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蠅の王 改版 みんなのレビュー

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みんなのレビュー230件

みんなの評価4.0

評価内訳

230 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

心の闇

2006/10/11 05:06

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:くにたち蟄居日記 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 非常に怖ろしい作品である。

 「十五少年漂流記」と設定は殆ど同じである。「十五少年漂流記」は中々楽しい小説であり ラストもハッピーエンド。読後感もすっきりしている。それに比べると 本書の恐ろしさたるや。

 漂流した子供達の心の闇が存分に描かれている。いや これは子供の心というよりは 人間の心と言った方が正しい。人間の心が持つ根源的な悪というものを 作者はくっきりと描き出している。無人島に漂流したという設定も 深読みすれば 我々自身も今 この瞬間 一種の「漂流」状態にあると作者は言っているのかもしれない。例えば「日本」であるとか「企業」であるとか「家庭」であるとか、いろいろな その人にとっての「無人島」はあるのだと思う。そう読んでいくと これは「無人島での子供の話」ではない。「現代の我々の話」である。それを童話仕立てにしたところが 作者の豪腕である。

 子供の本ではない。子供に読み聞かせる本でもない。我々が真剣かつ謙虚に読むべき一書である。

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紙の本

『十五少年漂流記』を反転させた陰画

2011/05/11 12:23

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:yjisan - この投稿者のレビュー一覧を見る

未来の核戦争中、疎開地に向かう少年達を乗せた飛行機が墜落し、少年達は南太平洋の無人島に置き去りにされる。幸い、島には食料が豊富にあり、飢える心配はない。彼等は狼煙を上げて救助を求め続け、救援が来るまでは自活することを決意し、共同生活を開始する・・・ここまでは19世紀に書かれた『十五少年漂流記』と一緒だが、2度の世界大戦を経て近代市民社会への幻想が打ち砕かれた20世紀においては、正反対の悲劇が展開される。

当初は法螺貝を使って秩序立った規則正しい“文明的な”生活を過ごしていた少年たちは、次第に堕落し、本能のままに享楽的・退廃的な毎日を送るようになる。悪魔に魅入られた者たちは蝿が群がる豚の生首を「蝿の王」(悪魔ベルセブブ)として崇め奉る。
法螺貝=理性の重要性を説く少年ラーフは孤立していく(ジャックを中心とする狩猟隊が主導権を握りリーダーのラーフが孤立する点は、大統領選でブリアンが射撃好きのドノファンに圧勝する『十五少年漂流記』を裏返しにしている)。


少年たちは闇に潜む「獣」に脅えるが、言うまでもなく本当の「獣」は自らの内面に存在する。様々な確執の末に発生した彼等の“内ゲバ”は凄惨の一語に尽き、人間の救い難い業を感じずにはいられない。


ラスト、生き残った少年たちは救出されるが、無人島の外側に存在する“大人の世界”もまた、暴力と狂気に支配された野蛮な世界であることが暗示されている。したがって、少年たちに真の意味での“救済”は訪れない。無人島の中にも外にも、世界中のどこにも、理性的な“文明人”など存在しないのだから。

つまり本作は、文明社会の欺瞞を鋭く批判した諷刺文学なのである。

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紙の本

理性と文明だけが野蛮に対抗する術だった……

2009/05/23 10:11

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:鯖カレー - この投稿者のレビュー一覧を見る

人間が人間たる所以は何だろう。
『パンセ』の中でパスカルは「考える葦」だと人を形容し、つまるところ、人間が人間であるのは「理性的に考えることができる」と、言うことであろうか。

他にも人と猿の違いは何か、とよく言われるのが「社会を形成する」だと言われている。だが一方で猿も、猿山を見ればわかる様に社会を形成している。だから強いてその二つの違いを挙げれば、それが理性的な民主主義社会か、野蛮な独裁社会かということだろう。
また、同時に道具を用いるともいわれる。だけど猿だって木の棒や、石を用いて食料を確保するために必死に知恵を働かせる。テレビ番組でも、様々な実験で、いろいろな道具をどのように使うか、という試みがなされている。でも猿が絶対に使いこなせないものがある。
それが「火」である。
火は人類の文化をその下で支えてきて、文明の始まりであり、その象徴である。

では本書を見てみるとどうだろうか。
飛行機が無人島に不時着し、少年たちだけが生き残った。
少年たちは無人島で様々な自らが生き残るすべを見つけだし、一旦は一致団結していくかに見えた。しかし少年たちのジレンマは次第に彼らの中に亀裂を作りだし……

