S&Mシリーズ みんなのレビュー
- 森博嗣 (著)
すべてがFになる The perfect insider
2009/06/08 19:07
科学を好きになるミステリィ
21人中、17人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:にゃーる - この投稿者のレビュー一覧を見る
(1)読もうとしたきっかけ
大学に入学した頃、通学時間が往復5時間と長時間であったため読書時間にしよう思った。
どんな本がいいだろうかと考えていたとき、大学の同学部同学科の友人がこの本の作者である「森博嗣」さんを薦めてくれた。
「森博嗣」さんの作品は多くがシリーズということだったので、まずシリーズ1作目(実は4作目?)の本書を読むに至った。
(2)内容
主人公:N大助教授・犀川創平(さいかわそうへい)
女子学生・西之園萌絵(にしのそのもえ)
主人公らが偶然訪れた島にある研究所で天才工学博士が殺害される。
完全隔離された部屋での殺人――密室殺人であったこと、また、
殺害現場のパソコンのディスプレイには「すべてがFになる」というメッセージが残されていたことから、謎は深まる。
犯人・密室トリックを推理していくストーリー。
(3)登場人物
・犀川先生、萌絵共に強烈的個性のある人物。
物理、数学の知識量が多い先生に、暗記・計算に強い萌絵。
科学要素が強く出ている人物だけに、ストーリー展開も常に科学と隣り合わせ。
あまり深く考えすぎるとこっちの頭がパンクしてしまうので、「ああこういうものなんだな」と適当に流すことも必要。
とにかく天才的な2人が主人公ということで、非現実的でおもしろい。
・同じ科学人間でも、先生と萌絵は真逆の性格をしている。
おっとり?まったり?ゆっくり?している印象を受ける先生と積極的に事件に関わろうとする萌絵。
真逆の2人の会話だからこそ面白みがあるのかもしれない。
(4)本書を読み終えたら…
森博嗣さんの推理小説は大体ほとんど“理系ミステリィ”と称される。
実際、本書でも理系用語はモリモリ出てきた。
先生と萌絵の会話も理系ならではの観点が多く、読んでいて大変面白く、興味深い。
先生と萌絵が主人公のシリーズはS&Mシリーズとして全10冊ある。
全て読んだが、やはり本書を読み終えたときの感動は一番大きかったと思う。
ただ、シリーズを通しての面白さも十分あるため、シリーズ全巻をオススメしたい。
有限と微小のパン The perfect outsider
2009/01/19 16:36
舞台に幕を引く
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
萌絵の幼なじみ塙理生哉が社長を務めるナノクラフトの招待で、テーマパークを訪れた三人。空港で偶然再会した島田文子から、目的地で死体が消失するという不可思議な事件が起きていたことを聞かされる。そして実際に萌絵たちは死体が腕だけを残して消えてしまう現場を目撃する。犀川や萌絵を観客と見立てたように次々と起きる事件。その背後に見えるあの天才の影。いったい誰が何のために事件を引き起こしているのか?
シリーズを通して1話完結の形式を取りながら、作品構成としても、作中人物達にしても、それぞれに関連性を持ちながら全体として1つの作品群を作り上げたと言える。これをなしえた理由の一つとして、シリーズを一貫する思想の存在が挙げられるだろう。
すなわち、謎の全てに常に解答が用意されているわけではない、と言うこと。そして、読者は事件の直接的な観測者にはなりえないと言うこと。だからこそ、どこまでが事実でどこからが作中人物の意見なのかを見極め、解くべき課題設定を行い、事実に基づく仮定を組み立て、事実との突合せをする必要が出てくるのだ。
今はもうない Switch back
2009/01/12 21:13
認識のすり合わせ
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
避暑にやってきた笹木は、散策中に西之園のお嬢様に遭遇する。自分の別荘に戻りたくないと言う彼女を、仕方なく滞在中の別荘に連れてきたのだが、その晩に、双子姉妹が密室で死体が発見されるという事件が起きる。笹木の視点で描かれる事件後の人々。繰り出されるトリックの数々。事件の真相は?
