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  3. ミケ子さんのレビュー一覧

ミケ子さんのレビュー一覧

投稿者:ミケ子

28 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本きんぎょが にげた

2004/05/06 20:00

小さなお子様をお持ちの家庭にこの絵本は必需品

19人中、19人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 以前、ほんの1年間でしたが自宅で絵本の家庭文庫をしていたことがありました。
そのころ息子の幼稚園で同じクラスになったとっても元気のよい男の子がいたのですが
その子のお母さん、それまで全く絵本なんて子どもに読んであげていなかったらしいのです。
日々の雑務に追われて、忙しい忙しいって、絵本を読もうなんて思ったことなかったそうです。
それが、ひょんなことから親しくなり、ちょっとしたきっかけから我が家の文庫に
遊びにきてくれるようになりました。
 どんな本を選んでよいやらわからないので、何かお勧めの本を教えて欲しいと
いうことだったのですが、この場での私の選書でこの親子のこれからの絵本との
かかわりが決まってしまうのではないかと緊張しました。
そして、私がお勧めした絵本がこの五味太郎さんの「きんぎょが にげた」でした。
ほとんど絵だけで、逃げたきんぎょを探すと言うシンプルな内容ながら、
子どもを惹きつけずにはおかない魅力のある絵本です。

 本の返却にきた時、そのお母さんが
「子どもが、こんなに笑いながら楽しそうに絵本を見るなんて、思いもよらなかったわ。
何度も何度も、読んでくれとせがまれて、『こんなのが、そんなに楽しいのかしら?』
と思いながらもゲラゲラ笑いながら楽しそうにしているので、ついつい何度も
読んでやったのよ。ホントにびっくりしちゃった。」
と仰ってくださったので、とても嬉しく思いました。
そして、五味太郎さんの絵本で他にいい本はないかしら、と言うので今度は
「きいろいのは ちょうちょ」と「ぐう ぐう ぐう」をお勧めしました。

 この男の子に限らず、この「きんぎょがにげた」はおはなし会などでも大人気で、
1、2歳の小さな子どもから小学校高学年の子どもまで一緒になって楽しめる絵本です。
もう、みんな身を乗り出してきて盛り上がるのです。

 夜寝る前に子どもと一緒にこの絵本を開いたなら、一度読むだけではすまないと
覚悟した方がよいでしょう。(笑)

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紙の本

紙の本こんにちは、長くつ下のピッピ

2004/03/16 10:32

ようこそ、ピッピワールドへ

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 岩波書店から出版されている小学校中高学年向きの児童文学
「長くつ下のピッピ」の絵本版である。
 小学生の頃、大好きで何度も読んだ「長くつ下のピッピ」。
当時TVでもピッピの番組が放送されていて、いつも楽しみに見ていた。
岩波の本の挿絵のピッピと、TVのピッピ(アニメではなく実写)が
とてもイメージが似ていたので、その挿絵がオリジナルだと思っていた。
独特の画風で、私も子どもながらとても気に入っていたし。

ところが、その挿絵はオリジナルじゃなかったんですね。
今回、徳間書店から出版されたこの「こんにちは、長くつ下のピッピ」の絵が
オリジナルだったのだ。
イングリッド・ニイマンという人が描いているが、ピッピの生まれ故郷
スウェーデンでは、このニイマンの描くピッピこそが「ピッピ」だそう。
東欧・北欧の絵本の絵でお馴染みの、くっきり・はっきりした絵で
とても愛らしい。

 内容はといえば、岩波の小学校中高学年向きの本の美味しいとこだけを
詰め込んだ絵本になっているので飽きない。
私が子どもの頃から大好きで忘れられなかった場面ばかりが
ページをめくる度に、次々とあらわれて楽しい、楽しい。

何でも一人で出来ちゃう、たくましいピッピ。
想像力が豊かで、小さなことは気にしない、愉快なピッピ。

「えっ?」と驚くような、人が振り返るような奇抜なことを平気で
人目も気にせずやるのだが、それが決して「あくたれ」ではなく
一本筋が通っているからピッピは子どもたちから尊敬されるのだろう。