主人公のラフーと変わりもののピギー、この二人は他の少年よりも殊に、火の大切さを訴え、法螺貝を大切にした。そして最後で死を与えられる。
この場合、法螺貝とは彼らの中で作られた民主主義的ルールの象徴であり、火というのは彼らが烽火を上げて助かろうとした道具であり、文明の象徴である。また、この野蛮な無人島と文明社会とを結び付ける一本の糸である。
当に、この二つを守ることだけが人間が人間であるための術であったのだ。
しかし未熟な少年たちの形成した社会とはひどく脆いものであった。
ヒーローの憧れ、残酷な少年たちの心の中では、そのような堅苦しい理性や分明なんかより、多少野蛮でも御馳走の味わえる狩りの方がはるかに楽しいものだったのだ。そして彼らが作り上げたルールは意味をなさなくなり、文明の象徴である火には愛想を尽かしてしまうのだ。挙句、野蛮な獣に変貌した少年たちは略奪や、殺人まで犯してしまうのだ……

少年だからそうなったのだろうか。少年たちが未熟だったから。
否、見ず知らずの人たちと無人島という野蛮な場所に放置され、助かる見込みがはたしてあるのかと絶望すれば、人間だれしもが野蛮になりうるのではないだろうか。
この話は少年たちの無邪気さという狂気を用いてその人間の中に潜む獣を描きだしたように思える。

その文章の流麗な雰囲気とは対照的な過酷な少年たちの運命、そして理性と文明が野蛮と拮抗する姿が克明に描かれている。
『十五少年漂流記』と併せて読んでおいたい。これが現実であると、むざむざと突き付けられた時、私は戦いてしまった。

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紙の本

少年達は敗れる

2006/09/29 00:54

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中乃造 - この投稿者のレビュー一覧を見る

光と影と色彩が言葉によって創られている。文学の文学たる由縁だと嬉しくなる。解説によればゴールディングはもともと詩人だったそうだ。

読み始めてまもなく目の前には天然色の景色が広がる。陽光が燦々と降り注ぐ孤島だ。本当に文章なのかと一瞬疑いたくなるほど鮮明で、眩しい。それは、島に不時着し大人のいない世界を得た少年達にふさわしいと思われた。

話が進むにつれ影が浸蝕を始める。光があまりに強かったからこそ影も濃い。初めは些細な諍いだった。幼いプライドを持つ少年達の心理は丁寧に描かれ、辿っていくことは難しくない。だがそれもいつしか逸脱していく。そして蠅の王が姿を現す。

権力を巡るラーフとジャックの対立が表立っているが、肝心なのはそこではない。隊長に選ばれたラーフは権力に固執するようにも見えない。そしてなにより、対抗するジャックを嫌悪できない。たとえ彼が、豚を殺すことに興奮し少年達を狂気にまで煽り立てて、挙げ句仲間を殺すことになっても。
読みながら私が見つめていたのはジャックという少年ではなく蠅の王であり、蠅の王は、自身が言うようにどこにでも存在するからだ。もちろん、小説世界に限った話ではない。

少年達はほとんど最後まで蠅の王の正体を知ることができなかった。彼らが怯えたのは「獣」だった。海からやってくる、あるいは空からやってくるのかもしれない。得体の知れない「獣」に怯え、ジャックはそれに豚の頭を捧げる。サイモンという少年がただ一人、「獣」の正体と、腐った供物に宿る蠅の王を見た。

乱れていく景色の中で唯一静かに輝いていたほら貝が失われた時、光と影は完璧な反比例を成す。最後までほら貝を抱いていたピギーの眼鏡は、そういえば、いつも太陽の光を反射し火をおこす役目を持っていた。

当然のことながら、この小説は単なるサバイバルでも冒険譚でもない。どちらか一方が戦いに勝ったのでもなく、経験を積んだのでもなく、誰もが蠅の王に負けたのだ。
しかし、敗れ去った少年達の姿を目にし、そして燐光に包まれ真夜中を漂うサイモンの姿を思い出すと、彼だけは例外だったもしれないと思う。

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紙の本

蠅の王、何者ぞ

2003/05/23 00:32

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:のらねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る

