サイト内検索

詳細検索

ヘルプ

セーフサーチについて

性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示を調整できる機能です。
ご利用当初は「セーフサーチ」が「ON」に設定されており、性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示が制限されています。
全ての作品を表示するためには「OFF」にしてご覧ください。
※セーフサーチを「OFF」にすると、アダルト認証ページで「はい」を選択した状態になります。
※セーフサーチを「OFF」から「ON」に戻すと、次ページの表示もしくはページ更新後に認証が入ります。

  1. hontoトップ
  2. レビュー
  3. ゲイリーゲイリーさんのレビュー一覧

ゲイリーゲイリーさんのレビュー一覧

投稿者:ゲイリーゲイリー

191 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本ザリガニの鳴くところ

2020/04/07 21:18

自然を通して描く「孤独」

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本作は、孤独や人とのつながりといった人間なら誰しもが経験しうる事柄を、自然を通して丁寧に描いていた。
その普遍的なテーマをとても深く掘り下げており、特に孤独に関しては本作の核とも言えるほど深く掘り下げていた。

主人公であるカイアの様な苛酷な環境を経験したことがあるわけではないのに、カイアに自己投影してしまう。
誰しもがどこかで感じた疎外感や孤独といった感情を、カイアが一身に背負っているかのような感覚を覚えた。
なので、どこまでもカイアに感情移入してしまう。
読者はカイアの抱く苦しみ、喜び、苛立ち、といった様々な感情をともに感じるであろう。
ここまで登場人物に感情移入させる著者の卓越した人物描写には感服せずにはいられない。

本作の魅力は人物描写にとどまらず、フーダニット的ミステリー要素や詳細な自然描写なども挙げられる。
著者自身が動物学者であるので、自然描写は特に素晴らしかった。
野生動物の生態を人間の愚かな行動の比喩として用いている点や、自然界の美しさの描写などが特に印象に残った。

ミステリー要素や卓越した人物描写、事細かな自然描写やそれらを用いた文学的表現など本作は色々な要素を含んでいる。
それらを見事に混合させ、差別や偏見といった社会問題や孤独や愛などの個人的感情を浮き彫りにした本作。
本作を読んでカイアの人生に何を見出し、何を感じたかを様々な人に聞いてみたいと思った。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

共感と包容力に満ちた一冊。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

他者比較によって、自身の不甲斐なさに苛立ち、努力を怠ってはいけないと自身に鞭を打つ。
その様な自身に対する攻撃が繰り返すことで、苦悩や不満は更に増すばかり。

本書は、そういった自分自身に向けた攻撃や呪詛の言葉をも優しく包み込んでくれる。
仕事や恋愛、将来への不安や夢の追い方など各章ごとにテーマ別で分けられているが、その根底にあるのは読者への信頼と共感だ。

他者との比較によって自らの価値を見出すのではなく、あなたがあなたでいることにこそ価値があるのだと著者は述べる。
相対価値ではなく、一人一人に絶対的価値があるのだと。
この考え方を身につけることができれば、将来の不安や他者比較による不安などに苛まれることはなくなるだろう。

また、自己肯定感と他者信頼、正直であることと未来を信じることが如何に大切なことかを本書は私たちに教えてくれる。
自己肯定感、他者信頼、正直さ、そして希望。
これが大切なことだなんて誰もが知っているに違いない。
しかし、一体何人の人がこれらを意識しながら生きているだろう。
本書は。共感と包容力を用いて、誰もが大切だと知っていながらも疎かにしている大切なことについて今一度私たちに考えさせる。
自分の人生を送るために、一旦立ち止まり本書を手に取ってみるのも良いかもしれない。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

情熱的で衝動的だからこそ辿り着いた境地。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

コスパや効率性、即効性が重視される昨今において、がむしゃらに何かを行うことや闇雲に突き進むことは軽んじられている気がする。それどころか、暑苦しいと疎まれる可能性すらある。

