紙の本
淡い余韻
2022/08/07 15:27
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:岩波文庫愛好家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公の千重子が出逢う苗子との会話の遣り取りから似た者同士の印象を強く受けました。本篇でははっきりと姉妹とは明言されてはおらず、周囲からの会話の中から双子だと表記する筆致は著者ならではの為せる技法にも感じ取れます。
前後しましたが、本書も冒頭文に感銘しました。美しい描写です。相当苦慮して捻り出した文だと窺えました。今の作家と比肩するといけないのでしょうが、やはり感嘆しました。
本書全体を帯びている京都弁の会話を「読んで」いくには読み辛い部分がありました。とは言え当方が京都府出身であること、母が西陣の人間である点から、何とはなしに懐かしさと親近感が湧きました。
こうした文学作品を読むと、全てを開けっ広げに開示しない「淡さ」と行間からの「余韻」について、読書としてのいい刺激を噛みしめる事が出来て良かったです。
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投稿者:deka - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本の古都、京都の四季折々の風景を小説を読みながら楽しめるとは想像していなかった。
双子の姉妹は古都の映像をさらに美しく鮮明に浮き立たせていた。作者の日本に対する思いを強く感じた。
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読み終わってから再度はじめから読み返すと尚良い。
綺麗な言葉やストーリーの数々が睡眠薬の裏にあったと思うと、信じられないし、その事実がこの作品をさらに儚くて美しくしていると感じた。
解説も後書きもすごく良かった。
京都に行きたくなる。
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きちんと内容を感じ取って読めた感覚は微塵もないのに、なぜか心にずっしりと残る。不思議な感覚。
再読に期待。
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東山魁夷の挿絵ではなく、2022年綿矢りさ解説が追加になった新版。
美しい京の四季が豊かに描かれていて、行ってみたい場所が増え、行ったことのある場所を鮮やかに思い出させてくれる。いつか行く予定の京都旅の予習。
平安神宮の紅しだれ桜、植物園のチュウリップ畑、祇園ばやし、丹波つぼの鈴虫、青蓮院の尼僧が薄茶の接待、もくせいの花の匂い、時代祭などなど、五感を刺激する情景で、双子の運命のはかなさがさらにひきたつよう。
「あたしは、すぐわかるように、道ばたで、働いています。」と千恵子を待つ苗子の言葉に思わず嗚咽。
「さいわいは短うて、さびしさは長いのとちがいまっしゃろか。」と押し入れから夜具を出す千恵子と手伝う苗子との二度はない夜の深さ。
睡眠薬を濫用し体調不良が続いた中での執筆とは思えない。
山口百恵主演の映画を見てみたくなった。
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原田マハの異邦人のお手本にした本ということで読んだ。たしかに、京都の季節の移ろいとともに物語が進んでいくこと、京都の自然や文化の美しさ、生き別れた姉妹、というところで共通する。
京ことばが今よりも強くて、親子、姉妹の愛情が美しくて、おとぎ話を読んでいるかのよう。色んな京都の自然の美しさの描写があったけど、北山の杉が一番見たいなと思った。
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古都は主人公千重子の実家の庭のもみじの描写から始まるのだが、その描写が良い。まだ千重子に関する情報はほとんどないのだが、その古木は執拗に千重子を秤に描写される。
幹は千重子の腰回りよりも太い。古びてあらい膚は、青く苔むしており、千重子の初々しいからだとくらべられるものではない。幹は、千重子の腰ほどのところで、少し右によじれ、千重子の頭より高いところで、右に大きく曲がっている。
何なんでしょう?もうこの段階で千重子に心奪われている。身長は標準よりちょっと小柄。色白で痩せ型、頭も小さい。僕が勝手に妄想した千重子像ですが皆さんはどうでしょう?もみじの古木との対比だけで勝手に若くてしなやかな女性を思い描いてしまう。
物語は四季の京都の情景や祭、お店や町家の描写に溢れ、その度に画像や位置を検索確認した。風情はないかもしれないが、便利だ。虫籠窓とか黒木鳥居、たる源の湯豆腐桶とか言われても全く判らない。ネットがない昔の人は大変だっただろう。
しかしさすが京都、左阿弥、大市、湯葉半、ほとんどのお店が健在だ。竹伐り会など祭事に至っては動画まで確認出来た。もちろん実際に京都に行きたくなる。半世紀以上前の作品ながら、今なお現役の京都ガイドブックだ。
物語ももちろん現代でも面白い。若者それぞれの決断をハラハラしながら読み進んだ。永遠の拗らせ童貞、川端康成翁の面目躍如だ。
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双子の姉妹の話だと聞いて読みたくなった。初めての川端康成である。思っていたより読みやすかった。京の人に校正してもらったという京言葉は本当に美しく感じた。舞子さんが使っているイメージが強いが、一般の人でもこんな雅な言葉遣いだったんだなぁ。四季折々の京の描写があり行きたくなった。北山杉の森に行きたい。
苗子が千恵子を好きすぎて可愛い。尊い姉妹愛。
苗子千恵子、秀男、大問屋の兄弟の五角関係だと思うのだが、終わり方が良くも悪くもスパッと中途半端に終わるのでとても気になる。最後に姉妹2人の夜で終わらせたのはいいと思う。物語の完結が目的ではなく、京という箱庭の中で行き合う人々の物語…かな?
