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mayumiさんのレビュー一覧

投稿者:mayumi

228 件中 61 件~ 75 件を表示

紙の本デュラララ!! ×6

2010/04/26 21:27

俯瞰しているものがいないゆえの、混沌

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 帝人の日常が、確実に壊されて行く。
 
 ストーリーを語るのが無意味に思わえる物語だ。
 登場人物それぞれが、彼らの人生の中では主役である。が、それを描こうとすると、結局のところ作者という<神の視点>の存在が顕著になっていく。
 が、これにはそれがない。

 かといって、策略の陰謀者である折原臨也が、その視点にいるわけでもない。
 彼ですら、盤上の駒でしかない。
 が、そもそも駒を動かしているべき存在がいない。

 駒は、ぶつかり合い干渉しあい、勝手に堕ちていく。
 それは、臨也でも例外ではない。

 …まるで、<神>に見捨てられた世界だ。

 ああ、だから臨也はセルティ=デュラハンを地上をさまようワルキューレだと思ったのだろう。
 が、<神>すらいない世界に、妖精が存在を許されるものなのだろうか…。

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紙の本罪灯

2010/03/02 20:22

少女だからこそ、その中に毒をもっているのです。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 四季の名前をもつ少女たちが、それぞれに抱えた「完全犯罪」
 佐々木丸美の連作短編集。
 蓋然性(プロバビリティ)の犯罪を扱っている。

 って、蓋然性ってなんぞや?
 簡単に言ってしまえば「確率」のことなんだそうだ。

 彼女たちは直接手を出したわけじゃない。この後どうなるか、予測していただけだ。
 そして、彼女たちはその悪意を否定しない。

 かといって、悪人のなりきれない彼女たちの前には、その謎を解き明かす男性が現れ…。

 こういう展開は、佐々木丸美らしいと同時に苦手な部分なんだが、今回はこれが効果的だった。
 大人になるということは、自分の思い通りにならないことを、知り、受け入れることなのだろう。それは、あきらめでも我慢でもない。ただ、それは自分の人生とは重ならないという、それだけのことであると。

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紙の本私の家では何も起こらない

2010/02/07 20:02

幽霊であろうと、それも続いていく<命>の一つなのだろう

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 小さな丘の上に建つ二階建ての古い家。が、ここはいわくつきの幽霊屋敷だった。

 10の章は、それぞれ別の人間の主観で語られる。主観のみで語られるから、視野が狭い感じがどうしてもする。視野が狭かったり、明るさが足りなかったり、見るべきものを見ていなかったり、という閉塞感がたまらなく怖い。
 そう、語り手達は、あっけらかんと淡々と語っているけれど、その五感は常に囲われ、縛られている。人間、実際のところ一番怖いのは<閉じられてる>ことなのかもしれない。

 タイトルが起因しているのだろうけど、昔読んだ山岸涼子の漫画を思い出した。霊の通り道にある家で数々の霊現象が起きるのだけど、その女主人はは無頓着でいる。霊現象を恐れそこをやめるという家政婦が、これだけの霊がいて平気だという女主人こそが怖いのだと、いう話だ。

 「私の家」の<私>は、その漫画の女主人公より、怖い。というより、醜悪なのかもしれない。
 「何も起こらない」と言いながら、<私>はその存在を感じている。そのうえで、幽霊とはこういうものであるのかもしれないと結論つけてしまう。
 確かに、人が生きて死ぬという命の連鎖は、一人や個人のものではない。
 だからといって、そんな風に断じてしまうのは、幽霊の存在がやるせないじゃないんだろうか。

 …が、これも転じて、<私>が異様の存在におびえているという証なのかもしれない。

 怖がられて、恐れられて、なんぼの存在だものね。幽霊って。

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紙の本冤罪者

2009/12/06 20:32

半端ない構成力が魅力です

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ノンフィクション作家、五十嵐はかつて恋人を連続婦女暴行犯によって殺された。その犯人から、自分は冤罪であると訴える手紙が彼のもとにとどく。

