中原の虹 みんなのレビュー
- 浅田次郎
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蒼穹の昴 1
2008/10/14 20:09
ずっと読みたかったのですが
12人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:龍. - この投稿者のレビュー一覧を見る
ずっと読みたかったのですが、文庫化されるまで我慢していました。
場所は中国。時代は清朝末期。
どのような時代でも、悲惨な家族はいるものです。しかし、清朝末期の人々は、本当に可哀想な国・時代に生まれてきた人だと言えるでしょう。
この物語の主人公は、春児(チュンル)。極貧の家にうまれ食うや食わずの生活で、生きる長らえることこそが彼の人生。
一方、彼の幼なじみの文秀(ウエンシュウ)。かれは村の裕福な家にうまれ、中国最難関の試験、科挙に挑みます。
この対照的な二人が、故郷を離れそれぞれの道を歩んでいく様は、まさに人生そのもの。
ただ、あることから二人を運命の糸が結び付けていくのは、小説ならではと言うところでしょうか。
中国へは何度も言ったことがあるのですが、最初にいった15年前の北京の路地裏の風景はこの物語に出てくる感じだったと記憶しています。
清朝。
ロマンを感じる時代ですが、大変な時代だったと実感。
http://blog.livedoor.jp/c12484000/
珍妃の井戸
2005/06/07 00:54
近代中国史への思いをかきたてられて
16人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hisao - この投稿者のレビュー一覧を見る
時に清帝国の末期、出世欲と権力欲に取り付かれた儒教官僚と宦官の退廃政治。
自らの手を血に汚す事で最高独裁権力者にのし上がった西太后。
彼女によって幼時より名ばかりの皇帝に擁立されながら ついに康有為を中心とする革新官僚とともに政治維新に立ち上がったものの あえなくも失敗、幽閉の身となった光緒帝。
光緒帝とともに維新の夢を追い捕らわれた皇帝最愛の側室・美貌の珍妃。
義和団事件を口実に牙をむいて北京に攻め入る帝国主義列強8ヶ国連合。
西太后は青衣に身をやつし、囚われの光緒帝、珍妃、側近ともども北京城脱出を決意する。
西太后の命に反抗する珍妃。“皇帝陛下は北京にとどまり洋鬼子と和議にあたられるべきでありましょう”
西太后は激怒する“即刻そこなる井戸にぶち込むが良い!”
これが歴史の定説であります。
浅田次郎氏はこの北京陥落直前の西太后の脱出、その混乱の中での珍妃の死の“謎”を追って1つのメルヘンを紡ぎます。
英の提督、独の大佐、露の銀行総裁、日の大学教授によって正義の名の下に“珍妃殺害の真犯人捜し”が行われる。
宦官、袁世凱、皇帝の愛を競った珍妃の実姉・瑾妃、廃太子溥儁(プーチン)それぞれが語った真実の一面。
しかし尋問官4名の取り合わせに最後のどんでん返し・光緒帝と珍妃の魂の叫びが仕組まれています。
死に行く珍妃、愛する皇帝への最後の語りかけ。
“あなたを愛しています、あなたは天子だからね、あなたは世界の天と地を支える天子だからね、自分の富のために他人のものを奪おうとする人間など一人もいない仁の教えに満ちた世界で一番豊かなこの国のあなたは天子だからね“
私は“甘ちゃん”かも知れませんが、“蒼穹の昴”同様、氏の“メルヘン”によって近代の中国史、日本史への思いをかきたてられ改めて読み返す機会を与えて貰いました。
日本が誇り高き中国人民の歴史に残したぬぐい去れぬ傷跡。
かって周恩来は万感の思いで賠償を放棄した事でしょう。
賠償や詫びを求めるよりも“歴史を忘れるな”と執拗に主張する中国。
何故に帝国列強は中国に対しかくも破廉恥な強姦行為をなしえたか?
何故に中国はそれを許してしまったのか?