 この絵本が日本で出版されたことで、小さな子どもたちとも
この愉快なピッピワールドを共有することができると思うととても嬉しい。

 それから、この絵本の最後に着せ替え人形が付いていてこれまた嬉しい。
そのまま切り取ったらもったいないから、カラーコピーして使おうかな。
でも、コピー紙だとペラペラで遊びにくいなぁ。
そんなことあれこれ思い巡らしていて、ふと気づいた。
我が家の子どもは小学生(低学年)の男の子二人なのだ。
着せ替え人形なんかしないよね。
……。
実は、私がやってみたいだけなのである。

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紙の本

紙の本娼年

2004/05/24 10:34

「娼年」というタイトルながら、少女のように心震わせる女たちに目が吸い寄せられる

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「娼年」というタイトルが、目に飛び込んできた。
電車で居眠りをしていて、ふと目が覚めたそのときに。

 少女漫画「正しい恋愛のススメ(一条ゆかり)」を読んだことがあるので
あんな感じで美少年の男娼が出てくる話かな、と思って読み始めた。
そう、その通りでした。
美少年(美かどうかわからないけど)が、ふとした好奇心から男娼になり
普通のホストクラブなどには、たぶん来ないであろう種類の女性たちを相手にする。
 タイトルが「娼年」だから、20歳の大学生リョウが主人公の、ひと夏の成長物語であると
思うのだが、私はリョウが相手をした女性たちの方に意識が流れていった。
それは私が女性だからかもしれない。
男性作家の描いた女性なのに、これほど彼女たちの哀しみのようなものが私の心に
沁みてくるのが驚きだった。
名のある男性作家の描く女性像というのは、今までちっとも心に響かなくて
「何なの、コレ。」という感じで反発を覚えたものだ。
女性が女性を描いた時もまた、特に官能的な場面は生臭い感じがして私は好きではないのだが
この小説の中の女性の描写には生臭さを感じなかった。
女性が知っている女性というものを、生臭くなく、まるで少年のような透明さで描いていると思う。

 陽炎のような、水のなかでゆらめいているような、そんなつかみ所のない印象の中で
(つまり、そのことで登場人物すべての不安な心の揺れを感じ取れるのだが)
ひときわ実在感を持って迫ってくるのが、リョウの大学の同級生メグミだ。
あの、断定的な物言いは、「常識的」すぎて、逆に何かに取り憑かれているような狂気を感じた。
「きっとリョウくんも、いつかわたしに感謝するようになる。
わたしはすべてリョウくんのためにやるんだからね。」
とたたきつけるように言ったメグミの姿は、そのまま子どもに対する母親の姿と重なって怖かった。
リョウが男娼として売れっ子になりダブつくほどのお金を稼いでも、金銭的な感覚が
マヒしないようにとバーテンダーのバイトを辞めないのと同じで、メグミのその怖いくらいの
「常識的行動」もまたこの社会で生きているんだという実感を忘れないためにリョウには
必要かもしれない。

 石田衣良の小説は「うつくしい子ども」とこの「娼年」しか読んだことがないけれど
繊細なタッチがかなり読み心地が良いので、他の作品も読んでみたいと興味が湧いてきた。

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紙の本

紙の本トムは真夜中の庭で

2004/01/15 23:16

時の流れに迷い込んだら

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

時の流れというものを、古の人たちはどうやって認識したのだろう。
時の流れとは、いったい何だろう。
自分が今生きて、食事をしたり、本を読んだり、散歩をしたりする間に
太陽の位置が変わる。明るい昼間から暗い夜へと。
その物理的変化を「時」の流れと決めたのか。

この地球上の、たぶんほとんど全てのものは、この物理的側面から見ると
同じように進んでいる。赤ん坊から老人へ時が流れても、老人から赤ん坊へ
時が流れる人はいないのだ。

ところが実際目には見えないところで、いつもと違う時の流れ方をする
場所がある。それは、たとえば夢の中だったり、絵の中だったり、
想い出の中だったり。
このような場所で、時間は、ゆっくり、時には速く。
ずっと先の方を示したり、または昔に逆戻りしたりする。
この流れは、何と言うのだろう。これもまた「時」ではないのか?
現実の時間は私たちに身体的変化を与え、「見えないもう一つの」時間は
私たちの心に変化を与えるだろう。

もし夢の中の時間と、現実の時間が交差してしまったらどうなるのだろう?
あっちの人とこっちの人はどのように出会うのだろうか?