「狂気」だとかなんとか、通り一遍の説明をつけてわかったふりをしてはいけない。一通り読み終えた後、「蠅の王」とは一体何者であったのか、今一度考えてみる必要がある。はたして、無人島に取り残された少年たちは、正しく「狂気に駆られていた」といえるのかどうか、きちんと検証してみる必要がある。
 例えば、少年たちは当初に自分たちで制定した「秩序」を自分たちの手でなし崩しにしていく。その様子は、少年たちが二つの集団に分裂していく様子や、「法螺貝のルール」が徐々に効力を失っていく様子からも容易に確認できる。しまいには、実質的な「殺し合い」にまで発展する。
 でも、これら騒動の原因は、はたして「狂気」に駆られてのことなのだろうか? 例えば、そこが「無人島」という閉塞的な空間でなくても、また、「少年たち」という年齢の制限がなされていなくとも、「集団の分裂劇」や「抗争」といったことは、人間が構成する組織である限り、どこにでも見受けられる普遍的な現象である、とは言えないだろうか? 嘘だと思うのなら、そこいらの歴史の教科書をぱらぱらと斜め読みでもしてみるといい。このような事例には事欠かないはずだ。この作品で書かれている「分裂から抗争へ」という流れは、「ミニチュア」ではあっても「カリカチュア」ではない。
 分裂し、対立することになるそれぞれの集団の頭目格の少年たちは、性格的にはむしろ類似しており、分裂が決定的になるまでは、互いに相手の存在を認め合っているように書かれているところにも、注目する必要があるかもしれない。けっして、「どちらか一方が「理性」を、もう一方が「狂気」を」、といった単純な構図は採用されておらず、むしろ、「同質性」を強調するような描かれ方をしている。
 少年たちは島で生活をするなかで、徐々に得体の知れない「けもの」の妄想にとりつかれ、それが分裂を加速される大きな要因となるわけだが、戦争をしている大人たちも同種の「けもの」の妄想に取りつかれていない、という保証はどこにもない。

酩酊亭亭主

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狂気と集団心理

2002/07/24 11:08

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:奥原 朝之 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 航空機事故によって無人島に放り出された少年たちが集団心理によって暴走していく様を描いている。

 描かれているのはせいぜい中学生ぐらいの子供たちで、リーダー格の二人が主導権争いをすることを引き金に、最初はうまくいっていた集団生活が徐々に破綻し、最終的に殺し合いまで発展する。

 この設定はどこかで見たことあると思ったら、子供たちが殺し合いを繰り広げるという点ではバトル・ロワイアルに似ている。しかし両者を読み比べてみると似て非なるものであった。「バトルロワイアル」は娯楽作品として確かに一級品ではある。しかし子供たちが自発的に殺し合いにまで発展する心理描写は本作品の方が優れている。

 最初はぎくしゃくしながらも集団生活を営んでいた子供たちがなぜ殺し合いにまで至るのか。それはまさに集団心理による狂気と言えよう。その狂気の象徴が蠅の王と呼ばれるモノだ。蠅の王とは何のことなのか。

 じっくりと子供たちが暴走していく様を読んで欲しい。
 ちなみに著者のゴールディングは本作品でノーベル文学賞を受賞している。

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紙の本

すばらしい無人島生活と、吠え哮る獣たち

2002/07/08 02:55

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:トリフィド - この投稿者のレビュー一覧を見る

最近、「サバイバー」のような無人島などでの生き残りもののテレ
ビ番組がはやりだが、そのような番組を観るたびに、この作品を思
い出しては背筋に冷たいものが走る。

無人島に漂流した少年たち。楽しげに始まった子どもだけの生活は、
やがてどこの学校のクラスでもありそうなありふれた対立から始まっ
て、じわじわと様相を変えて行く。視野が狭まり、自分たちだけの
世界、自分たちだけの価値観に閉塞して行き、そしてラスト、異常
な状態に陥った少年たちが、そしてすっかり呑み込まれてしまって
いる読者が、全力疾走に移った物語に押し流されて辿りついたとこ
ろには、恐ろしい衝撃が待ち受けているのである。

自分だったらどうなるだろう、どうなっていただろうと、自分の少
年時代を振り返らせられ、愕然としてしまう人も多いのではないだ
ろうか。

すべての人に読んでおいてもらいたい傑作である。

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紙の本

少年達は自由だ。何をするにも。

2001/04/13 00:00

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ころび - この投稿者のレビュー一覧を見る

 いつかどこかで何度か聞き覚えたタイトル。気が付いたらレジに差し出していた。さて、どれほど語り継がれる物語であるものか。というわけで、内容については全くの白紙のつもりで読み始めました。が、この映画のビデオ 、見たことあるなぁ、と。物語のラストで唐突に(鮮やかにと言ってもいい)思い出した。なるほど。アレの原作かぁ。
 なにやら戦争中(第三次世界大戦とか?)イギリスから疎開する少年達を乗せた飛行機は、とある南洋の無人島に不時着した。大人達はいない。6〜12.3歳の少年達はその地を楽園として過ごすのか、地獄と化すのか…。

 島の様子を探った後、少年達は叫ぶ。
「『宝島』みたいだ」「『燕とアマゾン』みたいだ」「『珊瑚島』みたいだ」
 果たして、それほどうまく行くものだろうか?

