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刑事ヴァランダー・シリーズ みんなのレビュー

  • ヘニング・マンケル(著), 柳沢由実子(訳)
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みんなのレビュー28件

みんなの評価4.1

評価内訳

36 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本目くらましの道 上

2008/06/22 13:57

シリーズ最高傑作

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:佐吉 - この投稿者のレビュー一覧を見る

背骨や頭部を斧で叩き割り、さらに被害者の頭皮を剥ぎ取るという、常軌を逸した連続殺人事件。その犯人がわずか14歳の少年だとしたら、それはかなりショッキングな結末と云えるだろう。しかしこの作品では、そのことがはじめから読者に明かされている。物語の冒頭、最初の殺害の場面が、犯人と被害者の視点で描かれるのである。舞台はスウェーデン南部の小都市イースタ。少年は自宅の地下室で、神聖な儀式と入念な化粧によってアメリカ先住民に「変身」すると、フルフェイスのヘルメットに顔を包み、モペットで現場に向かう。そして周到に準備された「任務」を、淡々と「遂行」するのである。

このように最初に犯人の側から犯行の様子を描き、その後、捜査陣が真相を究明する過程を綴ってゆく推理小説の形式は、一般に「倒叙(とうじょ)」と呼ばれ、マンケルの得意とする手法の一つである。マンケルは、サイコスリラーさながらの身の毛もよだつ殺害シーンの描写によって、読者をいきなり物語世界に引きずり込み、同時に犯人の異常な性格を強烈に印象づける。少年はなぜそんな犯行を重ねるのか、捜査陣はどうやってこの思いも寄らない結論に辿り着くのか。そう思った瞬間、読者はマンケルの術中にはまっている。あとは彼の巧みなストーリーテリングに導かれるまま、最後まで一気にページを繰り続けるしかない。

本書は、風采の上がらない中年刑事クルト・ヴァランダーを主人公にした、マンケルの警察小説シリーズの5作目にあたる。CWA(英国推理作家協会)ゴールドダガー賞を受賞し、スウェーデン人作家マンケルの名を、一躍ヨーロッパ全土に知らしめた作品でもある。ヴァランダー・シリーズは、1991年から1999年にかけて9作が発表され、うち本作までの5作が邦訳されているが、この『目くらましの道』をもってシリーズの最高傑作とする声が高い。

美しい初夏の訪れに、夏の休暇を心待ちにしているイースタ署の面々。と、そこに、ある老農夫から自宅の畑に不審な人物がいるとの通報が入る。どうせ思い過ごしだろうと高を括っていたヴァランダーだったが、現場に着いてみると、確かに菜の花畑に一人の少女が立っている。何かにおびえている様子のその少女に、ヴァランダーは声をかけながら近づいてゆく。すると少女は、やおら頭からガソリンをかぶり、手にしたライターで自らに火をつけ、焼身自殺を遂げてしまう。

そうして平和な夏が一瞬にして悪夢に変わる。署員たちはすぐさま少女の身元を調べはじめるが、目の前で事件を目撃したヴァランダーはショックを隠せない。するとそこへ、署員たちの動揺に追い討ちをかけるように、殺人事件の一報が入る。政界を引退し、今は隠遁生活を送っている元法務大臣が、何者かによって惨殺されたというのである。イースタ署に戦慄が走る。しかしそれは、さらなる惨劇の序章にすぎなかった……。

犯人が最初からわかっている倒叙小説においては、多くの場合、いわゆる神の目線で見た主人公の推理の冴えと、追う側と追われる側の心理的駆け引きが大きな見どころになる。本書はもちろん、その点において一級品である。加えて本書には、すべての手がかりを読者にフェアに提示し、読者が主人公と平行して推理を進めてゆくことのできる本格ミステリの興趣がある。決して、犯人の些細なミスから足がつくなどといったチャチな捕り物ではない。自身到底信じられない結論にヴァランダーが辿り着くとき、読者は、そこに仕掛けられた伏線の巧妙さに思わず唸らされるに違いない。

