紙の本
なぜ、今古代ローマか?
2004/11/15 01:51
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投稿者:佐伯洋一 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヨーロッパ最大の英雄、ユリウス・カエサルは死んだ。本書は、カエサル死後、彼の後継者によってなされる「パクス・ロマーナ」すなわちローマによる平和が達成される過程を描く。
物語は、カエサルが死に、後継者アウグストゥス(事実上の指揮者は完全にアグリッパという人)がエジプトのクレオパトラ・アントニウス連合軍を海中に叩き伏せ、いよいよはじまるローマ帝国の創生のところから展開される。
この本作の主人公とも言うべき、皇帝アウグストゥスは、何の力で天下を取ったか? ナポレオンにしても司馬仲達にしても、秀吉にしても、およそ武力(戦略戦術力)なくして、政治力だけで天下を取った者はいない。
それをやってのけたのが、アウグストゥスである。その政治的手腕は並大抵のものではない。4000年の歴史を持つ中国史を紐解いてみても、大帝国を築いた者、あるいはその周辺の人間で、アウグストゥスより政治力の優れた人間は、私の知る限り見当たらない。無論、戦争をしたら諸葛孔明はおろか、並の武将にやられてしまうだろうが、その政治的手腕は世界史に冠たるものといってよい。
東洋で言えば、徳川家康が最大の政治力者だろう。家康は、世界でもトップ3に入るほどの政治力者だと思うが、彼に勝るかといえば、なんともいえない。それは、読者一人一人が判断されることと思うが、アウグストゥスの政治的バランス力には感服する。言葉のマジック、本音と建前の使い分けは殆ど神業に近い。これは、現代を生きる我々にも、生きる知恵を与えてくれるはず。
ローマ帝国の端緒が本書にあるわけだが、ローマという2000年前の大帝国の国民は、驚くほど日本人と似ている。なぜローマがこれほどまで領土を広げえたのかといえば、ローマが多神教の国だったからである。だからこそユダヤ人にも、その統治を歓迎された。また、キリスト教やイスラム教の国が他国を支配しようとしたら、絶対にその国の宗教を許さない。だから、頑強に抵抗し、泥沼化するのである。現代アメリカをみれば分かると思う。
日本も、八百万の神、もっといえば先進国で唯一の無神教国家である。ハンチントンのいう文明の衝突は、日本には無縁である。ユダヤ教ときいて嫌悪感がないのがその証拠であろう。
他にも、ローマ人の無類の温泉好き、死者への考え方、火葬にするところ、肉食ではなかったことなど枚挙に暇がない。本書は、そういったことも書かれている。
ローマ帝国とは、許す文化、和の心で成し遂げられた帝国である。他者を認めない、暴力的帝国では断じてない。古代ローマを見ると、現代の日本がダブって見える。古代ローマに、現代の日本が進むべき国家戦略のヒントがあると思う。来るべき宗教戦争の世の中を日本が第三国として、仲介役を引き受ければよい。その役目は日本が最適だ。田原総一郎、石原慎太郎、中曽根元総理もかつてこの構想を述べておられたが、古代ローマを見るとまさに、と思う。
現代世界は、いまやパクス・アメリカーナの時代である。しかし、一神教の国、他者を許さぬ国が平和を維持することは難しい。だからこそ、時代は古代ローマなのだと思う。彼ら、20世紀前の古代人たちに学ぶべき事は果てしなく多い。
紙の本
全く違うタイプの才能に引き継がれたローマ
2008/05/20 17:44
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
カエサルの政治構想力に基づき広大な欧州の地にばら撒かれたパーツを、ローマ帝国として組み上げる仕事を残されたオクタヴィアヌス。同じ帝政を目指しながら、なぜカエサルは暗殺され、オクタヴィアヌスは皇帝となれたのか。この疑問はかなり興味深い。
カエサルは、同時代に生きた政治家と比較して、明らかに飛びぬけた能力を持っていた。軍隊を率いさせればガリアを平定し、弁舌は兵士を魅了し元老院議員を沈黙させる。その政治的センスが際立っていたことは、反抗的だったガリアを属州の優等生と呼ばれるまでにした統治政策からも明らかだと思う。だが、後世から見れば明らかな事実も、同じ時代を生きている人間から見ればそうとは限らない。まして元老院議員から見ればカエサルは同輩でしかないのだから、一人カエサルが人気絶頂にあれば嫉妬の炎を燃やしもするだろう。しかし、おそらく彼はこの嫉妬が理解できなかったのだと思う。だから、統治すべき民衆に対しては細心の心配りができたのに、同輩の自尊心を満足させる策を打たなかった。カエサルは生まれながらの支配者だったがゆえに暗殺されたのではないか。
一方、オクタヴィアヌスは元老院議員を嫉妬させることが無かったのだと思う。何しろ彼は、軍隊を指揮すれば必ず負け、演説をすればやり込められるような存在だったのだから。ただ、オクタヴィアヌスは自分が天才ではないことを知っていた。きらめくような人をひきつける魅力は無かったかもしれないが、人を利用することは知っていた。だから、元老院を自分の支配構造の中に取り込み、飼いならしていったのだと思う。権威と権力に酔う人間には夢を見させておけばよい。オクタヴィアヌスは元老院に共和制の夢を見させ続けることに成功した。
このように考えると、現代日本で強力なリーダーが生まれづらい理由が分かるような気がする。カエサルとオクタヴィアヌスのように、政治的な意味で”幸せな結婚”が生まれる環境が作れれば良いのだが…
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戦闘シーンは無いけど・・・
2015/08/28 17:39
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投稿者:historian - この投稿者のレビュー一覧を見る
天下統一を果たしたオクタヴィアヌス。しかし、彼には安定した統治システムをローマに作り上げるという前代未聞の大事業が待っていた。