昨今小泉首相の靖国参拝に対する中国側の抗議が盛んです。
中国にとって靖国問題は一つの象徴です。
教科書問題、都知事の挑発的言辞。
オピニオンリーダー達は日本人の“自虐史観”を改めよと申しますが、自己の利益のために血に飢えた人間の犯した愚かな歴史の記憶を抹消せよと言うのでしょうか。
珍妃の井戸
2008/09/21 09:43
結構読んでいます
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:龍. - この投稿者のレビュー一覧を見る
結構読んでいます。浅田さんの作品。
この「珍妃の井戸」は「蒼穹の昴」の続編。最近の言葉で言うと、スピンオフ作品です。中国の近代史は、ロマンとともに悲劇の色彩が濃く、読み進むと何とも言えない感覚になります。
この小説では、清朝第十一代皇帝の側室で、美女の誉れ高い珍妃の悲劇的な最期を描いています。
史実はともかくとして、あまりに悲劇的な結末。
この清朝の終末期を描いた小説の登場人物は、すべて悲しみに包まれている。国家の動乱と、その動乱の中で自分の悲劇を運命として受け入れる人々のコントラストが感動を呼ぶのでしょう。
平和な時代に生まれてよかった・・・
http://blog.livedoor.jp/c12484000/
蒼穹の昴 1
2006/12/05 00:00
その続編だと思われる『中原の虹』を読む前に再読しておく価値はあった。浅田次郎初期の大傑作。
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
読んだそのときには心に留まった作品でもエンタテインメント系の長編小説となるとうまいタイミングでもなければ二度読む気にはなれないものですが、この作品の続編にあたる『中原の虹』が目下刊行中とあってまさにタイミング到来、再読しました。1996年に読んだ浅田次郎の初期の作品です。「この物語を書くために私は作家になった」とキャッチコピーはオーバーな表現に思われましたが、そんなことはなかった。この大ロマンの構成の妙に驚かされた記憶があります。
必ずや汝は西太后の財宝をことごとく手中におさめるであろう。中国清朝末期、糞拾いの貧しい農民の少年春児は老婆の予言を信じて宦官になるのですが、宦官になるために「男」を切り落とす浄身はこれほどの凄惨な施術だとは、いやぁ生き地獄のこのくだりはいつまでたっても忘れることはできません。
地獄といえば科挙の試験のすさまじさもこの作品ではリアルでした。
梁文秀、汝は長じて殿に昇り、天子様の傍らにあって天下の政を司ることになろう………とこれも老占い師の予言。文秀は科挙トップ登第を果たすのですが、夢うつつに合格答案の作成に導く奇跡も忘れられないところでした。
物語は「都で袂を分かち、それぞれの志を胸に歩み始めた二人を待ち受ける宿命の覇道」なのですが、彼らの周囲にある脇役たちがいいんですね。そこには男と女の美しい愛の形、兄弟愛、師弟の恩愛、男同士の友情、差別されたものたちの連帯など感動のエピソードが次々に展開されます。登場人物のほとんどが善人なのですね。悪者をあえて挙げるなら、これらの人物群に悲劇をもたらす時の流れなのでしょう。そして逆境にあって運命を切り開いていく勇気を至高のものとして謳いあげている作品なのです。
ところでこの作品の人物造形でもっとも秀逸なのは西太后ですね。漢の呂后、唐の則天武后と並んで中国史上三大悪女といわれたこの烈女、咸豊帝の妃で、世継ぎを生み、咸豊帝の死後に政権を握った。そしてわが子同治帝と甥の光緒帝の二代にわたり、皇太后として権力を振るい続けた。呂后や則天武后の専横は15年ですが、西太后は47年間と長きに渡って君臨しています。一般的には内憂外患にあえぐ落日の清朝にあって、権力の座を維持するため武力、謀略、暗殺で内外の勢力と綱渡りの糾合を繰り返してきた血も涙もないワルモノの代表です。だが浅田次郎はそうはしなかった。西太后は清の最盛期を築いた乾隆帝の亡霊がその歴史的役割を与えた宿命の人なんです。