マンケルは、あくまで警察小説のプロットにおいて、普遍的な人間の懊悩と現代スウェーデン社会の暗部とを鮮明に提示してみせる作家である。身辺にさまざまな悩みを抱え、捜査の過程においても、凶悪犯罪に我がことのように心を痛めるヴァランダーの姿は、シリーズを通じて読者の共感を誘ってきた。本書ではさらに、殺人者たる少年の背負った十字架も激しく胸を打つ。二人の息詰まる対決は、最後まで読者を惹きつけつつ、哀しい余韻を残してゆく。本書は、警察小説というジャンルを超えて、永く記憶されるべき一冊である。

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紙の本笑う男

2006/02/24 00:51

苦しい休暇、気まずい復帰を乗り越えて

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ケルレン - この投稿者のレビュー一覧を見る

 ヴァランダー警部は、前作『白い雌ライオン』の事件から立ち直ることができず、長く苦しい休暇を経て警官を辞めようと心を決めた。そこへ友人の弁護士が訪ねてくる。父親の事故死に不審な点があるので調べて欲しいというのだ。警官としての自信を失ったヴァランダーが、力になれないと伝えた数日後、その友人が殺されてしまう。事故死と他殺。まるで無関係にみえる二つの事件に繋がりを感じ取ったヴァランダーは、辞意を撤回して捜査を開始する。
 辞職すると聞いていた同僚や部下は、ヴァランダーの部屋を使い、捜査での役割も新たにしていたから、皆、戸惑いを隠せない。かなり気まずい上に、休職が長すぎたせいで聞き込みや会議の進め方にも自信が持てない。そんなヴァランダーだったが、事件の核心に迫るにつれて、だんだんと警官としての勘が戻ってくる。いつも衝突している父親を古い人間だと批判していた自分が、古い警官の部類に入るようになったことを感じ、世代間のギャップにも悩むが、新しい警官像の必要性を認めた上で、自分のような警官も悪くないのではないかと思い始める。ヴァランダー再生の物語ともいえるかもしれない。
 本シリーズの魅力のひとつにスウェーデン小説であることが挙げられると思うが、本書でスウェーデンらしさを感じたのは、新しく登場した女性警官フーグルンドの設定だ。若くて美人で優秀な刑事とくれば、たいてい独身だが、彼女は結婚していて子供もいる。子供が病気になれば仕事を休むし、夜間の捜査が必要になれば夫に子供をみてもらい、「先に寝ててね」と言って仕事に出る。彼女は仕事か家庭かという二者択一で悩んだりはせず、家族のことは家族の問題として、仕事のことは仕事の問題として対処するのである。今後、イースタ署におけるフーグルンドの存在はますます大きくなりそうだ。

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紙の本殺人者の顔

2002/03/25 20:46

スウェーデンの社会派ミステリー

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ケルレン - この投稿者のレビュー一覧を見る

 冬の嵐が近づく夜、片田舎の村で老夫婦が襲われた。男は惨殺され、女の方は最期に「外国の」という言葉を残して息絶える。ヴァランダー刑事らイースタ署の面々は、犯人が外国人である可能性も含めて捜査を進めるが、手がかりはほとんどなく、犯人の動機さえつかめない。迷宮入りの様相を見せる中、外国人容疑者の線がマスコミに漏れ、外国人排斥運動に関わる人々を刺激してしまう。そして、移民逗留所でさらなる殺人が起こる。

