紙の本
水墨画のような儚さを持つ小説
2022/06/30 13:15
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投稿者:yino - この投稿者のレビュー一覧を見る
家族の喪失により、精神的に衰弱していた主人公が、水墨画に出会い、自身の内面と向き合い快復していく過程が描かれる。水墨画の表現力の奥深さが、自身の内面を表現、開放することに繋がる点は、なるほどと説得力がありました。登場人物達も必要最低限に抑えられ、まるでシンプルな水墨画作品のよう。水墨画にはその人の心が表れるとのことですが、本作も水墨画をテーマとしつつ、主人公の心の快復の原動力となったのはあくまで登場人物達の人間としての優しさであり、その点で作者自身の優しさが作品にも表れているように感じました。
紙の本
できすぎだけど
2021/08/09 11:55
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投稿者:nap - この投稿者のレビュー一覧を見る
ストーリーはできすぎだけど、この作者さんにしか書けない作品。
新鮮でした。
もしかしたら、この作品以外は書けないかもしれないけど。
紙の本
澄んだ絵が並ぶ美術館に、極上の解説付きで漂ったよう。
2020/09/04 12:43
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投稿者:梨桜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
面白い!
繊細で丹念で粘り強い思考の連なりが、水墨画の世界を通してずっと、弱った心身を灯す。
文字を追いながら、水墨の世界を、絵を思い浮かべると言葉にしない膨大な情報が垣間見えて、途方もないなぁと呆然とした。
電子書籍
穏やかで優しい話です
2020/05/31 09:22
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投稿者:ケイ - この投稿者のレビュー一覧を見る
絵師は描く対象と向き合いながら、自分と向き合っている。それによって人の心を打つ芸術が生まれるし、絵師も救われる。
深く極めた人同士が水墨画を通じて互いを知り、気づき、欠けているものを補い、より高みを目指す。
社会と自分のギャップに疲れたときに読んでください。癒されます。
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投稿者:なつゆき - この投稿者のレビュー一覧を見る
心象風景とか水墨画とかの表現がとても綺麗に文章になっている
しかしストーリーは展開が早すぎ、多分のご都合主義的なものを感じてしまう
水墨画というあまりなじみのない、私見ではあるが高尚な人間が嗜む物といった偏ったイメージの題材らしく登場人物があまりにも「綺麗」に思える
奥行きのある人間臭さがないからだと思うのだが、強いて言うなら全体的に漫画チックなのだ
計算された感動が透けて見えるから読後の爽快感が薄い
マイナスな感想ばかり書いたが、決してこの作品を評価していないわけではない
むしろ面白く読んだし、何度も読み返したいとも思う
評価しているだけに「もっと」と望んでしまうのだ
電子書籍
再生の物語でした
2020/03/09 20:41
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投稿者:pizzaco - この投稿者のレビュー一覧を見る
何やらはっきりしない主人公の登場に先行きを危ぶんだが、図らずも水墨画の世界に足を踏み入れたあたりから、どんどん面白くなっていく。
師匠、兄弟子やなぜかライバルとなった美女、大学の友人、登場人物はくせもの揃い。
そんななか、少しずつ、主人公の境遇とそこからくる内面の問題が明らかになる。
描くことで、技術ではなく、人が描かれていくのだ。それによって、主人公が閉ざされた世界から一歩踏み出すことができた。
また、みんなに新しい明日が来ることも予感させてくれる終わり方もこの作品に合っていると思う。
紙の本
絵が見えてきます
2020/02/15 21:35
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投稿者:kochimi - この投稿者のレビュー一覧を見る
筆が水を含む、炭が水に溶ける、墨滴が紙に滲む、
細かな瞬間瞬間が丁寧に描かれていて
白い紙の上に墨絵が現れていくのが
目に見えるようでした。
水墨画は、
白と黒の静謐の中に、
時には赤に見えるほどの情熱を内包しているのだと、
この作品で初めて知りました。
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筆や墨に憧れるものの、どうも苦手にしている。それでも書についてはたまに作品展などに出かけることもあるし、NHKなどで講座なので技法や精神などを見聞きすることはある。翻って水墨画。寺院や博物館で古典的な軸や襖絵を見ることはあるし、水墨画で描かれた年賀状を目にすることはあるのだが、現在活きている作品として水墨画を意識することはなかった。
自分の心のなかのガラスの部屋から抜け出すことが出来ずにいる青山霜介。アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会い、なぜか湖山に気に入られ、その場で内弟子にされてしまう。とんでもなく非現実的な話の展開に戸惑うが、謎は徐々に明かされていく。
湖山の孫娘、篠田千瑛、兄弟子となる西濱湖峰・斉藤湖栖、大学の友人古前・川岸、湖山の盟友藤堂翠山やその孫の茜。そうした人々と触れ合いながら霜介は水墨画に惹かれていく。その過程で読者も何故水墨画?という疑問が解消できていく。
やがて、湖山の描く姿のなかで霜介は自身のガラスの部屋で湖山が描いていることに気づく。命とは変化し続けるこの瞬間のこと。命のあるがままの美しさを見ることが美の祖型を見ることであり、水墨とはこの瞬間のための叡智であり、技法なのだ。自らの命や森羅万象の命そのものに触れようとする想いが絵に換わったもの。それが水墨画だ。