 物語は、文体と構成が重要だと思う。
 でもって、構成力がすごいのはロバード・ゴダードであって、邦人出構成力で読ませる作家ってなかなかいないよね、と思っていた。

 いました。

 様々な主観が交差し、真相は二転三転し、そうやって混迷していった先に、全ては明らかになる。
 全てのフラグは落ち着くところに着地する。

 読み終わったあと、ああ、あれはああいう意味だったんだ、って思い返してふむふむと思う、ある意味読書の醍醐味を存分に与えてくれる。

 にしてもこれだけの事件を乗り越えた主人公が、まるで普通に(?)生活している違和感が、むしろ折原一の毒のように感じて、怖くなった。

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敵役が死なない意味

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ワンピースでは、敵役は死なない。
 その意味がずしんとくる、55巻。

 インペルダウンに潜入したルフィーは、ひたすらエースのいる最下層にむかってつきすすむ。
 が、どくどくの実の能力者、マゼランの前に…。

 も、ボンちゃんが漢で泣ける。
 そして、それをさらに上回るほど、ルフィが漢でさらに泣ける。

 自分以外が生きることを、これほどまでに必死で願うことができることの幸せ。
 そう。ボンちゃんはルフィと出会って幸せなのだと思う。
 そして、人の幸せは、そんな風に人と人の出会いの中にあるのじゃないだろうか。

 だから、インペルダウンに捕らわれていた囚人たちは、立ち上がる。
 確かに、ルフィによって混乱し、それに乗じたといえなくはない。が、彼らはバギーの言葉に応える。バギーの言葉が届いている。
 ルフィが、そこの空気を動かしたからだ。

 ルフィの寛さ、深さは、巻を経ることに大きくなっている。
 この監獄を出たとき、彼はどれだけのものになっているか、楽しみでしょうがない。

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他者を通してみる、「存在理由」というもの

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 よしながふみの対談集。
 お相手は、
 *やまだないと 福田里香
 *三浦しをん(1)
 *こだか和麻
 *三浦しをん(2)
 *羽海野チカ
 *志村貴子
 *萩尾望都

 よしながふみは、勿論大好きですが、萩尾望都さまと対談してるとあれば、買わずにいられません。

 にしても、よしながふみの漫画を読んでると「この人って、頭いいんだろうなぁ」ってよく思ってた。で、対談になって、さらに「頭のいい人」って強く感じた。
 よく法学部を舞台にした漫画を描いてるんだけど、実際に法学部出たのかなぁとか…想像してみたりして…。

 でもって、すごく真面目に漫画を描いてる。
 いや、漫画家さんは皆それぞれに真面目に描いてるんだろうけど、よしながふみはなんつーか、ヒトコマヒトコマにかけてるパッションが違う感じがするんだよね。
 っていうのを、対談の行間に読んだ。

 うん、対談そのものはとても面白いし、なかなか考えさせられるところが多いのだけど、結局は漫画家よしながふみとはどういう存在なのか、というそこにつきるような気がする。
 
 いわば、よしながふみの「存在理由」
 
 ま、そんなこんなは放置して、もーさまの対談がとにかく嬉しかったです。
 でもって、もーさまは、相変わらず新しい才能を前に楽しんでるし、自身の謙虚な姿勢も変わらない。
 こういうも読むと、ん十年もーさまのファンやってて、よかったよぉとつくづく思います。

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ちょっと、表紙にだまされちゃいますね

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 桐生操による、歴史こぼれ話。

 うーん。
 表紙にだまされた感じがww
 取り上げてるのは、ホモセクシャル、近親相姦、ロリーター・コンプレックス、サディズム、カリバニズム。
 ホモセクシャルで、カポーティを、ロリーターで、ジョンベネ殺人事件を取り上げてるとこは、今日的であると言える、かな。

