紙の本
運慶の手掛けた著名な仏像の描写に感銘を受ける
2019/02/27 18:29
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投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は有名な仏師である運慶の生涯を描いたものである。伝記には違いないが、運慶が生きた時代を丹念に描いている。その点では単なる伝記とは異なるようだ。つまり、歴史的な背景や周辺の史実を網羅して歴史小説として仕上がっているのである。運慶が手掛けた仏像は随分多いようだが、決め手はない。その理由も本書に出てくるが、署名をしないのが運慶の特徴の一つであるそうな。
奈良の仏師である康慶の子として生まれた運慶であるが、仏師なので仏像製作の注文が来なければ生活が成り立たない。そこに平家の南都焼打ちがおこり、奈良の寺院は大仏殿をはじめ、ほとんどが灰燼に帰してしまった。この時に東大寺、興福寺の復興に大いに関与したとしている。
師匠康助の息子である成朝は、征夷大将軍頼朝に招かれて鎌倉に行く。頼朝は父親義朝の霊を慰めるために勝長寿院を建立し、本尊の製作を依頼した。それを支えるために運慶も同行した。鎌倉での5年の仏師生活は運慶に大きな経験をもたらした。奈良に戻ると、棟梁も康慶から運慶に移る。康慶の弟子であった快慶と子である運慶の確執、大勢の子の仏師としての教育など日々の生活に翻弄される運慶である。
運慶の作であることを証する署名がないが、作風で運慶作であることが分かるとして署名をしなかったと書かれている。本書では有名な円成寺の大日如来、願成就院の阿弥陀如来、東大寺南大門の金剛力士像などにも触れている。また、八条院の依頼による高野山の八大童子像も登場する。
このように現存する著名な仏像の成り立ちが描かれており、読者にはまさに生き生きとした印象を与えるのである。仏像を中心とした伝記小説のように思える。作風で分かるとはいえ、作風では確証がない。署名がない理由も書かれているが、その真偽は不明である。誰が掘っても出来栄えの良し悪しは確かに分かるものであろう。
子供たちがほぼみな仏師となり、仏師集団を形成したことは、運慶にとっては大いなる喜びであったろう。対人間のドラマというよりは仏像という作品に焦点を当てた本書のような作品を再び読んでみたいと思った。
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激動仏師
2019/02/17 00:53
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投稿者:イシカミハサミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史の授業ではいっしょくたに教わる運慶・快慶。
仏師としてはかなり違いがあったことを知った。
仏像は当然ながら寺院にあるものだし、
どうしても信仰心というフィルターを通して見るけれど、
崇高な魂が生みだした美術品、という意味で
捉えなおすこともいいな、と思った。
いまとは比べ物にならないほど、
信仰と生活、生と死が身近だった時代。
北條政子の解釈が斬新。
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人間の人生って・・・
2019/02/15 12:41
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投稿者:岩波文庫愛好家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
以前読了した『葛飾北斎伝』にも通づるのですが、芸術家であれなんであれ、その人の人生を読み物として読むのはとても意義深いなぁ、と感じます。運慶自身は基より、弟子としての子供たち、その時代の世情とそこで活躍する著名人たち、といった事柄が人間味豊かに展開される小説です。
最初は一仏師として活躍する運慶ですが、後には慶派となって組織の将来を考えたりします。まるで現代の会社に置き換えられそうです。
芸術家といえども、人間的な悩みや葛藤は驚くほど色々あり、こういったところには共感を覚えます。
末章近くには臨終際の運慶語録のような一節がありますが、私自身の座右の銘にしたい言葉たちでした。
いい小説に巡り合えました。
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私は、歴史小説との相性が悪いみたいです。世間的に評価されている小説、作家のようですが、私にはちっとも楽しくありませんでした。運慶の仏像は大好きなので期待して読んだのですが、残念でした。【2018年12月29日読了】
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稀代の仏師運慶の生涯を描く時代小説。
醜い顔に生まれついた彼は、美しさに焦がれた。父の康慶に連れられ、玉眼を見た長岳寺。そして初めて己ひとりの手で仕上げた円成寺の大日如来を皮切りに、彼の仏師としての人生が始まる。
彼を通りすぎる数々の女性、源氏と平氏の争い、朝廷と源氏の駆け引きの渦の中で彼は、奈良仏師の集団を一流に引き上げて行く。
運慶の描かれ方に好みが分かれるかな、と思います。
仕事一途な男…それは反対に仕事だけを見つめ続け伴侶や子どもを置き去りにして行く男、というステレオタイプの男性像が投影されているなと感じました。
しかし、数少ない史料や現存する仏像などから運慶の生涯の物語を組み立てたことに、敬意を表します。
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運慶に全く興味なかったけれど、これ読んだら仏像見に行きたくなりました。
面白かった以外にどんな感想を言えばいいのか考えないといけない本は辛い。
ちなみにいちばん好きなキャラクターは文覚こと遠藤盛遠でした。盛遠が袈裟を殺害してしまう漫画を昔読んだことあって、懐かしくて盛遠を追っかけた。四字熟語がたくさん使われているのが、目についた。こういうののことを考えています。
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奈良の仏師集団は京都の仏師ほど認められてはいなかった!運慶が鎌倉幕府の依頼で作った仏像が認められて行く!男の身勝手 私は共感できない!