そんな冷笑的で否定的な世間の風潮を一蹴するのが本作。
タイトルの通り、千葉からほとんど出たことのない著者がルーマニア映画との出会いをきっかけに、ルーマニア語の作家となるのだが、そこに至るまでの読書量や映画鑑賞量、SNSを活用したコミュニケーション方法に驚愕させられっぱなし。そして何よりそれを実現可能にした著者の熱量に圧倒されてしまった。

誰もが一度は何かに熱中すると思うが、周囲の声であったり、先述したようなコスパ重視の風潮によって、「無駄だ」と自分で見切りをつけてしまう。そうやって自分で見切りをつけて退くことが賢いのだと。だからこそ信念を曲げずただひたすらに愚直に邁進する著者の様な人たちに対して、身の程知らずだなどの言葉を投げかける人たちが一定数存在するに違いない。しかし本作を読めばわかるはずだ。何かを達成したり、得たりするのに必要なのは効率性や即効性などではなく、情熱であり衝動なのだと。それほどまでの熱気と説得力が著者の一文一文から滲み出ている。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本現代思想入門

2022/05/26 00:26

世俗性と偶然性。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本作は、難解な現代思想を懇切丁寧に解説している。
デリダ、ドゥルーズ、フーコーを中心に二項対立からの脱構築とはどういうことなのかを段階的に取り上げていく。
そこで述べられるのは、秩序の中にある攪乱要因や同一性を絶対視しないことの重要性である。
白か黒かではなく、グレーゾーンをグレーゾーンとして受け入れることが如何に重要であるかを述べているわけだ。

また本作は現代思想を解説するだけでなく、なぜ今現代思想が必要なのかということにまで触れていく。
更に巻末には現代思想をどういう風に読みこむべきか、といったレクチャーまで記載しているのだから、タイトル通り現代思想の入門書として最適と言う他ない。
秩序を何よりも重んじ、必然性を求めてやまない今の世の中だからこそ、本書の様に世俗性や偶然性を肯定する作品は読まれるべきだ。
無限の反省から脱却し、自らの人生において今ここで何をするかに注力することを後押ししてくれる一冊。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本高慢と偏見

2020/04/22 19:59

皮肉に満ちたユーモアと見事な人物描写

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

約200年前の作品なのに未だに多くの人に読み継がれている本作。
200年も前なので時代背景はもちろんのこと、結婚に対する考え方や男女に対する考え方など多くの事柄が現代とは異なる。
にもかかわらず、本作が未だに不朽の名作と言われ続けるのは、人間の変わらぬ本質を見事に描写しているからだと思う。

見栄や虚栄心などよりも誠実さや謙虚さ。
お金目当ての結婚よりも愛があふれる結婚。
これら全ては現代に生きる私たちにも至極当然の様に納得できるであろう。
本作は時代を超えて人間の持つ普遍性を描いているため、今なお読み継がれているのである。

本作の魅力はそのテーマだけに留まらず、巧みな人物描写と軽快な文体にもあると思う。

主人公であるエリザベスやダーシーの心理描写や、互いの偏見の為すれ違っていく描写などは見事としか言いようがない。
個人的に最も素晴らしい人物描写と感じたのは、ベネット夫人やミス・ビングリーの様な無自覚な自己中心的人物である。
自己の利益を他人のためとすり替え恩着せがましくする描写、外聞や見栄などを何よりも気にする描写など「現代にもこういう人いるなぁ」と思わずにいられなかった。
また、その様な嫌な人物に対する皮肉に満ちたユーモアや会話劇などの軽快な文体が本作をとても読みやすくしていた。

今まで名作といわれてきたものを毛嫌いする傾向があったが、本作と出会い考えを改めた。
本作は、名作にはそれなりの理由があって読み継がれているのだと認識させてくれた。
今後も世界的名作を読んでいきたい。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本フリースタイル言語学