 が、どれも踏み込みが甘い感じがどうしてもする。
 多分、個々のテーマというか、人を掘り下げていくとこの長さでは到底無理なものを無理矢理短くした、浅くした、感じがするからなんだろう。

 ゆえに、帯の「禁じられた愛はなぜこうも燃えるのか」という答えは見えてこない。

 にしても、人の歴史の中で繰り返し繰り返し表出してくる禁断の愛というより、異常殺人者たち。彼らが道を踏み外していく理由は個々にあるけれど、もっと根の深い処に原因がある気がしてならない。つまり、人の遺伝子の中にそういう類のものがあるのではないかと。
 人は、人であるための努力を手放してしまってはいけない存在なのかもしれない。

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紙の本甘い鞭

2009/06/05 15:43

暴力が人をゆがませるということ

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 表紙でびっくりしますが、そこまではどきつくない、と思う…。

 夜は不妊治療の医者として、夜はSMクラブのM譲をしている奈緒子は、高校生の時に隣家の男に拉致監禁されたという過去があった。
 つまりは、暴力によってねじまげられてしまった人間の悲劇だと言えるだろう。
 SMのシーンのどきつさや、監禁されていた状況の異質さとは、正反対の清らかであるとさえいえる医者として働く姿。その対比は、あくまで美しく大石圭の独自の美学さえ感じられる。
 けれど、そのほとんどは奈緒子の視点で語られているのだ。
 結局、彼女はそうやって自分を美しく語ることで、自分を守ろうとしているのだ。拉致監禁によって彼女の受けた傷は、その上に新しい傷をつけることでその傷をわからなくしてしまおうとするほど、深い。
 だから、自分を守りながら自傷的行為を繰り返ししまう。

 作中には、彼女を監禁した犯人の視点で描かれているところもある。
 それはノイズのようだ。というか、ノイズがあるからこそ、さらに奈緒子の姿が美しくなっているのだろう。

 悲しい結末だと思うが、決して不幸ではないんじゃないかと思う。
 それが救い。

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そもそも価値観というものは千差万別なのだ

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 今まで「さよなら絶望先生」の表紙は、先生だった。
 なのに、17巻は可符香が表紙で、ついに久米田センセ、ネタ切れかと思ったら…。
 久米田センセは期待を裏切らない、つか、その上を行く人ですww

 にしても、ちょっと思った。
 これって<ネガティブ>の新しい価値観なんだろうかと。
 つか、世の中、善悪とか、正誤とか、とかく2面だけで片づけようとしている。が、実際には、物事は常に多面性をもっているし、価値観だって千差万別だ。
 糸色望は、確かにネガティブだ。
 けれど、それは人を不快にするものではない。彼は、ネガティブに思考するけれど、何かを人のせいにしたり、恨んだり嫉んだりしない。
 優しいには、自分が人に優しくされたいからという、そういう価値観を誰が責めることができるだろうか。

 人を区分すること、カテゴライズすることは、決して無意味ではないし、むしろ円満な日常生活のためには必要なことなのだろう。
 ただ、そのカテゴリーの数が少ない人が問題なのだ。

 うん。やっぱ、じっくり(?)考えると教訓的な漫画なのであったww

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紙の本裏切り

2009/05/27 20:54

ジェダーフリーの国の作家が描く、男のエゴ

6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。


 エーヴァはある日突然、夫の心が完全に離れてしまったことを知る。
 ヨーナスは目覚めない恋人を献身的に介護している。
 出会うはずのない2人が出会い、物語は悲劇へと転がり落ちていく。

 スウェーデンの女流作家、K・アルヴテーゲンの3作目。

 結局は、男に振り回される女性の哀れの物語のように感じた。
 エーヴァの夫は、長年の不満が積り、他の女性に心が移ってしまうのだけど、家庭を維持するために彼女が払ってきた犠牲や献身については、全く考えない。確かに、エーヴァもただ同情できるような存在ではないし、彼女が夫の恋人に対して行ったことは、とてもひどいことだ。けれど、そんな風に彼女を追い詰めたのは、やっぱり夫なのだと思う。

