリスはレクター博士の捜索にかかりきりになる。
一方、レクター博士への復讐に燃える寝たきりの権力者メイスンは、レクター博士を執拗に狙う。出世欲と自己保身の亡者、司法省のクレランドラーを抱え込み、クラリスを餌にレクター博士を誘き出すのだった。
『羊たちの沈黙』では結局、クラリスのトラウマは癒されず、彼女はレクターによって抉られた傷を抱えたまま7年を生きてきた。そして本作ではレクターのトラウマが明らかにされる。クラリスとレクターは似たもの同士である。激しく憎み殺し合うか、惹かれあうか、になるのは自明の理だったのだ。かくして『ハンニバル』は浄化と再生と癒しの物語となった。そこではカニバリズムも汚れを体内に取り込み浄化していく崇高な行為となっている。そこには戦慄を覚える。
レクターは怪物から荒ぶる神となり、癒しの天使を腕に抱く。
読み終わってから、随所にラストへの伏線が張られているのに気づく。やっぱり凄い作家だと思う。サイコ・スリラーではないけど、読んで損はない。しかし、まあ正統ミステリ派は嘆くよね。トマス・ハリスが、これからどういう路線で書くかが非常に気になるけど、また10年待つのでしょうか。くー。
【初出】
ハンニバル
2000/10/27 21:24
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投稿者:螺旋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
クラリスは卑劣で独善的な出世主義者に組織内での行く手を阻まれ「神学にほとんど絶望している医療伝導団」さながらだが、誠実に献身的に職務を遂行している。しかも名誉は不当に損なわれ、クロフォ−ドにはバックアップの余力もない。
この世の何処にいようと、倫理道徳は言うまでもなく善も悪もあらゆる権威や価値観から解き放たれた超越者ハニバル・レクタ−が残した僅かな痕跡に、復讐の怨念と化した、メイスン・ヴァ−ジャ−の邪悪な触手が蠢きだし、孤高の戦士クラリスも必死の追撃を開始する。
待ちに待ったトマス・ハリスの新作はテンポ良く緊張感も豊かに幕を開ける。何より読みやすく、意識の流れを中断しない展開が快適で、異常性も何気に膨張してくる。
優美さと力強さで全き自己実現の至福を創造しようとするレクタ−の魅力が古都フィレンツェに炸裂する。思いっ切りスノビッシュに、かつペダンティックに開陳されるレクタ−のスタイルから、堕天使の真摯さや悪魔の理想主義が伝わってくる。だが、謎めいたレクタ−の過去が明らかにされ、数知れぬ悪行の動機が合理的に説明されてしまうのは、レクタ−の魅力を阻害する要因にもなりうるものだ。だが、そんなリスクをものともせず、ハリスは、絶望から生まれ、それ故に神に拮抗しようとする堕天使ハニバル・レクタ−の肖像を入念な陰影をもって描きだす。
欲望の数だけ誘惑の種子はある。
果てない欲望が誘惑の果実をたわわに実らせる。
レクタ−・ザ・カニバルが欲望の何たるかを示す時、
人はその誘惑に抗うことができない。
「自分の手の届くかぎり、そんな世の中にさせるもんか」というクラリスの理想主義は直裁で力強く、レクタ−の幼児性を凌駕している。天国と地獄の理想主義が激突する時、戦慄の祝祭が幕を開ける。
月並みなカタルシスを拒否したビタ−スウィ−トなエンディングの味わいは、この大世紀末、規範無き世界の宙ぶらりん感覚に満ちている。全員が犯人なのだと明らかになった今、有効な処方箋など何処を探してもありはしないのだ。
『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』と斬新で驚異的な面白さに満ちた作品と比べると、『ハンニバル』にはミステリとしての弱さがある。だが「レクタ−サガ」としてこの3部作を見たなら、『ハンニバル』は俄然その輝きと存在感を増してくるのだ。だから、思いがけぬ大胆さと華麗さとで、シリ−ズをかくも見事に成熟させ、完結させたトマス・ハリスの志と技の前に、ミステリとしての瑕疵など何程のものか、むしろ讚えられてしかるべきだろう。
これはトマス・ハリスが1981年の『レッド・ドラゴン』以来ほぼ20年にわたって紡ぎ続けた、ハリス流『地獄篇』とも『失楽園』とも『経験の歌』とも受け止められるのだ。
バアルとアシュタロスの婚姻に、世界の再生と新たな秩序の確立をつかの間幻視し、夢想するのは、キリスト教的に過ぎるとはいえ、大世紀末を生きる我々の、今だけに許された禁断のエンタテインメントにほかならない。
ラブストーリー?