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素晴らしい仏像たち。それがつくられた時代背景を復習できる本。
ただ、史料が少ないので仕方がないのだが、運慶の語り口で進行するのがフィクション感が増して残念。
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運慶に関する本を読んでいる。運慶がなぜ仏像を作るのか?という内面的な葛藤に迫って書かれていた。仏像に向かう姿勢が、心の葛藤の中から生み出されている。運慶にしか彫れぬ仏像がどう作られていったのか。そして、息子湛慶などをどう導くか。快慶との関係がジリジリするほどだ。
本書は、運慶の目で描かれている。
運慶は5歳の幼い息子に聞かれる。「お父は、どうして仏様を彫るの?」
「それはな。木が仏様になりたがっているのだ。この木もそうだ、木の中にはな、誰かに役に立ちたい、誰かのために生きたいという願う気持ちが隠れているのだ。それを仏性といって、仏様の種みたいなものだよ。仏様のために、仏様を讃えるために、心から喜んで仏様の姿をこしらえる。それを仏様は喜ばれるのだよ。わしら仏師はその手伝いをする」
幼い息子は問う。「でも、仏様ってほんとは見えないんじゃないの?だっておいら、見たこともないし、だから、わかんない」
運慶は答える「そうだな。仏様のお姿も、仏様がおられる世界も、目には見えぬ。誰だってそうだよ。お坊様の話を聞いても、なかなか想像できやしない、それを信じろというのも無理だよな。だからなのだ。わしらが目に見えるようにする。それが仏師の役目なのだ」
運慶は自問自答する。「おまえが作りたいものは何だ?何が作りたいのだ?(決まっておるわ。美しい仏を、拝する人が心震わせる美しい仏の姿を、生き生きと力強く、全身に血がめぐり、息遣いまで感じられる仏の姿を、この手で)美だと?目に見えるものだけが美しいのか?美しければいいのか?」
運慶はいう「自分を原木に見立てるのだ。原木という自己の中に、本当の自分がいる。その周りの余分なものが、欲望と執着、煩悩だ。それを取り除け。けづり落とせ。真の自分を削りだせ」
「佛という字は人にあらずと書く。人の身体に似ていながら、しかし人の身体を超越しているのが佛なのだ。人が人たる我欲や煩悩をすべて取り去った存在、それが仏なのだ」
「仏の像をつくることは人の心に刻むことだと父は言った」
「師がやるのを見て、自分でやってみる。ひたすら真似よ。自己流で勝手にやってはならぬ」
「くじけるな。怖れるな。慈悲の心を忘れるな。ひたすらはげめ」
「からだが心を裏切り、心が身体を裏切る。その葛藤の中でいつも抗っている」
「おのれの弱さを呪い、憎みながら生きる。それでいいのではないか」
約1000年前ほどに、運慶がいた。そして、現在もわずかながら運慶の作った仏像を見ることができる。仏教伝来1500年に及ぶ連綿たる日本の歴史、仏像の歴史がある。時空を超えて、日本の芸術の深さを感じる。その運慶の心の葛藤をうまく掬い上げる本書はすごいと思う。普通はすらすら読んでいく私であるが、運慶の言葉を触媒として違う言葉につながって読むのを中断する。それが本の醍醐味だ。
本書では、康慶、運慶、快慶、湛慶の仏師を運慶の見た物語として展開する。1180年の南都焼き討ち事件後、奈良仏師として隆盛した慶派を描く。天平時代宇治の平等院阿弥陀如来像を作った仏師定朝(1057年死去)を始祖として受け継がれていた定朝様式。南都の棟梁は���定朝の流れを受け継ぐ成朝。
その工房の筆頭格であった康慶が慶派の始祖となり、運慶に引き継がれていく。彫りの深い造形と力強さがあり、リアルな造仏を作っていった。
運慶は25歳の時、円成寺の大日如来座像でデビューする。平清盛から源頼朝の変わる時期。奈良仏師でありながら、東国に向かい源頼朝の加護を受けて、坂東武士たちの期待に応えた仏像をつくる。生と死をかけて戦う坂東武士の心意気にあった躍動感がある仏像をつくることで、運慶の自信につながる。
あらくれる文覚上人、東大寺、興福寺の復興を進める重源上人の指導により、常に変化のある仏像群を作り上げていく。その出会いを大切にして、確実に実力を作り、法印まで上りつめて行く。
運慶に関係のある女性たちも魅惑的だ。阿古丸、心の愛人となった延寿、正妻狭霧、由良、あやめ。
この中で、あやめが一番いいなぁ。東大寺の仁王像を作ろうとするが、重源上人から出された像が不思議な造形で人間にはできないものだった。それで悩んでいた運慶の迷いを簡単に突破する。あやめはいう。「仏さんや天人ってのは、人間じゃないから、ありがたいんだ。だから不思議な力があると信じられるんだ。違うかい。だからさ、人間と同じじゃないのは当たり前じゃないか」という。それが阿吽像の悩みを溶かした。
ここでの北条政子、御台所が仏像を依頼するシーンはなんとも言えぬものを感じる。頼朝をなくし、大姫を悲しませ、実の息子実朝を殺して、父親時政まで死なせる。実に業深き存在で、仏像を運慶に依頼する。激動する時代に、心の拠り所としての仏像を作りたいのだなぁ。
この本を読んで、運慶という姿がリアルに浮かび上がって、なんとも言えない読後感にしたっている。
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珍しい仏師が主人公の作品。あまり残された資料が少ない中。時代考証に忠実に進めている感が強い。運慶の一人称での語りの進め方が厳かに、静かな雰囲気を醸しだす。それにしても火事が多い時代に仏師の苦労が偲ばれる。2023.2.1