 そして、ヨーナスは寝たきりの恋人に献身的につくすという姿をとりながら、その実はあまりにも利己的だ。
 そう、エーヴァの夫も、ヨーナスも、大切なのは自分自身で、恋人でも妻でもない。
 そんな男のエゴに振り回されていくエーヴァや、彼女の夫の恋人。
 
 スウェーデンというと、ジェンダーフリーが進んだ国というイメージがある。確かに、エーヴァが夫の恋人に対して行ったことへの周りの反応は、とてもシビアで、日本人だとちょっと考えにくい。「これ」は「これ」、「それ」は「それ」というクールさが、物語の根底にあり、それはジェンダーフリーの考えに基づくのだろうと思われる。

 が、そんなクールさが、エーヴァをどうしようもない処へ追い詰めてしまうのだ。
 そうやって男のエゴの犠牲になってしまう。

 すごく悲しくて、怖い物語だった。

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紙の本深淵のガランス

2009/05/14 20:43

修復師という<神>の姿

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 花師と絵画修復師の二つの顔をもつ佐月恭壱。
 彼は修復を通して、絵画の奥の謎を明らかにする。

 北森鴻は、どれほど引き出しを持っているのだろう。
 民俗学者、骨董商、ビール専門バーの店主に、寺男、どれも専門知識を駆使してミステリーを超えた独自の世界を作り出している。その世界の一つに、絵画修復師が加わる。
 読み始め、骨董の世界との近さを感じた。が、読み進めるにつれてそれは全く違う世界なのだと思い知らされる。
 骨董が、作られた世界を守るものであるとすれば、修復はある種の破壊と再生なのだ。
 総髪、作務衣に雪駄という時代がかった佐月の姿は、修復をする絵における<神>たらんものであるのかもしれない。
 と、いつものように人物造詣が上手い。
 花師としての高慢とも言える態度や、時代がかった服装も、佐月をむしろ孤高の人として、そういう明らかな表現をなしに、描くことに成功していると思う。それは、修復という薄氷を渡るような作業の切なさも内包している。

 ミステリーとしてももちろんとてもよく完成されている。
 とくに表題作の「深淵のガランス」は最後まで息のつけない展開で結末に思わず感嘆の声をあげてしまった。
 「凍月」では、若き日の佐月が描かれている。
 まだまだ謎の多い佐月なのである。




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紙の本チョコレートビースト

2009/04/02 19:44

いち、であるということ。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ホストクラブ「indigo」を舞台にした、連作ミステリー2作目。
 *返報者
 *マイノリティ/マジョリティ
 *チョコレートビースト
 *真夜中のダーリン

 ホストコンテストを舞台にした「真夜中のダーリン」の中でコンテストにでる吉田吉男が「世界に一つだけの花」を使う。が、最終審査では曲を変える。
 なんというか、これがこの物語を象徴してるように感じた。
 「ナンバー1より、オンリー1」と歌はいうが、それは理想、もしくは虚飾でしかない。人は一人では生きていけない以上、そこにナンバリングは生まれる。また、認めるもののいない個性はいくら「オンリー」なのだと声高に叫んでも、空しいだけだ。
 ホストという、社会からちょっとはみ出し、「オンリー1」であろうとしていた者たちが、結局は店の中でのナンバー1をめぐって右往左往している。
 そんな皮肉な世界を、見詰めている加藤実秋の視線はクールだけど、度量が広い。物語がクラブのオーナーである女性ライター晶の目を通しているからもしれないが、どことなく母性みたいなものがあって、それがノスタルジックな色合いを付け足している。
 夜を疾走している彼らが求めているのは、「位置」であり「一」という「個」なんじゃないかと、思い、それは結局誰でも同じであり人である限りそれを求める呪縛からは逃げられないのかなと、感じた。
 