この本を読んだせいか、昨夜はとても幸せな夢を見た。
いつもいつも、私の心が会いたがってる、あの人。
今はたぶん、もう会うことも叶わぬあの人に会えた。
今までも何度かあの人は私の夢にやってきたけれど、いつも子どもだった。
でも昨夜は初めて大人のあの人がやってきた。
私たちは、これまでの人生をお互い語り合い始めていた。
あの人の話を最後まで聞けぬまま、私はこちらの世界へ戻ってきてしまった。
ああ、なんと幸せな時間だったことか。
あの人が夢に現れたとき、私はいつだって夢の中の時間を、私の永遠と
取り換えたくなるのだ。

この物語の最後に、現実の時間の中でお互いを認め合ったトムとハティを
羨ましく思うのは私だけではないだろう。
どんな人にも、その人だけの時の流れがあることに気づかせてくれる
そんな物語である。

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紙の本

紙の本せかいいちうつくしいぼくの村

2004/02/09 01:03

この絵本を通して幸せとは何であるかを噛み締めて欲しい

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 アフガニスタンの、今はもうないパグマンという村の幸せな日常を描いた絵本。
その国にはいつも戦争の影がついてまわる。
しかし、この絵本の中には、戦争の生々しい描写はない。

 ヤモという少年は初めてお父さんと一緒に町へ果物を売りに行く。
戦争に行ったお兄さんのかわりにヤモがお父さんの手伝いをするのだ。
村にも町にも人々の普通の生活がある。
でも、ヤモのお兄さんは戦争に行っているし、さくらんぼを買ってくれた
あるおじさんは、戦争で片足を無くしていた。お昼ごはんを食べに行った
チャイハナ(食堂)で隣り合わせた知らないおじさんとお父さんが、
南の方の戦いが心配だと話をしている。

 著者の小林豊氏は、戦争の影が付きまとっていても、その横で
人々は普通の生活を送っているのだ、ということを知って欲しいのだろう。
1970年代初めから80年代初めにかけて、中東・アジアをたびたび訪れたという
小林氏の講演会を聞きに行った時、あなたは元々絵本作家ではなかったのに、
どうしてアフガニスタンのことを「絵本」にしたのかと私が質問すると
「絵本の横には大人だけでなく、必ず子どもがいるからです。大人の本で
アフガニスタンについて書いても、その本を読んだ大人がわざわざその内容について
子どもと話すことはないけれど、絵本だと子どもと大人が自然にアフガニスタンの
話をするでしょうから。」
と答えてくださった。

 絵本の最後は
『この としの ふゆ、
村は せんそうで はかいされ、
いまは もう ありません。』
という一文で締めくくられている。

 私が6歳の息子にこの絵本を読んでやったときのこと。
楽しそうにこの絵本の見ていた息子が、最後のこの一文を聞いた時、
急に、どうしていいか分からないという困った表情をした。
そして、ぎこちなく笑いながらこんなことを言った。
「ボクのところは戦争がなくてよかったァー。だってお父さんと一緒に暮らせるもん。」

 何気ない日常の生活が、家族と暮らせるという生活が、「幸せなこと」だと
感じることができる子どもたち、大人たちに希望があると信じたい。
子どもと大人が、お互いの体温を感じながら、この本を読んで欲しいと思う。