 スウェーデンのミステリーは初めて読んだ。天候や風景の描写からは、荒涼として半端じゃない寒さがよく伝わってくるが、何よりも興味深かったのは、その社会状況だ。スウェーデンが移民を積極的に受け入れてきたとは知らなかったし、あんな寒そうな国に東南アジアやアフリカから渡ってきた人々までいるとは意外だった。移民をめぐる記述には、生活を脅かされるのではないかという不安と人種差別を否定する良識との葛藤がうかがえる。
 一方で、やはりと感じる馴染の問題も出てくる。老人問題、熟年離婚、世代につれた価値観の変化などだ。これらのスウェーデン版が、ヴァランダー刑事の私生活に踏み込んでじっくりと描かれている。
 本書を読んだ後、スウェーデンの映画監督ベルイマンに触れた新聞記事で、思いがけず著者の名前を見つけた。なんと彼はベルイマンの娘婿で、隣人でもあるという。ほとんど人づきあいをしないベルイマンだが、著者とは日常的に話をする間柄だとあり、ベルイマンとの交流を可能にした著者の魅力の一端が、この小説にも表れているのではないかと思う。
 刑事ヴァランダー・シリーズは、本書を皮切りに九作出ている。是非とも二作目以降を早く翻訳して出版して欲しい。

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紙の本五番目の女 上

2010/10/11 23:10

悪人なら殺してもいいのか

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ケルレン - この投稿者のレビュー一覧を見る

 ヴァランダー刑事シリーズ第6弾。一人暮らしの老人の不在、何も盗らない不法侵入。事件性がないと思われた二つの通報が、たっぷりと苦痛を与えてゆっくりと殺された死体の発見で、残虐な連続殺人事件へと発展する。殺人方法の異常さと、それぞれが何の接点もないことからサイコパスを疑うが、被害者たちの人物像が明らかになるにつれ、ヴァランダーは別の観点から捜査を進めていく。

 何年にも渡って他人を痛めつけてきたような人間は、殺されて当然だという感情は抑えがたいし、警察は何をやっているのだ、と思うことはしばしばある。しかし、私達は法によって秩序を保っているのだし、警察だって現場の人間はこつこつと地道な仕事を重ねているのだ、ということが、ヴァランダーたちの捜査を通して、リアルに描かれている。

 1996年の作品(スウェーデンが舞台)だが、正義とは何かという問いや、信用できない警察に代わって市民が悪人を裁こうとする動きなど、現在の日本にとってはタイムリーな問題ではなかろうか。

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紙の本背後の足音 上

2011/08/19 22:28

8月を暖かいと感じる国の事件

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

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 ヴァランダー刑事の同僚スヴェードベリが頭を吹き飛ばされて殺された。同じ頃、友達と旅行に行った娘がいつまでも帰ってこないと何度も訴えてくる母親がいた。警察は事件性はないと考えて放置していたが、なぜかスヴェードベリは一人で捜査をしていたようなのだ。やがて娘たち3人の遺体が奇妙な状態で発見される。

 殺人は計画的で異常なまでに緻密で、おまけに被害者たちが私生活の一部を注意深く隠していたため、動機や手がかりとなる人間関係がまったく浮かんでこない。死んだ若者の両親には責められるばかりだし、ヴァランダーは糖尿病にも苦しめられ、相棒の女性刑事は夫婦関係の危機にあり、実りのない捜査が続いてまともな睡眠も取れず、誰もが消耗していく。

 今回は警察の仕事が肉体的にも精神的にもひたすらハードワークであることがリアルに描かれている。警官たちはまともに家に帰れないし、際限のない徹夜続きだ。上層部が政治的駆け引きをしている間、現場の人間が這いずり回って作業を進めているのは、どの国も同じということか。

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紙の本リガの犬たち

2016/06/30 19:43

警察小説のはずが、国際的な陰謀ものに。それもスウェーデンという立地のせい

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る

このシリーズ、「警察小説」と言ってはいますが、作者が描きたいのはその時代の空気、体制やら組織やら、混沌とした世界そのものと、そこに生きるひとりひとりの人間の姿、という気がする。 だから登場人物それぞれが魅力的なのだ。 かっこ悪くても、間違いだらけでも。
冒頭で、リードヴェリ(前作に登場。 ヴァランダーの先輩刑事)がすでに亡くなっていることがわかる。 いや、いつかは死ぬことは知っていましたが、こんなに早くとは・・・。 ヴァランダーのように、私もショックを引きずった。

