紙の本
1匹と6編
2020/07/20 10:04
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
どこからともなくやって来た多聞が人間に運んでくるのは、幸運とは限りません。苦しくとも懸命に生きる人たちを渡り歩き、ひとりの少年へとたどり着くラストが感動的です。
紙の本
第163(2020上)直木賞受賞
2021/04/19 14:19
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たっ君 - この投稿者のレビュー一覧を見る
43*18=774*308=238.392/596/4.0h
「男と犬」2018.1初出。舞台は仙台、震災から半年後。家族のために悪事に手を染める和正、馳星周らしいピカレスク作品。多門は守り神であり、セラピードッグでもある。エロスとバイオレンスは少なめ。「多門はおれの家族だ。いくら金を積まれても、売ることなんてできない」
「泥棒と犬」2018.4初出。仙台から新潟への逃避行。ゴミ山のスカベンジャー出身のミゲルはおそらくフィリピン人。イラン人運転手のハーミとの会話が絶妙。「泥棒となんかと家族になれるか―そう言われた気がした」
「夫婦と犬」2018.7初出。富山市、夏。すれ違っている、勘違い夫と浅はかな妻。犬は何も言わないが、それを鏡として人は真実を見つけ出す。「トンパはその裁判官のようだった。私情を交えることなく意見に耳を傾け、判決を下すのだ」「そんなこと、気にするな―そう言われたような気がした」
「娼婦と犬」2019.1初出。大津市、冬。最初の場面で、だいたいネタが見えてしまっている。岩手県で飼われていた4歳の牡犬。「あなたたちの魔法って、人を笑顔にするだけじゃないんだね。そばにいるだけで、人に勇気と愛をくれるんだ」お守りとメモが後に続かなかったのは残念。
「老人と犬」2020.1初出。島根、冬。「犬は言葉はわからなくても、人の意思を見極めようとする。話しかけることでコミュニケーションが密になり、絆が深まっていく。いざというとき、何よりも役に立つのは人と犬の絆の強さなのだ」「弥一は人にとって犬は特別な存在なのだということを理解していた。人という愚かな種のために、神様だか仏様だかが遣わしてくれた生き物なのだ。人の心を理解し、人に寄り添ってくれる。こんな動物は他にはいない」「そうか。愚痴をこぼしている暇があるなら前に進めか」最後は切ない。
「少年と犬」2017.10初出。熊本、春。釜石で飼われていた6歳。5年かけて移動してきた。感動的なラスト。
紙の本
犬好きな方ならなおさら響きます
2022/01/31 15:40
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投稿者:higassi - この投稿者のレビュー一覧を見る
直木賞受賞作だけになかなか図書館の順番が回ってこなくて遅ればせながら。多聞の姿・存在感を頼もしく、愛らしく思ったり、関係する人たちの死を悲しく思ったりしながら、味わい深い一冊でした。
紙の本
馳星周さん直木賞受賞おめでとうございます
2020/12/19 14:41
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投稿者:GORI - この投稿者のレビュー一覧を見る
人と一緒に生きてこそ犬は幸せなんだと思う。
東日本大震災で別れた男の子に会うために、犬は南を目指す。旅を続けるために、生き続ける為に、満たされない人々と出会い幸せな時を与えて、南を旅する。
馳星周さんの小説はデビュー作が印象強過ぎて読んでいませんでしたが、すっかり犬に魅せられ、メロメロな犬好きの愛する小説でした。
電子書籍
ペットを大事にしてる人にオススメ
2020/10/10 14:10
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投稿者:山 - この投稿者のレビュー一覧を見る
東日本大震災後、多聞(たもん)という名の犬にまつわる人との6編の物語。多聞は賢く健康で、犬好きの琴線に触れるような犬です。
物語の奥には『貧困』がひそんでいて、ストーリーと読者の胃をぎゅっと引き締めることかと思います。
災害が起きたとしても、生きているのならば生き続けなければならない。そんなやりきれなさに寄り添い、居てくれる生き物へのありがたさが全編通して記されています。
事実を見つめて素直に受け入れる、そこから生まれる行動を躊躇わないこと。また、過ぎた怠慢は大きな後悔を呼ぶこと(防災グッズの用意大事!)。忘れずにいたいなという所感です。
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投稿者:藤 - この投稿者のレビュー一覧を見る
受賞された日の夕方に、書店に寄り購入しました。
普段は歴史小説ばかり読んでいるので、こういった本は久しぶりに読みました。
やはり最初は慣れなかったけど、読み進めていくうちに段々面白くなってきました。
第1章の最後で「えっ」となり、第2章を読み進めていくと…なんだかミステリっぽい?