これまでの巻と違って戦闘シーンが全く無く、そこで感じるような興奮やスリルはないが、一人の冷徹な男が四十年の年月をかけてローマを作り替えた過程が描かれている。作者はこの実に「書くのが難しい(本文より)」男の業績をよく一冊の本にするほどに読みやすく、わかりやすく書いた者だと思う。
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2004/12/24読了。
「それ以後の私は、権威では他の人々の上にあったが、権力では、誰であれわたしの同僚であった者を越えることはなかった」―アウグストュス
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本屋に平積みされてるいわゆる「成功本」をいろいろと読み漁るにつれて、「成功って何?」とわからなくなり、原点にかえって歴史について、しかも歴史上の人物を中心に学んでみようと思ったのがきっかけです。
これまでの人生、私はあまりにも歴史を軽視しすぎてました(笑)
新しいことばかりを追いかけて、先端を行くことばかり考えてました。
今ももちろんそうなんですけれど・・・。
成功本って、楽してお金をもうけるとか、そういうことが究極の目的みたいな感じなんですけど(いや、ちょっと極論ですが^^)、楽してお金をもうけてそれで本当に私は満足なんだろうか?と問うてみて、あんまり満足感を得られそうにないなあと感じたのです。
小さいお城(会社)を持てば満足?
お金をがっつり稼げば満足?
それでいて暇をたっぷり得られたら満足?
この迷いがあるうちは、一歩が踏み出せないんですよね^^
何世代にも渡る偉人について学びながら、少し後ろに下がって自分の人生、そして息子達の人生を考えてみたいと思います。
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政治的天才オクタヴィアヌスは元老院を巧みに操り「第一人者」へと上り詰める。
いかにしてローマを帝政へと移行させたのか、成り立ちが明らかに。
理解するものはいない、周りを欺いてでも完遂する、必要なのは鋼の意思。
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アントニウスとの戦いに勝って、カエサルの唯一の後継者となったオクタヴィアヌス。
共和制から帝政への移行、彼の目指すパクス・ロマーナ(ローマの平和)の実現のための統治初期のお話。
天才の後を継いだ、天才ではない男がいかに帝国を築きあげていくのか。
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カエサルの後継者オクタヴィアヌス。事を成就させるためにきちんとしたレールの上をまさしく一歩一歩進んでいく秀才の足跡が非常に面白い。意外とはまってしまった。
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オクタビアヌスによる帝政樹立、エジプトならびに東方(パルティア、ユダヤ)統治について。ティベリウスが登場する。
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08/4/2 ブックオフで安いのを見つけたので購入。ひさびさにシリーズ物を再開。月並だが、賢人たちが何を考え、どのように行動し、生きたのかを知ることは面白い。
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カエサルの養子となり、父の意志を継いだオクタヴィアヌスこと、のちの初代ローマ皇帝アウグストゥス。カエサルのような軍才には恵まれなかった彼だが、内政には素晴らしき才能を発揮する。そして、アウグストゥスにはカエサルにはないものがあった。それは「偽善」であった。そんなアウグストゥスが、深謀遠慮をめぐらし、長い長い月日をかけて、ローマを帝政へと導いていく、、、。
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前作が「カエサル・LOVE」のオンパレードであったのに対して、オクタヴィアヌスが主役になるといつもの作者の冷静な分析が戻ってきました(いえ、カエサルの分析が冷静でないとはいいませんが)。しかし、私はカエサルよりもむしろオクタヴィアヌスの方がむしろ「すごいやつ!!」と感じました。
なぜって、カエサルは確かに素晴らしい発想を持ち、既存のものにとらわれず、素晴らしき軍才を持って、明るい性格で人々を魅了しながら、成功を収めていました。しかし、彼は結局ローマの人々の心の中を見通せなかったということだと思うのです。帝政に対する元老院の抵抗があそこまで激しいものだと、激情にかられての暗殺という暴挙にも及ぶほどのものだということを見抜けなかった。それに対する防衛策を怠った、ということですよね。それに対してオクタヴィアヌスは慎重すぎるほどの遠回りをして、時間をかけて、時には偽善的な虚構を弄してまで、帝政の確立に努めた。その忍耐と意志の強さは感嘆に値します。
自らの血族が帝位を継ぐことに執着したことに対する作者の評価は厳しいものですが、私はオクタヴィアヌスが「自分の地を残す」ためにそうしたのではなく、「帝政の存続には血族による帝位継承が最も現実的」という合理的考え方から来ているのでは?と思いました。だって、実力主義の帝政など、古今東西続いた試しがあったでしょうか?結局は内乱になって終わりです。そのことを、彼は理解していたのではないでしょうか?たとえ、少々愚劣な皇帝が1,2代あったとしても、帝政の存続には血の相続の方が適しているということを。こういうことに思いを馳せる引き金を読みながらいくつもひいてくれる、そういうところが作者の筆の妙だと思います。
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Fue interesante como siempre!
