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miyajimaさんのレビュー一覧

投稿者:miyajima

47 件中 1 件~ 15 件を表示

偉大なる左派政治家の物語

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ミッテランに大変に興味がありまして。

歴代のフランス大統領の中でも異色中の異色。左翼(社会党)政権の担い手なのにソ連とは敵対しフランスの核武装を決めたりして、日本での「左派」イメージとは全く異なる路線を選択という。そんな中ある先生が激賞していたので本書を選択しました。

カトリックの家庭に生まれる→国民義勇兵団に所属しペタンシンパとなる→戦後の第四共和制下では反ド・ゴールなのに政権に加わる→第五共和制では反ド・ゴール陣営を糾合する→その際に共産党も仲間に入れる→大統領になる→大企業の国有化を進める→経済が成り立たなくなりド・ゴール派のシラクに首相をゆだねる→核武装をするっていう流れを見ると「いったいこの人は定見があるのか」という気持ちになりますし、事実フランスでもその評価の振幅は大きいようです。その立ち位置の不分明さが批判の対象になっています。

ですが、本書を読んで大変によくわかったのは、ミッテランが終生抱いていたのは、政治家である以上政権をとらなくては意味がない、という強固な意志です。
では目的のために手段を択ばないのか、定見は無いのか、ということですね。そこは違うんです。

ミッテランが絶対的な価値を置いていたのは「個人の自由の擁護」。これに尽きるのです。ここはブレていないんです。だから共産主義は否定したわけですし、一方で大企業の寡占を認めなかったわけです。ソ連の核ミサイルが自由世界に対する脅威だとなれば自国の核武装を選びます。

この本は政治家を目指す人は必読ではないでしょうか。もちろん当のフランスでもミッテランの一見不定見に見える立ち位置は常に批判の対象ではあったのですが、一つの見識としては間違いなく優秀なケーススタディです。

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紙の本翻訳できない世界のことば

2016/12/31 15:18

まさに「言葉とは文化である」ということを実感しました

11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

私が大学受験生だったころ。ということはもう30年以上前の話。当時通っていた予備校の現国講師が薦めていた鈴木孝夫の「ことばと文化」。入試に頻出するということだけでなく内容もおもしろいということだったので早速読んでみたらこれが面白いのなんの。

「ことば」というものはその言葉を話す人たちにとって文化が歴史的重畳的に折り重なったもの。現在話されているものはいわば氷山の一角のようなもので、海面下にはその数倍・数十倍の歴史・文化の背景がある、というあたりが一番印象に残っています。

その鈴木孝夫を再発見の巻、と言うほどのものでもないのですが、その当時ことを思い出させてくれる本でした。

ある言語ではたったの一語で語ることのできるのに、他の言語にしようとするとものすごく面倒くさかったり、共有がむずかしくなる言葉を集めた本です。しかも何が素敵かといえば、一語一語に可愛らしいイラストがついている点。この本を購入したジュンク堂では「芸術:イラスト」のコーナーにあるほど。

それぞれの言語がどうしてそのような意味を持つようになったのか、話者同士でその言語を共有することが有益だったり必然だったりする背景を考えながら読みました。通読するのであればほんの10分もあればいいのですが、そんなもったいないことはせずに、寝る前や入浴中に2~3語選んでいろいろと妄想しながら過ごすことにしております。

一例をあげますと、「HIRAETH:帰ることができない場所への郷愁と哀切の気持ち。過去に失った場所や、永遠に存在しない場所に対しても」なんてウェールズ語。この本に書いてある解説はたったこれだけです。そうするとなんでまたこんな言葉が、ということでいろいろと思いをはせることになるわけです。

ウェールズと言えば産業革命の前後で町の景観も居住民も一変した街だからかなあ、しかも石炭から石油へのエネルギー革命でももう一回転したしなあ、なんて思うわけです。(でもそれ以上のことを知らないので、ついつい余計な本を買ってしまった次第)。

