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かわいそうすぎる世捨て人系美人探偵の名作ミステリー
2015/10/14 20:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:K - この投稿者のレビュー一覧を見る
※なるべくぼかしたつもりですが一部ネタバレです
2部構成のミステリーで、世捨て人系美人探偵が主人公の暗いお話です。
1部はレトロ風の文体で描写されたエログロナンセンス怪奇(風)事件。
2部は探偵視点メインの「本番」です。
初めて読んだ時は普通に騙され、普通に真相に驚きました。
複数の前例のあるトリックということでミステリーの賞の選外になった作品ですが、個人的にはそれらの前例と比べてもこの作品が一番面白いです。
本作のメインの謎は「誰が何のために罪を犯したか」というフーダニット・ホワイダニットですが、この作品の特色は謎そのものよりも一人の女性が絶望するまでの過程を描き切ったことです。
容赦無い幕の引き方にもやられました。そこで締めるの!?もっとこう救いはないの!?ってなります。
逆にここまでされると狂った爽快感すら感じます。
ネタバレになるので詳しくは言えませんが、この作品は正しくアンハッピーエンドです。
城平京作品の主人公やメイン級の登場人物はだいたい酷い目に遭っている気がするのですが、ほかの作品の主人公は酷い中でも何らかの救いはあるのです。
目的を成し遂げた、大切な人が助かった、誰かの救いにはなれた、自分なりに納得できたなど。
でもこの作品には、そういう「不幸の中の救い」すらもありません。
この作品よりも大きな不幸を描いた作品はもちろんほかにもたくさんありますが、この作品の特筆すべき所はそういう不幸のデカさではなく、ラストで「彼女」が絶望する理由がよく分かる所にあります。
彼女にはこんな過去があって、そういう生き方になって、こういう子と出会ってしまい、謎を解いたらあんな結末になった。
これは絶望するしかない。
第1部から丁寧に張られた伏線が第2部で回収されていく様が非常にスマートで、同時に彼女が絶望に辿り着く流れも納得させられてしまうのです。
名探偵は世捨て人となり、第2部では好きだったミルクティを飲むことすら止めているほどに徹底的に人間らしい幸せをそぎ落としていました。
そんな彼女を迎えるのは、それまでの苦しみが報われるようなハッピーエンドではなく更なる絶望です。
容赦のないラストまで読み終えた後、個人的に最後に残った一番の謎は「この後、彼女はどうなってしまうんだろう?」ということです。
私は歴代の城平作品でこの暗い作品が一番好きです。
無責任ないちファンとしては、いつかスパイラルコンビでコミカライズしないかなあとか思ってしまいました。
知ることの不幸
2006/05/23 21:47
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
小人地獄。無味無臭にして、一度体内に入れば何の痕跡も残さず速やかに死に至らしめる毒薬の名。著者はこの毒薬を道具として、名探偵の苦悩を描いた。
本書は二部構成になっており、第一部では小人地獄の由来と威力が示され、読者にとっての”現実”として小人地獄の存在を印象付ける。第二部では、第一部で得た知識が謎解きの前提として活用されている。
本来ならば起こるはずもない殺人。一つの事件の動機が明らかにされるとき、また一つの不幸が訪れる…
謎はすっきりと解き明かされるかもしれませんが、読者の心に爽快感が訪れるかは自明ではありません。
罠
2001/05/29 04:03
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:春都 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「探偵は神たり得るのか」、エラリィ・クイーンや法月綸太郎など「名探偵」と呼ばれる者たちが、悩み葛藤し続けた問いである。
推理などしょせんは想像の域を脱しない、それが導きだす真相など「真実」と言えるのだろうか。いや、そもそも真実など存在するのか。
数多の探偵たち、つまりはミステリ作家が必ずぶちあたる大きな壁であり、袋小路である。器用な連中は巧みに抜け出し、あるいは見えないフリをすることで呪縛から逃れることが出来るのであるが、城平京は違った。自らその罠に飛び込んだのである。
構成の妙と言えるだろう。
第1部「メルヘン小人地獄」において、名探偵・瀬川みゆきの土台を確固たるものとし、その揺るぎない才能を読者の意識に植えつける。視点人物(語り手)を探偵にしないことで、まさに「神」のような人物であることを印象づけるのだ。
とてつもなく蠱惑的な魅力をもつ「完璧に近い毒薬」の来歴、それが引き起こした連続見立て殺人事件という、ミステリ好きにはたまらない物語を、あっけなく後の伏線に利用してしまうのである。
そして第2部で行われること。今度は視点人物を瀬川みゆきにすることで「名探偵の崩壊」を描いてみせる。当然彼女が導きだす「真実」もまた拠りどころを失い、虚構の霧の中に溶けていってしまう。
再びあらわれたそれは、探偵自身の存在基盤をも破壊してしまう「メルヘン(小人)地獄」へと変貌している。探偵が活躍する「メルヘン」が、一瞬にして「地獄」へと姿を変えるのだ。
瀬川みゆきが最終的にどう受け止めたのかは読者の楽しみにとっておくことにするが、そのラストはあまりにも哀しく切ない。
賞の選考時、作品のラストに前例が2,3あることが問題にされたという。たしかに僕にも思い至る作品がいくつかあった。もちろんそれが決定的な欠点であったとは言わないだろうし、1つの賞を与えるという行為がかかえる「過剰な危険回避」の頭があったのかもしれないが、やはりテーマを見誤ったと言わざるを得ない。その深遠さを。