シリーズ5作までは自己に内在する論理の発露としての事件だったのに対して、6作以降は他者から見た自己の認識に対する干渉としての事件に移り変わっているように思える。
シリーズはそれぞれ完結して事件間のつながりは全くないのだけれど、それぞれの作品が後の作品の伏線として機能している部分もあり、とても面白い関係性だと思う。
封印再度 Who inside
2009/01/08 13:41
実際に再現可能ならちょっと見てみたい
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
儀同世津子の土産話として、50年前の密室死の現場に残された、取り出せない鍵の入った壺とその鍵で開ける箱の話を聞いた西之園萌絵は、現場となった旧家を訪ね、現物を見せてもらう。その後、50年前に亡くなった香山風采の息子、林水も、父と同様の状況を残して死体で発見される。萌絵から話を聞いた犀川創平は、嫌々ながらも事件に巻き込まれていくのだが…。密室と家宝の謎に関係はあるのか、果たして自殺なのか、他殺なのか?
提示された謎に対して、問題を分割し、状況を再現する仮説を立て、実際に検証するというのが、解決へのステップ。この際に作者は、問題を、論理的に解決できる問題(=どうやって密室を作ったか、何のために密室を作ったか)と、解決できない問題(=事件の動機、など)に分け、後者に対しては不定のままにしてしまう。一方で前者については、一意に解を定めるのだが、その際に使用する道具立てとして、おそらく一般読者があまり知らなかったであろうことを平気で使用する。これをアンフェアだと否定する向きもあるかもしれない。しかしこれは、作品を読むに当たって前提とする常識の、拡張的再定義を読者に求めているともいえる。あなたの知らない常識が世の中には溢れているのだよ、というわけである。
この、これまでの常識と新しい常識の接触と融合というプロセスは、犀川と萌絵の関係の変化という形でも比喩的に表現されているのではないだろうか。このようなミステリーの枠組みを拡張するための試みがなされていることが、本作を、単に読み捨てられるのではない、再読可能な物語たらしめている原因ではないかと思う。
有限と微小のパン The perfect outsider
2005/01/16 13:52
存在の行方
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:こう - この投稿者のレビュー一覧を見る
見事でした。
真賀田博士の登場や言動から来る森ワールド独特の雰囲気もさることながら、<S&M>シリーズ前9作全てがここに到るまでの伏線であり、要素だったのですね。 10冊読み終えてみると、やはりこのシリーズの中で一番好きなのは第1作『すべてがFになる』と本作『有限と微小のパン』ですが、かといってこの2冊だけではストーリーが完成しなかったというのもよく分かりました。
ないものをあると信じること、綺麗とか美しいということ、名前というもの、1つであるということ、一瞬で消えてなくなるもの、時間という概念、生と死……前9作で提出されてきた主題が、本作で集約され、本作で「存在の意味と行方は?」というテーマの下に完成されています。好きだなあ、こういうの。
「どこから来た? 私は誰? どこへ行く?」
存在というものがどこから来てどこへいくのか、とは、もうずっと昔から使い古されているにも関わらず繰り返し問われ続けているテーマですが、それに対してこんな答を返したお話って他には知りません。
不完全だからこそ愛しい/大切だとか、逆にまったく意味などないのに生きていかなければならないという悲愴さとか、色々あるけれどこれはどちらでもない。単に意味はない。でも意味があるかないかということすらも、たいした差ではない。ただそこで生きている。そんな感じです。
このシリーズを途中で投げ出してしまった方もいるでしょうが、なんとかこの最終作まで辿りついてください。
すべてがFになる The perfect insider
2001/10/09 14:19
こんなミステリを探してた!