あ、あとね「BOKETTO:なにも特別なことを考えず、ぼんやりと遠くを見ているときの気持ち」って解説を先に見て「おお、いいじゃないか。どこの言葉だ」って見てみたら「ボケっと 日本語」ってね。

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自分の居場所を作り上げた人たちのお話

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

先日読んだ岸正彦の「質的社会調査の方法」で紹介されていた学者の代表的著作ということで読んでみました。

沖縄ではじめた科研費の研究をきっかけに知り合った女性のうち、キャバクラで働いていたり援助交際をしながら生活をしていた10代から20代の女性の生活史。

「裸足で逃げる」というタイトルですが、家族や恋人たちから暴力をうけて生き延びるためにその場所から逃げ出して、自分の居場所を作り上げていくお話ということに由来。

本書に登場するシングルマザー全員がパートナーであり子供の父親である男性との関係を解消した後、慰謝料も教育費も一銭ももらわず、単身で子どもを育てることを強いられていました。スーパーやコンビニよりも時給が高いキャバクラで働くことで生活費を得ていました。沖縄のキャバ嬢たちは「母」でもあったというわけです。

本書について著者は前書きで「調査の記録」とも「物語」ともしていますが、基本的に本書は「物語」だと思います。彼女たちの受けてきた暴力はすさまじいものですが、その通りだと思う一方で、登場人物たちの多くは「自分の居場所を作り上げ」た人たちばかりなので、基本的にハッピーエンディングだったりそれを示唆するものだからです。だから読後感は決して悪いものではありません。

その中で印象に残ったのは沖縄の非行少年の文化。先輩を絶対とみなす「しーじゃー・うっとう(先輩・後輩)」関係の文化。先輩から金品を奪われ暴行を受けても後輩は大人に訴えることはない。そして学年が代わり自分が先輩になると今度は後輩に同じことをする。そして学校の先生も面倒見がいい教師でも体罰をふるっている。つまり暴力が常態化する中で育つ子供たちは、成長すると暴力をふるうことが当然だと思うし、暴力を振るわれた方も愛されているから暴力を振るわれていると思い込もうとするから逃げるのが遅れる、というもの。

それともう一点。DV法は2004年から施行されてはいたものの、配偶者からの暴力に限られていたため、同棲に過ぎない場合には警察に訴えても門前払いをされていたという点。同棲の場合にも対象が広がったのは2014年から。暴力を振るわれて怪我をして乳飲み子を抱えて警察に逃げ込んでやっとシェルターを紹介されたという本書の事例を読むとそれも遅きに失したなという感想。

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フォッサマグナが学問的にこれほどまでに知られていないとは!

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「三つの石で地球がわかる」を読んで以来ファンになった藤岡先生の最新刊。

しかも帯に「世界で唯一の地形はなぜできたのか なぜ日本にしかないのか」とあって即買い。その上「はじめに」によれば「フォッサマグナが一体何なのか、どのようにしてできたのか、これからどうなるのか、日本にフォッサマグナがあることに意義は何なのかといった基本的なことが、いまだにあきらかになってない」という。

しかも藤岡先生自身がフォッサマグナに関心を持つようになったのは2012年に定年退職するころになってからという。

フォッサマグナと言えば小4の時に読んだ小松左京の「日本沈没」以来私にとってはおなじみだったのだが、実はそうだったのかということでひどく驚く。ページをくくる手ももどかしい状態でとりあえず読了したものの、地学初心者には少々難解な部分もあって2回通読を繰り返す。

さすがに連続して2回読めばそれなりに理解はできたものの、まだまだという自覚はある。あと何度か読む必要あろうかと思われる。

さらに、藤岡先生は「三つの石で地球がわかる」「山はどうしてできるのか」「海はどうしてできるのか」「川はどうしてできるのか」を読むと理解の助けになると書いているので、こちらももう一回通読しようと思う。