帝が政をなし、官が民をしいたげる五千年の歴史、そちは鬼となり修羅となって、国を覆す。そちが未来永劫に悪名を残してこそ、未来永劫この国の民は救われる。夜叉の仮面を被った真の観世音として生きよ。
と、つまり中国が五千年の君主専横政治に終止符を打ち、近代的な民主主義国家に飛翔するための積極的捨石の役割でもって登場させているのです。この発想の豊かさ、その新鮮さ、ドラマチックであります。
洋務派で忠節の士・李鴻章の武力と政治力を背景にした西太后。しかし日清戦争の敗戦後,李鴻章は政治の表舞台から退く。文秀の属する光緒帝派の発言力は増し、98年、康有為ら変法派とともに光緒親政のクーデターが行われた。これに対し宦官のトップランクに立った春児は西太后の信任が厚い。彼女は袁世凱の武力を背景に戊戌政変を起こして新政を失敗させ、変法派を処刑・追放、光緒帝を幽閉して,三たび垂簾政治を始めた。文秀は日本に亡命する。
『蒼穹の昴』はこのあたりで完結しています。
浅田次郎の独創的な歴史デザインにより、歴史小説の趣はありません。帝国主義列強の貪欲な素顔はなく、歴史観を云々する類ではありません。伝奇小説風な華やかな妖しさが全編に流れ、私たちが忘れがちな本物の愛と勇気、義理と人情を浮き彫りした壮大な人間ドラマと言えるでしょう。
珍妃の井戸
2011/10/18 06:29
真実は耳にいたい
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:renogoo - この投稿者のレビュー一覧を見る
蒼穹の昴の続編。
蒼穹の昴で主人公だった、春児、文秀、西太后などは登場せず、脇役だった人物(光緒帝、珍妃、アメリカ人のジャーナリスト、蘭蘭など)がでてきます。
義和団の乱の最中、井戸になげすてられて殺された珍妃。
国際問題にも発展しかねないこの事件を調べるべく、イギリス、日本、ロシア、ドイツの外交官が清国関係者をインタビューしていきます。
一人一人話しをきくうちに、紫禁城の裏側の話がみえてきますが、一体だれの話が本当なのか。
最後に列強の外交官が話しを聞く相手は幽閉されている光緒帝。
光緒帝のはなしがとても身にしみます。
真実知りたいと連呼する外交官たち、真実を知ってどうするのでしょう。
構成もよく、大変よくかけていると思った。
蒼穹の昴をよんだら、ぜひこれも。
蒼穹の昴 1
2005/01/29 00:15
こんなに面白いなんて…。
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:真琴 - この投稿者のレビュー一覧を見る
中国の歴史小説という苦手なジャンルだが、「今まで読んだ本で1番面白かった!」今なら自信を持って答える。(ちなみに2番目は同作者のプリズンホテル。)
寝不足に耐え、4冊一気に読みきった。そしてため息の出るような充実感。
貧乏な家に育ち、糞拾いを仕事としていたが、人との出会いによって出世していく「春児」。
春児の幼馴染で、お金持ちの家に育ち、科挙試験に合格して出世コースをゆく「文秀」。
主人公はもちろんのこと、それ以外の人物も負けず劣らず魅力的だ。(何故か西太后はギャル系…)
単にサクセスストーリーというわけではなく、主に2人の目を通して、中国の歴史・文化等を、自然な気持ちで見ることが出来る。
難しい内容であるにも関わらず、さすが浅田次郎!と思わせる軽快な語り口で、笑い、泣き、頷き。飽きることなく読破出来るだろう。
「外国の話は名前がわからなくなるから嫌。」「歴史の話しなんて興味ないもん。」という私のような読者には特にお薦めしたい。
書評に興味のなかった私も、「とにかく読んで欲しい。」という思いで、投稿させてもらいました。是非読んで下さい!