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かずね - この投稿者のレビュー一覧を見る
「すべてがFになる」、「7は孤独」、「BとDも孤独」このキーワードはずっとなんだろう?って思っていたけれど、 最後で全て解決。なるほど〜。もう、これを読んではまってしまいました。みんなが絶対にいいから!って言うけれど 正直そんなにいいのかな?と思っていましたが、やっぱり、すごかったです。私は、全然、犯人がわかりませんでした(爆)
謎解きもいいですが、犀川先生と萌絵ちゃんの会話がいいですね。(^-^)あと、先生のジョークも(笑)。 とてもおすすめの本です。ぐいぐいとひきこまれます。1つ1つの章のタイトルに色が使われているのも印象的でした。あと、目次の前?表紙?の部分が研究論文っぽくって さすが、大学の先生だなぁと思いました。
すべてがFになる The perfect insider
2017/09/23 12:26
またも一気読みに近い面白さでした。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
またも一気読みに近い面白さでした。真賀田四季博士と西之園萌絵との不思議な緊張した面会場面の後、犀川博士と萌絵との奇妙なコンビのやりとりを経て、一気に不穏な殺人事件へ導入。あとは密室殺人事件を中心に謎解きだが、謎解き過程を科学的・哲学的議論でオブラートに包んで読者の推理する楽しみを最後まで残している。確かに、謎解きのヒントは各所にちりばめられてはいるのだが、決定的なヒントが見つからない。萌絵がかなり良い線までの謎解きを細目に出していくのに対して、主役の犀川博士は最後まで殆ど自分の推理を明かさないやり方はちょっと狡い気もするが、読者の推理する楽しみを最後まで残すという意味では仕方ないのかな。そして、最後で一気に謎が解き明かされるのだが、674:『笑わない数学者[3]』同様、真犯人がどうやら消えてしまうという謎めいた終わり方である。
<以下、蛇足>本作品の初出は1996年というから私がWin95を導入して、インターネットを始めた時期である。よって、PCに対してWS(ワークステーション)という言葉?機械?(笑)が出て来りして時代を感じさせる。その当時、VR(バーチャルリアリティ)は20年位先の技術として考えられていたが、天才科学者にとっては既に基本構想は描かれていたのであろう。本作品では、極めてリアルにVR装置が登場し、活用されているのである。先見の明に感服。
今はもうない Switch back
2014/07/02 12:31
個人的に一番好き
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:papanpa - この投稿者のレビュー一覧を見る
これ個人的にS&Mシリーズで一番好きです。ただ、絶対にこの本を最初に買ってはいけません!!
「すべてがFになる」「封印再度 」など読んでからにしましょう。でないと、面白み75%減ですよ。
すべてがFになる The perfect insider
2013/06/20 09:11
手の込んだトリック
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ノン - この投稿者のレビュー一覧を見る
こんな感じのミステリーが大好きです。
実際には不可能な場面のようにも思えるが、そこは著者の文章力で、容易に場面を想像出来ていしまう。
読んでいて次々ページをめくってしまう没頭感はたまりません。
有限と微小のパン The perfect outsider
2019/02/23 23:29
シリーズ最後、分厚い!
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つきたまご - この投稿者のレビュー一覧を見る
このシリーズも最後ですね。さみしいです。(短編はありますが)
犀川先生大好きです。萌絵との今後が気になります。次のシリーズ以降でも、二人のことが分かることもあるかと思うので、そこは楽しみにしたいです。
今回は某ラスボスが出てきている関係もあってか、文学的(?)要素が強いかもしれません。そこがまた楽しかったです。
正直、この作品が書かれたのが90年代ということに、驚愕しました。さすがは森博嗣と言いますか…
今回は、本当に「すべてがFになる」を読んでいないと、何も分かりません。要注意!
分厚い文庫にビビっていましたが、すぐ入り込めて、読みやすかったです。
すべてがFになる The perfect insider
2016/12/20 11:03
大満足の作品
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kissho - この投稿者のレビュー一覧を見る
非常に面白いです。読み終わって大満足です。密室トリックも、なるほどと感心しました。中心人物の二人も中々魅力的で、お嬢様の言動に周りが一々ため息するのも笑えます。ただ、理系の私でもちょっと難しい所もあり(機械系なので)、文系の方、特に制御領域に弱い方は結構イライラするかも。私的には、トリックを構成する部分に、それは流石に・・・、と言いたくなる所は一つ二つありますが、そこを許してしまいたくなるほど全体の構成は素晴らしいと思います。傑作でしょう。
すべてがFになる The perfect insider
2016/03/21 12:31
エキセントリック。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ななな - この投稿者のレビュー一覧を見る
孤島の研究所で起こる密室殺人。被害者は超天才科学者。更に死体の状態は。。。
と、あらすじをあげてみると、まさにエキセントリック。なのにすらすら頭に入ってくる不思議。
本当に洗練された小説だと思います。…犀川先生大好き!