 少年少女へのお薦め小説にはない狂気がここにはある。大人達が信じたがっている子供達は無垢であるとの神話も、ここでは通用しない。かといって、リアルなお話でもない(あの野豚は一体どこから来たんだ)。エゴと規律のぶつかり合い。そう、うるさい大人がいない分だけ、少年達は自由だ。何をするにも。

 楽しめた、とも、面白い、とも形容できないけれど、衝撃作。一気読みでしたが、ちょっともったいなかったな。
 乾いた少年の話をもっと、という方には『悪童日記』などもお薦め。

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紙の本

必読!

2000/09/22 19:34

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:イマチョー - この投稿者のレビュー一覧を見る

 これはおもしろい! 孤島を舞台にした少年文学の最高傑作といってもいいんじゃないかな。
 飛行機が墜落して少年たちだけが孤島に漂着する。リーダーに選ばれながらもうまくいかずに頭を悩ませるラーフ、その参謀のように知恵を働かせるが眼鏡がないと何も見えないピギー、合唱隊やチビッコたち。
 彼らは最初はうまくやっていた。話し合いを持ち、秩序だって暮らしていた。ところが、狩りをきっかけに少年たちに野蛮な感情が生まれ、コミュニティに亀裂が入る…。
 この物語は少年たちの行動を通して、人間がもっている権力への欲求や恐怖心、野生、そういう原始的な部分を徹底的に描きたてている。そういう感情に負けずに理性的な生活を送ろうとするラーフと他の少年たちとの衝突。
最初から最後まで、緩むことなく緊張感がみなぎっている。特に最後の100頁は息もつかせない迫力だ。
 平井正穂の翻訳もさすがのモノ。少々古い言葉があるが、そんなものも気にならない名訳。無駄な文章が一行もない。
ぜひ、読んで!

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新訳がそろそろ望まれる

2011/08/12 22:47

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る


 共産主義国との戦争から疎開するイギリスの小学生たちを乗せたジェット機が太平洋の孤島に墜落。生き残った子どもたちは帰国を目指して力をあわせるのだが、やがて彼らの間に大きな亀裂が生まれて…。

 ノーベル文学賞受賞者であるイギリス人作家ウィリアム・ゴールディングの代表作とされる小説です。
 戦争をいとわしく思って国を後にした純真無垢な子どもたちが、新しい土地で自分たちなりに規則と秩序を重んじて生きようとします。しかし、彼らの集団生活はやがて大きな軋(きし)み音を立てて崩れ始め、むき出しの本能と混沌の世界が立ち現れてくる。そんな様子を描いています。

 この小説で対立するジャックとラーフの姿を見ながら私は、これは原初の共同体的社会がやがて王権を手にしたものによる統治社会へと姿を変える途次を描いた小説なのではないかと感じました。王となる者を人類が最初に選んでその者に自由と権利を託していく様子が、この子どもたちの寓話の中に確かに見て取れたのです。

 ですから短時日で幕を閉じるこの物語が、もしも数年、数十年の期間のそれとして描かれていたなら、絶対君主制的様相から議会制やブルジョワ資本主義、やがては子どもたちが逃走したはずの共産主義体制へと変貌をとげたかもしれないと想像するのは楽しいことでした。

 なお私が手にしたのは昭和50年発行のものの22刷(平成4年)にあたる版です。
 30年以上も前の翻訳であるせいか、和訳文はかなり古めかしいものとなっています。「忿恚(ふんい)」や「隠忍自重」など、かなり硬質な漢語が散見されます。消失が惜しまれるこうした言葉を翻訳家が使うことを必ずしも否定はしませんが、子どもたちが主人公の寓話としての『蠅の王』には少々重たくはないでしょうか。

 昨今の新訳ブームを目にするにつけ、『蠅の王』もそろそろ新しい翻訳が出てもよいころかもしれません。

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不思議なタイトル

2017/02/26 14:51

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みどり次郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る