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紙の本

紙の本弟の戦争

2004/02/25 14:47

戦争が他人事とは思えなくなる緊迫感

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「僕」の家庭はイギリスのごく普通の家庭だ。
まあ、普通とちょっと違うといえば、弟アンディだ。
アンディは心優しい。かわいそうな動物や、飢えた難民の子どもの
写真などを見ると、とりつかれた様になる。
どうも彼は、その写真の動物や、かわいそうな子どもの中に入り込んで
「現場」を見て、感じることができるらしい。
湾岸戦争が始まったある日、弟は「自分はイラクの少年兵ラティーフだ」と
言い出した。今までの発作と違うのは、イラクの少年兵ラティーフの中に
入り込んだまま、次第に元の自分に戻れなくなっていくということ。
事態の深刻さに気づいた両親は弟を精神病棟に入院させる。
アンディはそこで、身体はイギリスの「ここ」にあるのに、本人の目の前には
イラクの戦場の風景が広がり、そして少年兵ラティーフとして生活していく。
ある日「僕」は、ラティーフ(アンディ)の様子から、戦闘が激しくなったことを知る。
「僕」の目の前でラティーフに同化しているアンディが吹き飛ばされ、動かなくなった。
ところがしばらくすると、アンディが目を覚ました。でも彼は何にも
覚えていなかった。そしてそれ以来、あの発作のような奇妙なふるまいもなくなったし、
空想もしなくなった。これ以上ないというくらい普通の男の子になった。

 この物語、迫力がありグイグイ引き込まれていく。
対岸の火事のように、他人事だった戦争を、誰にでも起こることではないにしても
一般の家庭の中に取り込んで、これほどの臨場感を出しているところが凄いと思う。
この本は対象年齢が小学校高学年以上となっているところがミソ。
戦争というものは、何処の国でも「少年」たちが第一線に立っているのだ。
日本という、今は戦場になっていない、モノの溢れるこの国にいても
この年頃の子どもはこの本を読むことで「僕」や「弟」の気持ちに近づけるだろうし
「僕」の恐怖や悲しみや怒りに、共鳴するだろう。

 アンディがいわゆる「普通」の男の子になってしばらくして
「僕」が庭で翼に傷を負った鳥を見つけ、助けてあげようとお母さんのところへ
持って行ったら、お母さんが「昔のフィギス(アンディのこと)みたいね」と言った。
「僕」は、ふと怖くなる。誰も家の外で起きることを少しも気にかけなくなってしまったことに。
弟は僕らの良心だった。僕らにはあの頃の弟が必要だった。
…ということが書かれた一節がある。

 アンディが少年兵として生活している場面の描写では、ナイフで切るような痛みを感じたが
ここの描写には、打ち身のような鈍い痛みを感じた。切り傷より、打ち身の方がいつまでも
ズキズキ痛むように。
私たちは、喉元過ぎれば熱さを忘れる。
そんな自分が情けなくなる。

 また、アンディの主治医である精神科医を黒人にしたことで、人種問題にも
触れている。この点においても、一読の価値があると思う。

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紙の本

紙の本狐笛のかなた

2004/02/14 23:01

日本の美しい風景に溶け込むピュアな心

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

泣きました、泣きました。
哀しくて、哀しくて。
切なくて、切なくて。
化粧がはげ落ちてしまうほど。

敵と味方。
そうなってしまったのは、自分たちの意思じゃない。
争いなどなかったら。
あの、何も知らなかった子どもの頃のように
ただただ笑っていられたら。

相手を想う純粋な気持ちを
純粋に持っていられる、純粋な彼ら。
たとえ我が身がどうなろうとも
見返りを求めない想い。

強いのか弱いのか。
嬉しいのか哀しいのか。
ただただ切ない。
夕風の吹き渡る枯野にも、
梅の香のむせ返る梅林にも、
桜の花の咲きほこる若桜野にも、
野火と小夜の面影が揺れ、
その想いに胸が締めつけられる。