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紙の本一億人の俳句入門 決定版

2016/12/31 20:05

切れ字だけでなく俳句そのものについて関心を持つようになりました

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

まずはこの著者の「古池に蛙は飛びこんだか」(中公文庫刊)というタイトルを見て即座に購入。「む? 飛び込んでないの? そうなの?」ということで。

でもそもそも俳句についての知識が無いので「入門」と書かれた本書を合わせ購入。
いや、面白い。

内容としては俳句の定型・切れ・季語という三つの約束について書かれています。

まずは俳句の定型について。
俳句には「一物仕立て(いちぶつじたて)」と「取り合わせ」という2つの型があります。一物仕立てとはその名のとおり、一つの素材(一物)を詠んで仕立てた句。AはBであるという仕立て。

行く春を近江の人とおしみける

というのがそう。

取り合わせとは2つの素材を組み合わせたもの。

旅人と我が名よばれん初しぐれ

というのがそう。「旅立つ私を人は旅人と呼ぶだろう」という芭蕉の思いと、「初しぐれ」を取り合わせているわけです。

次いで「切れ」について。「切れ」の働きはそもそも何なのか?
切れの部分に何かが省略されていると考える人がいます。そんな人は俳句を「省略の文芸」などと呼んだりしています。あるいはまた強調だという人もいます。

どちらも間違い。
切れと切れ字の働きは強調でも省略でもなくて、その名のとおり句を切ることにあるんです。その効果は、「間」を生むことにあります。絵画で言えば余白、音楽で言えば沈黙。

もし切れの働きを省略と考えると、俳句の解釈や鑑賞は省略されたものを復元する作業になってしまいます。しかし、俳句の切れはそうではないんですね。言うべきことだけを切り出しているんです。言いたいけれど言わないことなど存在しないということです。そこで、登場するのが、

古池や蛙飛びこむ水のおと

です。
この句は古池に蛙が飛びこんで水の音がしたと言っているのではないんです。蛙が水に飛び込む音を聞いて古池を思い浮かべたという句なんです。この古池は現実世界にあるのではなく、蛙が水に飛びこむ音によって芭蕉の心の中に出現した幻なのです。この句を一物仕立てと解釈するとまったくつまらない句になってしまうわけなんですね。ここでこの句の説明臭さを払い去っているのが切れ字の「や」。これにより「古池に」の持つ理屈が切断され、大きな「間」が浮かび上がる、ということなのです。

ということで、俳句を解釈する際に理解しておくべき「切れ」と「定型」について詳細に説明がなされています。この二つの重要性を理解するのに芭蕉の「古池や~」の句が大変に参考になるということなんです。

この二つがわからないと、「古池に蛙が飛び込んだ時に音がした」という凡庸な句になってしまうわけなのです。

こんなこと学校で教えてくれませんでした。俳句と「切れ字」と言えば、『ぞ・や・かな・けり』→この字がついているところが俳句の「句切れ」で、この字がついている言葉が「作者の感動の中心という程度の知識しか教わりませんでした。これでは芭蕉の句は決して解釈できないですよねえ。

とか言っても2冊ばかり読んだくらいで上からモノを語るのも間違いだと理解しております。ということで著者の他の本も読んでみることにした次第。

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質的調査というか、社会学や文化人類学の初学者にもぴったり

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「断片的なものの社会学」が面白かったので、同じ著者が書いている資質的調査の本を見つけて早速購入。

本書で扱われる質的調査は「フィールドワーク」「参与観察」「生活史」の3つ。私としては質的分析というのは要するにノンフィクションとどう違うのかという点について、あまり確固たるものが持てないままでしたが、本書を読んである程度納得。

要するに質的社会調査を社会学という学問を支えるものとしているのは、それが私たちと縁のない人々の不合理に見える行為の背後にある理由(これが「他者の合理性」といわれるものです)を誰にでもわかる形で記述し解釈することにあるというのです。

