強い母性に胸を打たれる。その深さ、複雑さについて考えさせられる本

誘拐事件の捜査中、自分の子どもが誘拐されたことを知った婦人警官・有働公子は犯人から協力を強制されます。警察と誘拐犯両方を敵に回し孤立無援の状況で奮闘する公子。母性により限界を超えた力を発揮する公子と、母性を持ち合わせない残虐な女性誘拐犯を並置し、驚きの結末へ導くサスペンス小説です。

突然幼い娘の命を奪われた三上と妻・佐和子。しかし犯人は心神喪失状態として無罪。2人はこの事件をきっかけに離婚。数年後、佐和子から三上に犯人を見かけたと連絡があります。2人は復讐のため犯人に接近しますが・・・。目の前で娘を殺された佐和子の母性が引き起こす捨て身の行動が胸を打ちます。

幼児の死体遺棄事件を知った主婦・保奈美は、自分のひとり娘も狙われるのでは？という恐怖感にとらわれます。警察による必死の捜査もむなしくつかまらない犯人。子を、娘を守るために彼女は果敢な行動にでます。偏執的にも感じられる保奈美の母性愛の根源を知るときに明かされる、事件の意外な真相に驚かされる小説です。

野々宮希和子は、愛人・秋山の妻が生んだばかりの娘・恵理菜を誘拐し、逃亡しつつ育てますが3年後に発見され逮捕されます。両親や家庭になじめないまま成長した恵理菜。彼女は不倫による妊娠に苦悩し、希和子との過去を探る旅に出ます。虚偽の親子、希和子と恵理菜に流れる母性が優しい救済をもたらします。

著者による満州からの引き揚げ体験を綴った実話。6歳の長男、3歳の次男、生まれたばかりの長女、幼い3人と母の命がけの行程。食料の確保もままならず、死を予感させる体力の消耗の描写は壮絶。そのなかで著者が頼りにつつ、年長ゆえに厳しく叱咤した長男への贖罪の言葉が、母が子を思う気持ちの深さを感じさせます。