2000/07/13 23:20
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投稿者:田口善弘 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「レッドドラゴン」「羊たちの沈黙」と続いたいわゆるレクター三部作の完結(?)編。ついに自由の身となった「影の」主人公レクター博士がとうとう三作目で晴れて主人公に。で、何をするかというとこれがスターリング捜査官とのラブストーリーと来るからちょっと恐ろしい。勿論、レクター博士のことだから一筋縄のラブストーリーであるわけもない。実際には、博士に復讐を企むかつての被害者の執念深いレクター追跡劇が物語の縦糸だが、本筋はあくまで横糸のレクターとスターリングのラブストーリー。映画化も決まっていて、レクター博士は「羊たちの沈黙」と同じくアンソニー・ホプキンスだが、スターリングは残念ながらジョディ・フォスターじゃないとか。しかし、レクター博士がPhysical Reviewまで読んでいるとは驚いた。僕より物理が出来そうですね、描写からすると。まさに万能の天才だったわけだ、彼は。狂人だけど。
面白かったです
2022/03/14 13:38
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投稿者:iha - この投稿者のレビュー一覧を見る
とにかくクレイジーでした。ただ、怪物レクター博士の内面までを描写してしまうのはどうなのでしょう。上巻のイタリア編では「悪魔」と呼ばれた彼が下巻では単なる人間になり下がってしまったのは興ざめではありました。まあそれを補って余りあるくらい猟奇なのですが…。途中気持ちが悪くなりました。
レクター博士が本格的に動く
2020/05/27 17:24
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投稿者:のび太君 - この投稿者のレビュー一覧を見る
これまでの2作では癖の強い脇役だったレクター博士が本格的に動く。しかも敵のキャラクターにも特徴がある。
フィレンチェ
2017/06/15 21:01
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投稿者:マー君 - この投稿者のレビュー一覧を見る
長年の拘束から逃亡しつかの間の永住の地をフィレンチェに得たレクター博士。しかし博士を執拗に追う宿敵の手が迫る。
羊飼いの沈黙ではクラリスの過去や内面が描かれていたが、ここではレクター博士の過去が少しづつ明らかとなり、博士がなぜ彼女に関心を持つのかが記されていく。
羊たちの沈黙を超えて
2002/03/29 18:56
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投稿者:シャーロック - この投稿者のレビュー一覧を見る
あの、『羊たちの沈黙』から、7年後が本書の舞台。またレクター博士やクラリスに再開できると思うだけで、読む気が起きる。
前作から7年後。FBI特別捜査官となったクラリスは、麻薬組織との銃撃戦をめぐって窮地に立たされる。激しい銃撃戦で、クラリスが自身の身を守るために射殺した犯罪者が、赤子を抱いていたからだ。そのことで司法省やマスコミから糾弾され、苦しい立場に追いやられるクラリス。そこに届いた藤色の封筒。しなやかな手書きの文字は、追伸にこう記していた。「いまも羊たちの悲鳴が聞こえるかどうか、それをおしえたまえ」と。怪物レクター博士を取り巻く物語が、また新たに始まった。
前作『羊たちの沈黙』で、レクター博士は確かに怪物だった。だが、本書では、前作知り得なかったレクター博士の心のうちまでが語られる。読み進むうち、冷たい怪物、人間ならぬ身と思っていたレクター博士の印象が崩れ落ちる。彼もまた、血が通い、触れれば温かささえ感じられる人間なのだとわれわれは気づかされるのだ。そうしてみると、いったいレクター博士、彼だけが、倒されるべき悪であるのかと深く疑問を感じてしまった。彼を追い詰める人間の醜悪な姿をみるとき、レクターが殺人者であるという事実も忘れ、彼を助けたいという衝動に動かされた。そして、その衝動に自分が1番驚かされた。追いかける被害者や、FBIよりも、犯罪者の側を助けたく思うとは…。倫理観を揺さぶられるような作品だった。上巻を読んだら、下巻を読まずにはいられない。そんな作品が本書だと思う。
本当に異常なのは、誰か?