2022/09/26 01:25

言語学に魅了された著者による、言語学の魅力が詰まった一冊。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

私たちが普段何気なく使っている言葉。
あまりにも当たり前に使っているが故に意識してこなかった言葉の法則や成り立ちを、素人にも分かりやすく解説している。
「ドラクエ」、「ポケモン」といったコンテンツを例に言語学のあれやこれを軽妙洒脱な文体で解説してくれているため、非常にすんなりと理解できるのだ。
まさに言語学入門にうってつけの一冊。

また言語学に留まらず、言語学者とはどういう活動をしているのかといった裏側や、日常生活において引っかかる言語の使用方法など、言語学者である著者だからこそ書くことができる内容が盛り沢山。
そして何より言語学者として、言語学を活用して世のため人のために役に立とうとする著者の姿勢には感銘を受けずにいられない。
言語学をどこまでも愛する著者の、多くの人々に言語学の魅力を知って欲しいという願いは本作のおかげで叶えられるだろう。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本メキシカン・ゴシック

2022/04/27 23:39

伝統と現代的な要素。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

荒廃した屋敷に暮らす陰気なドイル家は何か秘密を抱えている模様。
そんな屋敷に嫁いでしまった従姉のカタリーナの容態を確認すべく、主人公・ノエミは不穏な雰囲気が満ち満ちた場所へと足を運ぶことに。
変わり果てたカタリーナ、何かを企んでいるドイル家、そして夜な夜な見る悪夢。
そう、つまり本作はダフネ・デュ・モーリア作品等の伝統的なゴシックホラーの継承者なのだ。

ゴシックホラーの王道として正統派として位置付けられる本作。
しかしその一方で、伝統をただただ踏襲するだけに甘んじることなく現代的な要素を掛け合わせることにも成功している。
それが最も顕著なのが、ノエミのキャラクターだろう。

ドイル家はノエミに対し、肌の色や性別に対する差別的発言、偏見を次々とぶつける。
しかしノエミはそれに対し怯むことなく、果敢に立ち向かう。
旧時代的な思想や家父長制度を絶対だと盲信しているドイル家と、彼らの戯言などには縛られず己が正しいと思うことを信じ行動するノエミ。
まるでフランシス・ハーディング作品に登場する主人公のような逞しさを持つ彼女は、まさに希望の象徴だ。

そんな彼女を服従させようと企むドイル家の真相がじわじわと明らかになっていく展開からは目が離せない。
カタリーナの身に一体何が起きたのか、そしてノエミが見る悪夢とは、といった謎も物語を力強く牽引する。
伝統を継承しつつも、現代的なテイストを混ぜ合わせることに成功した本作は、ゴシックホラーを嗜んできた方にもゴシックホラーを読んだことがない方にも受け入れられるに違いない。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

貪欲に人生を充実させようとする姿勢。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

幸福度世界一位と聞くと、私たち以上に裕福で悠々自適な暮らしを送っていると想像してしまう。
私自身本書を読むまで幸福度世界一位の国など遠くかけ離れた存在であり、私たちの暮らしと通ずるものなどないと思い込んでいた。

しかし本書のおかげで、フィンランドから学べることは多々あると気づかされた。

題名の通り、フィンランド人は午後4時に仕事を終え残業は非常にまれらしい。
その根幹には「人は人、自分は自分。既定の時間数を働いたら帰るのは当然。」
「大変な仕事を簡単そうにやっていたり、効率よくこなしサーッと帰るのが格好よく、できる大人の証拠」といった社会通念が流れている。
日本でも仕事の効率化やワークライフバランスなどが見直されつつあるものの、未だに同調圧力や残業などを美徳とする風潮があるように思う。
フィンランドの様に仕事とプライベートの時間を両立させるには、まず仕事や時間に関する考え方を私たち一人一人が改める必要があると再認識させられた。

