今なぜ支持を集めるのか？夭折の天才・佐藤泰志の世界

佐藤泰志の遺作となった短編集です。彼の出身地、北海道函館市をモデルにした地方都市を舞台に、どこかで生きることへの軋みを感じている人々の生活を描いています。観光地という華やかな場所の裏で、不器用な人々の生きることのあがきが端正に描かれています。バブル時代に執筆されていますが、現在との共通項を読み取ることができるでしょう。

芥川賞候補作2編を含む全3編を収録した、佐藤泰志の青春小説集です。表題作では若さからの卒業、という青春の苦味が描かれています。また、「オーバー・フェンス」では職業訓練校の受講生たちが単調な生活のなかで見いだす希望が爽快感とともに綴られ、「撃つ夏」では鬱屈とした入院生活を送る人々に「生」への渇望を潜ませています。

表題作は2人の男性と1人の女性の奇妙な三角関係を描いた物語で、初めて芥川賞候補にもなった佐藤泰志の初期代表作です。3人で一つの魂でありたいという姿からは、「絆」という簡単な言葉では言い表せない深いつながりを感じさせます。病気の快復のためにジョギングを続ける青年の日々をみずみずしく描いた「草の響き」も収録されています。

佐藤泰志が遺した唯一の長編で、彼の代表作ともいえる小説です。生きることにあきらめを感じ刹那に生きる男と、家族の生活を必死に支える女。そんな2人が出会って愛し合い、新たな家族になっていく過程が描かれています。貧しい家庭に起きる悲劇が切ないけれど、家族の結びつきには人間の温かみがにじみ出ています。

佐藤泰志という稀有な作家について、さまざまな角度から迫った一冊です。彼の友人である詩人・福間健二の監修のもと、未発表の短編や、彼の作品に関わった人々の証言、作品の論考やエッセイなどが収録されています。作品ガイドや略年譜も載っているので、本書を読めばより深く佐藤泰志の小説を理解することができるでしょう。