ミステリ好きなので歓迎なのですが、ちょっとイメージと違って意外でした。
主人公の犬はやりたいことをやり果せたのかな。
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【人という愚かな種のために神様が遣わした贈り物】家族のために犯罪に手を染めた男が拾った犬。守り神になったその犬はある意志を秘めていた―。人生の無常と犬の神秘性を描く感動作。
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馳さんの「犬」と人間の絆を描いた作品は涙·····涙ですよね。
多聞は、きっと5年後に光の身に起きる事を予知できていて
光を助ける為に長い距離を突き進んで来た·····んじゃないかな??って思いました。
「光を助ける」·····そんな多聞の意志を感じました。
辿り着くまでの時間に出会った色んな人の人生を優しさで包んであげて、しょーもない人には勇気を与えてあげて。
また1人、泥まみれになりながら歩き続ける多聞の姿に
私は、光を救わなければという意志を感じました。
東日本大震災と熊本地震が、こういう形で繋がるとは思いませんでした。
最後は悲しかったけど、多分·····多聞はやり切ったんだと思う。
直木賞おめでとうございます。
素晴らしい作品でした。
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図書館で運良く新刊を借りる事ができました!
ある1匹の多聞という名の犬が、何かを目指し、渡り歩く物語。
その間に人と出合い、一時の飼い主が現れ、その飼い主ごとに描かれた連作短編のようにも思えるけれども、ちゃんと続いているお話です。
それぞれの飼い主には独特の人生があって、その人生を犬と共に見事に表現されているのには頭が下がります。内容も興味深く面白いです!
そして多聞が目指していたものには、涙なしでは読めませんでした。多聞のひたすら純粋な思いとまっすぐな行動に脱帽し、胸が打たれます。
一気読みできます。
あまり他にない、素晴らしい1冊です。
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馳星周、やっと直木賞。自分的には不夜城や夜光虫で取って欲しかったと思う。
どちらかというとダークな内容の小説が多かったが、この小説は犬に対する優しさが滲み出ている。
それも単に優しいのではなく、何も言わない多聞(犬の名前)の強い意志を描き切っている。
そして東日本大震災との関係が。
馳星周好きには物足りないかもしれないけど、心地よい作品です。
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馳星周さんは、ノワール小説のイメージが強く、きちんと読んだことが無い作者さんだったが、
犬と人々の絆を描いた作品、ということで、ずっと気になって読もう読もうと思っているうちに、直木賞受賞が決まった本作。
選考委員から「犬を擬人化せず人間のストーリーとしたのが優れており、余分なところがない作品」との評価だったそうだが、正にそうだな、と感じた。これが、多聞を擬人化して、多聞目線で描いてしまっていると、ファンタジー要素が出てきてしまって、色合いがだいぶ違う作品になってしまっていただろうな。
この作品で印象的なのは、多聞と出会い多聞に心ひかれる人間たちが、必ずしも幸せになるわけでは無いことだ。これも、犬を擬人化しなかったところにも通ずるのかもしれないが、出会う人が皆、心を洗われて善人になって生まれ変わった幸せな人生に変わる物語は、それはそれで、ハッピーでほっこりするのだろうが、そうでないところが、人間味であり、人生だな、と哀しくも納得してしまうのだ。
そして、
ハッピーエンドを迎えられなかった人たちも、多聞と出会い、賢さと無償の優しさに触れ、人間同士では感じることが出来ない愛情を感じ、心に大きな変化をもたらしたことは間違いない。
読みながら、何度、多聞を抱きしめたくなったことか。犬は本当に、愚かな人間のために神が遣わせた、人間を救うパートナーなのかもしれないな。