また残業時間以外にも、フィンランドの企業や組織は非常にオープンかつフラットで上下関係があまりなく肩書に拘らない文化もある。
それらも見習うべきだと思った。
組織内をフラットにすることで、組織内の人間一人一人が責任を自覚し、物事の判断を効率よくこなせるという利点は素晴らしい。
そしてその文化の根幹には相手への信頼がある。
新人だろうと知り合って間もない相手だろうと重要な仕事や課題を任せることで、任せれた方も期待に応えようとする。
そのような姿勢が国に根付いていることは非常に羨ましく思う。

個人的にフィンランドから最も学ぶべきだと感じたのが、自力でどうにかするという考え方だ。
仕事、家庭、勉強、趣味これらすべてに貪欲で能動的に働きかける姿勢は何よりも重要だと思う。
この姿勢があるからこそ幸福度世界一位の国となったのではないだろうか。
人生を充実させようという強い気持ちを誰しもが持ち、そしてそれをオープンに語り合える文化が私たちには欠けていると感じた。
フィンランドの様に、自らの欲求に正直になることで他者の欲求に対して寛容になれることは素晴らしいことだと思う。

日本はフィンランドの様に福祉制度が整っていないから、フィンランドだからこそできる理想にすぎないと諦めるのではなく、人生を充実させるには私たち一人一人の考え方こそが何よりも重要なのだ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

やりがい搾取を行う社会の構図とは。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書のタイトルである「クリエイティブであれ」は、個人が抱く夢やキャリアデザインを焚きつける文言として利用されている。
そう、低賃金や長時間労働といった搾取を行うのに格好のスローガンとして用いられているのだ。

ファッション業界や音楽業界、メディア業界を筆頭に「好き」な仕事に就けたのだから、どんな職場環境であれ、どれほど搾取されようとも自己責任。
こうしたシナリオを個人に押し付けることで、資本主義社会はこれまで通り利益を貪り、社会批判の声を摘むことができる、といった構造を著者は明らかにしていく。
「やりがい」や「創造性」さえも商品へと転化される資本主義社会を生きる私たちにとって、本書が明らかにしていく事柄は決して他人ごとではないはずだ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

渇き切った熱風。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者であるルシアン・ベルリンの紡ぐ物語には、剥き出しの感情だけが持つ圧倒的な熱量、そしてそれを俯瞰的に捉える冷徹さが同居している。
想像を絶する人生経験を源泉とした物語たちは、彼女の血と涙で書かれていると言っても過言ではないだろう。
にもかかわらず、本作からは自己憐憫や哀愁といったものは一切感じられない。
むしろ本作を読み進めていくと同時に、渇き切った熱風に襲われたかのような、他の作品からはあまり感じられない異様な熱を体験するはずだ。

類まれなる観察眼と、これほどまでに言葉とは自由なのかと思わされる見事な表現力。
そして何より世界を定義することなく、美と醜を同時に見つめるその姿勢が唯一無二の物語を紡ぐ基盤となっているのだろう。
創作と実体験の境界線を自由に飛び越え、喜劇と悲劇を同時に描く彼女の作品に、もっと浸っていたいと思ってしまったのは私だけではないはず。

絶望と希望、幸福と不幸。
人生とはどれか一色に染まるものではない。
全ての色を内包しつつも、混ざりあうことによってそれ以上の何かになりうるのが人生なのだということを本作は私たちに突き付ける。
孤独や痛みに正面から向き合った彼女の言葉は、私たちの心を掴んで離さない。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

ユーモラスで示唆に富んだ言語学×エッセイ。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

言語ほど私たちと密接な関係にある分野はそうそうないだろう。
年代や職業、出身国や趣味嗜好問わず人と人とがコミュニケーションをとる上での基盤となり、人類の発展に大きく関わってきた言語。
では、私たち人類と切っても切り離せない言語を専門とする言語学とは一体どういう学問なのだろうか。