スウェーデン南部の海岸に、二人の男の射殺死体が横たわったボートが流れ着いた。 彼らはどこから来たのか? 捜査の結果、どうやらラトヴィアかららしいということがわかるが・・・。
ラトヴィアってどこですか?、という私の疑問にもヴァランダー警部が答えてくれる。
スウェーデンとバルト海を挟んで向かい側にあるのに、ラトヴィアについてよく知らないどころかバルト三国の首都もごっちゃになっているそうで・・・わー、近くの国の人もそうなんだね! というかそれで私もスウェーデンとバルト三国の位置関係を知るのだった・・・リガが世界遺産に登録されてるのは知ってましたけどね(物語の設定は1991年。 世界遺産登録前だ)。

独立はしたもののロシアからの影響から逃れられない共産主義国家、それがここに出てくるラトヴィアの姿で、自由やら民主主義が当然のこととして身についているヴァランダー警部にはわかったつもりではいても理解できないことらしい。 なんでこんなにラトヴィア人はたばこを吸うのかと驚き、自分は死刑が存在する国にいるのだと気づいて息が止まりそうになったりしている。
ヴァランダー警部、日本に来ても驚いちゃうだろうな・・・。

まぁそんなわけで女運の悪いヴァランダー警部はリガの未亡人に恋してしまい、彼女のために、要人の汚職・腐敗を糾弾し真の独立を目指そうというまぁある意味テロリストグループに加担することになるのです。 まぁテログループというよりは、レジスタンスに近いか(そこに至るまでの、リガの捜査官との友情のほうをもっと読みたかったのだが)。
警察小説のはずが国際陰謀物語になってしまいましたが・・・でも、話がそっちに飛ぶ可能性を、その時期のスウェーデンが持っていた、ということなんだろう。

北欧は私の中で長らく「テキスタイルの国」だったが、やっと実情を伴った国として認識できてきたような気がする。 これもこのシリーズのおかげかと。(2009年2月読了)

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紙の本リガの犬たち

2004/06/20 15:50

後を引く捨てがたい味わい

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る

 後を引く印象的な雰囲気と、ちょっと捨てがたい味わいを湛えたスウェーデン警察小説の佳品。惜しいと思うのは、主人公クルト・ヴァランダー警部と、鳥類学者かマジシャンになりたかったリトアニアのカルリス・リエパ中佐(ミステリアスな憂愁をたたえていて魅力的)が、つかの間の出会いにもかかわらず深く心を通わせあうに至った経緯がやや説明不足であることと、未亡人バイバ・リエパ(弱さと毅然を兼ね備えていて切なく魅力的)とクルト・ヴァランダーのラブ・アフェアをめぐる顛末がちょっと淡泊すぎて食い足りないきらいがあること。そもそも、主人公がリトアニアの政情に巻きこまれ深入りしていく経緯が、心理的にもストーリー的にも唐突な感じがする(だから、意外な真犯人が判明するクライマックスの盛り上がりにちょっと不満が残る)。このあたりのことをじっくりと書き込んでいれば、紛れもない傑作ミステリーの水準に達したと思う。

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紙の本リガの犬たち

2003/05/04 01:05

常に監視されることの恐怖と状況がまったくわからない不安

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ケルレン - この投稿者のレビュー一覧を見る

 二年三ヵ月待ってのクルト・ヴァランダー・シリーズの第二弾。遅いじゃないかとつぶやきながらも、ほっとした。第一作『殺人者の顔』で虜になり、ぜひ読み続けたいシリーズだと思ったが、展開は地味だし、主人公は情けない中年男だし、舞台は馴染みのないスウェーデンの田舎町とくれば、売行きが悪ければ次は出ないかもしれない、そして何よりもスウェーデン語の翻訳者は多くはないだろうから、本書の訳者が翻訳を続けてくれなかったらどうなるのだろうなどと考え、ずっと心配だったのだ。本国ではとっくに出版されていると知っているのに、言語の違いゆえに翻訳を待つしかないというのは、自分ではどうしようもないだけに本当にじれったい。