中原の虹 第1巻
2011/06/24 20:43
すごいところまで行ってしまっている
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
これだけ重厚な物語を、これ程までにすいすいと読ませてくれるというのはもう、奇跡としか言いようがない。構成のうまさ、文章のうまさ、言の葉の美しさ、いきいきとした登場人物たちなどなど。それらが奇跡のように相まって、このような作品が生まれ出るのだろう。読む側はがっしりと心を捕まれ、いや身動きさえ出来なくなって息つくことさえ忘れさせられてしまう。さすが当代切っての文筆家、浅田次郎。すばらしいの一言。なんというか「すごいところまで行ってしまっている作品」だと思う。
浅田氏の作品はこれまで全て追ってきた。どれを読んでも心奪われる傑作ばかりだけれど、中でも「蒼穹の昴」を読み終えた時の感覚は忘れられない。浅田次郎という作家は、異国のこんな壮大なストーリーも書けるのかと。しかしその蒼穹の昴から繋がる本作品、それとは比べようもなく、すごい。何しろ横幅と縦幅が圧倒的に大きい。中国の歴史と世界感、これが圧倒的に読むものを魅了し掴んで離さない。しかし本作品は決して、中国の歴史が好きだ興味があるといった者の為だけの本、ではない。云わば本好きが本の素晴らしさを再確認し、その悦びと快感に身もだえ打ち震える為にあるといって、過言では無いと思う。
西太后という圧倒的な官軍と、次の世を狙う賊軍白虎張という、非常に分かりやすい設定がまず物語りに入りやすい。そして徹底した研究から為されるのであろう構成とストーリーは、読んでいて何の違和感もなく納得の連続で進んでいける。そして何より、キャラクターが魅力的だ。賊たちの粋と独特の理屈にわくわくとさせられ、西太后の神がかり的な雰囲気と相反した茶目っ気にはくすりとさせられる。さらに終盤に日本人将校吉永が登場し、物語はさらに面白さを加速させて次巻へと続いていくのだ。
溜めに溜めて読み始めて良かった。次巻以降、一文字一文字、舐めるように読んでいこう。
蒼穹の昴 1
2005/02/23 03:23
読み出したら止まりません!
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:apple - この投稿者のレビュー一覧を見る
『蒼穹の昂』、本当に感動しました。自分は良い本に出会えたと心から思える作品でした。
ストーリーとしては貧乏な家に生まれた春児と科挙を目指している文秀の生涯を描いたものなのですが、彼らの周りの人々にもぜひ注目してもらいたいと思います。それは登場人物、一人一人に心に響く物語があるからです。彼ら一人一人のストーリーは、後半に描かれる時代の大きな移り変わりへと繋がっていきます。この物語の時代設定は清時代の中国。変法運動が叫ばれ、革命に今にも火がつこうとしていた清の末期です。西太后はもちろん、猿世凱、李鴻章、康有為など、実在の人物も多く登場します。しかし、小説の中では、明・清あたりの中国の複雑な歴史、民族の勢力など、分かりやすく書かれていて、大変読みやすくなっています。中国史は複雑でちょっと…、という方も大丈夫だと思います。
特に長編小説の場合には最初の方が結構退屈で、途中で断念してしまったり、読むのにすごく時間がかかってしまったり、ということもあるのではないかと思いますが、『蒼穹の昂』においてその心配は無用でしょう。私はこの小説を読むまで浅田次郎の著書を読んだことがなっかったのですが、本当に読み出したら止まらなくて、驚いてしまいました。他にやらるべきことがあるにもかかわらず、4巻を読了するまで、頭の中はこの本のことでいっぱいでした。読み進めることに夢中になり、他のことに手がつかなくなる方も多いでしょう。連休など、時間のあるときに読むことをオススメします。そしてこの感動の物語をじっくり楽しんで下さい。
中原の虹 第3巻
2011/07/21 10:23
巨星落ち、天下が動き始める。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
前巻で絶対的権力者西太后が逝去し、いよいよ天下が動き始める。まだ幼少の皇帝「溥儀」が即位するものの、虎視眈々と日本を含め諸外国がその土地を、そして革命勢力が覇権を狙い始める。その勢力に対抗する為に袁世凱が呼び戻され、実権を握るようになる。しかし物語の主人公、白虎の張作霖が満州から東北地方を統べ、名実ともに「東北王」となった。そして覇者の印「龍玉」は、その張作霖の息子の手の中にあるのだ。果たして中華の国は、一体どのような命運を辿るのか。
王朝崩壊から中華民国の樹立まで。中国の歴史の何と興味深く面白い事か。国ががらりとその様相を変えるあたり、日本における大政奉還にも似た感触があるが、まるでスケール感が違う。物語構成も大きいが、登場人物の感覚もまた大きい。島国日本ではちょっと得難い感覚で紡ぎだされる歴史と冒険的物語は、何とも読み手の心を捉えて離さない。
孫文に蒋介石、梁文秀と役者はそろった。次の4巻で最終巻。さぁ物語は一体どう終結するのか。期待度120%で進んでいきたいと思う。
蒼穹の昴 3
2008/10/20 23:19
物語もいよいよ佳境。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:龍. - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語もいよいよ佳境。
幼なじみが、それぞれに長い年月を経た後、紫禁城で再会するという、とても刺激的な部分です。
自分の主義主張は、どのように形成されるのか?
