紙の本
日本画の変貌と衰退を追う
2021/07/14 12:17
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
画鬼と呼ばれた河鍋暁斎を父として、生き抜いた娘・暁翠の物語。主人公は、その父の死後、父親の生きた痕跡に振り回され続け、自分が何者であるかを問い続けたのだと思う。明治維新後の日本画の変遷の歴史を追いながら、日本人の心の持ちようの変化を描くようだ。知らない歴史の一面を、心に刻み込むことができた。
紙の本
読み応えのある一冊でした。
2021/12/21 20:35
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投稿者:るい - この投稿者のレビュー一覧を見る
葛飾北斎にとっての応為のように、とよを育てたかったのでは!
と言う兄周三郎の言葉。
とよは、芸術家でありながら、現実的な生活者としての視点を持った女性だと思いました。
この世の不平等は、とよとしてよく分かっている。
だが、逐一それに腹を立てていては、この浮世は渡っていけない。
優しいとは、それだけとよをちゃんと見ていない事実の裏返しだ。
この文章が、特に、響きました。
作品には、その人本人が出る!
澤田瞳子さんの作品を初めて読み、文章力の確かさと書く前の事実確認等の素晴らしさを感じました。
書き始めの確かさと最後の末尾の危うさも印象に残りました。
紙の本
遅れ馳せながら昨年(2021年)の直木賞受賞作を
2022/07/25 12:45
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投稿者:higassi - この投稿者のレビュー一覧を見る
遅れ馳せながら昨年の直木賞受賞作を手に取りました。河鍋暁翠の眼を通して描かれる、父・河鍋暁斎や当時の画壇にリアリティ・迫力を感じました。鹿島清兵衛の助演男優賞とも言えるポジションも絶妙です。登場人物のほとんどが実在の人物なので興味が拡がりますね。
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明治大正期の女絵師
2021/08/14 16:56
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投稿者:咲耶子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
鬼才の絵師を父兄にもつ女性絵師の絵に打ち込む情熱と、家族への葛藤を描いた物語。
絵師として認められながらも、父兄を超えられない苦悩と画壇の風潮や流行に翻弄され、しかし自分のスタイルを貫くしなやかな強さを持ち生き抜いた姿があります。
父兄のかつての姿に疑問を持っていますが、歳を経るうちにその心境に至ります。
一貫して暁翠(とよ)目線で書かれているのでシンプルで分かりやすい。
紙の本
切れ味鋭く家族の相克と葛藤を描く
2021/08/11 08:51
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投稿者:トリコ - この投稿者のレビュー一覧を見る
直木賞受賞作。
・河鍋暁斎の子供、弟子たちの物語。
・父から受け継いだのは血か墨か。
・「この刹那の憎しみなぞ、長い人の営みの中で見ればこの上なく虚しかろうに、それでも人は己の思いのままにしか生きられぬのだ」。といった言葉が鋭く突き刺さる。
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【暁斎を父に持った娘・暁翠の数奇な人生】鬼才・河鍋暁斎を父に持った娘・暁翠の数奇な人生とは――。父の影に翻弄され、激動の時代を生き抜いた女絵師の一代記。
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絵を描くことが好きなのに兄や父ほど絵狂いになりきれない女性の一生を描いています。
それに苦しみ、苦しんでいるからこそ絵がにくい。
なんだかわかります。
それでも好きでいていいのだと自分しかできないことがあると思って生きていいのだと思えました。
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明治から大正へ画家だった父の元画家になるべく育てられた娘の人生、父のこと、兄のこと、そしてその間に関わった人たちの人生の顛末、読み応えがあった。思うに小生の祖父と父の時代に重なるところがある。生きるだけでも大変な時代、そして関東大震災を体験、身につまされた。父のこと祖父のこと何か語り継がなければならない様な気がしてならない。文才の無い小生にはとても無理だ。貴重な一冊になった!
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江戸末期に活躍した絵師河鍋暁斎が死ぬ。娘の「とよ」の苦労を描く。義兄の周三郎は絵師として活躍するがクソ野郎。弟は役立たず。明治から大正にかけて活躍し苦労するとよ=河鍋暁翠の人生とは?