「特定の状況下におかれた特定の人々についての解釈」を続けることで、仮説や命題の形に収まらないけれど、当事者の体験が量的調査では見えてこない、それまでの思い込みを覆すような視点を提供してくれることになるのことがあるというわけです。
誰かを観察したり、その人の生活史に耳を傾けることで、特定の社会問題の背景知識を得て(歴史と構造」)、その社会構造についての新しい見方を獲得する(理論化)というのが社会学を意味づける手段としての質的社会調査ということなのですね。

初学者向けの本なので、依頼書の書き方とかレコーダーの扱い方といった実に基礎的な事から始まるので、質的調査だけでなく社会学や文化人類学の初学者にもぴったりなのではないかと思います。何より、本書に挙げられた推薦図書がどれもおもしろそうなので、少なくとも買ったままで読んでいない本は読んでみようと思いました。

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「自由意志」なんてないのか??(そんなことはない)

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

法律をやっていると刑法の故意を勉強するので「意志」というものに関心を持たざるを得なくなります。本来その行為を避けることができたにもかかわらず「敢えて」その行為を選択したことが非難されるというわけです。

そして哲学をやると「自由意志なんてものはあるのか」というのが一大論点だったりもします。古くはスピノザ、新しいところではアインシュタインが「自由意志なんてものは無い」と説いているわけです。

ですが、哲学というか文学的なロジックはその多くがサイエンスによって居場所を失いつつあるという現状があるわけです。「意志」というものはその一つではないかと思っておりました。そんな問題意識にを持つ身にとって本書はドンピシャな感じがしてタイトル買い。

「生まれか育ちか」という言葉がありますが、20世紀前半は「脳は白紙である=可塑性がある」という考えが主流でした。ですが、その後後天的な要因や経験に左右される、と通説は変化してきました。

人間は進化の過程で脳を大きくしてきました。しかし、大きくなるとニューロンをつなぐ信号処理に時間がかかるようになってしまうというデメリットが生じました。そこで、何度も繰り返される処理は自動化され、脳の別の領域に伝えられるのはその結果だけで過程は省かれるようになります。このように特定の仕事をする局所的で専門的な回路をモジュールとよびます。

ではそれほど局所化が進んでいるのに人間はあたかも一つの統一体として機能しているのはなぜなのでしょうか。

脳の左右の半球を分断された人を対象とした実験の結果、分離脳患者は脳の左半球と右半球のそれぞれで別々の精神を持つことが分かったのです。ですが、その場合左右のどちらが主導権を持っているのか?

実は脳は二つの意識的システムに分かれるのではなく複数のダイナミックなシステムの集まりと考えられています。脳は汎用コンピュータではなく、脳全体に専用回路が配置され並列処理を行っているというのです。この回路網が無意識レベルで様々な処理を並列で行っているのですが、それを統括している「本部」は存在しないのです。

並列分散型のシステムから生まれる行動・情動・思考に理由付けを行う「インタープリター」と呼ばれる機能の存在が確認されたのです。ちなみにこのインタプリターは左半球に存在します。インタープリターが私たちの記憶、知覚、行動とその関係についての説明を考え出しているのです。仮説を立てようとするその衝動が人間の様々な信念を生み出す原動力となっているのです。

つまり、脳が精神を存在させ、機能させているというのが最新の知見であり、「わたし」とは並列分散処理を行う脳なのです。「わたし」自身とは脳のインタープリターモジュールが紡ぎだしたストーリーなのです。

では、この事実は「自由意志なんてない」と説く決定論者の勝利を意味するのでしょうか?