 その私の状況をヴァランダー警部が同情してくれたわけではないだろうが、本作では彼も言語の違いに悩まされる。題名にあるリガとは、バルト三国のひとつラトビアの首都のことで、ヴァランダーは事件の捜査のためリガの警察と協力しあうことになる。お互いの言語ができないので、会話は英語を使うことになるのだが、お互いに上手ではない。ひどく手間がかかり、うまく伝わらなくていらいらする。しかし、理解の欠如は言語だけの問題ではないことを、リガに行って身をもって知ることになる。

 射殺死体を載せたゴムボートの漂着から始まった事件は、ヴァランダーに常識外れの行動を起こさせるほどの体験を強いる。二十四時間監視され、誰もがもっともらしい話で表面をつくろい本心を見せず、物事がどこへ進もうとしているのかまったく予想がつかない中で、ヴァランダーの推理は何度も根底から崩れていく。彼の不安と恐怖は、そのまま社会状況を映し出す。
 強大な政権が崩壊したとき、圧政から解放されて自動的に自由が手に入るわけではなく、新しい種類の犯罪や予想のできない事態が起こる。これは、ソ連が崩壊していく時期、独立直前のラトビアを舞台にしているが、近年のアフガニスタンやイラクの状況を推測させる描写も少なくない。

 前作は移民問題に伴う犯罪、そして今回は大きな国際情勢の変化に伴う混乱と先の見えない不安。当時のヨーロッパの問題は十年以上たった今、私たちにとってももはや無縁とは言えないものとなっている。

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紙の本目くらましの道 下

2016/06/30 19:31

私を北欧ミステリブームに引きずり込んだ記念すべき作品

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る

よさげなタイトルと表紙の装丁に、思わず手に取った。
なんと舞台はスウェーデンである。 ヴァランダー警部が電話で呼び出された先で、少女が謎の焼身自殺をとげる。 その後、斧で割られ、頭皮をはぎとられた死体が連続して発見される事件が起き・・・そんな警察小説。

上下巻だし、長いなぁと思ってしばらくほうっておいたのだが、読み始めたらえらく面白くてやめられない。
スウェーデンの警察といえばマルティン・ベックだが(以前ドラマで見た)、ヴァランダー警部シリーズはそれよりも少し時代は後になるらしい。 そう、シリーズ物の5作目だったのである。
うわっ、こりゃ1作目から読まねば!

スウェーデンというよく知らない国に対する理解が深まる、という意味でも面白いのです。
油断して日焼けしすぎて病院に行く人がいたり(緯度が高いんだな)、一週間の休暇ぐらい普通にとれる環境だったり、福祉が手厚いイメージだけどそれなりに貧困層が存在したり、通貨単位がクローネだったり(マルティン・ベックのときも思ったな、そういえば)。 ただ人の名前がなじみのない音のため、どれが誰のことだがいまいちわからない・・・。 登場人物一覧とにらめっこ。
シリーズ物だからか、キャラクターがそれぞれ魅力的。 スウェーデン人、という日本人からは身近じゃない人々の日常が示される分、親しみがわきます。
で、スウェーデンの警察組織についても詳しくなるぞ。 人物造形だけでなく、勿論、事件についてもしっかり書きこまれているので、ただの目新しさだけでは終われない。 壮絶な事件を前にもがき苦しむ警察官の、日常生活もしっかりと。