 つまりは、非日常的な舞台の普遍の物語なのだろう。
 

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紙の本青葉の頃は終わった

2009/02/20 20:42

死という絶対の前で、なぜを問うことに意味があるのだろうか

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 大学の同級生、瞳子が自殺した。その後、彼女から「私を殺さないで」と書かれた手紙が届く。

 一人の死をめぐって周囲がそれぞれに語るという、その形は渡辺淳一の「阿寒に果つ」を思い出させる。が、渡辺淳一の作品が、あくまで主人公の主観と感傷で成り立っていたのに対して、近藤史恵は苦い事実をあっさりとつきつけてくる。
 それなのに、彼女が結局何を思い、何を考え、何がきっかけで自殺することになったのかということは、曖昧なままだ。

 人が、人を語るということは、ある意味傲慢なのかもしれない。
 所詮、人は自分の主観でしか見ることも考えることもできない。そうやって割り切ることも、その部分を無視することも、結局は傲慢さになって他人を切りつける刃になっていくのだ。

 瞳子は、その意味で「盾」を持つことができなかった女性かもしれない。
 自身の盾がないから、自身の刃で、自らも傷つけてしまう。それが耐えられなくなったのだろうか、と私は思った。

 それにしても、男性の恋愛妄想はちょっと怖い。女性が現実的だから、と片付けられることだけど、実際にはそうじゃない。勝手に思い、勝手に傷つきながら、その責任をどこかで負わせようとしている恋への妄想。
 弦、やっぱり一番悪いのは君だと私は思うよ。

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紙の本少年トレチア

2009/02/12 20:14

ジャンルの境界を、軽やかに飛翔している物語

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 郊外の新興団地「緋沼サテライト」で、惨殺事件がおきる。その犯人は「少年トレチア」であった。

 タイトルと、萩尾望都さまの表紙で騙されます。ジェブナイル、もしくはそれに近いものなのかと思ったらさにあらず。しかしながら、半ば騙されて読み進めるほうが面白いのも事実。ジェブナイルとファンタジーとホラーの境界を飛び交っているという印象。

 いつの時代も「都市伝説」というものは存在する。そして、子供特有の残虐さも常に存在している。また、宗教に限らず何かを信仰する気持ちも、遺伝子にそういうプログラムがあるのかと思える確かさで、そこにある。
 それらのバランスが合わさった悲劇なのか、それとも、均衡が崩れた故の破壊だったのか、全く正反対のベクトルなのに、その判断がつかない。
 ただ、緋沼サテライトには、普通の生活の中に普通に存在するものがあっただけなのだと。

 この作品のなかには、たくさんの人物が登場する。
 そのどれもが個性的で、力強い。だから、悲劇がおこったのだろうかとも思う。人の思いは重い。サテライトはその重さに耐えきれなかったのだろうか。
 そして、津原泰水はそんな哀れな都市の姿を描きたかったのではないだろうか。そんな気がする。

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紙の本綺譚集

2009/02/08 20:13

心から満足できる幻想小説

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 帯にはこうある。
 「幻想、残酷、情愛。恐怖、哄笑、郷愁。あらゆる感情を揺り動かす15の精華。読む者を黄昏へといざなう、幻想小説の精髄」
 
 これ以上の言葉はいらないように思う。
 それにしても「ルピナス探偵団の当惑」とこれほどにまで色合いが違うものを描く津原泰水氏の度量の広さにまず驚嘆する。確かに、ルピナス探偵団の中にも、妙に醒めた部分や、耽美な部分もあった。けれど、主人公の高校生らしい健全さに(たとえそれが作りものめいていたとしても)陰である部分は、ひそやかに存在していた。
 まるで月光の中で咲く、淫靡な花のようだ。
 淫靡な、耽美なものにひかれる者に、理由はない。残虐さでさえ、それらを甘やかにするものであると、それらにひかれる者は遺伝子でそれを知っている。
 そして、この短編集は自分がそちら側の人間かそうでないかを、容赦なく知らしめてくるのである。目眩を覚えるような鮮やかさをもって。

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