脳は一つだけでは社会的なやり取りはできません。二つ以上の脳がかかわると、そこに予測のつかないことが起こり、存在しなかった規則が定まります。この規則に従って獲得された性質が責任感であり自由なのです。そのどちらも脳の中には見つかりません。

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読書を通じた「気持ちの交換」に成功した稀有な例

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「おススメの本があったら教えてください」と言われることがある。これは困る。そう言っている方がどんな人生を歩んできて、どのような思考・志向・価値観を持っておられるのかについて知らないまま、いったい何を根拠としてすすめればいいのか困ることがほとんど。

「あなたが今まで読んで一番面白かった本は何ですか」と聞かれることもまた困る。たった1冊の本で表現できるほど俺の人格は単純じゃねーぞ、という反発を覚えたりする。

と言いつつ、本書の著者のように「出会った30分間という時間制限の中で相手にふさわしいと思う本を勧めて回る」という行為に興味があるのも事実。著者は、「人の役に立ちたいという気持ちだけではなかなか具体的に人に関わること難しい」「でも本を介してなら、気持ちを押し付けることなく知らない人と気持ちを交換できたりする」という。なるほど、そういう視点で、しかもそれが叶うのならばとても素敵なことだ。

特に「気持ちの交換」という視点は実に大事だ。一方的に受け取るだけなら一人で本を読んでいた方がいいし、一方的に主張するだけならFacebookで今まで通り垂れ流していればいいじゃないかと思う。ということで、稀有なポジションを築くことに成功した著者に嫉妬しつつ読了。

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シベリア出兵100年を前に繰り返し読みたい良書

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ロシア革命を勉強すると避けられないのがシベリア出兵。といつつ私にとってはせいぜい米騒動で出てきた記憶程度のもの。あまりに知識がないのでいろいろ本を探したのですが、意外にも新書レベルはおろか研究書も現代のものがほぼ見当たらないということに気が付きました。そんな中で本書は2016年の刊行ということで読んでみました。

なるほど、もともと何も知らないに等しかったので本書の内容はどれも大変に新鮮なものばかりでした。ほぼすべてのページに付箋がついてしまいました。

最大の収穫は、日本では対ソ戦というとシベリア抑留に言及されることが多く、しかもそれは日本人にとって悲劇として描かれるわけですが、ソ連(ロシア)では研究者以外にシベリア抑留に言及するケースは皆無で、逆にシベリア出兵は日本の軍国主義の象徴として今でも歴史書・教科書に取り上げられているという点です。

本書を読む限りではまさしく日本のやったことは侵略に間違いはないんだろうなあという感想を抱きます。そして本書が素晴らしいのは、そもそもなぜこれほどの長きにわたって撤兵ができなかったのかという点について言及がされている点です。

なお、多くの犠牲を払って得るものが無かったシベリア出兵。もともと英仏が第一次大戦でドイツに対抗するために思いついた補助的な作戦に過ぎなかったはずなのに、なぜこの戦争は7年の長きにわたって続いたのか。著者によれば以下の通りです。

・統帥権の独立により軍に対して政府は命令できなかった。参謀本部の権力は絶大であっただけでなくその背後にいた元老山形有朋の権力は絶大であった。
・派兵は戦争ではないという建前なので講和条約を結ぶこともできない。というよりそもそも日本はソヴィエト政府を国家として認めていないので交渉の相手がいなかった。
・山形だけでなく原内閣も北満州や北サハリンでの利権獲得に執着していた。しかも出征して亡くなった兵士の死を無駄にできないという心情も作用した。

というもの。「広大な空間を舞台に神出鬼没の非正規軍に悩まされる」「その敵とつながっているとみなした現地の住民を敵視し、討伐し、結果的に四方を敵に回し兵士も疲弊する」という状況はまさに日中戦争で繰り返されました。これらの教訓が全く生かされなかったことが日中戦争での悲劇につながったという著者の分析は大いに首肯するところです。

著者が強調するように、多くの日本人にとって印象が薄いシベリア出兵。2018年はその100周年に当たります。日本人はこの戦争をもう少ししっかりと総括するべきではないかという思いを強くしました。本書は繰り返し読むべき本とします。

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サイエンスに裏付けられた気候変動

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は過去数万年の間に起こった気候変動を取り上げている。原著は10年も前に出版されている。私が読んだのは2015年に文庫化されたもの。だが、そこで述べられているのは「ほぼ確かなサイエンス」だったために加筆はそれほどなされていない。