このタイトルが気になったのは、もしかしたら以前のこのミス海外部門の上位にランクされてたからかな? そう思えるほどに、硬派で骨太。
舞台は1994年なのでスウェーデンにはまだ科学捜査を本格導入していない模様、FBI的プロファイリングもあまり信憑性は見出されてない(触れられてはいるが)。 思わず、「それはきっとそういう意味だよ!」と伝えたくなってしまうのであった。 でも14年以上前なんだよね・・・。

ミステリとしては結構早い段階で犯人がわかってしまうのであるが、読ませどころはそればかりではないのでそんなに気にならない(あまりに早いのでミスリードだと思った。 裏を読みすぎるのが私の悪い癖だ)。
ヴァランダー警部はヒーローとはほど遠い人物であるが、「それが自分の仕事だから」という仕事人としての姿勢は、誰にでも起こりうること(事件に遭遇するということではなく、そのような気持ちになったり決断を下さなければならなかったり、という意味で)だと思わせてくれるのだ。
世界は広い。 文化も様々だ。 でも、まっとうな人は本質的な部分できっとわかりあえる。(2008年12月読了)

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紙の本殺人者の顔

2001/11/30 10:47

スウェーデン警察小説の傑作

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:Lady - この投稿者のレビュー一覧を見る

 ふだん、英米のミステリばかり読んでいるので、いかにもスウェーデンらしい描写が出てくると、不思議な感じがします。マット・スカダーのシリーズが好きな人にあいそうです。
 訳者あとがきもすばらしくて、あとがきだけでも読む価値がありました。訳者のかたはスウェーデンにも住んでらっしゃるようで、その土地、国のことをよく知っているかたらしい、わかりやすい訳註がつけられています。翻訳もとても読みやすくて、おすすめの一冊です。

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紙の本笑う男

2016/07/03 18:02

警察小説の原点に帰りつつ、やはり社会派

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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る

ついにクルト・ヴァランダー警部シリーズ第4弾『笑う男』を読み終わる。
これで(この時点での)邦訳分は全部読み終わってしまった・・・続きの翻訳と出版を首を長くして待つ。

前作『白い雌ライオン』で正当防衛とはいえ人を殺してしまったヴァランダーはうつ状態に陥り、警察を一年以上休職。 デンマークのスカーゲンで隠遁&リハビリ生活を送っていたが、やはり無理だと退職を決意する。 そこへ旧友が訪ねて来て「事故で父親が死んだが、どうも事故ではないと思う」と捜査を依頼するのだが、ヴァランダーの決心を変えることはできない。 退職届を出そうとスウェーデン・スコーネに戻ってきたヴァランダーの目に映ったのは、その旧友が殺されたという新聞記事だった・・・という話。

ベテラン警部が正当防衛でしかも職務で人を撃ったのに、そのことから立ち直れない、というのがお悩みがちのヴァランダー警部だからというだけでなく、スウェーデンという国なのだなぁ、と思う。
まわりの人たちの理解度がアメリカなどとはまったく違う(まぁ日本もあやしいが)。 そして国際陰謀小説になっていたこのシリーズがまたスウェーデン国内の問題に目を向けており、勿論外国との関係はゼロではないものの軌道修正されたのか?、と思ってニヤつく。 ヴァランダー警部ばかりでなくマーティンソンや他の刑事たちにも愛着を感じている自分に気づくし。

第5作『目くらましの道』で重要な位置にいた女性刑事フーングルドがこの巻で初登場、まわりがどう扱っていいかわからなかったり優秀だという噂に自分の地位を脅かされると感じる人もいる中で、ヴァランダー警部と心を通わせていく過程はとても素敵だ。 しかも彼女は子供がいたりして、子供が熱を出したからと仕事を休んだりするのである。 勿論、男性刑事も奥さんが風邪をひいたから子供を迎えにいかないと、と普通に早退したりするし、みなそれを当然のことだと思っている。 さすがスウェーデン!
なんか女性刑事って独身で仕事バリバリじゃないとやっていけないようなイメージが自分の中にもあったのね・・・と反省した。

なんだかあたしはスウェーデンが好きになっている模様。
そしてシリーズ第6作刊行も、待ち遠しい。(2009年4月読了。 2016年現在、シリーズは9作目まで刊行中です)

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紙の本白い雌ライオン

2016/06/30 19:50

ヴァランダー警部シリーズである意味は薄いが・・・<現在>を生きるための物語

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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る

いきなり分厚くなってます。 700ページ越え。
『白い雌ライオン』というタイトルですが、表紙はアンテロープですかね?