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紙の本

紙の本寺内貫太郎一家

2004/01/24 23:56

大黒柱があった時代

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

いわずと知れた、向田邦子の処女長編小説。
昭和49年にTVドラマ化されて、お茶の間で大人気になった。
当時私はまだ小学校3、4年生だったが、なんとなくこのドラマのことを
覚えている。でも詳細はあまり覚えていない。
最近、「阿修羅のごとく」の映画化で向田邦子ブームが起きているようだ。
今迄一度も向田作品を気に留めたことがなかったが、ここにきて
私も世間に感化され、ちょっと手に取ってみた。
エッセイ集「父の詫び状」と、この「寺内貫太郎一家」。

さて、この「寺内貫太郎一家」を書いた向田邦子はこんな言葉を残している。

<貫太郎のモデルは、私の父向田敏雄である。
よくどなり、よく殴り、5年前に亡くなった。
お線香代わりに、ちょっぴり「立派な男」に仕立て直して
お目にかけた…>

東京の下町を舞台に、人情味溢れる人間模様を描いている。
この作品が発表された当時でさえ、多分貫太郎一家のような家庭は
既に「古きよき時代」の家族像になりかけていたのだろうと思う。
あの目まぐるしく世の中が変わっていった高度成長期にこのドラマが
世間の支持を得たというのが、今思うとなんとも切ない。
前に進むことしか出来ない、留まることや後戻りすることができない
そんな哀しい性を背負いながら、私たちは昔を懐かしむのだ。

当時の日本の縮図を貫太郎一家に見るようだが、
今ならドメスティック・バイオレンスだの子どもの虐待だの、
人権無視だのと、色んなところで槍玉にあがりそうなことだらけだ。
それでも、何度も何度も目頭を押さえながら読んだ。
何故って、そこには確かに愛があるからである。

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紙の本

紙の本おっきょちゃんとかっぱ

2004/01/15 23:27

一度あったことは忘れない

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「きよ」という女の子は「おきよちゃん」と呼ばれるうちに
それが縮まって「おっきょちゃん」と呼ばれるようになった。
ある日、川辺で遊んでいるとき、カッパに誘われて川の中のお祭りに行った。
おみやげに「きゅうり」を持っていったので、カッパたちに大事にされ
おっきょちゃんは陸の上のことをすっかり忘れて、カッパの家族の一員として
川の中で暮らしていた。
ところがある日、ふとしたことからお母さんのことを思い出し
家へ帰りたくなる……。

同じく長谷川さんと降矢さんのコンビで書かれた「めっきらもっきらどおんどん」と
この「おっきょちゃんとかっぱ」はイメージがとてもよく似ている。
どちらも日本古来の不思議に通じていて、日本人は昔から天の神様や水の神様など
八百万の神とともに暮らしていたんだということを思い出させてくれる。

映画「千と千尋の神隠し」の中で、銭婆が言っていた。
「一度あったことは忘れないものさ」

「おっきょちゃんとかっぱ」にしても「めっきらもっきらどおんどん」にしても
元の世界に帰るとき、主人公の子ども達は不思議の世界のことを
忘れる(という設定になってる)けれど、潜在意識の奥深くに沈むだけで、
想いがなくなってしまうわけではないと思う。
生きていくって何かを振り切って前に進むことかもしれない。
でも振り切ってきたもののことは、絶対忘れないだろう。

心に染み入るお話で、大好きです。

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紙の本

紙の本いちねんせいのいちにち

2004/04/06 22:42

ピッカピッカの一年生

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 今日は次男坊の入学式だった。
ピッカピッカの一年生だ。
明日からさっそくランドセルを背負って学校へ行く。
明日のランドセルの中身は筆箱と連絡帳のみ。
最初はみんなで挨拶をして、トイレの場所や職員室や保健室など
学校中を歩いてまわって、学校探検をするのだろう。
数日してからやっと授業と給食が始まる。

学校ってどんなことをするのだろう?
ボク、まだあんまり字も書けないし、お兄ちゃんみたいに計算もできない。
先生から怒られるかな?
でもやっぱり、明日学校へ行くのは楽しみだ。