構成、トリック、どんでん返し、その他『名探偵に薔薇を』に使われている手法は、すべて「名探偵」と呼ばれる者の抱える葛藤や苦悩、弱さから人間性に至るまで描き出すための、一道具にしか過ぎないのだ。舞台とまるで合わない大げさで古風な文章も頻繁に使われるが、それも「探偵小説」を表現するために利用されているだけである。ただ下手なだけだろう、などとうがった見方をしてはいけない。そう、いけないのである。
残念ながら、おそらくシリーズものにはしないだろう。いくら名探偵とはいえ、また作中で多くの「解決した事件」を匂わせているとはいえ、この作品の性質から続編・番外編は生まれようがない。というよりも、書いてしまったらこれが台無しになる。作者がよほど「器用な人間」でない限り……。
名探偵が凍るのは、凍てつく寒さのせいじゃない。
2000/10/02 19:48
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投稿者:竹井庭水 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第八回鮎川哲也賞最終候補作品。まずタイトルに引かれて買ってしまったんだけども、この本は半端な気持ちで読了することのない、かなりヘビーな内容。「名探偵」の存在・苦悩・悲劇が折り重なって、残る虚無感には思わずでるため息。「名探偵」好きな方、読んで損なしと思う。
内容は中編『メルヘン小人地獄』と『毒杯パズル』からなる2部構成。『メルヘン小人地獄』の主体は童謡殺人。各メディアに届いた「メルヘン小人地獄」という童話。毒薬を作った博士と犠牲になった小人達の話で、童話にしては猟奇的な内容。やがて童話をなぞるようにして惨劇が起こり、「小人地獄」という毒薬の存在も明らかになる。この童話が作られ配布された目的は?次の犠牲者は?「名探偵」瀬川みゆきはどう解く。
と、まぁこう書いてしまうと普通っぽいかな?事件の説明部分でだれてしまうのは目をつぶるとしても、2作品とも事件自体もなかなかの着地を見せ、不満なし。ではどこに推しどころがあるのかというと、「名探偵」瀬川みゆきというキャラクター。これにつきます。『メルヘン小人地獄』では快刀乱麻に活躍する瀬川だけど、『毒杯パズル』ではその苦悩が全面に押し出されてる。つまりこの2作品、瀬川みゆきを中心に対称に出来てるわけ。そして『毒杯〜』の結末の転がし方といったら!二転三転する真実に揺さぶられる瀬川の嘆き、苦しみが痛いほどこちらに伝わってくる。
とにかく既存の名探偵像と一線を画す瀬川みゆきには一見の価値あり。本格を読み込んだ人ほど結末の虚無感は大きいんじゃないかな?幼いころから真実が見えてしまい、「名探偵」を自らの宿命と課す瀬川。たとえ「真実」が人にとって残酷でも、自分を切り刻み、冷徹になれと言い聞かせる瀬川。真実は、真実はどこにある。
技巧派の登場か?
2022/12/22 10:16
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投稿者:imikuto - この投稿者のレビュー一覧を見る
さすが鮎川賞の最終選考まで残っただけある。
2編とも「小人地獄」というとんでもない毒薬がベースになった謎解き本格モノだ。といっても読者が謎解きしたり、ラスト予想したりすることはかなり困難。
それを2編で使い分け、読者を飽きさせないどころか、見事に惹きつけている。
第2部の凝ったホワイダニットの作りはもちろん素晴らしいが、第1部だって一筋縄ではいかないミステリーだ。だが第1部は前ふり的な感じは否めないかな。
多くの本格ファンは虜になるだろうと思っていたが、いろんな書評を見るとそうでもない。
主人公の探偵・瀬川みゆきのキャラによるものなのか、それとも凝りすぎ、現実離れしすぎによるものかも。
まあでも、読みやすいこともあり、おススメ度は上級クラスだ。
物足りない
2015/06/24 00:19
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投稿者:koji - この投稿者のレビュー一覧を見る
登場人物はあまり多くなく
それぞれ書き込まれているのですが、
私は感情移入できたり、
心を添わすことのできる人物が一人もいませんでした。
推理小説として一定以上のレベルにあるとは思いましたが、
私は推理小説にサッカーのゴールの瞬間に感じるような
カタルシスを求めてしまいますので、
そういう意味では読後感はいまひとつでした。
前半と後半の印象の違いが…
2015/08/23 09:25
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投稿者:sin - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者の自意識が透けて見えるようなわざとらしく創り上げられた謎解きの作為的な有様にどうにも居心地の悪さを感じ取ってしまった前半に比べて、その作為的な部分を逆手にとって構築された後半の鮮やかさに唖然としてしまった。そしてこの物語が名探偵を何故必要としたのか?因果や運命を否定する彼女に架せられた宿命を悲哀とともに感じずにはいられない。どうかこの迷探偵に薔薇をあげて欲しい。
苦手
2023/01/09 13:12
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投稿者:るう - この投稿者のレビュー一覧を見る
高評価レビューを見て読んでみた一冊。
エログロエピソードが苦手な自分には合いませんでした。
残念ながらこればかりは好みの問題だから仕方がないと諦めます。
編集部コメント
2003/06/09 19:03
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投稿者:東京創元社編集部 - この投稿者のレビュー一覧を見る
怪文書『メルヘン小人地獄』がマスコミ各社に届いた。その創作童話ではハンナ、ニコラス、フローラが順々に殺される。やがて、メルヘンをなぞったように血祭りにあげられた死体が発見され、現場には「ハンナはつるそう」の文字が……。不敵な犯人に立ち向かう、名探偵の推理は如何に? 人気コミック『スパイラル〜推理の絆〜』原作者デビュー作!