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令和四年五月に新装発行となった名作。一卵性双生児と思われる、生き別れた姉妹の奇跡的な出会いと、生まれ育った環境の違いから生じるそのお互いの心境や生き方について京都を舞台として見事なまでに描いている作品。
祇園祭、葵祭、時代祭、北山杉、高雄の紅葉、鞍馬の竹伐り、南禅寺、京都植物園などなど他にも色々と京都の情景、風物を知ることができ、作品に深みを増すと同時に、この作品によって、さらに京都という都市自体が色彩を帯び、更なる歴史へと誘われる。
作品全体を通しては、登場人物の京言葉で、円やかで優美さに包まれており、これが睡眠剤を飲み、文章の狂いがあるという作品かと疑われるほどに明晰さすらも感じる。
また読みたい作品の一つである。
綿矢りさが解説を書いているも、文章の有り様や生きた時代があまりに異なるため、何処か軽さが浮き上がり気味と感じられた。
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美しくもままならない姉妹愛、親子愛。双子のくだりが出てきたところからページを捲る手が止まらなかった。
親子愛、姉妹愛の爽やかな美しさを描いている。身分の違いのままならなさを、身分が高い側の千重子の側から描いているのも面白い。京言葉が新鮮だけど、印象深くて頭の中でつい同じ言葉を使ってしまう。
背景となる京の四季がメインテーマのようにも思えるくらい色んな姿が描かれている。杉山は3回描かれるが、どれも違った姿で、情景が浮かび上がってくるようで素晴らしい。
太吉郎の盆栽と日本論は面白かった。
身分違いとなってしまった双子の行く末がなんとなくわかってしまうんだけど、それでも先が気になって読むのがとても楽しみだった。
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【裏書】 京都の呉服問屋の娘である千重子は、幼馴染の大学生、真一と平安神宮へ花見に出かける。夕暮れ時、彼女はある秘密を明かすが、真一は本気にしなかった。やがて夏の祗園祭の夜、千重子は自分とそっくりな娘と出会う。あなたは、いったい誰?運命の歯車が回り始めた・・ 。京都の伝統ある行事や街並み、移ろう季節を背景に、日本人の魂の底に潜む原風景を流麗 に描く。ノーベル文学賞対象作品。
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たゆやかで美しき日本語。
後半「幻」にこだわるシーンがあったのは
川端康成が当時ゆめうつつであったからだろうか。
近くにいる。
されど、交わることはない2人。
それもまた美しいのである。
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川端康成さんがノーベル文学賞を取ったときの作品。
京都を舞台に捨て子で呉服問屋の1人娘になっているヒロインとその双子で両親も亡く北山杉の村で奉公をしている娘さんの出逢いと交流を京都のお祭りや名所を舞台に描いている。
京都が舞台なので知っている寺社や食事処(先日行ったばかりの「いもぼう平野家」さんとか)が出てくるのは嬉しいのだけど、お話自体は最後にブチっと「え?それで?!」という感じで終わりました。
その後は読者に委ねる的な余韻もなし。
この時代の作品だと三島由紀夫さんの方が好きだな。
川端さんのお話は雰囲気小説ばかりな気がする。
「え?それで?!」っていうね。
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川端康成の本は初めて読んだけど、想像してたより読みやすかった!
京都の風景、行事の描写が本当に美しくてその空気感に引き込まれた。性格が悪い人も出てこなくてとても気持ちよく読めた。
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"もみじの古木の幹に、すみれの花が開いたのを、千重子は見つけた。
「ああ、今年も咲いた。」と、千重子は春のやさしさに出会った。
シンプルで美しい書き出しですね。
京都の四季、自然の美しさ、祭りを背景にストーリーが進んでいきます。
セリフが全て京都弁なのも味があります。
京都を訪れる前に読んでおくと、いいかなと思います。
川端康成は、この美しい文章の作品を
睡眠薬を常飲しており、自分でも何を書いたのかよく憶えていないと自身のあとがきに記しています。
天才は凄いな!