 そんな次男にこの絵本を読んでやった。
読む前は、あんまり面白くなさそう…と乗り気でなかった次男も
国語の時間に自分の名前を書く練習をする場面で、「ねもと たくや」君が
「おれ、この じ きらいだよ。だって、ぐにゅぐにゅ まがってるんだもん。」と言ったり
「すずき ゆう」君が「ゆ」の字を書く時目が回りそうになると言ったり
「さかのうえ りょうたろう」君が11コも字があってイヤだと言うのを見て
なんだか嬉しそうにニヤニヤ笑っていた。

休み時間には、女の子たちが誘い合ってトイレに行く場面を見て
「なんで、トイレにみんなで一緒に行くんだよー。」と可笑しそうに言い
ボール蹴りをしていたしゅんちゃんが、転んで膝小僧をすりむいて血が出たので
保健室に行く場面では、心配そうな顔になったりしていた。

 他にも、体育の時間、図工の時間、算数の時間、給食の時間、掃除の時間など
学校生活の一日が描かれてある。
一年生の教室を描いているので、次男もきっとこの本を読んでもらいながら
その教室の中に自分がいるような気持ちになっていたのだろう。

 読み終わってからも、何度も何度も、「もう一回読んで」とこの本を持ってくる。
新生活の不安と希望とが混ざり合って、不安定なこの時期の一年生にぴったりの一冊。
まだ、ほっぺたがぷっくりと可愛い、そんな一年生が生き生きと描かれている。

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紙の本

紙の本ぼくの・稲荷山戦記

2004/03/15 10:48

イマドキの子も、たまにはこんな本を読んで欲しい

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 先祖代々、裏山の稲荷神社の巫女をつとめるマモルの家に、
不思議な下宿人・守山さんがやってきた。
守山さんはM大学の院生で、専攻は考古学、専門は古墳だ。
中学校で地歴部に入っているマモルは、次第に守山さんの魅力にひかれていく。
そんな時、裏山にレジャーランド開発の計画があることを知る。
海や山や森を太古の昔から見守ってきた“存在”との出会いにより
“信じる”ということがどのようなものであるかを知るマモル。
そして、自然破壊から裏山を守ろうとする守山さんと行動を共にする。
守山さんの正体とは…?
そしてレジャーランド開発の行方は…?


 この物語を読み始めてすぐ「あれ? こんな話、前にも読んだことある。」と思った。
佐藤さとるが書いた幼年童話『ふしぎな あの子』とそっくりだ。
『ふしぎな あの子』は小学校低学年向けの本だが、その内容をもっと
深く詳しく描いたのがこの『ぼくの・稲荷山戦記』という感じ。

 主人公のマモルが中学生なので、この本の対象読者はたぶん
小学校5,6年生〜中学生なのだろう。内容的にはやはりこのくらいの
年齢の子どもが読んだ方がいいと思うが、描写があまりにも素朴なので
小学校中学年向けの読み物のような印象を受ける。
約20年前に出版された本なので、当時の中学生だったら読んだのかも
しれないが、果たしてイマドキの中学生がこの本を手にするだろうか?
ハリーポッターのようなスピード感溢れる物語は、ほうっておいても
子どもたち自ら本を手に取るだろうが、この「稲荷山戦記」は
ほうっておいたら、本当にほうっておかれそう。
とてもいい本なだけに、残念だ。
ぜひ、小学校の図書館の「今月のおすすめ本」などのコーナーで
紹介して欲しい本である。

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紙の本

紙の本くろねこかあさん

2004/10/04 10:47

白と黒の、この上なく愛らしい世界

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 白黒で表現された、猫の親子。
シンプルながらも、切り絵ならではのアイデアで
見る者をぐーっと惹きつけます。

 黒猫かあさんのお腹から生まれた子猫は、白猫3匹と黒猫3匹。
黒猫かあさんのお腹から切り取られた黒猫3匹と
お母さんのお腹の上に抱っこされるように切り抜かれた白猫3匹は
そう、同じ形をしています。