Este libro, como siempre, es un marabilla!!!
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カエサルの意思を受け継いだ、オクタヴィウスが淡々とその地盤を固めていく様が描かれている。
塩野さんも作中で書かれていたけど、資料があまりないみたいで、事実を淡々と外から眺めたような内容になっていて、カエサル編のような躍動感が無いなぁ。しかしながら、アウグストゥスとなり元老院を面従腹背の姿勢で着々とその権力を固めていっている仕事の進め方がとても参考になる。きっとものすごく論理的で先見性に富んで、人の心が上からも下からも分かる人間なんだろうな。地味だけど、すごい人間だ。
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いよいよ始まりました、本格的なローマ帝政時代。と、いってもオクタヴィアヌス自身を皇帝だとは言ってません。
あくまで「第一市民」として謙虚に、それでいてすべてを自分の思い通りに、というなかなか難しいことをやってのけてます。
その配慮は色々なところに感じられます。思ったよりも元老院が尊重されてます。
ちゃんと仕組みも権限も残って、形の上では共和制。でも、議会もオクタヴィアヌスの手の者ばっかり。激しく反対するような人間もいない。
カエサルの後継者で、目指すところも似てるんだけどやり方というか、行動を貫く意思がカエサルとは大分異なる印象です。
彼の統治のうまさを見ながら、中巻へと続くのでした。
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読んでいるのにちょっと間があいてしまった。
(以下、面白いなぁと思ったところを引用しますが、しかし、こういう引用って何か意味があるのだろうか・・?
常備軍がなぜ必要かとか。さ。
新聞記者になるわけでもないのに。いまさら。)
・・・・とかいうことを考えてしまうのが、最近の私です。
読書は、間違いなく私の人生に彩りを添えていますし(吐き気がするような常套句!)
知識は必要です。
しかし、ある程度、自分の「好み」の方向性が定まりつつあって、
しかし、「時間」の必要性が増してくるであろう今後、
そしてまた「自分」が、純粋に働く・働きかける側の立場にたとうとしている(つまり学生でなくなる)
時期に、「好み」だけで本を読み続けるのにもしんどさを感じてしまう。
ローマ人の物語、は、いかにも私の好きな(似非も含めた)教訓を得られる類の本で、
しかし、その「教訓」なるものは、まぁ少なくとも私という小人にとっては実践的ではないわよね。
なんて。
そういうために読んでるんじゃないだろう。
(つまり、殆ど思い出すこともない中高の数学の学習を「論理力を鍛えるため」に必要というような意味で。)
(もちろん、そういう意味での、自分にとっての読書の必要は、大いに認めるところではあるのですけれど。)
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必要に応じて軍を編成するやり方でも長く不都合でなかったのは、共和政時代のローマは覇権の拡張の時期であったからだ。
攻撃するのならば、目的が決まった段階で軍団を編成し、それを充分に訓練してから出撃しても遅くない。
いや、これをやっている間にそうと知った敵が観念し、軍を進めただけで敵の恭順をかち得るという利点さえあった。
しかし、最大の目標が防衛に変れば、従来のやり方では不都合になる。
敵はいつ襲撃してくるかわからない。
ゆえに、それへの対応手段は常に準備しておかねばならない。
アウグストゥスは、防衛を目標とするからこそ常設軍事力が不可欠であることを理解し、それを実践したのである。
(82項)
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