すべてがFになる The perfect insider
2013/11/20 17:16
衝撃でした
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アップルティー - この投稿者のレビュー一覧を見る
17年前に講談社ノベルで読んだときは、衝撃を受けました。
今読むと、作中のIT技術が古く感じるかもしれませんが、物語そのものは全く古くありません。
情緒に流されない作品が好みの方は、一読の価値があると思います。
数奇にして模型
2009/01/16 12:14
理解できないままの状態は不安なのでとりあえず理解する
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
公会堂の鍵のかかった一室で、首なしの女性死体と気絶した社会人ドクタ寺林が発見される。そして、寺林の所属する研究室でも女性の死体が発見される。その部屋の鍵は寺林が保持していた。他に疑いようもない状況からどう抜け出すのかを、事件発生前から解決までを曜日ごとに分けて描いている。萌絵の従兄にして犀川の友人である大御坊や、萌絵の高校時代からの友人、反町愛なども登場する。
世界を認識するという行為は、自分の意識の中に世界のモデルを作る行為にも思える。ただし、材料として使えるのは、自分が知覚でき、かつ理解できる情報のみであり、作り上げられたモデルが世界を正しく反映しているとは限らない。しかし、自分の中ではそれが正である。そして、アウトプットが現実に近づくようにインプットを調整するプロセスを、理解と呼ぶ。
他者を理解することは、他者を自分のモデルの枠組みの中で理解することだ。上手くはまらなければ、多少削ったり付け足したりも平気でする。そうやってつじつまを合わせるのが普通だが、とにかくブラックボックスのまま受け入れて処理するという方法論もあろう。注意が必要なのは、どちらも得られる解が近似解であり、解析解ではないということだろう。そのズレが大きいか小さいかはモデルの出来栄えに因るし、たまたま答えが近くても論理が全く違うということもあるかもしれない。
封印再度 Who inside
2006/03/25 21:15
香山家に伝わる家宝「天地の瓢」と「無我の箱」の謎とは——
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kou - この投稿者のレビュー一覧を見る
香山家には二つの家宝が伝わっている。 その内のひとつ「天地の瓢(こひょう)」といういわくありげな名の壷の中には、鍵が入っているが口が小さくて取り出せない。仏画師・香山風采は息子・林水に、もうひとつの家宝「無我の箱」を開けるには、壷を割らずに鍵を取り出さなければならないと言い残し、謎の死を遂げた。そして50年経った今でも、その謎は解かれていないという。
萌絵はなんとかこの難解な謎を解こうとするが、そうこうする内に、ある雪の日、香山林水が父・風采とよく似た状況で、死体となって発見される。
川原で発見された林水、内側から施錠されていた林水の仕事場である蔵、蔵に残っていたおびただしい血痕、血糊のついた「天地の瓢」、その傍には「無我の箱」、見つからない凶器—— 林水を殺害したのは、誰なのか?
とても面白かったです。前半は他のシリーズ作と大差ありませんでしたが、読み終えたときには満ち足りていました。ここまでの満足感は『すべてがFになる』以来ですね。
今回のお話の焦点は、ひとつは萌絵嬢、もうひとつは「天地の瓢」と「無我の箱」でしょう。
前者は、ずばり、 “萌絵嬢、女優になる(そして周囲を振り回す)” です。
目的を遂げるために彼女は色々なお芝居をしていて、その見事さにびっくり。目的のためには手段を選ばないというのは西野園家の女性が持つ共通点のようですが、前作で大人になったなぁと思わせられた萌絵嬢、本作でやっぱり子どもだ、になってしまいました。
そしてもうひとつ。これは一言でいうなら「天地の瓢」と「無我の箱」に象徴される禅問答です。 微妙に完璧でないアンバランスさ、欠けているところに見出される美、己を滅するということ…。 そんなものが作品の中心を静かに流れていて、本を読みながら一緒に考えさせられ、読み終えても考えさせられます。 今回は明確な答えが出されていないので尚更です。謎が謎を呼んで、ひとつが解決されると更なる謎が現れて、そして全ては闇の中。
私はミステリは門外漢なのでよく分かりませんが、なんとなく森博嗣の作品はミステリとしてより文学として(いえミステリも文学ですが)読んだ方が楽しめるのかなと思いました。
幾つかの解説で、森博嗣作品は読者を放り出して答えを教えない(←悪い意味合いではありません)、とあったのが、本作で実感できました。この余韻が私にはなんとも心地よいのですが、すっきりさっぱりが好きな方には向かないだろうなと思います。
