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紙の本
袋小路の男
2007/12/31 16:00
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:helmet-books - この投稿者のレビュー一覧を見る
川端康成文学賞
「恋人未満家族以上」
なんていう男女関係がこの物語には存在するのだが、
恋愛的立場で追う側に在る日向子は、
「なぜそこまでされても、彼のことを追い続けられるのか?」
恋愛的立場で追われる側に在る孝は、
「なぜそこまでして、彼女を拒否し、そして、切り離そうとはしないのか?」
この簡単でない男女関係に、
肉体的接触はなく、進展の兆しさえ最後までないように見える。
あきらめの悪い女と、
踏ん切りつけられない男のお話。
恋愛に対する執念や、
ウジウジしたところなんかは前回の本の内容と似てはいたが、
武者小路実篤が書くウジウジと、
絲山秋子のウジウジはまったく正反対だった。
絲山秋子の書く恋愛物語を見てると、
コノ手の恋愛もあるのかと発見させられる。
「アーリオ オーリオ」というもう一つのお話もあるのだが、
これも一つの恋愛の形なのだろう。
そうなると誰かが言っていた、
「世界は愛で満ちている。」
と言う言葉もまんざらではない気がした。
紙の本
袋小路に住む袋小路に立つ男とその男を愛す女の話。
2010/02/20 22:34
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めて読んだ絲山作品『エスケイプ/アブセント』のなんとも形容しがたい魅力に心を鷲掴みにされ、続けざまに絲山作品に手をだしてみた。
『エスケイプ/アブセント』でも書いたのだけれど、絲山作品の魅力は具体的には語れない。わたし自身が絲山作品をうまく理解、消化できずにいるからだ。だから感想としては、なんだか不思議。そして好き。その二語に尽きる。
『袋小路の男』
袋小路に建つ家に住む小田切孝。彼に初めて会った瞬間から大谷日向子は小田切に釘付けになった。高校、大学を卒業して社会人になって30歳を超えても大谷の心には小田切しかいない。初めて会ってからの12年。何人かの彼氏がいた。でもやっぱり小田切がいい。小田切にとって大谷は大谷で、それ以上でもそれ以下でもなくて、指さえ触れたことがなくても、大谷の心は小田切から離れない。
あぁ、こんな書き方すると「重い女」にしか映らないだろうなぁ…と、上記数行を読み返して思う。だけど不思議なことに重くはないのだ。
作品は、大谷視点による独白型で綴られる。ここで大谷は小田切のことを「あなた」と呼ぶ。「あなた」のためなら大阪から東京まで毎週末通うし、「あなた」に誘われたら蕎麦を食べに信州まで車を出す。
そんな大谷について冷静に考えたらとてつもなく切なくてやるせなくって「いい加減にしたら?」っていいたくなるはずなのに、決してそうはならない。いや、なれない。なぜだろう。それが不思議でならない。
大谷は自問する―――
「恋人未満家族以上。
それってなんなんだ。」
そして袋小路に立ちすくむこの男がいつか袋小路を飛び立つ日を想像して恐ろしくなる。しかし彼女は言う―――
「それでも、あなたがやりたいことを続けていければいいと思う。あなたが 夢に近づくことが、私にとってこんなに嬉しいなんて知らなかった。」
そんな大谷の、小田切との12年を綴った物語。
『小田切孝の言い分』
『袋小路の男』と同じぐらいの分量の短篇。こちらは第三者視点で小田切と日向子が登場する。ここで書かれているのも、彼らが出会ってこれまで過ごした12年間のこと。そしてこの作品ではその12年に大谷に対してとった態度・行動に対する小田切の言い分が描かれている。そして彼の言い分はおそらく次の二行に集約される。
「ともかく、俺とおまえは喧嘩くらいしかやることねえんだから」
「しっかり喧嘩して、ちゃんと仲直りして仲良くやろうな」
『エスケイプ/アブセント』でも思ったのだけれど、絲山氏は二対の短篇を対比させるのが旨い(『エスケイプ/アブセント』についてはネタばれになりかねないので、誰と誰の対比かは言及しません)。『袋小路の男』での日向子の言い分と、『小田切孝の言い分』。短篇が二篇なので合わせて二作品だけれど、これは二篇で一作品の「作品」なんだろうなぁ。
日向子のいう「恋人未満家族以上」。これってほんとなんなんだろう。一生関係が壊れることのない理想の形? 切ない、と思う。いや待てよ、切ないのか?と問い返す。どちらを選択するのが幸せなのか、これはこれでいいのか、それともダメなのか。
なんだかいろんなことを考えさせられる。でもその「いろんなこと」っていうのはやっぱり抽象的で、わかっているようなわかっていないような。いや、わかっているんだよ、だけど…それを表現する能力をわたしは持たない。ただ確実に言えるのは、この作品がとっても好き、だってこと。
『袋小路の男』収録作品
・袋小路の男
・小田切孝の言い分
・アーリオ オーリオ←詳細は書かなかったけれど、とっても好きです。
電子書籍
名前のつかない関係性の中で
2021/01/30 10:17
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くらげ - この投稿者のレビュー一覧を見る
名前のつかない関係性の中で、何年もお互いの周りを漂っているような、そんな関係性の2人が描かれる。こまめに電話するし、小田切が入院したときけば日向子は即座に駆けつける。日向子が病院にかかる時は小田切が車で送ってくれる。でも恋人ではない。
この2人を見ていると、いわゆる「恋人」という関係性の方がこの2人の関係性よりも脆く儚いものであるように感じられる。小田切と日向子の関係性は、定義するものもない代わりに終わりもないような気がしてくるのだ。
電子書籍
献身?共依存?