本書はそうした疑問に対してのベストアンサーとなりうる一冊である。
プロレスやアーティスト、誰もが知る国民的大ヒット曲からアニメ等私たちの身近なものを例にとり、言語の深淵さを垣間見せてくれるのだ。
また、思わず笑ってしまうような軽妙洒脱な文体も本書の醍醐味。
言語学初心者はもちろんのこと、言語学に興味のない方でもエッセイとして十分に楽しめる作品となっている。

意味や意図の違いや、言語の持つ曖昧さや不明瞭さ。
普段私たちはこれらを難なく使いこなしているわけだが、AIはこれを適切に判断できない。
本書は言語が如何に奥深く複雑で、素晴らしいものであるかを再認識させてくれる。
しかしその一方で、言語に対する私たちの姿勢には反省すべき点も存在する。
言語の正誤に囚われマウントの取り合いを繰り返し、他者へ攻撃的な言葉を投げかける風潮には著者も警鐘を鳴らす。
著者の文体の様なユーモラスで朗らかな姿勢こそが、言語を用いる私たちにも必要不可欠ではないだろうか。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本自由研究には向かない殺人

2021/11/26 20:23

スモールコミュニティを描いたミステリーの新境地。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

捜査が進むにつれ、スモールコミュニティの抱える闇が浮き彫りになっていくミステリーは目新しくはない。
本作もその類のミステリーなのだが、従来のスモールコミュニティを描いたミステリーとは一線を画す。
というのも、偏見や噂に惑わされることなく真実を追求する揺るぎない正義感を持った主人公・ピップのキャラクターが、スモールコミュニティを描くミステリーにありがちな陰鬱さを吹き飛ばしてくれるため、扱っているテーマとは裏腹に読後感はどこか爽快感すら感じることができるのだ。

また、ピップが調査で手に入れた証拠を文字だけではなく地図やイラストなどを用いている点も魅力の一つ。
SNSのトーク画面や手書きメモなどをそのまま画像として載せることにより、臨場感はもちろんのこと、ピップと同じ目線に立って事件を追うことができる。
それらのマルチメディアに隠された真相に気付くことで、ピップの追体験ができるようになっているのだ。

それらの他にも、容疑者同士の知られざる関係性やピップが大切に思っている人々の知られざる一面などが明らかになる展開により、読者は物語がどこに終着するのか予想できない。
個人的には余りにも容疑者を増やしてしまったが故に、誰もかれもが怪しく見えすぎて真犯人が明らかになった際の驚きが薄れてしまったのが少し残念だった。
しかしそれでも本作のリーダビリティと魅力的なキャラクターは一読の価値有りと言える。
暗澹たるミステリーではなく、読後感に心地良さを求めたい方には是非ともオススメ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

芸術という過酷な世界で自然体を貫く彼ら。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

奇想天外で唯一無二の東京藝術大学。
タイトルにある通り、秘境と称される学校の実態をインタビュー形式で探ろうというのが本作である。

インタビューを通じて見えてくるのは、好きという感情の力強さ。
誰よりも凄い芸術家や音楽家になるという野心を原動力としているのではなく、
自らが行っている行為そのものが好きで好きで堪らないという気持ちこそが原動力となるという事実が本作から垣間見える。

もちろん全生徒が屈託なく、自身が専攻している分野を好きだといえるわけではない。
幼少期から取り組んでいる音楽に対してどういった感情を抱いてよいか判断しかねている生徒たちが在籍しているというのも事実。
しかし、そんな彼らでさえも気がづけば練習に励み自己研鑽を続けている。
好きという表現では言い表せない宿命めいた業の様なものと向き合い続ける彼ら。
そんな彼らの姿からは、好きなことと真剣に向き合うということの苦しみと辛さが見受けられる。

