小説の中で小説を書いて、物語の中で物語られる。二重の世界を楽しめる小説

冬至の晩に開かれる煌夜祭（こうやさい）。そこに集った語り部たちが、交互に物語を語り始めます。彼らの語る幻想的な物語と、幕間劇のように挟まれる彼ら自身の物語。作中作小説の魅力である複数の世界観だけではなく、圧倒的な構成力が楽しめる多崎礼のデビュー作です。

ある女の半生をありのまま小説にしてほしいと依頼された日雇い労働に従事する青年・礼司。嘘ばかり語る女に戸惑いながらも、彼は小説『この女』を書き上げていきます。礼司とともに『この女』の物語を追い、そして最後には主人公「この男」の物語であったことを思い出します。作中作小説ならではのこの美しい収束感がくせになるでしょう。

現代フランスで日本人ツアー客が織りなすドタバタ劇と、そのツアー客である小説家が書く17世紀フランスの王妃の物語。まったく共通点がないように見える二つの世界と、奔走する人々のどこか似通った姿を楽しめます。気軽に作中作小説を読みたいときにぴったりの、肩の力を抜いて楽しめる小説です。

孤独な少年バスチアンの物語と彼が読む不思議な本のストーリー、さらに物語に入り込んだ彼がその中で作った物語。奥行きが魅力の作中作小説のなかでも、驚くほどの多重構造ぶりが楽しめるお話です。バスチアンとともに物語を読み、作り、彼自身のストーリーに返る。まるで一仕事やり終えたような、爽快な読後感を味わえます。

ロマンス小説の翻訳家・あかり。だけど彼女は、いつしか勝手に物語を作ってしまい・・・。まさに作中作小説の醍醐味が詰まっています。現代日本に住むあかりの物語と、彼女の書く中世ファンタジーの世界がからみ合い、それぞれの主人公がたくましく成長します。読後には2倍前向きな気持ちになれる小説です。