不動産売買の仲介をしている女性が失踪したと届け出がある。 ヴァランダーたちの願いもむなしく、数日後、女性は眉間を撃ち抜かれた死体となって発見される。 一体誰が何のために? その事件は、南アフリカ共和国で起きようとしている陰謀につながっていた・・・という話。

前作『リガの犬たち』もそうだが、これもスウェーデンと他国の関係や違いが描かれ、国際スパイ小説ばりの展開を見せるのでページをめくる手が止まらず。
ボーア人、という存在、初めて知りました。
選民思想はユダヤ人だけじゃなかったのね(いや、どの人種にもそういう特別な気持ちはあるのか)。
そして何故アパルトヘイトなんてものが敷かれたのか、更に撤廃への道がこんなにも険しかったのだということも。 当時、アパルトヘイト廃止のニュースを見ているはずなのに、まったくわかってない自分、どうよ・・・(ベルリンの壁崩壊もリアルタイムで『今日の出来事』で見たはずなんだけど、その背景を学んだのもまた映画からだったなぁ)。

ヴァランダー警部の出番は半分くらいですが、まぁ話の都合上そうなるのは仕方がない。 ラストシーンにも立ち会えない主人公ですが、世界規模の物語ではそうなってしまうのかも。 というかヴァランダー警部シリーズとして書かなくてもよかったのかもしれないと思えるほど、独立した話というか、南アフリカに力点を置きすぎたような気もしないでもないんだけれど、まぁでも読んじゃった(読まされた)んで。
事件のたびに異文化に触れて自分の認識はとても狭いものであると驚くヴァランダー警部は、自分の足元はだいたい安定してると思っている世界中の人たちの代表であり、またそんな人々が彼のようであってほしいという作者の気持ちなのだろうか。 だからヴァランダー警部の話を、こっちも読んでいたいと思うのかも。
面白かったです。 また勉強になりました。(2009年2月読了)

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紙の本殺人者の顔

2016/06/30 19:35

タイトルは地味だが、その主題は2016年でも通用する。

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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る

『目くらましの道』から遡って、クルト・ヴァランダー警部シリーズ第一作を探し出す。
なんだか、スコーネという地名(物語の舞台)が懐かしい感じさえするわ。 すっかり彼らやあの土地に、親近感抱いてしまったようだ。

「スウェーデン警察小説の最高峰」と言われるシリーズの第一作としては地味なタイトル。 内容を読めば確かにこのタイトルにテーマは集約されるのですが。

ヴァランダー警視は妻に出て行かれたばかりで現実としてまだ受け入れられない状態。 仕事もするけど酒に逃げている。 5作目『目くらましの道』でもそれほどカッコイイというわけではなかったものの、登場となるこの作品ではひときわ格好悪い。 立ち直っていくその後を知っているのでよかったけれど、いきなりこれから読んでいたらすごくイライラしたかもしれない・・・。

移民問題とか、外国人を排斥しようとする極右的な勢力がいたりとか、スウェーデンも大変ですね。
犯罪、それも凶悪犯罪の手段と動機の移り変わりを「古い犯罪」と「新しい犯罪」とにわけ、これからは新しい犯罪が増える、事件は残忍になり捜査は困難を極めることになるだろうことをヴァランダーは実感する。
それが1991年の話。 確かに世界は、新しい犯罪のほうに進んでいます。 このシリーズはそんな激動の90年代を切り取る物語群なのですね。(2009年1月読了)