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私の中では馳星周さんは良き犬の本の人。
メインはノワールな世界観の人なんだと思いますが、あくまでバーニーズの人。
それが犬の本で直木賞だなんて。
もう肉眼で捉えられないくらいハードル上がってます。
「人という愚かな種のために、神が遣わした贈り物」もう帯の段階でグッときちゃってます。
人間本位な考え方ですが、古代より今日に至るまでパートナーであり続ける犬はまさに神からのギフトなんですよね。
本文にも帯コピーと似た一文がありますが、本当に犬好きにとってはわかりみ深すぎる描写が多すぎて首の上下運動と「くぅぅ〜!」が止まらないです。
短編だとばかり思っていたので、ひとつめの「男」パートで「えーーー!」ってなって「泥棒」で「あ、続くのね!」と安心しました。なんかこの段階でもう読み終わってしまうのが嫌になってる(早い)。
中盤ではむしろ多聞は死神なのではと……。「夫婦と犬」に関してはまだモヤモヤしてます。
タイトルの「少年」パートは終着点であることもあり、他とは段違いにストーリー性が高い。ずっと敷き続けてきた伏線もしっかり回収された…わけですが…。なんだろう。ちょっと神がかりすぎているというか。犬の記憶力に関しては十分あり得るとわかってる。でも目標の感知能力に関しては……もうちょっと現実的な理由付けが欲しかった気もします。
とはいえ、犬へのリスペクトはもちろん、それぞれのキャラクターの精緻かつリアルな描写、震災の恐怖やトラウマ。読みやすさも含め十分な良書でした。「男」の姉を皮切りに、「泥棒」や「娼婦」、「夫婦」に「老人」の周りの、彼らと多聞の絆を知る人たちから「少年」へと、多聞の軌跡が届けられる未来に読者みんなが想いを馳せられるでしょう。
日本中で、多聞と名付けられる犬が爆増すること間違いなしですね。
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じんとくるんねぇ。各章で犬がそれぞれに重要な位置づけにされ、人それぞれの過去や人生と交錯していく。
賢い犬が何を比喩しているか、今の社会生活ではこういう頼りにしたい存在を必要としているのでは。
とても読み進めやすく、ドラマティックと哀愁に溢れる作品でした。
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最終話を読んでいたら、直木賞受賞の速報が入ってきました。受賞おめでとうございます。
作者の馳さんの犬のお話は拝読するのが3作目で、私が言うのもおこがましいですが、着実に腕を上げられていて、受賞にふさわしいと思いました。
物語は、東日本大震災後、半年の仙台から始まります。
母と姉と暮らす青年、中垣和正が駐車場の隅で見つけたシェパードに似た牡犬の多聞という名札をつけた犬。
認知症の和正の母が、昔飼っていた犬のカイトと間違えて、「カイトかい」と多聞と一緒に過ごすのをものすごく喜ぶようになり、和正も姉とともに幸せを感じるようになりますが、和正は震災で職がなく、悪い仲間に唆されて、悪事に手を染めていきますが…。
一方多聞は和正の仕事仲間のペルシャ人のミゲルの手に渡り新潟へ。
多聞はいつも南の方を向いています。「南に誰かいるのか」と飼い主は尋ねますが…。
多聞は、富山、大津、島根と、その時々に出会った人々に愛され、皆に色々な名前で呼ばれながら、震災から5年後の熊本で一人の少年と出会います。
そして、奇跡が起こったのです。
涙なしには読めないけれど、最高の1冊でした。
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内容(「BOOK」データベースより)
家族のために犯罪に手を染めた男。拾った犬は男の守り神になった―男と犬。仲間割れを起こした窃盗団の男は、守り神の犬を連れて故国を目指す―泥棒と犬。壊れかけた夫婦は、その犬をそれぞれ別の名前で呼んでいた―夫婦と犬。体を売って男に貢ぐ女。どん底の人生で女に温もりを与えたのは犬だった―娼婦と犬。老猟師の死期を知っていたかのように、その犬はやってきた―老人と犬。震災のショックで心を閉ざした少年は、その犬を見て微笑んだ―少年と犬。犬を愛する人に贈る感涙作。