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紙の本
なんともいえない読後感の独自の小説
2010/08/03 14:29
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:K・I - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めて読んだ川上弘美作品。
もちろん川上弘美という作家の存在は知っていたのだが、作品は読んだことがなかった。
短編集で、最初の短編の題名が「神様」。
その書き出しはこう。
「くまにさそわれて散歩に出る」
そう、くまと散歩に行くのである。
「くま」といっても、「くま」というあだ名の人間ではなく、そのまま、「くま」である。
この短編には色々な生き物が出てくる。
くま、白い毛が生えている生き物、河童、人魚など。
最初の短編と最後の短編が、「くま」に関する短編で、
最後まで読むと、そこはかとない切なさが胸に残る。
こういう小説を日本語で初めて書いたのは、
おそらく川上弘美だったのだろう。
今でこそひらがなが多く、改行も多い小説は多いが、
それを先取りしている感じもある。
ただ、リアリズムの小説ではなく、
なんともいえない感じが読後、心に残る。
これは川上弘美でないと書けないものだろう。
大江健三郎は作家として生き残っていくには
2つの道がある、とコラムに書いていた。
1つは、独自の文体があること。
2つめは、物語れること。
川上弘美は確実に1つめの条件を満たしているだろう。
だから、デビュー作から今まで一線で書けているのだ。
そのデビュー作が含まれた『神様』。
マッチョな小説に疲れた人に読んでほしい。
紙の本
言葉無き生き物に、言葉を。
2003/12/08 11:58
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オレンジマリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
母校の司書に勧められて手にしてみた。読んでいて、一番最初に驚いたのは動物が言葉を発していたことだ。それでもすぐに馴染み、ああ、そういう作品なんだと認識しました。
印象的だったのは人魚の話。人魚にすっかり魅了され、手放せなくなってしまい、自分が廃れていってしまう危険性に恐れる。ちょっとぞっとしましたね。人魚と言えば、谷崎潤一郎が描いた人魚を思い出すが、その艶かしい容姿の描写に脱帽だった。最後は意を決して手放せて本当に良かった。
河童の話も心に残りました。河童という生き物は、私の中でツチノコくらいにあり得ない生き物となっています。だから、小説だしと割り切って読んでしまえた自分が少し寂しいですね。もう少し熱くなれればね。
ツボを擦ると出てくるコスミスミコ。本当に回文みたいな名前です。コスミスミコがツボで生活するようになってしまった経緯は、なんだかこってりと重たいことなのに、ストーリー自体は童話のように軽やかだった。
幼い頃、トトロに会いたくて近所の林に遊びに行った。ピーターパンを信じて夜更かしした。そんな純粋な時代を思い出し、なんだかこそばゆい。そしてそういう気分になったという事実が、不思議だ。川上弘美さんが想像上の生き物(あくまで私の中の)に命を与え、いかにも日常で起こっているんだと表現しているので非現実だとは思わなかった。心のどこかでひっそりと存在しているストーリーのように思えた。
紙の本
不思議な話なのにリアリティがある
2021/03/12 22:43
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投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初は戸惑いました。でも読み進むうちにどんどん引き込まれていきました。不思議な話ばかりです。でも何かリアリティがあるのです。話に引き込まれて、実際に物語の中で主人公と一緒に経験しているような気持ちになります。この短編集の最初の「神様」がデビュー作とは。驚きです。
紙の本
ああ。
2016/10/15 14:55
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:鶴 - この投稿者のレビュー一覧を見る
これが川上さんか、と。
センセイの鞄しか知らなかった私は驚いて、それからこの人が好きになった。
紙の本
貴方さまもどうぞお元気で。
2003/09/13 22:28
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投稿者:栗山光司 - この投稿者のレビュー一覧を見る