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紙の本白い雌ライオン

2005/03/13 00:18

困った中年警察官

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投稿者:ケルレン - この投稿者のレビュー一覧を見る

 クルト・ヴァランダー・シリーズ第三弾。今回、重要な鍵となるのは南アフリカだ。シリーズの舞台スウェーデンと南アフリカとの間にいったいどんな関係が? と思ったが、読み進むうちに、政治情勢によって利害関係が刻々と変化する、犯罪ネットワークの活動範囲の広さがわかってくる。いまや日本でも様々な国の犯罪組織の潜伏が報道される状況になってきているので、本書で指摘されている出入国管理の問題は、意外に身近なことかもしれない。
 ヴァランダーは相変わらずダメ男である。私生活で不器用なのは、警察小説にはよくあることだが、彼の場合、仕事でも問題が多い。規則違反でも型破りな捜査で事件を解決するならカッコイイかもしれないが、そうはならない。容疑者に軟禁されれば恐怖に震えるだけだし、根拠のない確信で独りよがりに突っ走っては犠牲者を出してしまう。上司はもちろん、部下までもが頭を抱えるばかりだ。
 ヴァランダー自身もタフではあるが、繊細で、自分の行動を客観的に振り返ることができるだけに、いつも後悔に苛まされることになる。このあたり、情けない中年男として共感を持つか、いい加減にしてよと苛立つか分かれるところだろう。
 南アフリカといえば、人種問題を避けることはできないが、本書での描き方は、黒人対白人といった単純なものではなく、個々人の複雑な事情が語られていく。アフリカ滞在が長く、現在もスウェーデンとアフリカを行き来しているマンケルならではの視点が随所で活かされている。

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紙の本霜の降りる前に 下

2023/05/20 16:53

リンダの今後はいかに?

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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る

久しぶりに再会した友人アンナが失踪したことで独自の調査をしていたリンダ。
謎の人物の住所らしきものを見つけたところ、ふいに襲われる。このシーンが何気に戦慄を起こす。昔は先進的な高層住宅だったが、今は裏ぶれ、住人も誰が住んでいるのやらわからない。麻薬の売買も行われている気配があるのに、住人は関りを恐れて放置している。そんななか当初からの住人で、今も自分の住み家の実態に目を光らせているアンデルセン夫人、こういう人がまだいることにほっとさせられること自体が、他人との関係が全くなくなった最近の状況をよく表していると思う。
さらに認知症を発症した老ピアノ教師のアパートに、本人も気づかない誰かが居住しているというのが、この作品全編を通じてもっとも恐怖を覚えた。動物への火を使った虐殺行為や森の小屋でのバラバラ殺人などよりも、静かだがそれゆえに何とも言えない底知れなさを感じさせるシーンだった。

物語はこれらの事件とアンナ失踪という二つのラインが並行して進む。
そのなかで、正体を現しつつあるアンナの父親とその帰還を待ち望んでいたアンナとのいびつな関係と、同じ職業を選んだことでようやく接点を持つに至ったヴァランダーとリンダという二組の親子関係を対比させているのが興味ぶかい。
それぞれの父親が娘の頬をなでるというシーンがあるが、全くちがった印象を与えている。片方は自分に絶対の自信をもち、娘と言えども自分の意思を遂行するための道具としてしか見ていない。一方のヴァランダーはといえば、仕事に信念は持ちながらもすべての状況をコントロールできないという限界を知っており、娘の無謀な行動が不安の種となる。子供は親にどういう存在であってほしいのか?とても考えさせられる問題だ。

ラストでかつての自分を思い出させるような追い詰められた少女に手を差し伸べるリンダが描かれる。このシーンも秀逸だ。ひとは自分の痛みを認識し、そのとき適切な助けを得られたからこそ、他人にも手を差し伸べられる。これこそがこの作品の最大のメッセージではないだろうか。リンダの警官人生もスタートしたがこのことを常に忘れないでいてほしい。

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