2001/03/22 10:50
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投稿者:Tehanu - この投稿者のレビュー一覧を見る
レクター博士は、常人の心理構造を持たない、異常者を超越した異常者だ。その対局にあるのが、FBI捜査官のクラリス。なんかこの構図は、デーモンと天使という感じ。そして、その中間に、いるわ、いるわ、歪んだ人間の群。
ハリス氏は、よくもまあ、これだけ悪趣味な人間達を描けるものだ。しかし、前作の二つもそうだけど、その歪み方が中途半端な人間は、レクター博士に、いいように弄ばれてしまう。
こうなると、何を悪と呼ぶのか、という境界線がわからなくなってくる。美しくない歪み方をもってレクター博士に接したからこそ、彼らは無惨な最後を遂げるはめになるのだ。
ごまかしや欺瞞を嫌うクラリスのような、ある意味では、もっとも歪み方の少ない人間に対して、レクター博士はやさしい。
自らの真実と向き合おうとしている人間と、そうでない人間との差が、レクター博士の美意識によって、区別されているのではないかと思う。
そう考えると、レクター博士って、本当に異常なのか、という疑問が浮かんでくる。実は、それこそ、デーモンの罠って感じもするけれど。
案の定、最後には、正義を超えた結末が待っている…。
沈黙は金なりって昔の人は言ってるよ
2001/03/06 22:18
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投稿者:katokt - この投稿者のレビュー一覧を見る
一般の続編から言えばレベルは高いことは認めざる得ないが、明らかに前作よりは劣っている。
楽しめるのはこの本にまつわるゴシップやラストのハーレークインロマンス調はまったくもっていただけないといった意見ぐらいか。まあ友達とかとこういう話ができることが、ベストセラーにのるような最近の本をよむほとんど唯一といっていい利点だったりするが。
ジュディーフォスターは今回は台本を読んで自分から降りた。なんてゴシップは確かに面白い。
いやそもそもゴシップに走るようでは小説としての面白さって何ってことにもなるんだが、まあ少なくとも1回は読んで楽しめる。
詳しくは
おマエそんな奴だったのかよぉぉっ!
2003/02/28 17:03
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投稿者:ぼこにゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
結論から言うと、全面的にショボい。特に後半。
シリーズ第一作「レッド・ドラゴン」の映画化で今お読みになる方も多いかと思います。私の感想は残念ながらペケ。前作(「羊たちの沈黙」)での血も凍るような怪物・レクター博士の残虐非道ぶり、緻密に組み立てられたストーリーを丹念に追って行く楽しさ、いずれも今回はずいぶん色あせてしまっているのが悲しい。下巻になるともうほとんどストーリーも投げやりな感じ。期待が大きすぎたせいもあるんでしょうけど。
思うに主人公レクター博士は作者ハリス氏の最もお気に入りのキャラクターなのでしょうね。それで「羊」の後も(十年間ですよ)頭の中でレクター博士を可愛がり続けたのに違いない。好きなキャラクターとかタレントさんと空想の中でたわむれる、みなさんもそんなことないですか?