気候変動のメカニズムを探求してきた研究者たちの積み重ねを丹念に述べている本書は、出来のいいパズルのようだ。年月を経て着実に様々なピースが組みあがる様はサイエンスとしてはもちろんのこと、ジャンルを超えた読み物としても大変に読みごたえがある。

そして、研究結果の積み重ねにより判明した以下の事実に酷く驚かされる。地球規模の気候変動は長期の時間スケールで起こると考えられていたのだが、実はわずか数十年で一気に変わる可能性があるという点だ。つまり、地球温暖化というのは遠い将来の話ではなく、ごく近い未来の話となる可能性があるというのが「確かなサイエンス」として分かってきたというのだ。

ということで多くの人にとって地球温暖化は自分とは関係ないということだろうが、まずは本書を読まれてはいかがかと思う。こんな良質な本が1500円未満で買えるというのは何とすごいことかと思う。

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再分配政策と経済政策を切り離して考えてはいけない

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

安倍政権に批判的な方の多くが、アベノミクスも批判されています。ですが、金融緩和と財政出動についてはそもそも安倍政権オリジナルというわけではなく、マクロ経済の基本中の基本のはず。

しかし、野党はおろか与党内部からも「トリクルダウンに過ぎない」などと批判されるのを見るにつけ暗澹たる気持ちになっておりました。これでは安倍政権以外に選択しようがないではないかと。そんな忸怩たる思いを抱いていた矢先、本書に出合いました。

松尾先生はバリバリのマルクス経済学者、ブレイディみかこはアナキスト(笑 

ということで左右という立ち位置で言えば完全に左派。ただし、アベノミクスのうち少なくとも反緊縮の部分については肯定し、それどころかそれを強化すべしと説きます。

マルクスの唯物論は一言で言うと「結局世の中メシの問題だ」というもの。それはマルクス主義の基本中の基本。世の中はメシの問題(土台=下部構造)で動いていて、その問題を解決すると主張する政治思想や体制(上部構造)が選択されるというのが唯物論の考え方。

食べていけない貧困層がいっぱい出てくるとどういう上部構造が選択されるかと言えば、メシの問題を解決してくれる政治体制に決まっている、と説明します。

世界的にみて左派は反緊縮の流れで一致しているのに、なぜか日本の左派は真逆を選択しようとしていることの危険性を説いた本書。感情的な批判ではなく非常に説得力に富む本なので、一人でも多くの方に読んでいただきたいと願う次第。

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紙の本言葉の贈り物

2018/07/01 20:08

言葉への信頼

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人間を人間たらしめる源泉としての言葉への全面的な信頼、あるいは限りない愛を表明した本である。それは同時に、相手が人間かどうかを問わない他者への愛がある。そういった想いをこれでもかというほどに畳みかけてくる24編のエッセイ。

何がすごいって、久しぶりに読書をしている電車内で泣いてしまった点。

著者の父親は本を読むことだけでなく買うことに情熱を持ち続けた人であった。晩年目が悪くなり活字を追えなくなってもなお毎月数万円の本を買い続けた。裕福なわけではない。著者を含めた三人の子どもが毎月仕送りをしていたくらいだ。だが、どんな言葉も彼を説得できなかった。

そのことを会社の同僚に愚痴った著者だが、その同僚から「読めない本は、読める本より大事なのかもしれない」と言われ衝撃を受ける。読書観ばかりか世にある物との関係にも大きな変化をもたらすことになったという。

著者はいう、「本を読むことの楽しみだけでなく、書物の奥には人生の多くの時を費やしても決して後悔しない豊穣な世界が広がっていることも、私は父から教わった。」「本は読むだけでなくそれを眺め、手にふれ、あるいは心に思い浮かべるだけでも十分な何かであることも教わっていた」と。

そう、そうなんだよなと。書物の中というのか書物の向こうというのか、そこには私が決して見たり知ったり感じたりすることのできなかったり、自分の見聞・見識を広げてくれる広大な世界が広がっている。実際に体験することは無くとも、その世界の広がりを想像するだけで心の底からワクワクする。