お母さん猫のお腹にくっついて母さん猫になめてもらう白い子猫3匹と
もうさっきなめてもらって、満足そうな黒い子猫3匹。

スズメを狙う母さん猫の背中に怖々隠れ見ている白い子猫3匹と
母さん猫の横に並んで一緒に見ている黒い子猫3匹。

黒いお池に落ちて慌てる白い子猫3匹と、
急いでお母さんに知らせようと慌てる黒い子猫3匹。

とにかく、この6匹の子猫たちが次の何をするか目が離せません。

 装丁がいかにも赤ちゃんの本、といった感じなのですが
小学校3年生の息子に「読んであげようか」と言うと
一瞬だけ照れた顔をしたものの、本を開いたとたんに
パッと目が開いて、読み進めるにしたがってジリジリと
にじり寄ってきました。

 おかあさんとあかちゃん、という組み合わせは、幸せの象徴であり
まわりの人にも安心感を与えるのでしょうか。
読んでもらっている子どもたちもさることながら、読んでいる大人の方が
きっと癒される一冊だと思います。
 
 息子たちも小学校になったし、今更ねぇと、いままで買うのを
見送ってきた絵本ですが、やっぱり今更ながら買ってしまいました。

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紙の本

紙の本翻訳夜話

2004/07/23 01:06

翻訳家をめざしてなくても、村上春樹小説のファンなら満足できる一冊

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 私は村上春樹の小説が好きで、実はこの本も数年前から手元にあった。
でも小説じゃないから、すぐに読む気になれず、そうこうしているうちに
存在を忘れてしまっていた。
 何か読むものないかな〜と、本棚を物色していて「あ、こんな本があったのを
忘れていたわ。」と思って読み始めたのだけれど、これが面白い。
今まで、村上春樹の小説は読んできたけれど、翻訳の方はほとんど読んでいない。
レイモンド・カーヴァーも1,2冊本棚にあるけれど読んでいない。
村上氏が翻訳した絵本『急行「北極号」』『魔法のホウキ』『西風号の遭難』や
山本容子さんの銅版画のカポーティの『あるクリスマス』『クリスマスの思い出』
『おじいさんの思い出』は大好きな本たちだ。しかし、どれも子どもの本屋で
見つけて買ったもので、いわゆる大人を対象とした一般小説の翻訳物は、どうも
違和感があって今まで読めなかった。
 この「翻訳夜話」を読んでみると、う〜ん、これは彼が翻訳したものも読んでみたいゾ、
と思ってしまう。夕方、この本を読み終わって夕刊を開いたら、タイムリーにも
<「社会の手触りを」を描く 『レイモンド・カーヴァー全集』完結>
という見出しが大きく出ているではないか。村上春樹氏の写真つきで、大きく
取り上げられていて柴田元幸氏のコメントまでついている。
ますます、彼の翻訳物も読んでみようという気になってきた。
 
 この本の中に、柴田元幸氏と村上春樹氏が同じテキストを翻訳しているものが載っていて
とても興味深かった。もうこれは完全に好みの問題だと思うけれど、私はやはり村上氏の
訳のほうに惹きつけられる。本書の中で、訳者が違うことによって作品から受けるイメージが
違ってしまうということについて、それは音楽と同じで、たとえばベートーベンの曲を
いろいろな指揮者や演奏者が演奏して、その中で自分の肌に合う解釈を選ぶということが
できるといいと書いてあったけれど、なるほどそういうことかと腑に落ちた。
 実は「ライ麦畑でつかまえて」も、村上訳はまだ読んでいない。学生の頃読んだものと
イメージが違ったら、なんだかうろたえてしまいそうな気がして。でも音楽と同じだと
言われたら気が楽になった。今度「キャッチャー・イン・ザ・ライ」も読んでみよう。