個人的には面白かったけど、若干読みにくかった。誰の視点で表現してるのかと、人物が二度三度登場しても、以前の記憶がないので、誰だか分からなくなってしまった(作者は悪くなく私が悪いのかも)
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『若冲』で奇想の絵師・伊藤若冲の生涯を鮮やかに描き出した澤田さん。本作では幕末から明治期に活躍した画家・河鍋暁斎……ではなく、その娘であり弟子でもあるとよ(河鍋暁翠)を主人公として、親子の絆や芸術家としての生き方などに苦悩する姿を描く。若冲とは違いこの親子(次男の暁雲も含め)は知らなかったのでより興味深く読んだ。流行遅れになり忘れられていく悲哀は西洋美術だけではなかった。
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まぁ良かったです。
「何かに似てるな」と思ってましたが「若冲」書いた人だったんですね。
直木賞ですか、「若冲」との合わせ技であるなら納得です。
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“画鬼”とも称された稀代の絵師、河鍋暁斎の娘・とよ(暁翠)の半生を描いた作品です。
父・暁斎の死後、“河鍋を引き継ぐ者”としての悩みや、偏屈な兄と確執はあるものの、彼の才能は認めざるを得ない心情など、葛藤しながらも力強く生きるとよの姿が端正な文体で綴られています。
印象的だったのは、大富豪の婿として河鍋家の支援者でしたが、その後没落した鹿島清兵衛と、彼の愛人から後妻になった元人気芸妓・ぽん太(鹿嶋 ゑつ)夫妻です。
とよに対して異常にあたりがキツイぽん太のキャラは正直苦手なんですけど(同じような理由で、おこうもちょっと苦手)、没落しても二人で寄り添いながら、そしてその姿すら見せつけるように生きていく様はある意味凄みを感じましたし、御大尽から没落して、能の笛方になった清兵衛が言った「・・この世を喜ぶ術をたった一つでも知っていれば、どんな苦しみも哀しみも帳消しにできる。生きるってのはきっと、そんなものなんじゃないでしょうか」との台詞は、胸に染みてくるものがあります。
時代は明治から大正にかけてが舞台。まさに西洋文化が怒涛のように日本に入ってきた時期ですね。芸術の価値観が変化していく様子や、関東大震災の描写も興味深く読みました。
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暁斎から英才教育を受け、極度なプレッシャーに苛まれながら芸の道を歩み続けたとよ。晩年とよが絵師の人生を回顧していたが、幸福感が伝わり安堵した。
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明治から大正にかけて活躍した女絵師河鍋暁翠。
江戸時代の名残を残す明治だが、父である鬼才暁斎の没後、一門は四散し、パトロンも没落。
西洋画風の絵が流行する中、暁翠は挿絵、絵教師で食いつなぎつつ、父親の跡を追い伝統的日本画を追求する。
後世まで残る本物とその場の流行だけで終わるものとの違いはどこにあるのか。
関東大震災被災後にみせる面倒見の良さ、芯の強さは、家族に苦労しつつ絵の道を追求した暁翠の一生が凝縮したものであったか。
没落したパトロン夫妻の生きざまも時代を映す裏旋律として印象を残す。
直木賞受賞作。
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天才絵師・河鍋暁斎(かわなべ きょうさい)(1831~1889)の娘・とよは、5歳の時に父に絵の手ほどきを受け、のちに暁翠(きょうすい)の名をもらって絵師となった。
暁斎の死没から始まる物語。
河鍋家は、画鬼の家だった。
画才ありとして、暁斎の手元に残された、周三郎(暁雲)ととよは、
偉大なる父に囚われ、しかし決して越えられず、檻の中でもがくだけ。
同じくびきにつながれた周三郎ととよは、激しく反発しあいながらも、お互いを認めざるを得ない。
父・暁斎と、周三郎、自分は、家族という「血」の繋がりではなく、絵を描く「墨」で繋がっていたのではないか、ととよは思う。
父を失い、兄を失い、最後のバトンはとよに回って来た。
自分は、黒い墨ではなく赤い血で家族と繋がりたい、バトンを捨てるのも勇気である。
とよの周りの人々、芸術の道を挟んで対峙する、夫婦のありようもいく通りも描かれる。
世の中には二種類の人間がいる。
芸術をするものとしない者。
後者からは、世間を外れて生きる前者を理解できないことが多い。
・とよと、芸術に無関心の夫
・とよの弟弟子・真野八十五郎と、絵を激しく憎む妻・おこう
・とよの兄、父・暁斎の画法を頑固に守り続ける周三郎を、洋食屋で働きながら最後まで支えた、お絹
・鹿島清兵衛と、元人気芸妓のぽん太は独特の世界を作っている。
清兵衛は、河鍋のパトロンとも言えるお大尽だったが、放蕩が過ぎて大店の婿養子の座を追われる。
落籍されて妻になったぽん太は、贅沢が忘れられずにすぐに別れて他の男のところへ行くだろうと誰もが思った。
しかし、どんなに落魄しようと、笛で身を立てるようになった清兵衛に最後までよりそう。
いつまでも人々の口の端に名前が上る有名人の二人ゆえ、世間への意地があったのか。
それとも、登場する中で唯一の、芸の道を知った者同士の夫婦だったからか。
『本当に苦しいだけの絵の道だったか?その中によろこびはなかったか』と、とよに問うてくれたのも清兵衛であった。