そして本作からは芸術の素晴らしさと残酷さも描かれていく。
全ての苦労が報われる言葉では表現できないほどの高揚感や、努力をどれだけ重ねようと結果に繋がるとは限らない現実。
卒業後にその分野の第一人者として活躍できる人は、ほんのひとつまみと言われるほど過酷な芸術の世界。
それでも藝術大学に属する学生たちはその世界で学び続ける覚悟ができている。
芸術というルールが曖昧で何をもってして成功するのか分からない独自の世界で自然体を貫く彼らから学ぶことは多い。
また、藝祭に行ってみたくなること必須の一冊でもある。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本日曜日は青い蜥蜴

2021/02/08 16:49

物語を愛する者。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本作は恩田陸がいままで手掛けてきた、新聞や雑誌に掲載された記事や書評、文庫本解説等をまとめたものである。
なので触れられる作品自体は、当時の作品が多く少し古く感じるかもしれない。
だが、著者の類まれなる筆力や審美眼のおかげでそういったことは一向に気にならなかった。

私自身読んだことのある本や見たことのある映画、好きな作家や漫画家(若竹七海や岩明均など)について述べられたいたのは非常にうれしかった。
また、見聞きしたことはあるものの未だ手を付けていない作品(クラウド・アトラスや指輪物語など)については、是非とも手を付けようと思った。
自分の好きな作家が何を読み、何を鑑賞し、何を思うのかを垣間見ることが出来て非常に満足。

そして何より恩田陸という作家が、いかに物語を愛しているかという事実に衝撃を受けた。
私が思っていた以上に膨大な量のジャンルを網羅していたのだ。
映画、小説、ビジネス書、絵本、漫画、舞台、などなどいかなる媒体であっても平等に接し、愛する著者の姿勢には尊敬の念すら覚える。
優れたクリエーターたる著者は優れた鑑賞者でもあるのだ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本透明性

2020/11/23 15:37

現代社会が抱える問題の末路。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本作はSFというジャンルを用いた、現代社会に対する警鐘だ。
近未来を描くことで、ここまで現代社会に蔓延る問題を如実に浮き彫りさせたのは、著者の筆力及び着眼点の賜物であろう。

本作の舞台となるのは、今から約50年後の2068年の世界。
情報社会、消費社会、経済格差、環境問題等今日でも非常に耳する問題が未だ根付いている世界。
もちろんこれらの問題は、現在進行であるし、それらに対する議論も盛んに行われているであろう。
それでも本作を読むと、ここで描かれる未来は不可避なのではないかと思わずにいられなかった。

人々が自らに関する情報を全て発信することが日常となっており、そのデータをGoogleはじめとするデジタル企業が管理する。
そのことは監視社会を彷彿させるが、人々はそのことについて不満を抱かない。
民主主義を謳いながらも、人々は情報操作されたものを信じ込まされている。
そのことに異論を唱えるばかりか、消費行動によって口封じさせられ次第に思考放棄するようになっていく。
そして一向に解決の目途が立たない環境問題。

本作ではそのような今日の社会問題の延長上にある世界で、主人公の女性が抱く思想には納得できる部分が多く見受けられた。
不死になることで、現在の欲望や富、名声や権力を追求する人々の心情が改変され、様々な社会問題に終止符が打てるという考えは非常に興味深い。

本作では社会問題だけでなく、不死が与える様々な影響を宗教、倫理観等の様々な観点からも描いている。
本作で、描かれる権力者たちとの会話や見栄や虚勢等も非常に現実的で面白かった。

現状維持は何も解決せず、このままでは本作が描くような未来になるかもしれない。
それどころか、もっと悪い未来が待ち受けている可能性もある。
今この瞬間こそが未来を変えるターニングポイントなのだ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

191 件中 1 件~ 15 件を表示
×

hontoからおトクな情報をお届けします!

割引きクーポンや人気の特集ページ、ほしい本の値下げ情報などをプッシュ通知でいち早くお届けします。