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紙の本

紙の本鬼の橋

2004/02/29 23:49

おばあちゃんの布団の中で聞いたお話のような楽しさ

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 いや〜、こんなに面白い話だとは正直思っていなかった。
日本の話で面白いものがないかなと探していた時、ある人から
「この本、面白いよ」と教えてもらった。
あまり日本の物語を読んでこなかったので、平安時代の実在の人物を
モデルにしたファンタジーだと聞いて、今ひとつ読む気になれなかった。
本の表紙の絵も、なんだかイカツイ感じ。
買っても好みの話じゃなかったらイヤだから、図書館で借りて読もう。
そう思って図書館で借りて読み始めた。
3分の1くらいまでは、退屈かもしれないなぁ。佳境に入るまで
何とか読み続けなくっちゃ、などと思いながら表紙の絵を見る。
 さて、1ページ目を読み始めたら「おっ? なんか面白そうだぞ。」
あっという間に一章読んでしまった。う〜ん、これは読み終わったら
きっとこの本を手元に置きたくなるに違いない。このまま図書館の本を
読んだ後に、改めてこの本を買うのもなんだか馬鹿みたいだしなぁ。
よし、読むのを一旦止めて、この本を買ってから続きを読もう。
そう思ってその日の午前中にbk1で注文をした。
続きが読みたいけど、2日ぐらい我慢しなくっちゃ。ああ、待ち遠しい。

 夕方、ピンポーンと呼び鈴がなる。
なんと、その日の内にこの「鬼の橋」が届いた。うわぁ、凄い!
感激して早速続きを読み始め、途中で止められずその晩のうちに
読み終えてしまった。

 ハリーポッターが出てから、ファンタジーというものをこの年になって
読み始めた私は、今迄日本のファンタジーなど見向きもしなかった。
初めてこの世界を味わったという新鮮さからなのか、それはそれは感激した。
もっと早く、日本のファンタジーを読めばよかったな。

 主人公、小野篁(おののたかむら)の精神的な成長物語としても十分面白い。
しかし、死後もなお、都を守れと帝からおおせつかった征夷大将軍・坂上田村麻呂の
寂しさと苦悩や、人間になりたくてもなれない鬼の哀しみや、鬼の哀しみを
共に分け合って生きていきたいと願う少女の強さと優しさなど、「善と悪」では
括りきれない「情」というものを描き出しているところが、一番心に沁みた。
その「情」こそが人間を強くもし、優しくもするのだろう。

 また、大田大八の挿絵がとても素晴らしい。
実に話に合った画風で、ますます話を盛り上げる。この絵のおかげなのか
昔、おばあちゃんが話してくれた昔話のようで、読みながら自然に情景が
目の前に浮かんでくる。次はどうなるの? 続きを早くお話して。
久々に童心にかえって物語の世界を楽しんだ。

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紙の本

紙の本月の森に、カミよ眠れ

2004/06/23 13:57

自然は理路整然と存在し、人間の情を受入れてくれない。両者は共存できるのか。

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 娘は夫がおそろしい大蛇だとわかった後も愛し続け、子を産んで育てたという
九州の祖母山に伝わる『あかぎれ多弥多(たやた)伝説』に強く心ひかれて
上橋さんはこの物語を書いたそうだが、この話を読みながら、蛇ガミと娘の婚姻伝説を
昔どこかで聞いたことがあるなぁと、懐かしく感じた。
私は九州の出身なので、小学生の頃「九州の民話」とかいう本を読んだのか、
祖母が布団の中で私に語って聞かせてくれた話のひとつなのか、
はたまたテレビのアニメ番組で見たのか定かではないけれど。

 カミが守る自然とは、人間が生きるためにあるものなのか、それともカミにとって
人間は自然の中のほんの小さな一部分でしかないのか。カミとは何なのか。
朝廷への「租」のために、苦しい生活を強いられるムラの人々は、
自分達の生活のためにカミの土地を開拓していくことを望む。
そのカミの土地にしか稲が育つ場所がないからだ。
死ぬか生きるかの苦しい生活をしているムラの人々は、自然のバランスが
崩れるからという理由でカミの土地で稲作をすることを許さないカミを
信じなくなっていく。
目の前で死んでいく我々を見捨てるのがカミなのかと。
それは、カミではなくオニであると。

 人間の生死の尺度で計れるほど、自然の生死のサイクルは短くない。
いくら人間に想像力があるとはいえ、その二つを添わせるのは案外難しい。
人間に、情と欲とがあるかぎり。

この物語には、宝石の原石のような力強さがあると思う。

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