2020/06/14 17:21
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:うみしま - この投稿者のレビュー一覧を見る
絲山さんの作品を読むのは2冊目です。平易な表現なのに、どこか不思議な落ち着かなさというか、でもこういうこともあるかなと思わせるところがうまいのだと思います。ずっと片思いが続くのは、片方が振り向かないことが必須。その関係が永遠に続く。家族以上恋人未満の関係ははっきりしないが故に終わりがない。
同時収録の小田切孝の言い分で、反対側からの情景によって浮かび上がるのは、噛み合わない2人の身勝手さが似た者同士だからと感じたのは共依存なのかもしれないと思いました。
紙の本
時間差
2020/04/21 15:29
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:deka - この投稿者のレビュー一覧を見る
アーリオ・オーリオの年の差、時間差の文通を読んで親元から羽ばたこうとしているこれからの姪っ子とおじさんとのやりとりにスマホ中心の現代の若者にもこういった時間差を楽しんでもらいたいなあと思った。コロナで本を読む機会がふえている若い子がこの本を読んでちょっと距離のある親戚とやり取りをはじめるきっかけになればよいのになあと思った。
紙の本
じれったい二人
2020/01/20 21:56
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私とあなたで描かれる「袋小路の男」と、三人称で描かれている「小田切孝の言い分」は登場する主人公は同じだ。「結局、二人の関係ってどうよ」と他人が突っ込みを入れたくなるのは、芥川賞受賞作の「沖で待つ」に登場する主人公と同期の太っあなたのちゃんの関係に似ている。でも、「沖で待つ」の二人は恋愛感情というよりは、女と男の信頼関係と友情といった方がふさわしいか。「袋小路の男」に登場する女と男は、友達なのか恋人同士なのか判断が難しい。「出会ってから12年がたって、私達は指一本触れたことがない(中略)、手の中に転がりこんできた十円玉の温度であなたの手が温かいことを知った」という関係なのだから。でも、私の数少ない恋愛経験から言わせてもらうと、女はもっと男の気持ちを理解してほしい
紙の本
本屋大賞を見て読みました。
2014/10/12 00:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:shingo - この投稿者のレビュー一覧を見る
本屋大賞を見て読みました。
距離感を保った男女のお話。文章が綺麗と思いましたが、全体的に物足りないかな、とも思いました。ジャンルによる趣味の問題かもしれません。
紙の本
これはすごい。
2012/05/30 23:45
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:いたちたち - この投稿者のレビュー一覧を見る
これはすごい。この恋愛小説はすごいと思う。純愛なんて、そんな得体の知れない、崇高そうな、薄っぺらいしろものではない。
女の一人称で語られる章ではほとんど彼女自身は読者の中に像を結ばないのに、この感情は、この関係性はおそろしくリアルだ。そして切実だ。聡明そうな、でも不器用な、ひどく愛らしいひとりの女の人生が、あっけなく捧げられる。魅力的だと彼女が叫ぶ、袋小路からどこにも行けない、その男に。こんなことがあってたまるか、と思いながら、気持ちは次第に、彼女に沿っていく。
もう一度、読み返しそう。