ストーリーはよくある遭難→救出モノで、それなりに面白いのですが、理解不足かもしれませんが、このタイトルはどこから来たのか?確かにある物体に蠅が大量にたかっている描写はあったかと思うが、タイトルにするほどに重要な場面だったのか?もう一度読んでみようと思います。

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否定しがたい、否定したい真実

2002/07/22 23:29

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:aki - この投稿者のレビュー一覧を見る

大人は集団生活を営む中で自分を抑えることの必要性を知っている。だが、子供達はそれをどのくらい知っているのだろうか。
人間性を保つため烽火にしがみつく隊長に選ばれたラーク、自分が隊長に相応しいことを狩りによって証明しようとするジャック。二人の間の溝は、私たちが教室で見てきたものに似ていはしないだろうか。タイトルに現されたベルゼブブの影は、純粋無垢だといわれている子供にさえも付き纏う残虐性の象徴にさえ思える。
「十五少年漂流記」の少年達は自力で脱出した。
彼らはどんな大人になっただろうか。大人の手によって、私たちの目の届かない所で大戦の真ん中に引っ張り出されたイギリスの少年達は。

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全速疾走の恐怖

2002/01/09 00:44

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ポーリィーン - この投稿者のレビュー一覧を見る

 イギリスから疎開中の少年達を乗せた飛行機が孤島に不時着し、大人不在の生活が始まる。少年達はリーダーを決めてルールを守っていたが、やがて反発が生まれ狂気じみた無秩序が展開されていく…。恐い。とにかく後半が圧巻! 読みながら全速疾走している気分にさせられ、読み終わっても背中が薄ら寒かった。読みやすく・入り込みやすい翻訳が嬉しい。

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ダークな“15少年漂流記”

2001/06/22 13:32

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みやぎあや - この投稿者のレビュー一覧を見る

 少年達は無人島に流されて、大人の監視のない自由を手に入れる。
 しかしその中で何とか規律を守ろうとする少年達と、“自由”に溺れ次第にケダモノじみた行動に走る少年達はやがて対立する。
 子供の中の残酷さを思い切り前面に押し出したコワイ話。
 けれど実際に無人島に流れ着いた子供達はどうするだろうか? と想像する時、現代では爽やかな児童文学の「十五少年漂流記」よりこちらの方が近いような気がする。コワイ。

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紙の本

ラーフと始まりと終わりと万華鏡

2005/06/13 11:19

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:level-i - この投稿者のレビュー一覧を見る

なんだ思ったほど遠くないな、と思った。
今から約50年前に異国の人が書いた本でありながら、遠くない。だからこそ、モノグサな日本の私がひょいと手を伸ばすだけで触れられるところに、この本はありつづけるのだろう。
一番好きだったのは、主人公の名前。ラーフ、という。スペルもわからないけれど、響きがいい。大きな声で呼んでみたいけれど、残念ながら、そういう名前の知り合いに心当たりがない。ラーフ。いい響きだ。この小説の名前も、そういえば、気に入っている。「王」の響きがそもそもかっこいいし、さらに「蝿の」だから滑稽で不気味で、なおさらかっこいい。名前が一番だなんてがっかりだ、と作者がもし知ったら思うだろうか。友人は「『蝿の王』は豚肉がすごくおいしそうだったね」と言ったが、どちらがうれしい感想だろう。
二番目に好きだったのは、物語の始まりと終わり。透明感と神秘性を兼ね備える少年がさっそうと登場する(実際には「とぼとぼと歩いて」登場するのだが、インパクトの問題で「さっそう」に見えるのだ)シーン、物語の幕開けの、わくわくするあの感じ。
そして物語が、巨大風船の破裂直前みたいな異様な緊張感でふくらんでいって、最後にぱちん、と弾けるあの感じ。すげえすげえ、と思った。
三番目に好きだったのは、多分この物語の幹のところになるだろうか、少年たちの心のありよう、その緻密な描写。特にジャックの狩りに関する気持ちの変化。怖れと、それを恥じる気持ちと、そこを通り過ぎたときの快感と、まだ通らないものへの侮蔑と、それを拠り所に自分の価値を叫ぶ気持ちと。万華鏡のようにくるくる変わる。そんなに綺麗なものではなかったけれど。でも、おもしろく眺めた。
こんなことを書くと誰か怒り出しそうだけれども、「蝿の王」の登場するあたりを読みながら、これを松本大洋が作画を手がけるジャパニメーションで見てみたいなぁ、と思った。『鉄コン筋クリート』や『ZERO』で鮮やかに描かれた獣性を思い出してそんなことを考えたのだが、やっぱりこれも、ひどい感想かもしれない。

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