完全に自分自身の意志だけではないような気がしてきます。日常的に「流される」ということとは若干違いますが、周りの環境や時代により意志も影響を受けると思います。
その影響を受けた主義主張が、時代の流れに則したものであれば、その人は成功するし、そうでなければ時代から排除されるのかも?
そういう意味では、宗教は大切な存在です。すべての決定権があるのですから。
本書では、「天」という言葉で説明されています。
歴史小説では、読者はある程度時代の流れを知っているため、結末が読めるのにもかかわらず、主人公たちは悲劇的な選択をしていきます。
そこに小さな人間の行動のあわれさが強調され、感動を生むのでしょう。
龍
http://ameblo.jp/12484/
蒼穹の昴 2
2008/10/20 23:18
第二巻。
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:龍. - この投稿者のレビュー一覧を見る
第二巻。
主人公の春児は、命を長らえる代わりに宦官となるべく修行の日々。一方の文秀は科挙をトップの成績でパスし、エリート官吏の道へ。
二人を取り巻く環境は、この時点でも決定的にことなります。
清王朝末期、その時代に権力の座に君臨していたのは、西太后。
彼女は、歴史上その政治力と権力欲の強さで有名な人物ですが、この本では趣がややちがいます。
醜い権力欲は、時代の流れを冷静に見ている結果、自分が清朝の最期を見届けなければという使命感からくるものだということ。
真実はどうかはわかりませんが、彼女にそういった感情があったとしても不思議はないような気がします。
それにしても、この小説に登場してくる人々の個性豊かさは、読者の心に強い印象を残します。
とりわけ私が好きなのは、李連英。宦官のトップである彼(?)は人間の欲をストレートに行動にあらわす人。
ある意味、こういう生き方もあり。
龍.
http://ameblo.jp/12484/
中原の虹 第4巻
2011/08/08 11:04
世界の真ん中に咲く華の、行く末
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
前巻でとうとう崩御した西太后。当然のごとくその後の世界を巡って、世は混迷する。東北王として君臨し、伝説の龍玉を持つ張作霖。清朝を倒して新しい国家を築こうとする新勢力、革命家の孫文。その勢力に対抗するべく復活した「天才的俗物」袁世凱。そして清朝の延命をはかる、実の皇帝宣統帝溥儀とその側近の者達。明日の中華を思う力がぶつかり拮抗し、今にも崩れ落ちそうになったそんな時。天才的指導者、「宋教仁」が現れる。選挙にも圧勝して中国を民主化の道へと導き、新しい世界が開けるのかと思わされた、その矢先。なんと宋教仁が暗殺され、あろう事か袁世凱が皇帝に即位してしまう。そして世にもおかしな皇帝が二人いる国家が誕生してしまうのだ。一体中華の国の行く末は、どうなってしまうのか。
世界の真ん中に咲く華、中華の大輪。その激動の歴史を垣間見れ、非常に面白かった。まともに学術書でも開いたなら、とてもとても読み切れた物ではないだろう。それを春雲兄弟のような架空の人物を絶妙な按配で織り交ぜ、この壮大な歴史絵巻をエンタテイメントの粋にまで昇華させて読ませてくれたのは、さすがとしか言いようがない。この4巻で完結となったけれど、しかしまだ「蒼穹の昴」シリーズは終っていない。本作品では、登場人物それぞれの最終的な道が示されてはいないのだ。次作では明らかになるのか、楽しみでならない。
蛇足ですが「蒼穹の昴」から続くこのシリーズを読むと、非常に読書力と日本語力が付くと思う。重厚な物語でありながら、非常に魅力的な登場人物やそこここに交えられたユーモアなどで、中学生くらいからでも十分読めると思う。また浅田氏らしい美しい言葉や言い回しが随所に見られ、「ああ日本語は美しいなぁ」と、思わずため息が出てしまうほどだ。そういう意味から、夏休み中の中学生高校生に、ぜひ挑戦してみて欲しいシリーズだと思います。
中原の虹 第2巻
2011/07/05 13:36
西太后を描いた2巻
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