表題作神様は三つ隣の305号室に引っ越したくまとの交歓記である。子育て中の主婦ならではの感性を感じるのは、背景のデテールが具体的で、特に呑んだり、喰ったりする場面はオレンジの皮ひとつ疎かにしない描写で、食欲を刺激し、一杯やりたくなったりする…、川上流手料理を饗応されている気がするからであろうか。
「うそばなし」であろうと、わけのわからないヘンなものが出てこようが、善き哉、善き哉でズボラに時々、目を閉じて読み進む。だけど、登場人物のみならず、人に在らざるものたちも、可愛く、善良で、意地汚く癒されることに後ろめたさを感じてしまった。
全く、かような世界に縁なきオヤジなのに不思議な話で、何故、ここまで、この本の連作短編集に感情移入出来たのか、読了した今も解明出来ないでいる。単に年取って気弱になったのか、恥ずかしいながら、癒されたのは事実である。
ここに登場する「くま」「人魚」「アラジンのランプ風、壺娘」「宮崎駿のアニメに出そうなちっちゃな梨おばけ」「河童」「幽霊おじさん」「えび男くん」「猫屋のおばあさん」たちは、何処かで会ったような既視感がある。全然、荒唐無稽でなく、すんなりと、作者の磁場に入れたのは、どうも、計算された筆力というより、淡々と語られる天性な天然何とかとしか、言い様がない。
第一、この本を開くと、導入部がーくまにさそわれて散歩に出る。ーで、普通なら、え! と頓挫するのだが、あまりに敷居の低い、むしろゼロに近いこちらと、あちらなので、そのまま、異空間にトリップしてしまった。違和感なく、作者の世界に入れたのです。入ることが出来れば、無為に楽しむ事が出来る。
ある人がこの世界は泉鏡花の世界ですよと言ったが、鏡花独特の擬古文体でなく、あっけらかんの文体で、あちらの人を呼び戻したり、くま、河童、であろうと交歓してしまう川上弘美は都会に住むシャーマンなのであろうか。ただ、作者の神通力は鏡花の如き鍛えられた職人芸でなく、推敲によって生まれるものでない様な気がする。巫女は常に処女性(アマチャリズム)を維持していかなければ破綻する。
某書評氏が『ゆっくりさよならをとなえる』に関して武田百合子さんと比べていたが、百合子さんは、まさに武田泰淳の傍らにありながら、巫女性を保持した人で、そんな目で作者をつかまえると、何となく腑に落ちるところがある。
ただ、今後、プロとして、かような世界を食い破って予定調和でない新たな海へ船出するのか、川上弘美ファンの方にとっても、要らぬお節介かもしれぬが、気になるところである。束の間、癒されて気分が良くなったにも拘わらず、衒いもあって、作者にフェイントをかけてしまうオヤジは、やはり素直になれないのですね、勘弁して下さい。
紙の本
心優しき主人公は異質なものを引き寄せる
2002/06/03 12:00
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投稿者:もぐらもち - この投稿者のレビュー一覧を見る
誰もが知っていてもめったにお目にかからないもの、くま、梨生物(梨の精?)、霊、河童、人魚などが主人公の周辺に現れます。
「神様」は確かに面白かった。でも、同じような調子の物語が連続すると正直言って疲れます。1日1話ずつ読んでました。
「ぼくはね、熱いっていうのは、手を天に向かって差し上げている太ったおじいさんみたいなかたちだと思う」
…(中略)…
「ぼくの寒いはね、小さくて青い色の空き瓶だよ」
6話目の「星の光は昔の光」のこの表現でパッとこの物語の波長
と合い、後は一気に読みました。最後のくまからの手紙は、泣けました。
紙の本
川上弘美はやっぱりこのテイスト
2001/12/12 13:06
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投稿者:白井道也 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「センセイの鞄」や「おめでとう」はもちろん素晴らしい小説だったけど、この本に納められている奇妙なファンタジーこそが川上弘美の真髄だよなーと思った。江国香織がどんどんブランド化されている今、きちんと注目されるべきは川上弘美なのではないかと、切に思う。彼女のすっとんきょうな顔も、何かしでかしそうで大好き。
紙の本
くまに誘われて散歩に出てみません?
2001/10/30 13:00
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投稿者:うし - この投稿者のレビュー一覧を見る
「くまに誘われて散歩に出る」と始まるこの短編集を読み始めた時から、私もこの短編集の世界での散歩を始めてしまった。その世界では、3つ隣にくまが住んでいても、河童に相談を持ちかけられても、壺の中からなれなれしい女が出てきても、不思議にも恐ろしくも思わず、素直に彼らの言葉に耳を傾けてしまう。その言葉は優しく、そして悲しい。ベッドで読み耽っていた私がふと隣を見ると、長年のつきあいになる牛のぬいぐるみがこちらを見ている。彼の目線で見てきた世界を、今なら話してくれそうな気がする。