水墨の線が命を、自分の周りの人々をつなぎ、自分自身を描く。そして「誰かの幸福や思いが、窓から差し込む光のように僕の心の中に映り込んでいるからこそ、僕は幸福なのだ」と気づく。読者も物語を読み進める中で自分の幸福を気づくと思う。
作者は、水墨画家とのことだが、小説でも次作も期待したい。
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かつて、野沢尚の『龍時』シリーズを読んだとき、
「文章でこんなにサッカーを、視覚的に表現できるのか」と驚いた。
恩田陸の『蜜蜂と遠雷』を読んだとき、
ピアノ演奏シーンを、ここまで多彩に、豊かに書き綴れるのか、と感動した。
宮下奈都の『羊と鋼の森』や小川洋子の『博士を愛した数式』を読んだときには、
この人の描く美しい日本語をいつまでも読んでいたい、と感じた。
これらの作品と同種の感動を、この作品からも与えてもらった。
墨を摺り、筆をとり、画仙紙に描くという動作と、心の動き。
言葉にできなさそうなことを、ここまで流麗に、言葉で表現できる。
言葉ってすごい。この作者の言葉はすごい。
これまで漫然と眺めるだけだった水墨画を、今すぐ観に行きたくなった。
今年の忘れられない一冊になることは確定。
すぐに映画化されそうな予感。
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「蜜蜂と遠雷」を読んだ時、音楽が聞こえた気がした。同じように絵が見えたような気もしたし、本当の水墨画がとてもみたいと思った。
確実に今までの私の知らなかった世界を見せてくれた。まったく知らなかった水墨画をこんなに魅力的に描き、文章も専門的な事を書きながらも面白かった。
デビュー作が一番その作者の全世界を描いているとしたら、全てを出しきっているのかもしれない。でも、そうでないとしたら、
もっと多くの作品を読んで見たい。
今後が楽しみな作家さんです。
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ラストの菊の描写では、青山くんと一緒に、まるで自分の心と向き合っていくかのような感覚に陥った。
満たされていると感じる時は、自分が幸せだからじゃない、自分の心の窓に周りの人の幸せや笑顔が差し込んでくる時だという表現にはっとした。
私も同じだなぁと。
今の自分を作ってきてくれた全ての人や出来事に自然と感謝の気持ちが湧く。
今生きていようとなかろうと。
確かに繋がりを感じる。
独りではない。
そして今私の周りにあるものたちを、瞬間を、大切にしたいと思った。
二度とは帰ってこない。子どもたちのこの瞬間の笑顔は。
久しぶりの主人公とリンクする没入読書体験でした。これだから読書って素晴らしい。
この没入感をドラマでどこまで表現できるか楽しみ。
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水墨画を題材にした小説。
そもそも水墨画自体をあまり
よくわからないまま読み始めたんですが、
読み進めるにしたがって物語に必要な
水墨画の世界ってのも徐々にわかってくるし
その水墨画を主人公の霜介になぜ湖山先生が
内弟子にしてまでそれを教えたかったのか
次第にわかってくるのですが、それがまたいい。
湖山先生の言う「できることが目的じゃないよ。
やってみることが目的なんだ。」って言葉や
「・・・成功を目指しながら、数々の失敗を
大胆に繰り返すこと。そして学ぶこと。
学ぶことを楽しむこと。
失敗からしか学べないからね。」などなど。
もちろん霜介に言ってる言葉なんですが、
これって仕事や人生等いろんなことに
あてはまるなぁ~なんて思いました。
水墨画なんかまったく知らなかったのに
読んだ後は少し水墨画を見たくなるような
そんなすてきな小説でした。
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「蜜蜂と遠雷」や「羊と鋼の森」では、読んでいて音楽が聴こえた。
この「線は、僕を描く」は、水墨画が見えた。
両親を交通事故で失い、自分の心にひきこもっている霜介を救い出しのは、水墨画と師匠湖山先生。水墨画に魅せられ、命を水墨画で表現していく。
水墨画なんて、今まで意識したことないし、よくわかっていなかったが、主人公の霜介とともに水墨画について知り、面白い世界だなと思った。
たんたんと話は進むようで、心に熱いものを感じる本だった。
追記
作者・砥上裕將さんが現役の水墨画家だと知った。だからあんなに水墨画が見えるような本ができるのか、と思った。
またYouTubeに砥上裕將さんが春蘭と菊を書く動画があった。想像を超えて美しかった。
https://www.youtube.com/watch?v=ZckNTyRH-Fg
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僕は線を描く、そして僕の描いた線が僕を形作る。
何もないところに描かれる一本の線は、僕でありそして僕の世界そのものである。
墨と紙で完成する、白と黒の世界。水墨画というあまりなじみのない世界が、こんなにも豊かで色鮮やかで躍動的であったなんて。
『羊と鋼の森』や『蜜蜂と遠雷』を読んだとき、文字が、言葉が、音を奏でているのを感じたけれど、今回私は、この小説を読みながら、紙の手触り、墨をする音、筆の重さ、解き放たれるにおい、そしてそこにある色、の全てを感じた。
絶望と孤独、17歳が経験するにはあまりにもおおきな悲しみ。生きていることを感じられない青山くんの再生の物語は、私に多くのことを教えてくれた。
一枚の白い紙に描かれる一本の線。そこに映される自分の命。
あぁなんて豊かな世界なんだ。白と黒が無限大の世界を見せてくれる。
読み終わった後、いまここにいる自分の命を感じた。
生きたい。強くそう思った。
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週刊マガジンで漫画が連載されており、小説版も気になり読んでみた。水墨画という黒と白で表現するともすれば単純に思える世界に、登場人物の心を映し出す世界があったことが驚きだ。マンガの方も引き続き読んでいきたい。