清国時代の中国、その覇権を巡って馬賊の総元締めである張作霖が声を上げた1巻。掴みはオッケーというか心臓を鷲掴みにされて、息苦しさにような物さえ覚えたもの。2巻では早速張作霖の大躍進!となるのかと思いきや。泣く子も黙る清国の女王にして生き仏とまで呼ばれる、西太后を巡って物語は展開していく。その興味深い人間関係や、西太后の意外なまでにヒューマンな人間像に引き込まれ、またがっちりとハートを掴まれてしまう。そしてこの2巻から、いわゆる浅田節炸裂!という感がある。…泣けるのだ。それもじわりと涙がにじむのではなく、一瞬で滂沱の海と化してしまう。電車だろうが喫茶店であろうが、お構いなしに涙が噴き出してしまうのだから本を開くのにはよほど注意が必要である。
欧州列国から一人中華の国を守り抜いてきた西太后、だからこその孤独と痛嘆。四億の民と引き換えるように、夫と子供を手にかけた西太后の深い想い。そして養子として皇帝に即位させたにも関わらず、国を守るために幽閉してしまった光緒帝への愛情。謁見する事すら叶わず秘密裏にテレグラムで交わす、あまりに切ない二人の会話の内容。そして物語終盤、西太后のただ一人の側近、大総監となった春児との会話がまた泣けた。蒼穹の昴を読んだ方なら覚えておいでであろう、苦労を重ねて宦官になったあの春児である。とうとう光緒帝に謁見を申し出た西太后。その機会を何と春児はぶち壊してしまう。命を賭して行動した春児の、心の裡に秘めた西太后への愛情。そして西太后が春児に与えた罰…まぁ、泣ける。電車であろうが仕事中だろうが関係なく、マッハの勢いで涙が噴き出る。この胸震わせる感はもう一体どうなのだと考えるに、もちろん物語の素晴らしさがあるのだが、やはり浅田氏の筆致のすさまじさがある。文章のうまさリズムのうまさ、語彙の豊富さ表現のうまさ。それらの全てがあいまって、登場人物たちは頭の中で生き生きと飛び回り、西太后はきりりとこちらを睨みつけてくる。もし本書を手に取られたのなら、まず間違いなく美しい西太后の姿を「見る」事が出来るはず。血の涙を拭こうともせずに中原の空を見上げる、美しい西太后の姿を。
2巻最後には、その西太后がとうとう亡くなる。そして誰もが予想だにしなかった、たった3歳の溥儀が皇帝に即位するのだ。ところが中原の覇者の証「龍玉」は張作霖の子、漢卿の手にあった。いよいよ3巻では覇権を巡って世界が動くのか。楽しみでならない。
蒼穹の昴 4
2008/10/20 23:20
シリーズ完結作。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:龍. - この投稿者のレビュー一覧を見る
シリーズ完結作。
清朝末期の歴史は、未来に対する「夢と理想」。列強に植民地化されていく「残酷な現実」の対比で語られます。
最終回の本作品では、やはり悲劇的な結末が待っています。
時代の流れに逆らうものと流れに身を任せるもの、どちらも必死に生きているのだ。
この作品を読み終えて感じることは、「自分の天命とはなにか」ということ。たぶんこの世に生まれてくるからには、何らかの役割が与えられているはず。
国家や世界という広い範囲の中で、自分の役割を見出すことは、至難の業でもあります。
でも、本作品では主人公格がすべて死ないので、ちょっと救われた気も。悲劇性を強調するには、「死」が最も簡単です。しかし、著者があえてそうしなかったのはどこかに意図があるのかも。
中国、久しぶりに行ってみたくなる小説でした。
龍
http://ameblo.jp/12484/
2019/03/09 21:38
西太后という一人の女性
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:扇町みつる - この投稿者のレビュー一覧を見る
『蒼穹の昴』は、ラストエンペラー溥儀の一代前の光緒帝の御代、貧困の中で生きる春児(チュンル)と科挙に合格した地元の名士の息子梁文秀がそれぞれの形で紫禁城に上がり、西太后や皇帝に仕え、二人はそれぞれの立場で戊戌の政変に巻き込まれていきます。
冒頭で書いた映画などの影響で、とても不気味な女性というイメージで固まっていた西太后は、この作品ではとても人間的に描かれています。時には癇癪を起こすこともあるけれど、西太后もまた、激動の時代に翻弄された一人の女性となっています。