自宅の居住スペースを圧迫してまで本を買い続ける私の振る舞い。それは家族を筆頭に誰にも理解できないことだろうという諦めとともに生きてきた。だが、そんな私を肯定してくれる考えに出合ったよろこび。そう、これが読書の醍醐味ということ。

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紙の本一発屋芸人列伝

2018/07/01 20:05

そう、人生は続いている

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各所で話題になっていたので買ってみる。この手の話題本は、自分の人生において前向きになれるようなものしか読みたくないとおもっていたので、しばらく様子見でいたのだが結局購入。まあ期待にたがわない良書であった。

本書で言う「一発屋」というのは、一発当てたけれどもそのあと失速してそれきり、ということではなく、「一発屋という肩書」で商売を続けている芸人である。一瞬スポットライトを浴びてその直後にエンドロールが流れてあとは忘れられるという刹那な存在ではない。あるいは失意のうちに芸能界を去っていった落伍者の物語でもない。そうではなくて「どっこいオイラは生きている」ということ、言い換えれば帯に書かれたように「それでも人生は続く」ということ。

「一発屋芸人」たちが当てたその後に、不器用でありながらも決してくじけずに努力している様を描いた本書は、気持ちが弱っているときに読み直す価値がある本だと思う。

(ハローケイスケだけは今後が心配、、、)

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紙の本チャヴ 弱者を敵視する社会

2018/07/01 20:03

自己責任論に押し込めてはいけない問題

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イギリスの階級問題に関する本を立て続けに読んでいる。

労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱」「子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から」「ブレグジット秘録」に続く4冊目。

この4冊を読んで痛感するのは、新自由主義による資本の偏在と階級の固定化圧力が強化されていく姿は日本の将来を明示しているだろうということ。いろいろな論点を「差別主義」「甘え」と単純化してしまうことにより階級分断が進んでいくぞ、という危険性。

ピケティ(あるいは端的にマルクス)が説いていたように、強力な再分配がなされなければ富の偏在は加速するということを実感する本。

労働者階級を悪しきものとして扱うことは不合理な制度を正当化するための手段に過ぎない、という本書の指摘をもっと真剣に受け止める必要があろうかと。「ブロークンブリテンにおいては、被害者はつねに自分を責めるしかない」という著者の指摘は重い。

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経済政策で人を救え、ということ

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著者二人は疫学者。疫学は病気の本態や原因、影響を調べるのが仕事だが、経済にも応用し、政府の予算編成や経済政策の選択がその国民の生死、病気への抵抗力、死亡リスクをどう左右するかを調べた結果が本書の内容。

ちなみに原著書名である「The Body Economic」とは「ある経済政策の下に組織された集団。その政策に影響を受ける集合体としての国民」のこと。著者は疫学をボディエコノミックに応用した

で、財政緊縮か財政刺激策かという選択はどのような影響を健康に及ぼすのか。それらは大恐慌、ソ連崩壊、東アジア通貨危機などのように世界規模で自然実験が行われてきた。その結果はどうか?緊縮政策をとった国は大きな代償を払うことになったことが明らかになった。経済政策の結果は経済成長率だけでなく平均寿命の伸縮や死亡率の増減にあらわれた。

社会保護政策は命を救う。そしてそれを正しく運営すれば財政を破綻させることにならず、むしろ景気を押し上げる。緊縮政策の提唱者たちは、すでにデータで明らかになっている健康上、経済上の影響をひたすら無視して否定してきたのだ。

先日読んだ「そろそろ左派は〈経済〉を語ろう」とあわせると、もう緊縮一辺倒はやめた方がいいと思うのだがどうか。

た、だ、し、気を付けるべきは単なる積極財政が推奨されるのではなく、求められるのは社会的セーフティネットへの十分な投資である点。特にALMPと呼ばれる積極的な社会保護政策は自殺リスクを下げる最も有効な手段だと断言されている。

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