で、この作品に限って言うと、作者の親心がレクターを駄目にしちゃったなーっていう感じ。「羊」での悪の権化だったレクターが、今や「悲しい過去のせいでグレちゃったかわいそうなボク」みたいなことになってしまっているのですね。書評のタイトルは私がレクター博士の襟をつかんで涙ながらに絶叫したセリフと思って頂きたい。
別に私はムゴい話が好きなわけでもないのですが、やっぱり「レクターVSFBI」の頭脳戦対決を見たかったもんでねぇ。目を覚ませレクター、と言いたい。
ハンニバル
2001/03/27 22:06
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投稿者:新田隆男 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『ハンニバル』(上・下) トマス・ハリス著 高見浩訳 新潮文庫
『ブラック・サンデー』以来、人探しをテーマのひとつとしてきたトマス・ハリスにとって『ハンニバル』は大異色作である。『レッド・ドラゴン』以来、獄中のシャーロック・ホームズとして、その推理力を発揮してきたレクター博士は不在、そのレクターを探し出そうとする復讐鬼ヴァージャーが登場するが、プロファイリングというハリスの得意技は、ことこの作品に至っては、使えない。ゆえに『ハンニバル』は第一部『ワシントンD.C.』では、ひたすらクラリスを掘り下げ、第二部『フィレンツェ』ではレクターの足取りを追う。そして、二人の内面へと潜りつづけるのだ。
映画化された『ハンニバル』には全く登場しないが、小説では、FBI行動科学課長ジャック・クロフォードがかなり大きな役割で登場する。『レッド・ドラゴン』ではグレアムとともにレクターを追い、『羊たちの沈黙』ではクラリスの成長を見守り、そして『ハンニバル』ではクラリスの父親代わりとしての役割をまっとうしたクロフォード。レクター三部作とは、クロフォード三部作とでも呼べるシロモノなのだ。クラリスは、幼い頃失った父親の姿をクロフォードに見る。そして、クロフォードが逝ってしまった後、レクターとの宿命の再会を果たすのだ。最後に待ち受ける、衝撃的なオチを少しでも整合性のあるものとするために、ハリスはクロフォードを使って、クラリスと父というものを描き続ける。映画では、見事なまでにその部分が削られているのだから、違うラストが待ち受けるのは当然だろう。一方、レクターは何ゆえにクラリスを求めるのか? レクターの妹ミーシャが紹介され、そこも掘り下げられて行く。
正直、ミステリーとして読んだ時、『ハンニバル』には、『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』にあったカタルシスはない。ヴァージャーが手管を使ってレクターを見つけ出す、というよりも、レクターが自ら姿を現す、に近い描き方がなされているからでもあるのだが、ここには今まで機能させてきたサスペンスの仕掛けは意図的に排除されているのだ。代わりにあるものは何か? クラリスはクロフォードに父親を見、そしてレクターにも父親を見ている。そして、最後の瞬間、オチを経てクラリスから見たレクターが演じている役割とは? あるいは、クラリスとレクターの築いた関係とは? すでにサイコ・サスペンス、ミステリーといったものを超越してしまった『ハンニバル』。スティーブン・キングをして、「『エクソシスト』と並んで20世紀に屹立する傑作!」と言わしめた衝撃のラストは、仮に映画を見たとしても、読まずにはいられない!
(新田隆男・エンタテインメント探偵)
勧善懲悪
2001/03/23 19:41
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投稿者:こてつ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ジョディ・フォスターがあまりに醜悪なストーリーに出演依頼を断った、などとまことしやかに噂されたりした本作。映画のコマーシャルでもスリル、恐怖、怪演が表に出されている気がするけれども、私はむしろこの作品の一番の見所は何より確かな構成力によってテンポよく物語を読者に「見せる」ストーリー展開であると思う。
私の中ではスターリングはジョディフォスターの顔をして、冒頭の銃撃戦、それをきっかけとして追い込まれる窮地、レクターの足跡を辿り、ヴァージャー邸へと乗り込む、そして衝撃的なラストシーン、その一つ一つの真剣な表情が心地よいテンポでくるくると目の前を交錯する。
この物語は勧善懲悪である。そう感じた。レクターの幾多の殺人、それらは贖われることがなかったのに。おそらくそれは、彼の行為が「悪」と呼びえるものを超越しているからなのかもしれない。だから私には、それ以外の彼の行為とは比較にならないせこくて小さな悪、それらに対して感じていた嫌悪感が全て解消されたとき、勧善懲悪が達成されたと感じたのかもしれない。
「悪」を超越した行為。それに対しては物語を読み終えたあとにも、違和感が残る。それはレクターという人物のイメージとともに心の中に奇妙な感覚を呼び起こす。テンポのよいストーリー展開と小気味よい勧善懲悪、そしてその上でなお残る違和感。そのようなアンビバレントな読後感を残す本書は、近頃まれに見る傑作だと思うのである。